31 / 50
二部 過去編
精霊の森2
しおりを挟む
そういえばと氷那は思いだす。儀式のときも、飛狛は身体をおかしくした。
あのときは儀式の影響だと思っていたし、狛琉もそうだろうと話していたのだが。
(あのときも、飛狛さんは精霊喰らいに反応していたのかも)
もしも精霊が集まったことで彼が不調になったのなら、それ以降にもあったはず。
精霊の儀式は可能な限り参加していたし、氷那が歌うことで精霊は集まるが、歌っても飛狛は平然としていた。
「とりあえず、いっちょやるか!」
「ですね」
二人が武器を手に飛びかかるのは同時。挟むように左右から斬りかかると、その獣は風圧で二人を弾く。
「精霊を食べたら食べただけ、強くなるのか!」
昔とは違う強さに、狛琉は警戒する。双子は魔法槍士の家系。実力は間違いなくこの中で一番だ。
そんな二人をあっさりと吹き飛ばす力は侮れない。
「ちっ、ここには餌がいくらでもあるってか!」
「甘くみないでもらいたいですね!」
木へ叩きつけられそうになり、二人は難なく逃れる。
すぐさま体制を整え、夜秋が斬りかかった。槍から放たれる振動が、吹き飛ばそうとする力を防ぐ。
「タフだよなぁ」
「ですね。柊稀さん、なにか見えたら教えてください」
「うん……」
双子の攻防をみながら、なんて呑気なのだと言いたくなる狛琉と氷那。
会話だけ見れば呑気だが、狛琉はしっかりと剣を持っているし、氷那は周囲を警戒している。
二人の視線は鋭く精霊喰らいを見ていた。一瞬も逃さないように。
「ちっ、竜族を甘くみるなっつうんだよ!」
食べた精霊で能力も強化されるのか。吹き飛ばすのは風の力。風の精霊を食べた分だけ威力があがり、大地の精霊を食べただけ結界は強くなる。
結界を破壊しないことには傷ひとつ付けられないと悟り、秋星が二本の剣を構えた。
風が吹き荒れ、剣へ巻き付く。輝くのは魔技の発動を意味し、柊稀はじっと見た。
手合わせをするときは一本の剣で魔技も使わない。二刀流に興味があれば、二刀流が使う魔技にも興味があった。
「風刃斬!」
十字に放たれた風の刃。一直線に結界へ向かい、ぶつかった瞬間にミシッと音を立てる。
「霊波槍!」
追い討ちをかけるよう、さらに夜秋の槍が軋んだ結界へ突き刺さった。
「壊れた!」
柏羅が嬉しそうに跳び跳ねると、氷那は獣へ向けて氷の刃を放つ。
「狛琉さん、柊稀さん、結界を張らせないでください!」
ここには力の源となる精霊がたくさんいる。すぐに倒さなくては、また精霊を食べて強い結界を張られてしまう。
警告を受ければ、二人はすぐさま斬りかかった。強い結界を張られれば、壊すのがさらに大変になってしまう。
双子に負担をかけることになるのだ。
二人が足止めするように攻撃をし、夜秋と秋星がダメージを与える。その繰り返しで少しずつ力を削いでいった。
精霊喰らいが弱っていき、秋星の放った風が身体を切り刻む。
見た目と同じよう獣の断末魔を上げ、身体が砂のように崩れ落ちた。
「ハァハァ…お、終わった?」
こんなに激しく動いたのは、初めてのこと。柊稀は体力のなさを痛感した。
「そうみたいですね」
崩れ落ちた砂が微動だにしないのを確認し、氷那もホッと息を吐く。
「んー、明日から体力作りも必要だな」
「あ…あはは」
自分のことを言われているとわかり、柊稀は力なく笑う。強くなる前に体力が必要だったようだ。
「私も、体力作りします」
ぎゅっと抱きついてくる少女に、みんな笑みを浮かべる。やはり場の空気を和らげるのは彼女の存在だ。
「よしよし、柏羅もやろうな」
そして、やはりというか少女には甘かった。
一同が盛り上がっていると、辺りの空気が変わっていく。なにかがいるような重い空気になったのだ。
――精霊喰らいを倒してもらい、感謝する――
姿は見えないが、確かに精霊がいる。それも、精霊王だと直感がいう。
「精霊王ですね。私は精霊の儀式をやらせて頂く、フェンデの巫女です」
――知っている。巫女に頼みがあるのだ――
「お任せください」
言われなくても氷那にはわかっていた。だから、彼女は問いかけることもなく即答する。
森の中へ澄んだ歌声が響き渡る。歌声に乗せ、魔力が柔らかく森へ広がっていく。
(きれいな歌声)
ついつい、うっとりと聞き入ってしまう巫女の歌声は、精霊にとって癒しの歌声となる。誕生を促す力となる。
儀式の間では実感できないことだが、精霊の森で巫女が歌えば目に見えて効果は発揮した。
.
あのときは儀式の影響だと思っていたし、狛琉もそうだろうと話していたのだが。
(あのときも、飛狛さんは精霊喰らいに反応していたのかも)
もしも精霊が集まったことで彼が不調になったのなら、それ以降にもあったはず。
精霊の儀式は可能な限り参加していたし、氷那が歌うことで精霊は集まるが、歌っても飛狛は平然としていた。
「とりあえず、いっちょやるか!」
「ですね」
二人が武器を手に飛びかかるのは同時。挟むように左右から斬りかかると、その獣は風圧で二人を弾く。
「精霊を食べたら食べただけ、強くなるのか!」
昔とは違う強さに、狛琉は警戒する。双子は魔法槍士の家系。実力は間違いなくこの中で一番だ。
そんな二人をあっさりと吹き飛ばす力は侮れない。
「ちっ、ここには餌がいくらでもあるってか!」
「甘くみないでもらいたいですね!」
木へ叩きつけられそうになり、二人は難なく逃れる。
すぐさま体制を整え、夜秋が斬りかかった。槍から放たれる振動が、吹き飛ばそうとする力を防ぐ。
「タフだよなぁ」
「ですね。柊稀さん、なにか見えたら教えてください」
「うん……」
双子の攻防をみながら、なんて呑気なのだと言いたくなる狛琉と氷那。
会話だけ見れば呑気だが、狛琉はしっかりと剣を持っているし、氷那は周囲を警戒している。
二人の視線は鋭く精霊喰らいを見ていた。一瞬も逃さないように。
「ちっ、竜族を甘くみるなっつうんだよ!」
食べた精霊で能力も強化されるのか。吹き飛ばすのは風の力。風の精霊を食べた分だけ威力があがり、大地の精霊を食べただけ結界は強くなる。
結界を破壊しないことには傷ひとつ付けられないと悟り、秋星が二本の剣を構えた。
風が吹き荒れ、剣へ巻き付く。輝くのは魔技の発動を意味し、柊稀はじっと見た。
手合わせをするときは一本の剣で魔技も使わない。二刀流に興味があれば、二刀流が使う魔技にも興味があった。
「風刃斬!」
十字に放たれた風の刃。一直線に結界へ向かい、ぶつかった瞬間にミシッと音を立てる。
「霊波槍!」
追い討ちをかけるよう、さらに夜秋の槍が軋んだ結界へ突き刺さった。
「壊れた!」
柏羅が嬉しそうに跳び跳ねると、氷那は獣へ向けて氷の刃を放つ。
「狛琉さん、柊稀さん、結界を張らせないでください!」
ここには力の源となる精霊がたくさんいる。すぐに倒さなくては、また精霊を食べて強い結界を張られてしまう。
警告を受ければ、二人はすぐさま斬りかかった。強い結界を張られれば、壊すのがさらに大変になってしまう。
双子に負担をかけることになるのだ。
二人が足止めするように攻撃をし、夜秋と秋星がダメージを与える。その繰り返しで少しずつ力を削いでいった。
精霊喰らいが弱っていき、秋星の放った風が身体を切り刻む。
見た目と同じよう獣の断末魔を上げ、身体が砂のように崩れ落ちた。
「ハァハァ…お、終わった?」
こんなに激しく動いたのは、初めてのこと。柊稀は体力のなさを痛感した。
「そうみたいですね」
崩れ落ちた砂が微動だにしないのを確認し、氷那もホッと息を吐く。
「んー、明日から体力作りも必要だな」
「あ…あはは」
自分のことを言われているとわかり、柊稀は力なく笑う。強くなる前に体力が必要だったようだ。
「私も、体力作りします」
ぎゅっと抱きついてくる少女に、みんな笑みを浮かべる。やはり場の空気を和らげるのは彼女の存在だ。
「よしよし、柏羅もやろうな」
そして、やはりというか少女には甘かった。
一同が盛り上がっていると、辺りの空気が変わっていく。なにかがいるような重い空気になったのだ。
――精霊喰らいを倒してもらい、感謝する――
姿は見えないが、確かに精霊がいる。それも、精霊王だと直感がいう。
「精霊王ですね。私は精霊の儀式をやらせて頂く、フェンデの巫女です」
――知っている。巫女に頼みがあるのだ――
「お任せください」
言われなくても氷那にはわかっていた。だから、彼女は問いかけることもなく即答する。
森の中へ澄んだ歌声が響き渡る。歌声に乗せ、魔力が柔らかく森へ広がっていく。
(きれいな歌声)
ついつい、うっとりと聞き入ってしまう巫女の歌声は、精霊にとって癒しの歌声となる。誕生を促す力となる。
儀式の間では実感できないことだが、精霊の森で巫女が歌えば目に見えて効果は発揮した。
.
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる