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4部 女神の末裔編
魔物の気配3
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シャルでなくても見える状態になった霧は、次第に魔物の形へと変わっていく。植物のような魔物は、雄叫びと同時になにかを撒き散らす。
まるで花粉か種を撒くような行動に、三人ともがしまったと思う。
これは周囲に魔物を散らしているのだ。つまり、村へ魔物が入ってしまうということ。
「雑魚ならいいが、同等かそれに近いのが中へ行くと厄介だ。俺は周囲の魔物を受け持つから、シャルはあれを頼む!」
「了承した」
小さな植物型の魔物が現れたのを見て、これをやるのは自分だとアシルは曲刀を抜く。
「シャンルーン! アシルを手伝いなさい!」
『任せて、イリティス!』
金色に輝く小鳥が飛び上がると、その姿は大きく美しい鳥へと変わる。羽ばたくと光の筋が魔物へ襲い掛かり、消し去っていく。
「心強い味方ですね」
本来ならイリティスの傍にいたいであろう聖鳥が、自分を手助けするとはありがたい。
『これがいない方が、イリティスも安全だから』
だから手伝うだけと言われれば、アシルは素直ではないなと笑った。
どんな理由にしろ、聖鳥が一緒に暴れてくれるならどうにでもなるだろう。これで後ろは気にしなくていいとシャルも安心する。
誰かを守りながら戦うのは厳しい。自力でなんとかしてもらえるなら、そうしてもらえるのが一番だ。
(初めから心配はしていないが)
彼の実力はわかっているつもり。シザが言ったことでこちら側に来てくれたが、指名できるなら彼を頼むつもりでいたほど、この戦いに混ぜて問題ないと思っている。
『来るよ!』
シャンルーンが呼びかけるのと、シャルが跳び下がるのが同時。植物の蔓は地面に突き刺さり、あのまま立っていたら危なかっただろう。
そのまま蔓がいくつも攻撃してくれば、以前戦ったのよりも厄介だと舌打ちする。
(あのときは大蛇だったが、植物の魔物も厄介だな。蔓でいくらでも攻撃できるわけか)
それも、これだけ大きな植物となれば、蔓の数も多くなるようだ。すべてを自分で引き受けたいところだが、厳しいかもしれないと思えば、気を引き締めて魔物を見る。
まずはどのような動きをするのか、蔓以外の攻撃方法や魔法に関してなど、手に入る情報をギリギリまで集めるのだ。
聖槍を使うのはそれからだと斬りかかる。
幾度か斬りつけてわかったことは、軽い傷なら勝手に治ってしまうということ。
植物だからか再生能力があるようだ。これを上回る力で攻撃しなくてはいけない。
(問題ないか。聖槍の力なら、再生力を上回れる。今回は一人ではないしな)
威力に関しては問題ないとシャルは思う。イリティスの聖弓もあれば、聖鳥の力も強いのだとわかったからだ。
蔓は一度に二本しか動かないこともわかった。無数に出せるようだが、一度に動かせる数が決まっているなら頭に入れておくだけ。
この場には、これで押さえられる者などいない。
「花粉が厄介ね。花粉と、呼んでいいのかわからないけれど」
定期的に撒き散らかすことで、アシルは対応に追われている。
強さ自体は問題がないが、数が多いことは問題だ。戦いが長引けば、その分だけ体力も奪われていく。簡単にやられるようなことはないが、体力が失われれば判断力が鈍るかもしれない。
当然ながら、戦闘が長引いた場合の問題は自分も同じだとシャルは理解している。むしろ、聖槍を使うことが確定している分、シャルの方が長引かせたくない。
タイミングを読み間違えることだけはできないのだ。一瞬も気を抜けない戦いだが、シャルは好戦的な気持ちが強くなるのを感じている。
こんなにも好戦的だっただろうか、と思わなくもない。
(隠してばかりだったからな)
反動かもしれないと思えば、早く解き放てと呼びかけてくる聖槍に苦笑いを浮かべる。
「イリティス殿、そろそろやります」
急かされるまでもなく、頃合いだと思っていたシャル。手にしていた剣を鞘に戻すと、聖槍を手にした。
未だに使いこなせていない。わかっているが、使わないことにはどうすることもできないのも事実。使っているうちにわかるかもしれない、という気持ちも片隅にあった。
「いいわよ。シャンルーン、解き放って」
『うん!』
彼に合わせて動くには聖弓が必要となる。ある程度は自分で使えるが、制御として聖鳥が一部の力を抑えているのだ。
これを解き放つよう呼びかけたイリティスは、聖弓を片手にシャルを見る。彼の動きに合わせるというよりは、彼が求めてきたら使うと決めていたのだ。
そうでなければ、初めて組む相手を邪魔せずに行える確証がなかった。
「聖槍よ…」
小さく呟かれた言葉。一本の槍が強い光を放ちながら輝く。
決して強くはないけれど、闇夜を照らす月のように眩い光。力が溢れてくる輝きだとアシルは思う。
「やれやれ、まだ頑張るかね」
さすがに疲労が溜まってきたが、ここで自分がリタイアすることはできない。
『ルーンが手伝ってるんだから、頑張ってくれなきゃ困るんだよ』
「わかってるさ」
終わったらしばらく休暇が欲しいな、と真剣に思うと曲刀を握り直す。
「さて、何発で終わらせる気なのか聞いても」
「……一発だ。やっても二発で終わらせたい」
「承った」
戦場であるにも関わらず、一体なにをと首を傾げたシャンルーン。この聖鳥がいるからこそできるのだと笑えば、アシルは凄まじい勢いで駆け抜ける。
駆け抜けたところに炎を立ち上らせながら動けば、植物にとって弱点となる状況に変える気なのだと気付く。
外から来た魔物とはいえ、植物である以上は火に弱いだろう。効果がどれほどになるかわからなくても、動きを鈍らせることぐらいはできるはず。
今までとは違う鋭い視線を投げかけ、炎で描いていく円。さすがに花粉を撒き散らかすことができなくなったのか、周囲の魔物が一気に減る。
「悪くない手だ。動きが少しでも鈍れば、抑えやすくなる」
当然ながら、円の中にいなくてはいけないシャルにも炎は襲うのだが。
(月の聖槍なら、問題ないと思うんだけどな)
これだけは賭けでやったのだが、もしも駄目だったとして限界を超える前までにやると信じていた。
「動きを止めればいいのでしょ。あとは任せるわよ」
聖弓を静かに構え、イリティスが魔物を見据える。
光り輝く矢が自然と現れ、迷うことなく放つ。放たれた矢は四つに分かれ、まるで紐のように魔物へ巻き付いていく。
こんな使い方ができたのかと思ったのは一瞬のこと。シャルが炎の壁を突き抜けて斬りかかった。
さすがに魔物の動きは止められなかったが、炎で鈍った上にイリティスの矢が蔓をすべて消し去ってしまう。すぐさま新しい蔓で攻撃をしようとしたところ、シャルが力を解き放って突き刺した。
「これで、終わりだな」
内部から聖槍の力を解き放った瞬間、シャルは終わりではないと気付く。崩れていく魔物など見ず、慌てたように村を見る。
「逃げられた!」
そう、逃げられたのだ。地面の中に潜る根っこを使って。
・
まるで花粉か種を撒くような行動に、三人ともがしまったと思う。
これは周囲に魔物を散らしているのだ。つまり、村へ魔物が入ってしまうということ。
「雑魚ならいいが、同等かそれに近いのが中へ行くと厄介だ。俺は周囲の魔物を受け持つから、シャルはあれを頼む!」
「了承した」
小さな植物型の魔物が現れたのを見て、これをやるのは自分だとアシルは曲刀を抜く。
「シャンルーン! アシルを手伝いなさい!」
『任せて、イリティス!』
金色に輝く小鳥が飛び上がると、その姿は大きく美しい鳥へと変わる。羽ばたくと光の筋が魔物へ襲い掛かり、消し去っていく。
「心強い味方ですね」
本来ならイリティスの傍にいたいであろう聖鳥が、自分を手助けするとはありがたい。
『これがいない方が、イリティスも安全だから』
だから手伝うだけと言われれば、アシルは素直ではないなと笑った。
どんな理由にしろ、聖鳥が一緒に暴れてくれるならどうにでもなるだろう。これで後ろは気にしなくていいとシャルも安心する。
誰かを守りながら戦うのは厳しい。自力でなんとかしてもらえるなら、そうしてもらえるのが一番だ。
(初めから心配はしていないが)
彼の実力はわかっているつもり。シザが言ったことでこちら側に来てくれたが、指名できるなら彼を頼むつもりでいたほど、この戦いに混ぜて問題ないと思っている。
『来るよ!』
シャンルーンが呼びかけるのと、シャルが跳び下がるのが同時。植物の蔓は地面に突き刺さり、あのまま立っていたら危なかっただろう。
そのまま蔓がいくつも攻撃してくれば、以前戦ったのよりも厄介だと舌打ちする。
(あのときは大蛇だったが、植物の魔物も厄介だな。蔓でいくらでも攻撃できるわけか)
それも、これだけ大きな植物となれば、蔓の数も多くなるようだ。すべてを自分で引き受けたいところだが、厳しいかもしれないと思えば、気を引き締めて魔物を見る。
まずはどのような動きをするのか、蔓以外の攻撃方法や魔法に関してなど、手に入る情報をギリギリまで集めるのだ。
聖槍を使うのはそれからだと斬りかかる。
幾度か斬りつけてわかったことは、軽い傷なら勝手に治ってしまうということ。
植物だからか再生能力があるようだ。これを上回る力で攻撃しなくてはいけない。
(問題ないか。聖槍の力なら、再生力を上回れる。今回は一人ではないしな)
威力に関しては問題ないとシャルは思う。イリティスの聖弓もあれば、聖鳥の力も強いのだとわかったからだ。
蔓は一度に二本しか動かないこともわかった。無数に出せるようだが、一度に動かせる数が決まっているなら頭に入れておくだけ。
この場には、これで押さえられる者などいない。
「花粉が厄介ね。花粉と、呼んでいいのかわからないけれど」
定期的に撒き散らかすことで、アシルは対応に追われている。
強さ自体は問題がないが、数が多いことは問題だ。戦いが長引けば、その分だけ体力も奪われていく。簡単にやられるようなことはないが、体力が失われれば判断力が鈍るかもしれない。
当然ながら、戦闘が長引いた場合の問題は自分も同じだとシャルは理解している。むしろ、聖槍を使うことが確定している分、シャルの方が長引かせたくない。
タイミングを読み間違えることだけはできないのだ。一瞬も気を抜けない戦いだが、シャルは好戦的な気持ちが強くなるのを感じている。
こんなにも好戦的だっただろうか、と思わなくもない。
(隠してばかりだったからな)
反動かもしれないと思えば、早く解き放てと呼びかけてくる聖槍に苦笑いを浮かべる。
「イリティス殿、そろそろやります」
急かされるまでもなく、頃合いだと思っていたシャル。手にしていた剣を鞘に戻すと、聖槍を手にした。
未だに使いこなせていない。わかっているが、使わないことにはどうすることもできないのも事実。使っているうちにわかるかもしれない、という気持ちも片隅にあった。
「いいわよ。シャンルーン、解き放って」
『うん!』
彼に合わせて動くには聖弓が必要となる。ある程度は自分で使えるが、制御として聖鳥が一部の力を抑えているのだ。
これを解き放つよう呼びかけたイリティスは、聖弓を片手にシャルを見る。彼の動きに合わせるというよりは、彼が求めてきたら使うと決めていたのだ。
そうでなければ、初めて組む相手を邪魔せずに行える確証がなかった。
「聖槍よ…」
小さく呟かれた言葉。一本の槍が強い光を放ちながら輝く。
決して強くはないけれど、闇夜を照らす月のように眩い光。力が溢れてくる輝きだとアシルは思う。
「やれやれ、まだ頑張るかね」
さすがに疲労が溜まってきたが、ここで自分がリタイアすることはできない。
『ルーンが手伝ってるんだから、頑張ってくれなきゃ困るんだよ』
「わかってるさ」
終わったらしばらく休暇が欲しいな、と真剣に思うと曲刀を握り直す。
「さて、何発で終わらせる気なのか聞いても」
「……一発だ。やっても二発で終わらせたい」
「承った」
戦場であるにも関わらず、一体なにをと首を傾げたシャンルーン。この聖鳥がいるからこそできるのだと笑えば、アシルは凄まじい勢いで駆け抜ける。
駆け抜けたところに炎を立ち上らせながら動けば、植物にとって弱点となる状況に変える気なのだと気付く。
外から来た魔物とはいえ、植物である以上は火に弱いだろう。効果がどれほどになるかわからなくても、動きを鈍らせることぐらいはできるはず。
今までとは違う鋭い視線を投げかけ、炎で描いていく円。さすがに花粉を撒き散らかすことができなくなったのか、周囲の魔物が一気に減る。
「悪くない手だ。動きが少しでも鈍れば、抑えやすくなる」
当然ながら、円の中にいなくてはいけないシャルにも炎は襲うのだが。
(月の聖槍なら、問題ないと思うんだけどな)
これだけは賭けでやったのだが、もしも駄目だったとして限界を超える前までにやると信じていた。
「動きを止めればいいのでしょ。あとは任せるわよ」
聖弓を静かに構え、イリティスが魔物を見据える。
光り輝く矢が自然と現れ、迷うことなく放つ。放たれた矢は四つに分かれ、まるで紐のように魔物へ巻き付いていく。
こんな使い方ができたのかと思ったのは一瞬のこと。シャルが炎の壁を突き抜けて斬りかかった。
さすがに魔物の動きは止められなかったが、炎で鈍った上にイリティスの矢が蔓をすべて消し去ってしまう。すぐさま新しい蔓で攻撃をしようとしたところ、シャルが力を解き放って突き刺した。
「これで、終わりだな」
内部から聖槍の力を解き放った瞬間、シャルは終わりではないと気付く。崩れていく魔物など見ず、慌てたように村を見る。
「逃げられた!」
そう、逃げられたのだ。地面の中に潜る根っこを使って。
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