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0.3%未満の悪女
5:子供騙し
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プログラミングカリキュラムの成績が規定ラインを下回った。
一つ下の学年の可愛い天才の子が成績の平均値を凄まじく上げて、それに続くように後の首席となる人も高い成績をとってさらに平均値を上げちゃったのに起因するものだった。
ただでさえプログラミングは不得意なカリキュラムで、取り戻すのは難しかった。正直かなり厳しい状況に置かれた。
続く体力面でもオートマトン操縦技能でも、こうなることは時間の問題だった。
何度も両親から糾弾された。
なじられて、追い詰められた。
それでも超人世代の私が、そんなことで精神的に動揺はしない。
その程度には心身ともに鍛えられていた。
でも妹からの、アトラからの心配……いや失望を感じてしまった。
アトラはだけは私に期待をしていなかった。ただ純粋に超人世代の中で頑張る私に憧れていた。
私はそれに応えるべく理想の姉として、かっこいいお姉ちゃんとして振る舞っていた。かっこつけていたんだ。
ショックだったんだろう、不安だったんだろう。
アトラは私を心配していた。心配させてしまった。
私はアトラに何も言えなかった。
何でも良かった、嘘でも良かった「大丈夫だよ」とか「心配しないで」とか「ここからよ」とか、笑顔で言うだけで良かったのに。
根っこの部分で、あの日々を勝ち抜く想像が全くできなくなっていた。
私は折れてしまったのだ。
妹にかっこつけること一つすら出来ないなんて。
何でこんなことしなきゃならないんだろうと……諦めてしまった。
弱った私はダメになった。靴が履けなくなった、ドアノブを回せなくなった、前に進めなくなってしまった。
そうなると両親からの糾弾にも堪えるようになってしまった。
そこから私は逃げるように家を出て、超人学習カリキュラムの中で獲たドクターライセンスを用いて就職活動を行った。
私は見捨てたんだ。
両親と妹を……、私が超人となってブロッサム・ノアβへの搭乗を決めなくてはならなかったのに。
あれだけ憧れてくれた妹を、私は見殺しにした。
超人世代の肩書きは思った以上に重宝されて、私はあっさりと病院勤務が決まった。
そして程なくして、ブロッサム・ノアβの増産が確定し人類滅亡確率は0.3パーセント未満になりほとんどの人類がスペアエデンへ行けることとなり。
搭乗の少し前、私は本件に携わることになった。
「うん……大丈夫、胎児に異常はないよ。安心して」
ベッドに横たわるリンダに対して、診断結果を伝える。
あのままベッドへ運んで、手錠だけでなく拘束用ベルトで固めさせてもらった。
彼女は自身を全く厭わない、というより労り方を知らない。自傷的な行動に全く抵抗がない。
自分を大事にするということが欠落している。
それは……正直一番共感できることだ。
超人世代は自身の有益性と製造コスト的な面で自身に対する価値を見出す。
だから落伍者からは少なからず自殺者が出てしまう。私も全くそれを考えなかったわけじゃあない。
超人になれなかった私もまた、自分に価値を見出だせていない。大事にする方法も理由も見つけられていない。
だからこの拘束は彼女自身を守るもの、申し訳ないけど落ち着くまでは拘束させてもらう。
「…………ねえ知ってる? ブロッサム・ノアには様々な動物も乗ってるんだって。さっきメディアでやってたよ」
少しぐったりとしながら、リンダは語り始める。
「犬とか牛とか豚とか鳥とか、魚や虫なんかも一緒に運ばれてるんだってさ」
つらつらと、窓の外をぼんやりと眺めながら語りは続く。
当然私は知っている。
種保存計画の一環で、家畜以外の動植物も可能な限り載せられておりスペアエデン到着後には地球環境の再現に用いられる。
船内では先導個体と呼ばれる特別な調整を受けた動物が同種の繁栄や管理を行えるようにしているとか。
詳細まではしらないけれど概要くらいなら頭には入っている。
「畜生共や虫けらは何もしなくても、この船に乗れたのに」
低い声で、リンダはそう言って。
「ねえどうして私はここまでしないと生きられなかったの? どうして私は……そんなに要らない存在だったの? 私はそんなに悪いことをしたの?」
努めて平らに語ろうとも隠しきれない悲痛さを纏わせて、リンダは漏らす。
「誰が命を選んだの? どうやって納得すればよかったの……? 私は死ぬことが正しかったの? あの時に私は死んでおけばよかったの?」
顔を背け、私に顔を見せないようにぽつりぽつりと続けて疑問を並べていく。
「それは……違う。何が正しいかは置いといて、それが正しいなんてことはない。あなたが死ぬことが正しいなんてことはありえない」
私は並ぶ疑問の一つに、かろうじて回答を述べる。
「少なくともお腹の子は、あなたが生きていたから生まれてこれる。生きるということは未来を作ること、あなたは一つ未来を作ったのよ」
真摯にリンダへ、本気の綺麗事を語る。
こんなものは綺麗事だし、戯言だと一蹴されて然りだとも思う。
でも本気で言ってる、こんな浅い感傷のような子供騙しを本気では言っている。
本気の気休めを語っている。
子供を生むというのは、本当にすごいことで素晴らしいことなんだ。
生物として一つのノルマを終えるようなもの、彼女は一つ人類を未来に繋げた。
これは事実だ。
でも、だからといって彼女の願いが叶うかどうかは別の話だ。
「安心して私が母子共に健康で安全な出産になるよう善処する、あなたの前にいるのは超人世代の医師フランソワ・フライトよ。信じておきなさい」
私は久方ぶりに精一杯かっこつけてみせる。
妹相手に見せていたように、私はこれに慣れている。
子供騙しはお手の物だ。
一つ下の学年の可愛い天才の子が成績の平均値を凄まじく上げて、それに続くように後の首席となる人も高い成績をとってさらに平均値を上げちゃったのに起因するものだった。
ただでさえプログラミングは不得意なカリキュラムで、取り戻すのは難しかった。正直かなり厳しい状況に置かれた。
続く体力面でもオートマトン操縦技能でも、こうなることは時間の問題だった。
何度も両親から糾弾された。
なじられて、追い詰められた。
それでも超人世代の私が、そんなことで精神的に動揺はしない。
その程度には心身ともに鍛えられていた。
でも妹からの、アトラからの心配……いや失望を感じてしまった。
アトラはだけは私に期待をしていなかった。ただ純粋に超人世代の中で頑張る私に憧れていた。
私はそれに応えるべく理想の姉として、かっこいいお姉ちゃんとして振る舞っていた。かっこつけていたんだ。
ショックだったんだろう、不安だったんだろう。
アトラは私を心配していた。心配させてしまった。
私はアトラに何も言えなかった。
何でも良かった、嘘でも良かった「大丈夫だよ」とか「心配しないで」とか「ここからよ」とか、笑顔で言うだけで良かったのに。
根っこの部分で、あの日々を勝ち抜く想像が全くできなくなっていた。
私は折れてしまったのだ。
妹にかっこつけること一つすら出来ないなんて。
何でこんなことしなきゃならないんだろうと……諦めてしまった。
弱った私はダメになった。靴が履けなくなった、ドアノブを回せなくなった、前に進めなくなってしまった。
そうなると両親からの糾弾にも堪えるようになってしまった。
そこから私は逃げるように家を出て、超人学習カリキュラムの中で獲たドクターライセンスを用いて就職活動を行った。
私は見捨てたんだ。
両親と妹を……、私が超人となってブロッサム・ノアβへの搭乗を決めなくてはならなかったのに。
あれだけ憧れてくれた妹を、私は見殺しにした。
超人世代の肩書きは思った以上に重宝されて、私はあっさりと病院勤務が決まった。
そして程なくして、ブロッサム・ノアβの増産が確定し人類滅亡確率は0.3パーセント未満になりほとんどの人類がスペアエデンへ行けることとなり。
搭乗の少し前、私は本件に携わることになった。
「うん……大丈夫、胎児に異常はないよ。安心して」
ベッドに横たわるリンダに対して、診断結果を伝える。
あのままベッドへ運んで、手錠だけでなく拘束用ベルトで固めさせてもらった。
彼女は自身を全く厭わない、というより労り方を知らない。自傷的な行動に全く抵抗がない。
自分を大事にするということが欠落している。
それは……正直一番共感できることだ。
超人世代は自身の有益性と製造コスト的な面で自身に対する価値を見出す。
だから落伍者からは少なからず自殺者が出てしまう。私も全くそれを考えなかったわけじゃあない。
超人になれなかった私もまた、自分に価値を見出だせていない。大事にする方法も理由も見つけられていない。
だからこの拘束は彼女自身を守るもの、申し訳ないけど落ち着くまでは拘束させてもらう。
「…………ねえ知ってる? ブロッサム・ノアには様々な動物も乗ってるんだって。さっきメディアでやってたよ」
少しぐったりとしながら、リンダは語り始める。
「犬とか牛とか豚とか鳥とか、魚や虫なんかも一緒に運ばれてるんだってさ」
つらつらと、窓の外をぼんやりと眺めながら語りは続く。
当然私は知っている。
種保存計画の一環で、家畜以外の動植物も可能な限り載せられておりスペアエデン到着後には地球環境の再現に用いられる。
船内では先導個体と呼ばれる特別な調整を受けた動物が同種の繁栄や管理を行えるようにしているとか。
詳細まではしらないけれど概要くらいなら頭には入っている。
「畜生共や虫けらは何もしなくても、この船に乗れたのに」
低い声で、リンダはそう言って。
「ねえどうして私はここまでしないと生きられなかったの? どうして私は……そんなに要らない存在だったの? 私はそんなに悪いことをしたの?」
努めて平らに語ろうとも隠しきれない悲痛さを纏わせて、リンダは漏らす。
「誰が命を選んだの? どうやって納得すればよかったの……? 私は死ぬことが正しかったの? あの時に私は死んでおけばよかったの?」
顔を背け、私に顔を見せないようにぽつりぽつりと続けて疑問を並べていく。
「それは……違う。何が正しいかは置いといて、それが正しいなんてことはない。あなたが死ぬことが正しいなんてことはありえない」
私は並ぶ疑問の一つに、かろうじて回答を述べる。
「少なくともお腹の子は、あなたが生きていたから生まれてこれる。生きるということは未来を作ること、あなたは一つ未来を作ったのよ」
真摯にリンダへ、本気の綺麗事を語る。
こんなものは綺麗事だし、戯言だと一蹴されて然りだとも思う。
でも本気で言ってる、こんな浅い感傷のような子供騙しを本気では言っている。
本気の気休めを語っている。
子供を生むというのは、本当にすごいことで素晴らしいことなんだ。
生物として一つのノルマを終えるようなもの、彼女は一つ人類を未来に繋げた。
これは事実だ。
でも、だからといって彼女の願いが叶うかどうかは別の話だ。
「安心して私が母子共に健康で安全な出産になるよう善処する、あなたの前にいるのは超人世代の医師フランソワ・フライトよ。信じておきなさい」
私は久方ぶりに精一杯かっこつけてみせる。
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子供騙しはお手の物だ。
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