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1部 転生する月神編

騎士団会議

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 真っ赤な血で身体を染めた女性が、美しい笑みを浮かべて見ている。

 白い服が赤い血を際立たせ、真っ白な翼はズタズタになっていた。長く輝く銀髪は切り刻まれてしまったようだ。

 姿はボロボロなのに、女性は輝いていて美しい。悲しいほどに美しかった。

「エリル…」

 小さく呟かれた声は青髪の青年から漏れたもの。

 激しい戦場であったのに、誰も動くことはない。動けないほど、女性は美しかったのだ。

 見つめ合う二人の邪魔をすることはできないと思ったほどで、誰もが想定外の出来事。

 次の瞬間、崩れ落ちた身体に青年は動く。腕に抱き止めれば、青年の腕すら血に染まる。

「エリル…」

 どう見ても致命傷だ。どれだけの力を持っていようと、こればかりは助けられない。

 凍らせた心が軋み、激しい痛みが襲う。なにかを言わなくてはと思うが言葉がでてこない。

「血に濡れていても、お前は美しいな」

 ようやく言えた言葉は、自分でも呆れてしまうものだった。

 女性もなにを言うのかと微かに笑みを浮かべる。けれど彼らしいとも思える言葉だ。

「今も昔も…お前ほどの女はいない……」

 最後ぐらい素直に言おうと思った。だが、少し遅すぎたようだ。

 そこまで言ったとき、笑みを浮かべたまま女性は死んでいたから。聞かせることはできなかった。一番大切な言葉を。

「また…俺に看取らせやがって……」

 まだ温かい身体を抱き締めたまま、青髪の青年は涙を堪える。

 泣くものか。泣くわけにはいかない。

 大切な者を失い、押し寄せる悲しみに必死で抗った。



「やめろ…もう…見せるな…」

 寝ては夢で見て目が覚める。寝直せば、同じ夢を見てまた起きるの繰り返し。

 それも、同じ夢を繰り返すだけなのだ。一晩で何回見たかもわからないほど、クオンはセイレーンの女性が死ぬ夢を見ていた。

 まるで意図的に見せているようだと察したが、それが数日も続くと精神的にも堪える。

「なんで…こんな夢……」

 焼かれる夢もきついと思ったが、この夢は心が締め付けられて苦しかった。感情にも影響がでている。

 色々な方面で影響がでて、いい加減やばいと思っていた。特に、毎日顔を合わせている副官だ。

(時間だ…)

 今日は会議があるとベッドから抜け出し、クオンは急いで支度をした。どのような状態だとしても、会議を欠席するわけにはいかない。

 支度を終えれば、すぐに家を出ようとして呼び止められる。

「持っていきなさい」

「あ、あぁ…」

 渡された包みに食事なのはわかった。朝食を食べる余裕はないだけに、これは助かったと思う。

「朝食はとるべきよ。会議のあとにでも食べなさい」

 両親がクオンの異変に気付いていないわけがない。わかっていて、なにも言わずに見守っている。

「行ってくる、母上」

 これ以上は心配をかけたくない。早く原因を突き止めなくてはと思うのだが、手がかりすらなかった。

 なぜこうなっているのか心当たりもない。誰かに相談して、どうにかなるものでもないだろう。

(結局、一人でどうにかするしかねぇ)

 考えるのだ。絶対に手がかりが見つかるはずだ。意味があるはずなのだから。

 考えながら歩いていれば、城の入り口で副官のリュース・リンバールが待っていた。

「おはようございます。リーナとは顔を合わせたくないかと、待ってました」

「あー…助かる…」

 あれからリーナを避けていたのだ。

 押し倒したのが原因ではない。そのとき見たものが原因だった。

「クオン、あまり口出しはしないつもりでしたが…」

「あとで聞く」

「わかりました」

 あまりにも顔色が悪い姿に、さすがに黙ってはいられない。

 リュースもクオンの身になにかが起きていて、それが原因でリーナを避けていることぐらいなら理解できた。

 本人が言わない以上、口出しするべきではないと思う。だが、今回ばかりはさすがにほっとけない。

 クオンの様子もだが、リーナの方も情緒不安定になっているのだ。若いのは、と陰口を叩かれる前になんとかしなくてはいけない。





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