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前編
魔界へ3
しおりを挟むリュツィフェールがラピエールを取り戻すために一人で魔界へ行った、などと知らない当の本人は、数日ですっかり悪魔達と打ち解けていた。
悪い悪魔ではないとわかったのはもちろんだが、とにかく丁寧に接してくれたのも大きい。
「まぁ、あれだよな。もっと下の層にいくと、悪いのもいるぜ。それこそ、楽園へ天使を襲うやつらとかな」
それがなぜなのか、知らないかと問いかけたこともあったが、詳しいことは知らないと言われてしまう。悪魔にもそれぞれ事情があるように、天界との関係も違うからだと。
そう言われてしまえば、仕方ないかと思うしかない。知らないことを聞いても、答えられないのは当然だ。
「下の層って?」
どういう意味かと問いかけた瞬間、リベラの動きが止まる。そのようなことも知らないのかと言いたそうだが、知らないのだから仕方ない。
楽園ではなにも教えてもらえず、知るための本なども存在しないのだ。
「楽園って、つまらないところなんだな」
「そうなの。本当につまらないし、リュフェ達が来るまでは無機質な世話係と護衛だったんだから」
げっ、と引いたような声を上げるリベラに、大変だったねと労わるリーネン。カルディスも、自分なら耐えられないと言うから、ラピエールは頷く。
ちょっとした世界の造りを教えよう、と紙に絵を描くリベラ。
「ここが地上界。地上は天使と悪魔が争ってはいけない場。誰が決めたのかは知らねぇけどな。一応、みんな守ってる」
遥か昔に決められたことだから、知っているのは神ぐらいだろうと呟く。神が決めたから天使は守るし、天使が攻撃してこないならと悪魔もおとなしくしていることが多い。
「たまに破る奴いるけどなぁ」
だから悪魔は悪者なんだ、とカルディスが肩を竦めながら言う。酷い話だろ、と言われ、素直に頷くラピエール。
ここ最近の出来事で学んだことは、天使でも全員がいい奴ではない。悪魔も全員が恐ろしい存在ではないということ。
ならば、地上だって同じだろうと思うことはできる。それなのに、悪魔だけ悪者はあり得ないと。
「リーネン! 聖なる天使はいい天使だなぁ」
大袈裟なリアクションでリーネンに抱き着くリベラに、うっとおしいと振り払うリーネン。
打ち解けたからか素の三人が見られるようになり、ラピエールも楽しいと見ている。
「ちなみに、ここは地上に一番近い」
だから、空気とかも地上に近いのだと言われれば、なるほどと納得した。
ずっと疑問だったことがあるのだ。天使は魔界に滞在できるのだろうか、ということ。ウィリディスのこともあったから考えられたことでもある。
「天界と魔界は、何層にも分かれてるんだ。楽園がどの層にあるかは、僕達は知らないんだけど」
悪魔が入れるなら、それほど上ではないはずだとリーネンが言う。どれだけ悪魔が入れるようになっていても、高層は神の加護が強いから入れないはずだと。
同様に、魔界も下へ行くほど魔の力が強くなる。天使が入れるのは限られた層だけだろうと。
「堕天使は? リュフェは堕天使だけど」
「堕天使は天使の理から離れる存在。こちら側に近くなるから、ある程度は下までいけると思う。特に、あのお方は最下層までいけるはずだよ」
あのお方だから、とよくわからない言葉を言われれば、リベラとカルディスも同意するように頷く。
本当に、あのお方とはどれほどすごいのかと言いたくなる。
「俺達は強くないから、魔界の下には行けない。ここで暮らすしかないが、なにかあると真っ先に襲われる」
平和に過ごしたいのに、とカルディスはぼやく。これがリュツィフェールを求める理由かも、とラピエールは少しだけ事情が読めてきた。
「リュフェにどんな用?」
今一番知りたいこと。リュツィフェールになにか危険なことを求めているのではないのか。そうなってくると、さすがに協力はできないかもと思う。
強いことは知っているが、危ないことをさせたくはないのだ。
「それは…」
どうするかと三人の視線が絡み合い、話そうと意見が一致。交流することで、三人もラピエールならと思ったのだろう。
なによりも、リュツィフェールを動かす存在なら、知ってもらった方がいいかもと考えた。
「ラピエールが言う堕天使を待っていた、というよりは、俺らは六枚羽根の堕天使を待ってたんだ」
「あのお方は、僕達すべての長みたいな存在だから」
六枚羽根の堕天使、それは遥か昔に天界から魔界へやってきた堕天使だった。
争いの絶えない混沌としていた魔界を、たったの一人で制圧して束ねた存在。そのまま、天界へ戦を仕掛けたと聞けば、自分でも知っている話かもしれないと思う。
さすがに、この物語を知らないものはいない。どれだけ世間知らずであっても、なぜか知っているほど有名なのだ。
一人の堕天使が起こした戦。その戦のせいで、神の寵愛を受けた天使が死んだと言われており、悪魔を嫌う風潮もそこからきている。
「あのお方は、大切な天使を取り戻したかっただけだって話だけどな。ひっでぇよ、神が奪ったっていうんだから」
「あれ、僕は神の寵愛する天使をあのお方が奪ったと」
「いやいや、その天使があのお方に惚れこんだから神が怒って魔界に落としたと」
「んん?」
なぜか全員違う話を記憶しており、一体どれが正しいのかとラピエールは首を傾げた。これはどうなっているのだろうかと。
リュツィフェールに聞けばわかることだろうか、とすら思ったほどだ。
「リーネン様! 大変です!」
なぜ違うのかと三人が疑問に思いながら口を開こうとした瞬間、慌てたようにやってくる悪魔の少年。緊急事態だと言われ、その場に緊張が走る。
「一人で堕天使が乗り込んできた!」
「リュフェ?」
間違いないとラピエールの心が歓喜した。リュツィフェールが自分を迎えにきたのだと。
やっと会える喜びと、三人のことを護らなくてはという思い。彼らの事情を知ったからこそ、穏便に済ませなくてはと思いながら、そのときを待った。
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