112 / 132
30・聖女は教会に入った泥棒に、盗まれてみることにしました。【全4話】
02十人十色。
しおりを挟む
「俺はポールだ。ちょっと、探し物をしにきただけの至って普通のごく一般的な男だ。聖女様に危害を加えたりはしないからゆっくり寝てていいぞ」
なんて返してみる。
さーて、久しぶりの失敗だ。
最高速で逃げるしかない。
究極、盗みはしくじっても逃げるのをしくじらなければ死にはしない。重要なのは窃盗より逃走だ。
「普通のごく一般的、ですか……」
と、聖女が少し考える素振りを見せたのでその隙にそそくさと部屋を後にしようとしたが。
「お待ちください、ポール様」
引き止められてしまう。
うーん参った、ここで猛ダッシュで逃げ出しても聖女が大声をあげたらかなり面倒だ。
とりあえず俺はゆっくりと振り向き、聖女に向き直す。
すると聖女は。
「引き止めて申し訳ございません。ポール様のような普通のごく一般的な人から見て私は、普通ではないのでしょうか?」
そんな異常な質問を俺に投げかけた。
呆気に取られる俺をよそに聖女は続ける。
「私は聖女として生まれ、聖女として育ちました。教会からもほとんど出たことがなく、神に祈り神の啓示を聞き民の安寧と幸福に導く存在でございます。私にとってそれが普通であり全てだったのですが――」
聖女の話を要約するとこうだ。
聖女としての暮らししか知らなかった彼女は、教会での生活や教えこそが彼女にとっての普通だった。
ある日式典にて市民たちの前で、教えなどを語った際に集まった市民の子供から「変なのー! そんなの全然ちがうよー! おかしなかっこだしー!」と、野次られたらしいのだ。
彼女はそんなことを言われたのが初めてであり、そして彼女はその時、生まれて初めて考えてしまったのだ。
自分は変なのか? 私の言葉は民の思いとは違うのか? この装いはおかしいのか?
一度考え出したら気になって仕方がない。
気になって夜も眠れない、そんな時に俺が現れたので聞いてみたとのことだ。
「なるほどねぇ……」
去り際を失った俺はがっつり聖女の話を聞いてしまった。
まあ模範解答として、聖女と市民じゃそりゃ常識やら生活は違うのは当然であるだろうから仕方がないとは思うが、そういう話ではない。
どう考えても異常だ。
真夜中に自室へと侵入して来た謎の男に対して、一切の警戒心もなく自身の悩みを相談するというのは、常軌を逸しているとしか思えない。
誰よりも神の教えに対して殉じているのに、言葉も知能も年相応以上に育てられているはずなのに、彼女は何も知らない。
教会の中に閉じ込められ神に祈る装置として外界と切り離されて歪に造られた少女。
それが聖女なのだ。
まあそれを不憫に思うとか、間違っているとは思わない。
そんなことより俺は、そんな異常な女をどう丸め込んで逃げるかしか考えていないのだ。
「……まあ聖女様の生活と市民の暮らしとじゃあ違う、もっと言うなら市民同士でも暮らしは違うし、それぞれにそれぞれの生き方がある。それでいいんだよ」
はい困った時の十人十色、アイデンティティを問うティーンエイジャーへの回答は基本的に十人十色で煙に巻くことが出来る。子供を騙す言葉としてはよく出来ている。
こんなのは数学的な事実でしかなく、それをカテゴライズしていくことで社会は回っている。
殺し屋と泥棒は俺の中では全然違うが、世の中的には同じ黒だ。そういう風に人は誰もがカテゴライズされている。
なんて返してみる。
さーて、久しぶりの失敗だ。
最高速で逃げるしかない。
究極、盗みはしくじっても逃げるのをしくじらなければ死にはしない。重要なのは窃盗より逃走だ。
「普通のごく一般的、ですか……」
と、聖女が少し考える素振りを見せたのでその隙にそそくさと部屋を後にしようとしたが。
「お待ちください、ポール様」
引き止められてしまう。
うーん参った、ここで猛ダッシュで逃げ出しても聖女が大声をあげたらかなり面倒だ。
とりあえず俺はゆっくりと振り向き、聖女に向き直す。
すると聖女は。
「引き止めて申し訳ございません。ポール様のような普通のごく一般的な人から見て私は、普通ではないのでしょうか?」
そんな異常な質問を俺に投げかけた。
呆気に取られる俺をよそに聖女は続ける。
「私は聖女として生まれ、聖女として育ちました。教会からもほとんど出たことがなく、神に祈り神の啓示を聞き民の安寧と幸福に導く存在でございます。私にとってそれが普通であり全てだったのですが――」
聖女の話を要約するとこうだ。
聖女としての暮らししか知らなかった彼女は、教会での生活や教えこそが彼女にとっての普通だった。
ある日式典にて市民たちの前で、教えなどを語った際に集まった市民の子供から「変なのー! そんなの全然ちがうよー! おかしなかっこだしー!」と、野次られたらしいのだ。
彼女はそんなことを言われたのが初めてであり、そして彼女はその時、生まれて初めて考えてしまったのだ。
自分は変なのか? 私の言葉は民の思いとは違うのか? この装いはおかしいのか?
一度考え出したら気になって仕方がない。
気になって夜も眠れない、そんな時に俺が現れたので聞いてみたとのことだ。
「なるほどねぇ……」
去り際を失った俺はがっつり聖女の話を聞いてしまった。
まあ模範解答として、聖女と市民じゃそりゃ常識やら生活は違うのは当然であるだろうから仕方がないとは思うが、そういう話ではない。
どう考えても異常だ。
真夜中に自室へと侵入して来た謎の男に対して、一切の警戒心もなく自身の悩みを相談するというのは、常軌を逸しているとしか思えない。
誰よりも神の教えに対して殉じているのに、言葉も知能も年相応以上に育てられているはずなのに、彼女は何も知らない。
教会の中に閉じ込められ神に祈る装置として外界と切り離されて歪に造られた少女。
それが聖女なのだ。
まあそれを不憫に思うとか、間違っているとは思わない。
そんなことより俺は、そんな異常な女をどう丸め込んで逃げるかしか考えていないのだ。
「……まあ聖女様の生活と市民の暮らしとじゃあ違う、もっと言うなら市民同士でも暮らしは違うし、それぞれにそれぞれの生き方がある。それでいいんだよ」
はい困った時の十人十色、アイデンティティを問うティーンエイジャーへの回答は基本的に十人十色で煙に巻くことが出来る。子供を騙す言葉としてはよく出来ている。
こんなのは数学的な事実でしかなく、それをカテゴライズしていくことで社会は回っている。
殺し屋と泥棒は俺の中では全然違うが、世の中的には同じ黒だ。そういう風に人は誰もがカテゴライズされている。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです
星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。
しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。
契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。
亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。
たとえ問題が起きても解決します!
だって私、四大精霊を従える大聖女なので!
気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。
そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~
鏑木カヅキ
恋愛
十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。
元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。
そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。
「陛下と国家に尽くします!」
シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。
そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。
一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!
きまま
恋愛
薄暗い部屋の隅、背の高い本棚に囲まれて一人。エリシアは読書に耽っていた。
周囲の貴族令嬢たちは舞踏会で盛り上がっている時刻。そんな中、彼女は埃の匂いに包まれて、分厚い薬草学の本に指先を滑らせていた。文字を追う彼女の姿は繊細で、金の髪を揺らし、酷くここには場違いのように見える。
「――その薬草は、熱病にも効くとされている」
低い声が突然、彼女の背後から降ってくる。
振り返った先に立っていたのは、辺境の領主の紋章をつけた青年、エルンだった。
不躾な言葉に眉をひそめかけたが、その瞳は真剣で、嘲りの色はなかった。
「ご存じなのですか?」
思わず彼女は問い返す。
「私の方では大事な薬草だから。けれど、君ほど薬草に詳しくはないみたいだ。——私は君のその花飾りの名前を知らない」
彼は本を覗き込み、素直にそう言った。
胸の奥がかすかに震える。
――馬鹿にされなかった。
初めての感覚に、彼女は言葉を失い、本を閉じる手が少しだけ震え、戸惑った笑みを見せた。
※拙い文章です。読みにくい文章があるかもしれません。
※自分都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。
※本作品は別サイトにも掲載中です。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる