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0.3%未満の悪魔
13:Why are you here?
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Aグループ、二度目の覚醒。
目覚めてからのメディカルチェックをパスし、順次都市階層へ移動。
僕もすぐにメゾンドモンステラ五〇二号室へと向かう。
到着すると、最初に到着した時と同じ綺麗な部屋が僕の視界に入ってきて。
同時に、まだ僕がミラを置き去りにしたことを知らないで荷解きを始めたことを思い出す。
何も知らずにいた自分の姿を思い出す。
その瞬間に僕の中の真っ黒な思いが噴き出して、記憶を掻き消すように暴れ回る。
壁を叩き、棚を倒し、何度も転び、身体中を打って、のたうち回りながら叫ぶ。
やがて体力が尽きて動きが止まる。
ああもういいや、無駄なことをした。
どうせ全部消し飛ぶのに、無意味だ。
鼻血を拭いながら僕はゆっくりと立ち上がり、端末を接続する。
……ん? 壁に何か書いてある……。
これは棚の裏側の壁か……?
Why are you here?
なんだこれ? あー? ……あー。
僕が書いたやつが消えてなかったのか。
前回の覚醒期間中は壁の文字が自動清掃で消えないようにアン・ドゥ・メタルを動かしてこの部屋のセンサー類をオフにしていた。
状態固着睡眠前に全てのセンサーは元に戻したつもりだったが……不具合があったみたいだな。
この棚の裏は範囲から外れて、たまたま書いたものが残ってしまったようだ。
他にも何か書かれているが僕が書いたものじゃあないな…………まあでも、別に興味はない。
後は最後の指示コマンドを入力するだけ――――。
その時、ふと。
モニターの端にあるフォルダが視界に入る。
ミラのビデオメッセージ。
そういえばミラのビデオメッセージを最後まで見れていなかった。
…………見ておこう。
もう全てが無くなるけど、その前にミラの最後の言葉を聞いておきたい。
反陽子爆弾を爆発させたら見れない。
これを見たら起爆しよう。
一年ぶり……いや六百年ぶりに僕はビデオメッセージを再生する。
映像の中でミラが話し始める。
体の内側から心臓を握り潰されるような。
悲しみや怒り、絶望と苦悩、痛みと苦しみ、あらゆる負の感情が胸を締め付けるが。
そんなものが比にならないくらいに、愛しく思う。
映像の中で僕らの日々を語るミラをじっと見つめる。
ああ、やはりそうだ。改めて見ても、素敵だ。
何度でも恋に落ちてしまう。
僕は完全に彼女に落ちている。
僕の世界に彼女以外がいらない。
「――――本当に、本当に色々あった…………」
ここからミラの告白に繋がる。
「………………うん、アツロウ。落ち着いて聞いてほしいことがある」
そう言って。
「ほら…………私って子供の頃に大きい病気をしたって話をしたでしょ?」
再び始まる。
「…………実はあれって全然治ってなかったの。ごめん、ずっと嘘をついてた」
ああ『今思えば』が止まらない。
「子供の頃よりは大分マシになって、自由に動けるようにはなったんだけど……私の心臓はどうにもこうにも長持ちしないみたいでさ」
確かに、ミラは毎日服薬していたし定期的な通院も行っていた。
でも僕もミラと出会う前に体を酷使し過ぎたことで、病院に通うことが多くなっていたし父もよく医者にかかっていたから。
倒れたり血を吐いたりしないなら、それほど珍しいことだと思えてなかった。
アン・ドゥ・メタル以外のことを何も知らずに育った弊害、常識が欠落していた。
もっと早く気づけたはずなのに。
「このビデオ撮っている時点で、余命三年なんだ」
この時点でもう、取り返しはつかない状態だったんだ。
「私は四年の覚醒期間を過ごすことができないの。だから私は、ラストエデンに残ることになった」
ラストエデン……、気候変動や大気汚染や放射線から隔離された地球最後の楽園。
最後の自然を詰め込んで、澄んだ空気や穏やかな気候を実現している。
まあスペアエデン到着後のテラフォーミングテスト地域を再利用したものだ。
人工的に生み出した自然環境も、長くは保てない。地球はそれほどまでに過酷な地だ。
確定予測演算装置マザーと環境維持AIによる管理をもってしても十年も持たない。ハリボテの楽園。
でもそれで十分だ。
そもそもラストエデンに残る人々の余命は長くても四年。
それと死刑執行待ちの囚人のみ。
楽園が終わる前にみんないなくなる。
「ごめんね。本当は結構前からわかってたんだけどさ……もしかすると大丈夫かもしれなかったし、ダメだとわかってもアツロウはきっと自分も乗らないって言い出すから……言わないことにした」
これはその通りだ。
当然僕が知っていたら地球に残った。
というかマザーの演算した余命宣告を覆すことを前提としてミラを無理やりブロッサム・ノアβに搭乗させただろう。
確定予測演算なんか、ちょっと死ぬ気で頑張れば超えられるものだからね。
「……ごめんなさい。一緒に幸せになってあげらられなくて、本当にごめんなさい」
この謝罪は、違う。
謝るべきは僕だ。
一緒に死んであげることすらできない僕に非がある。
間違いなく悪いのは僕だ。
君と死にたかった。
「でもアツロウは死んじゃダメだよ」
僕の思考に被せるように、ミラは言う。
ああ、ここからの映像をちゃんと見るのは初めてだ。
前はこの時点で、僕は悪魔になることにしたから。
「多分そういうこと考えてると思ってさ……」
僕の思考を先読みして、ミラは言う。
目覚めてからのメディカルチェックをパスし、順次都市階層へ移動。
僕もすぐにメゾンドモンステラ五〇二号室へと向かう。
到着すると、最初に到着した時と同じ綺麗な部屋が僕の視界に入ってきて。
同時に、まだ僕がミラを置き去りにしたことを知らないで荷解きを始めたことを思い出す。
何も知らずにいた自分の姿を思い出す。
その瞬間に僕の中の真っ黒な思いが噴き出して、記憶を掻き消すように暴れ回る。
壁を叩き、棚を倒し、何度も転び、身体中を打って、のたうち回りながら叫ぶ。
やがて体力が尽きて動きが止まる。
ああもういいや、無駄なことをした。
どうせ全部消し飛ぶのに、無意味だ。
鼻血を拭いながら僕はゆっくりと立ち上がり、端末を接続する。
……ん? 壁に何か書いてある……。
これは棚の裏側の壁か……?
Why are you here?
なんだこれ? あー? ……あー。
僕が書いたやつが消えてなかったのか。
前回の覚醒期間中は壁の文字が自動清掃で消えないようにアン・ドゥ・メタルを動かしてこの部屋のセンサー類をオフにしていた。
状態固着睡眠前に全てのセンサーは元に戻したつもりだったが……不具合があったみたいだな。
この棚の裏は範囲から外れて、たまたま書いたものが残ってしまったようだ。
他にも何か書かれているが僕が書いたものじゃあないな…………まあでも、別に興味はない。
後は最後の指示コマンドを入力するだけ――――。
その時、ふと。
モニターの端にあるフォルダが視界に入る。
ミラのビデオメッセージ。
そういえばミラのビデオメッセージを最後まで見れていなかった。
…………見ておこう。
もう全てが無くなるけど、その前にミラの最後の言葉を聞いておきたい。
反陽子爆弾を爆発させたら見れない。
これを見たら起爆しよう。
一年ぶり……いや六百年ぶりに僕はビデオメッセージを再生する。
映像の中でミラが話し始める。
体の内側から心臓を握り潰されるような。
悲しみや怒り、絶望と苦悩、痛みと苦しみ、あらゆる負の感情が胸を締め付けるが。
そんなものが比にならないくらいに、愛しく思う。
映像の中で僕らの日々を語るミラをじっと見つめる。
ああ、やはりそうだ。改めて見ても、素敵だ。
何度でも恋に落ちてしまう。
僕は完全に彼女に落ちている。
僕の世界に彼女以外がいらない。
「――――本当に、本当に色々あった…………」
ここからミラの告白に繋がる。
「………………うん、アツロウ。落ち着いて聞いてほしいことがある」
そう言って。
「ほら…………私って子供の頃に大きい病気をしたって話をしたでしょ?」
再び始まる。
「…………実はあれって全然治ってなかったの。ごめん、ずっと嘘をついてた」
ああ『今思えば』が止まらない。
「子供の頃よりは大分マシになって、自由に動けるようにはなったんだけど……私の心臓はどうにもこうにも長持ちしないみたいでさ」
確かに、ミラは毎日服薬していたし定期的な通院も行っていた。
でも僕もミラと出会う前に体を酷使し過ぎたことで、病院に通うことが多くなっていたし父もよく医者にかかっていたから。
倒れたり血を吐いたりしないなら、それほど珍しいことだと思えてなかった。
アン・ドゥ・メタル以外のことを何も知らずに育った弊害、常識が欠落していた。
もっと早く気づけたはずなのに。
「このビデオ撮っている時点で、余命三年なんだ」
この時点でもう、取り返しはつかない状態だったんだ。
「私は四年の覚醒期間を過ごすことができないの。だから私は、ラストエデンに残ることになった」
ラストエデン……、気候変動や大気汚染や放射線から隔離された地球最後の楽園。
最後の自然を詰め込んで、澄んだ空気や穏やかな気候を実現している。
まあスペアエデン到着後のテラフォーミングテスト地域を再利用したものだ。
人工的に生み出した自然環境も、長くは保てない。地球はそれほどまでに過酷な地だ。
確定予測演算装置マザーと環境維持AIによる管理をもってしても十年も持たない。ハリボテの楽園。
でもそれで十分だ。
そもそもラストエデンに残る人々の余命は長くても四年。
それと死刑執行待ちの囚人のみ。
楽園が終わる前にみんないなくなる。
「ごめんね。本当は結構前からわかってたんだけどさ……もしかすると大丈夫かもしれなかったし、ダメだとわかってもアツロウはきっと自分も乗らないって言い出すから……言わないことにした」
これはその通りだ。
当然僕が知っていたら地球に残った。
というかマザーの演算した余命宣告を覆すことを前提としてミラを無理やりブロッサム・ノアβに搭乗させただろう。
確定予測演算なんか、ちょっと死ぬ気で頑張れば超えられるものだからね。
「……ごめんなさい。一緒に幸せになってあげらられなくて、本当にごめんなさい」
この謝罪は、違う。
謝るべきは僕だ。
一緒に死んであげることすらできない僕に非がある。
間違いなく悪いのは僕だ。
君と死にたかった。
「でもアツロウは死んじゃダメだよ」
僕の思考に被せるように、ミラは言う。
ああ、ここからの映像をちゃんと見るのは初めてだ。
前はこの時点で、僕は悪魔になることにしたから。
「多分そういうこと考えてると思ってさ……」
僕の思考を先読みして、ミラは言う。
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