お嬢様たちは、過激に世界を回していく。

ラディ

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30・聖女は教会に入った泥棒に、盗まれてみることにしました。【全4話】

02十人十色。

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「俺はポールだ。ちょっと、探し物をしにきただけのいたって普通のごく一般的な男だ。聖女様に危害を加えたりはしないからゆっくり寝てていいぞ」

 なんて返してみる。

 さーて、久しぶりの失敗だ。
 最高速で逃げるしかない。

 究極、盗みはしくじっても逃げるのをしくじらなければ死にはしない。重要なのは窃盗せっとうより逃走だ。

「普通のごく一般的、ですか……」

 と、聖女が少し考える素振そぶりを見せたのでその隙にそそくさと部屋を後にしようとしたが。

「お待ちください、ポール様」

 引き止められてしまう。

 うーん参った、ここで猛ダッシュで逃げ出しても聖女が大声をあげたらかなり面倒だ。

 とりあえず俺はゆっくりと振り向き、聖女に向き直す。

 すると聖女は。

「引き止めて申し訳ございません。ポール様のようなから見て私は、普通ではないのでしょうか?」

 そんな異常な質問を俺に投げかけた。

 呆気あっけに取られる俺をよそに聖女は続ける。

「私は聖女として生まれ、聖女として育ちました。教会からもほとんど出たことがなく、神に祈り神の啓示けいじを聞き民の安寧あんねいと幸福にみちびく存在でございます。私にとってそれが普通であり全てだったのですが――」

 聖女の話を要約ようやくするとこうだ。

 聖女としての暮らししか知らなかった彼女は、教会での生活や教えこそが彼女にとっての普通だった。
 ある日式典にて市民たちの前で、教えなどを語った際に集まった市民の子供から「変なのー! そんなの全然ちがうよー! おかしなかっこだしー!」と、野次られたらしいのだ。
 彼女はそんなことを言われたのが初めてであり、そして彼女はその時、

   

 一度考え出したら気になって仕方がない。

 気になって夜も眠れない、そんな時に俺が現れたので聞いてみたとのことだ。

「なるほどねぇ……」

 去り際を失った俺はがっつり聖女の話を聞いてしまった。

 まあ模範解答もはんかいとうとして、聖女と市民じゃそりゃ常識やら生活は違うのは当然であるだろうから仕方がないとは思うが、そういう話ではない。

 

 真夜中に自室へと侵入して来た謎の男に対して、一切の警戒心もなく自身の悩みを相談するというのは、常軌じょうきいっしているとしか思えない。

 誰よりも神の教えに対してじゅんじているのに、言葉も知能も年相応以上に育てられているはずなのに、彼女は何も知らない。

 教会の中に閉じ込められ神に祈る装置として外界と切り離されていびつに造られた少女。

 それが聖女なのだ。

 まあそれを不憫に思うとか、間違っているとは思わない。

 そんなことより俺は、そんな異常な女をどう丸め込んで逃げるかしか考えていないのだ。

「……まあ聖女様の生活と市民の暮らしとじゃあ違う、もっと言うなら市民同士でも暮らしは違うし、それぞれにそれぞれの生き方がある。それでいいんだよ」

 はい困った時の十人十色、アイデンティティを問うティーンエイジャーへの回答は基本的に十人十色でけむに巻くことが出来る。子供をだます言葉としてはよく出来ている。

 こんなのは数学的な事実でしかなく、それをカテゴライズしていくことで社会は回っている。

 殺し屋と泥棒は俺の中では全然違うが、世の中的には同じ黒だ。そういう風に人は誰もがカテゴライズされている。
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