人間嫌いの子供が、母親に魔王にされるまで。

ラディ

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 幼き頃から今も変わらず僕は人間が苦手だ。
 
 特に大勢の知らない大人がいる場はとても苦手だ。
 お腹も痛くなる気持ちも悪くなる頭もくらくらする。

 僕は母さんと団地で暮らしている、父さんはいない。

 母さんは僕を預けることはせずよく「付き合い」や「仕事」に僕を連れていく。

 僕はそれがたまらなく嫌だ。

 知らない大人が沢山いて。
 母さんは毎回僕を話題にする。

 僕は毎回同じように「学校は楽しいか」「お母さんは好きか」「何かスポーツはやってるか」「友達はいるか」「今○○が流行っているんだろうか」など毎回毎回同じことを聞かれ同じように答える。

 知らない大人と話すのはとても苦手だから毎回小さな声で答える。

 やがて大人達は僕に興味を失い大人達だけで話し出す。

 僕は少しほっとする。

 そこからはずっとゲームをする。
 でもゲームを始めるとまた大人達から「何をやってるのか」「楽しいのか」そして僕を巻き込んで母さんが僕がゲームばかりやって困っているとひとしきり話してみんなで笑う。

 それが終わって漸くゲームが出来る。

 正直僕はゲームが特別好きな訳では無い、ソフトだってこれしか持っていない。

 母さんが周りの子供達がみんなこれを持っていると別の子のお母さんに言われて買ってきたものだ。

 それも一昨年の話だ。

 もうこのゲームをやってる子はいない続編も二つくらい出ている。

 でも大人達がいる場所でやることが全く無い僕はこのゲームをやり続ける。

 このゲームの画面だけを見続けている間大人が話しかけてくる頻度が減る。

 全部のキャラクターが九十九レベルになっていてゲーム内のお金は九で枠が埋まったままの状態でもう暗唱出来るラスボス前のイベントを見る。

 ある日学校の子がこのゲームの新しいのをやっているところを見かけた。

 最新作が出たようだった、とても面白そうで母さんに欲しいと伝えた。

 他の子供達はもっとソフトを持っているもう一つだけ欲しいと伝えた。

 でも母さんは買ってはくれなかった。
「そんなお金は無い」
「ゲームばかりやっているのは良くない」
「うちは他所とは違うお父さんが居ないからお金が無い」
 と、沢山の化粧品で化粧をした顔でキラキラの腕時計や指輪を付けた手を僕の頭に乗せて諭し、こう続ける。



「それより新しい洋服を買ってきたのちょっと着てみて」



 僕は諦めた。



 また同じように同じ話を何度も答える。

 また同じように同じ話を何度も答える。

 また同じように同じ話を何度も答える。


 しかしある日僕は閃いた。
 最初から聞かれる事が分かっているなら答えを書いた紙を大人達に見せておけばいいんだと。

 僕は学校でもらってきた大きな画用紙に答えることを書いた。

 名前、年齢、何年生、学校は楽しい、好きな食べ物はコロッケ、母さんは好き、スポーツはやってない、このゲームは楽しい、今着ている服は新しい、気に入っている、ワンピースは学校のみんな大好き、夏休みは楽しみ、親しい友達はいる、この紙は自分で作りました。

 思いつく限りの答えを画用紙いっぱいに書く。

 書いてみるとウソだらけだけど母さんがこう答えてって言ってたからこれはウソじゃないんだと思う。

 画用紙に紐をつけて首から下げられるようにする。

 折り畳んでポケットに入れる。

 また大人達に囲まれた時にその紙を取り出して首にさげる。

 紙をみんなに見えるように前に出して裏側でゲームの電源を入れる。

 完璧だ。
 これで知らない大人達と話す事は無くなる。

 と、ほっとしたのもつかの間すぐに首から下げていた紙が取り上げられる。

「なに馬鹿なことをやってるの!」

 母さんは凄く怖い顔で僕を睨みすぐに。

「この子ったらホントにごめんなさいね~」

 大人達は少し驚いた顔をしていたがすぐに笑いだし。

「面白い子ね~」
「自分で作ったのかい?」

 大失敗だ。

 僕はお腹の痛みを我慢して吐きそうなのを悟られないようにくらくらした頭でまた質問に答えていく

 帰り道、母さんに酷く怒られた。

 もう二度とあんなことはしないごめんなさいと何度も何度も同じことを僕は言う。

 それでようやく次の日ご飯を食べられた。

 ご飯はコロッケだった。

 特別好きな食べ物ではないけど美味しかった。


 でもこれで僕は同じように同じ話を何度も答えて何度も倒したラスボスを何度も倒す。

 僕はゲームをこれしか持っていない。
 だから友達もいない。
 僕は同じ話を何度も答える。
 お腹が痛くなっても気持ち悪くてもくらくらしても言わない。
 母さんがとても嫌な顔をする。
 コロッケは特別好きではない。
 夏休みは学校に行かない時間も母さんにどこかに連れていかれるから夏休みは大嫌いだ。
 僕は同じ話を何回も何回も。
 ゲームの中でも何回もラスボスの話を。


 それでも僕はゲームをこれしかもっていない。



 僕にはこのゲームしかない。



 またある日同じように知らない大人達が沢山いる場所に連れていかれる。

 今日は「付き合い」とか「飲み会」らしい、大人達がお酒を飲んでいる。今までも度々こういう事があった。

 お酒の匂いと大きな声。

 僕はより一層お腹が痛くなる。
 とても嫌いだ。

 だからひとしきり同じように同じ話に答えたらすぐに端の方でゲームをする。

 お酒が入った大人はゲームをしていても話しかけてくる事が多いから出来るだけ息を潜めて。

 小さく小さくただひたすらゲームをする。

 でもダメだった。

 酔った大人が話しかけてくる。

 僕はいつもと同じように答える。

 でもいつもと違った。

 その大人は「へー見せてみろよ」と僕のゲームを取り上げた。

 僕は頭が真っ白になった。

 あれ、どうして取るの、え? なんで。

 慌てて僕は大人に「返して」と言うと。

「いーからいーから貸してみ?」
 と僕の手が届かないようにゲーム機を上にあげる。

 僕は何度も「返して」と言う。
 届かないゲーム機に向かって跳び上がる。

 そんな僕がとてもおかしいようで大人達はみんな笑う。

 気持ち悪いすぐにでももどしてしまいそうだ。

 僕は何度も何度も「返して」と言う。

「俺にも見せてよ」
 と別の大人にゲーム機が渡る慌てて別の大人に駆け寄る。

 どうして? 僕は苦手なのに僕は同じ話を何回もしているのに僕はそのゲームしか持っていないのになんで。

 慌てすぎて目の前がくらくらする。

 そうだ母さん、母さんから頼んでもらおう。

 母さん母さん母さん母さん母さん。

「ちょっとーあんまりうちの子いじめないでよー」

 ケラケラ笑う母さんを見て手足がスーッと冷たくなっていくのがわかる。

 ダメだ僕が取り返さなきゃ。

 何度も「返して」と言って喉がカラカラだ。

 どんどん別の大人達の手に渡るゲーム機を追いかけて何度も転ぶ。

 だんだん僕の声も大きくなるすると。

「大きい声出さない!」

 と、母さんが怒り出す。

 ゲーム機を取り上げた大人達が「やーい怒られてんの」と喜び出す。

 酷くお腹が痛い吐き出しそうなくらい気持ち悪いくらくらして目の前が歪む。

 高く高く上げられたゲーム機を見て。

 僕は。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 出したことの無い声を上げて大人に飛びついた。

 笑いながら「危ない危ない」と言う声。
 母さんの「静かにしなさい!」と言う声。
 僕の声、ラスボスのセリフ。

 全部が頭の中でグチャグチャになってわけがわからない。

 ゲームを返して。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もももももももももももももももももももももももも。


 机にあったフォークでゲーム機をもった大人の太ももを刺した。

 僕を取り押さえる大人の手を噛みちぎった、歯が折れた。

 散らばった竹串でまた僕を抑えようとする大人を刺した。

 ビールの入ったグラスを投げつけた。

 割れた破片を掴んで別の大人に刺した。

 思いっきり蹴られた。

 蹴られた時にフォークでまた刺した。

 お店の人まで来た。

 まだゲームが返ってこない。

 多分全員動けないようにしないとゲーム機には届かない。

 グラスを沢山投げた。

 机の上の火の着いた小さい台も投げた。

 手から血が止まらなかった。

 口の中も血の味しかしなかった。

 何度も吐いた。

 声が出なくなっても叫んだ。

 僕は何度も何度も。

 僕はゲームが特別好きな訳ではない。





 僕はゲームが特別好きな訳ではない。






 気づくと白い部屋だった。

 何が何だかわからない。
 酷く喉が痛い。
 手も痛い。
 身体が痛い。

 しばらくすると部屋に知らない大人が入ってきた。

 お医者さんのようだった。

 色んなことを聞かれた。

 どれもいつもと同じような話だった。
 いつもと同じように答えようとしたその時。

「……いや、ごめんね。もう聞かない別の質問にするね」

 少し驚いた顔をしてお医者さんは質問を変える。

 僕は何か変な顔をしたのだろうか。

 その後は何処が痛むとかそういう話をした。

 そこからお医者さんは毎日僕と話をして。

 そしてしばらく経った頃言った。

「君はお祖母さんと一緒に暮らしなさい」

 母さんは何も言わなかった。

 お医者さんは「お母さんは大変な事をなかった事にしちゃう人みたいなんだ。お母さんとはもう少しゆっくり話をしていく必要がある」

 そして最後にお医者さんは僕のゲーム機を渡してくれた。

 画面が割れて電源がつかずソフトも入っていなかった。

 僕は泣いた。







 そんなことを大きくなった俺は思い出す。

 あの後から色々あったはずなのに時々さっきの事のように、それまでの出来事がぽっかりなくなったかのように思い出す。

 母さんが俺とほとんど口を聞かなくなったこと。

 婆ちゃんの家の近くで異世界の扉に吸い込まれたこと。

 その異世界でも大人が苦手で苦労を重ねたこと。

 一人で兎に角必死で生きてきたこと。

 大人達と戦い続けてきたこと。

 ただ必死に生きていたらいつの間にか魔王と呼ばれるようになったこと。

 今俺を殺しに勇者と呼ばれる奴らが城に向かっていること。

 そんな今までの出来事がなくなったかのように突然あの日に戻る。


 はー……勇者来るのか戦いたくないと言うかそっとしておいて欲しいねマジに。


 でもまだ俺は取り返して無い。


 俺はまだあのゲームを取り戻してはいない。


 俺はまだ大人になんかなってやらねぇのだ。


 さて。

 勇者が来たら言ってやろうか。

 何度も何度も何度も聞いた。

 あのラスボスのセリフを。




 おしまい。
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