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第11話 秘密
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「わたくし葉玉蘭は、陛下の隠密ですの」
隠密。隠密……隠密……隠密!? 衝撃の事実を聞かされて私は思考停止状態に陥る。この可愛い天使みたいな女の子の鏡が陛下の陰で暗躍する隠密!? 嘘でしょ!?
「あ、あの、えっと」
「驚かれるのも無理はありませんわ。貴族の、しかも大臣の娘がこんなことをしているだなんて誰が想像できましょう」
隠密、というものの存在は知っている。各地を飛び回って情報収集をしたり、主人を陰から護衛したり。はたまたひっそりと誰かを暗殺したり。でもどうしても腑に落ちない。この虫も殺さないような少女が、本当にそんなことできるの!?
「情報収集から誰か気に入らない方の暗殺まで。なんでもお申し付けくださいませ」
玉蘭がにっこりと微笑む。
「このままでは話しづらいですわね」
そう言って彼女はもう一度綺麗な宙返りを見せ、先程の桃色の衣装に戻った。どうなってるんだろう。あの短時間に、しかも目にもとまらぬ速さで着替えて髪を降ろしたりまとめたりできるんなんて。
「えっと、玉蘭って陛下の隠密なのよね……? いつぐらいからやっているの……?」
なんと言っても目の前にいる少女は十五歳。自分よりも年下なのだ。きっとまだなりたてとかそれぐらいの……
「確か……八歳ぐらいの時に正式に隠密に任命されたはずですわ。まあ、もう七年目ですのね!」
それは私のセリフだから! 七年目って、私その時まだ十歳よ!? 普通に子どもよ!? ちっちゃい子の分類に入るわよ!? しかも、
「それって陛下が即位されるだいぶ前よね!?」
陛下は今から四年前ぐらいに即位されたはず。なら玉蘭は、その三年前の陛下が十四歳の時から仕えているというの!?
「そうなりますわね。でね、お妃様。わたくしのことは口外厳禁ですわよ? 隠密ですから秘密裏に行動しなければなりませんもの」
そっと自分のくちびるに手をあてて、玉蘭は私に忠告する。可愛い。可愛すぎる。
「それで、今日このようにお妃様にお知らせした理由なのですけれど……わたくし陛下からお妃様の護衛も頼まれましたの。一日中おそばにはいられませんけれどお父様が出仕しているときは基本おそばにいるようにいたしますわ」
「私の!? 陛下はどうするの? ほかにも隠密がいらっしゃるのかしら?」
貴女は陛下の隠密よね? どうするのかしら?
「もちろん陛下の隠密も兼任しますわ。安心なさってくださいませ」
むしろ安心できなくなった。本当に大丈夫なのかしら……
「玉蘭、と小声で呼んでくださればすぐに駆け付けますわ!」
「鈴華」
後ろから、聞き慣れてきた声がした。少し怖くてゆっくりと振り向く。
「玉蘭、話は終わったか?」
「今お話ししていたところですの」
二人が並んでいるところ見たら、それはそれはお似合いだった。人を殺すとは思えないほどの優しい微笑みを浮かべて、彼女は陛下を見上げている。
玉蘭が陛下に恋愛感情を抱けないのはこういうことなのか。主従関係を結んでいて、小さい時から仕えているから。
「まあそういうわけで、困ったことがあれば玉蘭を呼べ。私からの用事でいないとき以外はこの王宮の中にいるから」
「は、はい」
そのまま陛下は部屋を出ていった。玉蘭が続きを話し出す。
「お妃様、わたくしが陛下のことを恋愛対象として見ることができないはお分かりになりましたか? あんまりずっと一緒にいるものですから友達ではないですけれどそんな感じですの。陛下はわたくしの仕えるべき相手で、わたくしは陛下の下僕ですわ。わたくしのことはお気になさらないでくださいませ」
「ええ……」
なんだかとてつもなく心配だわ……
「ねえ玉蘭、玉蘭が隠密をやっているってこと、大臣は知っているの?」
知っていたらやめさせそうだけど……ほかに知っている人がいるのか気になる。
「お父様はご存じありませんわ。困るではないですか。わたくしは陛下の下僕ですからいくら自分の家といえどもすべての情報を陛下にお渡ししなければなりませんの。隠蔽されてしまってはいけませんわ」
あくまでそっちが大事なのか。すごいと思う。葉家より陛下なのね。葉家が何か悪いことに手を染めていても葉家のために言わないでおくのではなく全部陛下に報告するのか。それは誰にだってできる事じゃない。
「なら他に知っている人はいないということ?」
先程からずっと気になっていることを私は玉蘭に問う。それを聞いた彼女は少しだけ首を傾げてこう答えた。
「そうですわね、これも秘密ですよ? わたくしのお兄様はご存じですの。お兄様も陛下の下僕ですから」
「お兄様? 兄君がいらっしゃるの?」
葉大臣、家でまったく安心できないじゃない。自分の家に陛下の忠実な下僕が二人もいるんでしょ!?
「そうですわ。お兄様は鳥使いでしてね、わたくしが遠くに行っていて不在の時いないのをごまかしてくれますのよ」
鳥使い。鳥を使役できるなんて私聞いたことがないんだけど…… というかそれが本職なのかしら?
「その方はそれがお仕事?」
「いいえ、普通の官吏ですわ。陛下の補佐官ですの。やる気になれば人一倍仕事ができるのですけれどめったにやる気になってくれませんのよ。困ったものですわ」
彼女はため息をついた。補佐官なら青鋭と一緒ね。というかあの青鋭と一緒の仕事なのにそんなんでだいじょうぶなのかしら……
隠密。隠密……隠密……隠密!? 衝撃の事実を聞かされて私は思考停止状態に陥る。この可愛い天使みたいな女の子の鏡が陛下の陰で暗躍する隠密!? 嘘でしょ!?
「あ、あの、えっと」
「驚かれるのも無理はありませんわ。貴族の、しかも大臣の娘がこんなことをしているだなんて誰が想像できましょう」
隠密、というものの存在は知っている。各地を飛び回って情報収集をしたり、主人を陰から護衛したり。はたまたひっそりと誰かを暗殺したり。でもどうしても腑に落ちない。この虫も殺さないような少女が、本当にそんなことできるの!?
「情報収集から誰か気に入らない方の暗殺まで。なんでもお申し付けくださいませ」
玉蘭がにっこりと微笑む。
「このままでは話しづらいですわね」
そう言って彼女はもう一度綺麗な宙返りを見せ、先程の桃色の衣装に戻った。どうなってるんだろう。あの短時間に、しかも目にもとまらぬ速さで着替えて髪を降ろしたりまとめたりできるんなんて。
「えっと、玉蘭って陛下の隠密なのよね……? いつぐらいからやっているの……?」
なんと言っても目の前にいる少女は十五歳。自分よりも年下なのだ。きっとまだなりたてとかそれぐらいの……
「確か……八歳ぐらいの時に正式に隠密に任命されたはずですわ。まあ、もう七年目ですのね!」
それは私のセリフだから! 七年目って、私その時まだ十歳よ!? 普通に子どもよ!? ちっちゃい子の分類に入るわよ!? しかも、
「それって陛下が即位されるだいぶ前よね!?」
陛下は今から四年前ぐらいに即位されたはず。なら玉蘭は、その三年前の陛下が十四歳の時から仕えているというの!?
「そうなりますわね。でね、お妃様。わたくしのことは口外厳禁ですわよ? 隠密ですから秘密裏に行動しなければなりませんもの」
そっと自分のくちびるに手をあてて、玉蘭は私に忠告する。可愛い。可愛すぎる。
「それで、今日このようにお妃様にお知らせした理由なのですけれど……わたくし陛下からお妃様の護衛も頼まれましたの。一日中おそばにはいられませんけれどお父様が出仕しているときは基本おそばにいるようにいたしますわ」
「私の!? 陛下はどうするの? ほかにも隠密がいらっしゃるのかしら?」
貴女は陛下の隠密よね? どうするのかしら?
「もちろん陛下の隠密も兼任しますわ。安心なさってくださいませ」
むしろ安心できなくなった。本当に大丈夫なのかしら……
「玉蘭、と小声で呼んでくださればすぐに駆け付けますわ!」
「鈴華」
後ろから、聞き慣れてきた声がした。少し怖くてゆっくりと振り向く。
「玉蘭、話は終わったか?」
「今お話ししていたところですの」
二人が並んでいるところ見たら、それはそれはお似合いだった。人を殺すとは思えないほどの優しい微笑みを浮かべて、彼女は陛下を見上げている。
玉蘭が陛下に恋愛感情を抱けないのはこういうことなのか。主従関係を結んでいて、小さい時から仕えているから。
「まあそういうわけで、困ったことがあれば玉蘭を呼べ。私からの用事でいないとき以外はこの王宮の中にいるから」
「は、はい」
そのまま陛下は部屋を出ていった。玉蘭が続きを話し出す。
「お妃様、わたくしが陛下のことを恋愛対象として見ることができないはお分かりになりましたか? あんまりずっと一緒にいるものですから友達ではないですけれどそんな感じですの。陛下はわたくしの仕えるべき相手で、わたくしは陛下の下僕ですわ。わたくしのことはお気になさらないでくださいませ」
「ええ……」
なんだかとてつもなく心配だわ……
「ねえ玉蘭、玉蘭が隠密をやっているってこと、大臣は知っているの?」
知っていたらやめさせそうだけど……ほかに知っている人がいるのか気になる。
「お父様はご存じありませんわ。困るではないですか。わたくしは陛下の下僕ですからいくら自分の家といえどもすべての情報を陛下にお渡ししなければなりませんの。隠蔽されてしまってはいけませんわ」
あくまでそっちが大事なのか。すごいと思う。葉家より陛下なのね。葉家が何か悪いことに手を染めていても葉家のために言わないでおくのではなく全部陛下に報告するのか。それは誰にだってできる事じゃない。
「なら他に知っている人はいないということ?」
先程からずっと気になっていることを私は玉蘭に問う。それを聞いた彼女は少しだけ首を傾げてこう答えた。
「そうですわね、これも秘密ですよ? わたくしのお兄様はご存じですの。お兄様も陛下の下僕ですから」
「お兄様? 兄君がいらっしゃるの?」
葉大臣、家でまったく安心できないじゃない。自分の家に陛下の忠実な下僕が二人もいるんでしょ!?
「そうですわ。お兄様は鳥使いでしてね、わたくしが遠くに行っていて不在の時いないのをごまかしてくれますのよ」
鳥使い。鳥を使役できるなんて私聞いたことがないんだけど…… というかそれが本職なのかしら?
「その方はそれがお仕事?」
「いいえ、普通の官吏ですわ。陛下の補佐官ですの。やる気になれば人一倍仕事ができるのですけれどめったにやる気になってくれませんのよ。困ったものですわ」
彼女はため息をついた。補佐官なら青鋭と一緒ね。というかあの青鋭と一緒の仕事なのにそんなんでだいじょうぶなのかしら……
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