メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼

文字の大きさ
124 / 276
3部 永久の歌姫編

大蛇の襲撃3

しおりを挟む
 周囲に残された魔物は決して多くない。多くないが、大蛇を前にすれば多いと思うシャル。早く片付けて助けに行きたい反面、こちらに回された意味も悟る。

 神官騎士はあくまでも神殿を守ることが優先されるのだ。実戦は積んでいるが、それは積んでいるだけのこと。

 天空騎士や魔騎士とはまったく違う。最低限の実戦と、常に実戦の差がそこにはあった。

(セネシオ様が任せてくるだけある)

 臨機応変に動くことができない上に、自分達が知らない魔物への対応はまったくできない。その都度、シャルが指示をだす必要があるほどだ。

 これをセネシオに任せることはできない。アクアの護衛であるソニアは、なにがあっても離れないだろう。

(俺しかいないのはわかるが、自力で動いてくれることが理想だったな)

 こうまでも違うのかと思ったほどだ。

 今は騎士団との差を考えている場合ではない。この場を早く終わらせるためには、自分が動くしかないというのが結論だ。

 指示を出すばかりでは終わらない。

 確実に一匹ずつ魔物を倒していく。幸いなのか、シャルは魔法も得意とする。少し離れたところであろうと、確実に攻撃することが出来た。

 負担が大きいのはわかるが、彼の本音は神官騎士には頼れないというもの。頼るぐらいなら自分でやる方が早い。

(多少の無茶は承知だ。この場をひとまず切り抜けられれば、後のことは後で考える!)

 魔法を放ちながら、目の前に迫る魔物を倒す。それをどれほど繰り返したかわからない。

 途中から神官騎士を置き去りにする勢いだったことは間違いなかった。呆気に取られながら、神官騎士が見ていたほどだ。

「すごい……」

「あれが城の騎士なの……」

 どうしたらいいのかわからなくなった神官騎士。戸惑うように見ていれば、そこへ神官長ウラルが現れる。

「避難なさい。これ以上は足手まといにしかならないでしょう」

 指示出しをやめたということは、自分でやる方が早いという判断。ならば、できることはこの場から退くことだと神官長は言う。

 自分達では手助けできない戦いが始まろうとしている。そう言われてしまえば、神官騎士達はなにも言えなかった。

「シャル殿、後はお任せします」

 一人でほとんどの魔物を倒しきった姿を見て、神官長は届いていないかもしれないと思いつつ声をかけた。

 しかし、声はしっかりと届いたようだ。チラリと向けられた視線。避難していく神官騎士達の背中を見ながら、この場に現れた神官長に感謝した。

(やり易くなった。なによりも、指示がないとまともに動けないなら邪魔だ)

 急ぎたい自分としては、動けなくなった時点で離れてほしいと思っていただけに、この判断はありがたい。

 背後を気にしなくてもいいなら、動き方はまた変わってくる。後ろに余波がいかないよう、最低限は気にしていたのだ。

「あと三匹…」

 これで終わりだと一気に攻撃した。あとは大蛇と戦う三人へ合流するだけ。

「チッ…少し急いたか」

 シャルにしてはらしくないミスだ。一匹だけ逃してしまった。気持ちが急いてしまっただけに、落ち着けと言い聞かせてから、改めて剣を構える。

 瞬時に斬りかかり、今度こそ終わったと息を吐く。これで、やっと雑魚は終わりだと大蛇を見る。

 魔物と戦いながらも、ある程度は状況を見ていたシャル。大蛇である魔物は、想像通りに攻撃が通じにくい。

 シャルとて、あれと戦うすべを持っているわけではないのだが、それでも力を合わせればできることもある。少なくとも、ソニアとセネシオは悪くないと思っていた。

(自分一人では無理だが、あの二人とやれれば)

 もう少しはまともに戦えるだろう。

 そうまで考えた瞬間、大蛇の身体が大きくうねる。まるで目を覚ましたかのような動きに、今までは本能的に動いていただけと気付く。

「離れろ!」

 怒鳴るのと、辺りが大爆発するのは同時。闇夜である上に、辺りを土煙が巻き上がり視界が塞がれた。

「アクア様!」

 咄嗟的にソニアが動くのと、光の筋が周囲を襲うのが同時。視界が奪われたことで守らなければと思ったのだろう。

「ソニア!」

 そのお陰でアクアは救われたが、光の筋はソニアに直撃した。

「吹き飛べ!」

 土煙を吹き飛ばすようにアクアが怒鳴る声に、セネシオとシャルも見えていなくても事態は理解できる。

 まるで魔法を使ったかのように、土煙がすべて吹き飛ぶ。アクアがなにかをしたのはわかっているが、今はそれがなにかなどと聞いている場合ではない。

「ソニア…」

 見えない中、咄嗟にアクアを庇い、勘だけで辛うじて避けたのだろう。脇腹をかすっただけで済んだようだ。

 ホッとしたのは一瞬だ。すぐさま立て直すのはさすが騎士だと思う。立ち上がったソニアを見て、ひとまず大丈夫だとシャルも大蛇を見る。

「これは……まいったね。あれが無意識だったとは」

「これからが本番というところですか。アクア様、あまり前へ出ないでください」

 けど離れるなとも言う。いざというとき、すぐさま守れるようにだ。

「守られてばかりでいるつもりはないよ」

 バサッと翼を広げると、アクアの奏でる音色が攻撃的になる。目に見えない刃が大蛇に襲いかかるが、刃が仲間を傷つけることはない。

「ソニア、いつでも下がれるようにしておけ」

 前は自分がやるとシャルが飛び出せば、付き合うとセネシオも斬りかかる。このときばかりは、ソニアもシャルの言葉に従った。

 彼女が優先するのは、第一にアクアを守ることだから。

 二本の剣を握り直すと、ソニアは一撃離脱の戦い方へ変える。アクアの元へも行くけるようにと、常に飛ぶことを選んだ。

 いくら地上戦に慣れているとはいえ、いざというときは飛ぶ方が早い。

「シャル、勝算はあるかな」

「正直、現状としてはないですね。あと一人二人、手練れがいないと無理でしょう」

 手練れがいればできるのか、と内心突っ込むセネシオ。彼にはまったく勝算がなかったのだ。

 何人いようが勝てる気はしない、というのが本音。力の次元が違うというよりも、あの防御を破れる気がしないのだ。

 攻撃を避けることはできる。当てることもできる。けれど、防御を破ることだけはできない。

 どれだけ手数を用いても、破れる自信がないと思っていた。

「魔力攻撃は通じてるみたいです。なので、もう少し手練れがいればと思うのですが」

「魔法……」

 なるほど、と呟いたあと、少し任せるとセネシオは言う。やってみたいことがあると。

 魔力を高める姿に、シャルもこれならと期待する。想像以上にセネシオの魔力は強かったのだ。

(さすが予言者…)

 予言者という肩書きを持つ神官なだけある。

 ここは任せようと思えば、時間稼ぎをするように大蛇へ挑んだ。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...