26 / 29
第26話 嫌味にしか聞こえないけど
しおりを挟む
それから会場は、何事もなかったかのようにざわつきだした。慣れって怖いね。私は今すぐ陛下にこの拘束を解いてほしいって思ってるけどね。
「いやはや、いともたやすく解決してしまわれるとは陛下も大したものですな」
「まったくその通りです」
近くでお酒を飲んでいる偉い人っぽい人たちが、大きな声で笑う。うーん、陛下に気に入ってもらおうって必死な感じがして好きになれないわね。
「にしても……」
そうしたら、突然彼らの標的が私になった。いきなり視線を向けられて、私は思わずびくりと肩を揺らす。
「陛下が妃を溺愛しているというのは本当だったようですねえ。先程も離さなければよかったなどと……お父上のように身分も考えず美女ばかりを後宮に入れる訳ではないようですが、血は争えないようだ……」
お父上? そう言えば私は、陛下の過去の話を聞いたことがない。いや、来たばっかりの他国の王族にそんな話普通しないでしょうけど。でも、どうやら女好きだったみたいね。ちらりと私は陛下の顔を盗み見る。
「ん? どうした?」
うわ、急なげきあま。陛下その声はどこから出されてるので??
「い、いえ、何でもありませんわ」
ここは笑ってごまかしておこうと思って、私は無理に微笑みを浮かべる。にしてもほんっと、世間は私のこと美女にしたがるのね。今の彼らに話してみたいぐらいだ。私は別に美女でも何でもないので血は争ってますよって。
「陛下」
やることがないので周囲の人たちの言葉にいちいち心の中で文句をつけていたら、見知った顔がやって来た。葉大臣だ。
「お前か。何か用でも?」
なんでか知らないけど、陛下が若干不機嫌になった気がする。気のせい?
「いえ、お妃様がいらっしゃったようですから挨拶を、と思いまして」
あ、私に用があったのね。さすがにこんな、陛下の膝の上に座ったまま挨拶するのは失礼かと思い、私は方向転換して地面に足をつける。と思ったら足が浮いた。どういうこと!? え!?
「なるほどな」
それ、邪魔するなにしか聞こえないんっですけど。どういうことか混乱していたが、どうやら私は陛下に抱きかかえられているらしい。なんで? 普通に立たせてよ! と脳内で猛反発したが、現実でできるはずもなく。しくしく。これで私がもっと気の強い人だったり大国の王女だったりしたら言えたかもしれないのに……って、気の強い人だったらむしろ進んで陛下に抱き着くか。しかも陛下の趣味じゃなさそうだし。
「せっかくお前の息子が準備したんだ。せいぜい楽しめ」
陛下、それじゃあ悪役の台詞だと思うんですけどいかがですか??
「ええ、楽しませていただきましょう。このようなこと、楽しまないわけにはいきませんから」
そういった彼の眼は、あまり笑っていない。当然だとは思う。だってこの宴を作ったのは自分の息子だけど、自分の息子じゃない。青鋭様と月華さんだからこそできたんだもの。きっと因縁の家の期待の息子同士が手を組んだ、大臣たちからすれば組まされた状況に納得できていない。
「いいと思うのに……」
思わずそれを口から出してしまって、私は慌てて口をつぐんだ。セーフ、聞かれてないわ。私はあの二人が、すごくいいと思う。お互いにないものを持ってるというか、二人とも別方面で、格好いいのに残念な感じ。親が敵対してるのに、どうやってあんなふうになったんだろう? 私には不思議で不思議で仕方がない。
「それでは陛下、そろそろ席へ戻ります。お時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「はっ、そうだな」
陛下はそういうや否やくるりと後ろを振り返り、元の椅子に座りなおした。私は抱えたまま。もう、結局逆戻りじゃないのよ! 今すぐここから私を逃がしなさーい! 何ならぼーっとしてるだけでもさっきの一にいる方がまだましだったわ。陛下のそばにいると、心臓が押しつぶされるみたいに息苦しくなる。変な色気だしてるんじゃないわよ!もう。
「我が妃はなぜそんなに百面相が好きなんだ?」
突然目の前でくつくつと笑いだされ、私は混乱した。百面相? 何が? も、もしかして……
「今の全部、か、顔に……?」
「そうらしいな」
わー!!! そうらしいな、じゃないのよ!! もう無理だ。もうここにいたくない。生暖かいのか嫉妬なのかわからない視線が私を包む。もうこの城おろか白蓮花国にもいたくない気分だわ。薄紅蘭万歳。私には薄紅蘭ぐらいがちょうどいいのよ。別に薄紅蘭を貶めてるって訳じゃ無いんだけれど。またも
陛下の言う“百面相”になっている気もするが、もう気にしたら負けだ。そう思って長いため息をついたところで、何か声が、聞こえてきた、気がした。
「ちっ、忌々しい……全く目障りな……」
ぞっと、したかも。誰かは分からない。おそらく近くにいる人のうちの誰かだ。忌々しいのはわかる。でも私が聞こえたってことは陛下も……
「陛下、お妃様、お茶を」
ちょうどそこで、中身がなくなったのでいったん下がっていたお茶が出てきた。はあ、疲れたわ。早速だけどいただこ……
「それ、貸せ」
あっという間に取り上げられる私の茶器。ああー!!私の束の間の癒しがあああ!!!
「いやはや、いともたやすく解決してしまわれるとは陛下も大したものですな」
「まったくその通りです」
近くでお酒を飲んでいる偉い人っぽい人たちが、大きな声で笑う。うーん、陛下に気に入ってもらおうって必死な感じがして好きになれないわね。
「にしても……」
そうしたら、突然彼らの標的が私になった。いきなり視線を向けられて、私は思わずびくりと肩を揺らす。
「陛下が妃を溺愛しているというのは本当だったようですねえ。先程も離さなければよかったなどと……お父上のように身分も考えず美女ばかりを後宮に入れる訳ではないようですが、血は争えないようだ……」
お父上? そう言えば私は、陛下の過去の話を聞いたことがない。いや、来たばっかりの他国の王族にそんな話普通しないでしょうけど。でも、どうやら女好きだったみたいね。ちらりと私は陛下の顔を盗み見る。
「ん? どうした?」
うわ、急なげきあま。陛下その声はどこから出されてるので??
「い、いえ、何でもありませんわ」
ここは笑ってごまかしておこうと思って、私は無理に微笑みを浮かべる。にしてもほんっと、世間は私のこと美女にしたがるのね。今の彼らに話してみたいぐらいだ。私は別に美女でも何でもないので血は争ってますよって。
「陛下」
やることがないので周囲の人たちの言葉にいちいち心の中で文句をつけていたら、見知った顔がやって来た。葉大臣だ。
「お前か。何か用でも?」
なんでか知らないけど、陛下が若干不機嫌になった気がする。気のせい?
「いえ、お妃様がいらっしゃったようですから挨拶を、と思いまして」
あ、私に用があったのね。さすがにこんな、陛下の膝の上に座ったまま挨拶するのは失礼かと思い、私は方向転換して地面に足をつける。と思ったら足が浮いた。どういうこと!? え!?
「なるほどな」
それ、邪魔するなにしか聞こえないんっですけど。どういうことか混乱していたが、どうやら私は陛下に抱きかかえられているらしい。なんで? 普通に立たせてよ! と脳内で猛反発したが、現実でできるはずもなく。しくしく。これで私がもっと気の強い人だったり大国の王女だったりしたら言えたかもしれないのに……って、気の強い人だったらむしろ進んで陛下に抱き着くか。しかも陛下の趣味じゃなさそうだし。
「せっかくお前の息子が準備したんだ。せいぜい楽しめ」
陛下、それじゃあ悪役の台詞だと思うんですけどいかがですか??
「ええ、楽しませていただきましょう。このようなこと、楽しまないわけにはいきませんから」
そういった彼の眼は、あまり笑っていない。当然だとは思う。だってこの宴を作ったのは自分の息子だけど、自分の息子じゃない。青鋭様と月華さんだからこそできたんだもの。きっと因縁の家の期待の息子同士が手を組んだ、大臣たちからすれば組まされた状況に納得できていない。
「いいと思うのに……」
思わずそれを口から出してしまって、私は慌てて口をつぐんだ。セーフ、聞かれてないわ。私はあの二人が、すごくいいと思う。お互いにないものを持ってるというか、二人とも別方面で、格好いいのに残念な感じ。親が敵対してるのに、どうやってあんなふうになったんだろう? 私には不思議で不思議で仕方がない。
「それでは陛下、そろそろ席へ戻ります。お時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「はっ、そうだな」
陛下はそういうや否やくるりと後ろを振り返り、元の椅子に座りなおした。私は抱えたまま。もう、結局逆戻りじゃないのよ! 今すぐここから私を逃がしなさーい! 何ならぼーっとしてるだけでもさっきの一にいる方がまだましだったわ。陛下のそばにいると、心臓が押しつぶされるみたいに息苦しくなる。変な色気だしてるんじゃないわよ!もう。
「我が妃はなぜそんなに百面相が好きなんだ?」
突然目の前でくつくつと笑いだされ、私は混乱した。百面相? 何が? も、もしかして……
「今の全部、か、顔に……?」
「そうらしいな」
わー!!! そうらしいな、じゃないのよ!! もう無理だ。もうここにいたくない。生暖かいのか嫉妬なのかわからない視線が私を包む。もうこの城おろか白蓮花国にもいたくない気分だわ。薄紅蘭万歳。私には薄紅蘭ぐらいがちょうどいいのよ。別に薄紅蘭を貶めてるって訳じゃ無いんだけれど。またも
陛下の言う“百面相”になっている気もするが、もう気にしたら負けだ。そう思って長いため息をついたところで、何か声が、聞こえてきた、気がした。
「ちっ、忌々しい……全く目障りな……」
ぞっと、したかも。誰かは分からない。おそらく近くにいる人のうちの誰かだ。忌々しいのはわかる。でも私が聞こえたってことは陛下も……
「陛下、お妃様、お茶を」
ちょうどそこで、中身がなくなったのでいったん下がっていたお茶が出てきた。はあ、疲れたわ。早速だけどいただこ……
「それ、貸せ」
あっという間に取り上げられる私の茶器。ああー!!私の束の間の癒しがあああ!!!
0
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる