上 下
2 / 17

第32話 笠取山登山、「雁峠に天使が現る!!」編

しおりを挟む
 目指せ! 雁峠!! の威勢良い掛け声と共に笠取小屋を出発して、歩き出した山楽部御一行と春海。2日目の登山は、まづは小屋から北へ40分ほど歩いた先に有る雁峠を目指すのだ。雁峠? それでは山の山頂まで行かないのでは? とお気づきの読者様も既に居るのではないかと。
 そう、峠と名前が付くからには、山の山頂と言う訳ではなく、山と山との間の低い地点の事を言う場所に成るのである。笠取山から西側に位置する燕山との間にある、見通しの良い笹原の平原が雁峠なのである。その雁峠までは、ほぼ平坦な道のりでコースタイムも僅か40分で有るので、登山と言うよりもハイキングと言った方が良い位で有るのです。
 笠取小屋を出発して「小さな分水嶺」までは、昨日も通った登山道を歩いて行く。そして、小さな分水嶺の手前に有る分岐点に差し掛かると左側に進んで雁峠を目指すのだ。

「さあ、この分岐点を左側に進んで行く様に成ります。ここから緩やかに降りて行く登山道を15分ほど進むと雁峠に着きますから、もう間近まで来てますよ!」
「えっ、あと15分も歩けば雁峠に着くんですか? それでは、歩き足りない感が否めないですね」

「そうね、昨日の登山と比べたら、余りにもコースタイムが短い上に、登山道も緩やかな下りだから、本当に雲泥の差が有るわね。何だか手応えが無さ過ぎて、物足りないわ~」

 先生から、雁峠まであと15分の言葉を聞いた隼人と友香里は、余りにも目的地までの時間が短い事から、歩き足りない! との声が上がった。その言葉を聞いて居た華菜と穂乃花、春海が口を開くのだった。

「まあ~隼人と華菜ったら、コースタイムが短くて不満そうね。凄く余裕が有りそうだから、いっその事、雁峠を通り過ぎて燕山の山頂まで行ってみれば良いのに!」

「そうですよ~先程の話を聞いて居たら、物足りなくて不満そうな感じでしたよ。わたくしは、昨日の登山で気力を使い果たしたから遠慮しますが、隼人と友香里なら今日も長い時間の登山にも耐えられるんじゃないですか」

「んん~もっと沢山歩きたいと言うなんて、良い傾向だわね。大将がそんなに歩き足りないと言うとは思いもよらなかったわ。如何かな、わたしと燕山の先の古礼山まで行ってみようか!」

 隼人と友香里が歩き足りないと言う事を口にした為、それなら、もっと沢山歩けば良いのでは? と、ニヤケタ顔を見せながら茶化そうとする3人組。

「あ~いやいや、歩き足りないって言った事は事実ですが、決して率先して沢山歩きたくは無いですよ。昨日に沢山歩いたから、今日は短めで良いですよ。友香里も僕と同じ考えですよね!」

「そ、そうね、さっきは確かに物足りないなんて言ったけど、撤回しようかしら。無理に沢山歩きたくは無いから、今日の所は涙を呑んで軽めの登山で我慢する様にするわね~」

「アハハハハ! こりゃあ、2人には参ったものだね! 先ほどまでは、歩き足りない! 物足りない! と言っていたのに、今度は手の平を返す様にして宣言を撤回するとはな。
 まあ~今日の登山は軽めにして、のんびり、まったりと皆んなで過す様にしようじゃないか。さあ、この緩やかな林間の登山道を抜ければ、雁峠が見えて来るからね!」

 手の平を返す様に頑張る宣言を撤回した隼人と友香里の姿を見た先生は、苦笑いをして返すのだった。どうやら先生は、のんびりとした登山の1日をメンバー達におくらせて上げようと考えて居る様だ。
 そして、先生を先頭に森林の中の登山道を歩んで行く御一行と晴海。その森林を10分ほど歩くと、行く手の視界が開けて来て、笹原の草原が見えて来たのだ。

「よ~し、雁峠が見えて来たぞ。あの道標の所に有るベンチにザックを降ろして休もうじゃないか!」
「あ~凄く開けた草原が見えて来ましたよ。これは開放感が有って気分爽快に成りそうですね!」

 先生と隼人から雁峠が見えて来たと声が上がる。その声に呼応した女子達も目前に見えて来た草原を確認した様である。そして一同は、早く辿り着こうと歩くペースを上げて行き雁峠の道標前に到着したのだった。

「はあ~到着しましたの。最後は皆んなで小走りの様な速さに成ってしまい、なんだか競争してるかの様でしたよ」
「何も皆んな、こんなに真近に見えている場所まで来るのに一生懸命に成らなくても良いのにね~」

「きっと今日の登山では、この雁峠を山頂に見立ててしまいラストスパートを掛けてしまったんじゃないかしら」

「それに今日のコースタイムが短いから、皆んなの体力が有り余って居るからだと思うわ。まあ、今日の山頂に成るのは、この雁峠と言う事だから一先ず登頂? したって言う事じゃないかしら~」

 雁峠までは大した距離ではないのに、何故か一同は焦る様に到着するのだった。きっと、小屋から歩き出して40分と言う短い時間で[今日の目的地]に到着してしまった為、やはり皆んなの心の中には物足りない感が否めない様である。

「皆んな、こんなに早く今日の目的地まで来てしまったので、自分の気持ちとは裏腹に、身体が物足りない! と言っているんじゃないかな。まあ今日は、のんびり、まったりと過ごす登山にする訳だから、はやる身体を自分で押さえ付けて上げてくれたまえ! 
 では、ここの雁峠にて休憩を取りたいと思います。まだ時刻は9時ですので、当初の考えていた時間よりも長めに50分の休憩を取りたいと思います。
 このベンチに座って休むも良し、この目の前に有る斜面を登って上から景色を眺めるのも良し、のどかな草原に横たわって休むも良し、です。では、これより散開して休憩に入ってください!」

 先生から、今から50分間の休憩を取り、自由な時間を過ごす様にと指示が掛かる。そして一斉に散開して、思い思いの場所で休憩を取る御一行と春海。雁峠は道標のある地点を中心にして南北150m、東西は300mほどの見晴らしの良い笹原の草原が広がっているのである。
 この草原を風が吹き抜けて行くと何とも爽やかな気分に成り、いつまでも風景を見て居たくなる、そんな気持ちにさせてくれる場所なのである。そんな爽快な気持ちにさせてくれる雁峠で、皆んながどう過ごして居るのか気に成る所です。
 まづは隼人と華菜の様子を見てみましょう。隼人と華菜は、雁峠から北側の斜面を登って行く登山道の近くに、ポツンと一本だけ生えている木の麓に座って何やら仲良く話をして居たのだ。

「はあ~それにしても、何とも優雅な草原の景色が開けていて、いつまでも見る者を釘付けにさせてしまいますよ。この景色は、登ってここに来たからこそ見られるんですよね」

「この雁峠の優雅な景色は、見る者の心を穏やかにさせてくれるんじゃないかしら。この時折吹いて来る風が何とも気持ち良いのよね。なんだか空を飛んでいる様な感覚になってしまうわ~」

「このまま風と一緒に身体が浮いて、空から雁峠と笠取山が望めると良いんですがね。そんなふうに本当に成ると良いんだけど。まあ、漫画やアニメの世界なら、背中から羽が生えて空を飛んで行く所ですがね」

「そうね、漫画やアニメの世界なら生えた羽を使って、空に羽ばたいている所だわね。……そうだ! こうなったら本当に、空を飛んでみましょうよ!」

「へえっ? 杉咲さん、一体何を言い出すんですか。漫画やアニメの世界の様に羽が生えた天使にでもならなければ、飛べる訳が無いじゃないですか!」

「も~う、隼人ったら夢が無いんだから。羽の生えた天使に成ったイメージを頭の中に描いて飛ぶのよ。ほら、まづはこうやってシートの上に寝そべって空を見てみて!」

 突然、華菜は、何を言い出すのかと思えば、羽の生えた天使の様に飛んでみよう! と言い出して、敷いて有るシートの上に寝そべって見せるのだった。その行動を見た隼人も、華菜と同じ様にシートに寝そべって行く。

「寝そべったわね、隼人! それじゃあ、今見ている青い空を頭にしっかりと焼き付けてから目を閉じるの。そしたら、自分の背中に羽が生えて飛べるんだ、飛べるんだ! と、心の中で念じてイメージしてみるのよ。そうすれば空を飛べると思うわ!」

「そうですね、華菜の言う通り夢を持たなければダメですね。目を閉じて羽が生えた天使のイメージを念じてみますね。何だか本当に飛べる様な気に成って来ましたよ~」

 最初は華菜の言う事を真に受けなかった隼人だったが、華菜の意気込みに押されてしまい、自分も羽の生えた天使に成って空を飛んでみようと思うのだった。そして2人は青い空をジッと眺めた後に、目を閉じて瞑想に入って行くのだった……




〔……あっ、あれあれ! 僕が草原で寝そべって居る姿が見えるぞ。こ、これは一体どうした事なのかな。もしかして、自分が空中に浮いて居るのかな?〕

 目を閉じて瞑想に入ってから数分後、目を覚ました隼人は空中から自分の姿を目の当たりにして、その有り得ない光景に驚きの声を上げる。すると隼人は、背後からトントン! と肩を叩かれる。驚いて後ろを振り向くと、そこには何と! 羽の生えた華菜が羽ばたきながら居たのであった。

〔貴方も飛べた様ね。言った通りに成ったでしょ。あたし達は羽の生えた天使に成ったのよ。隼人も自分の背中の方に目をやって見なさいよ~〕

 羽の生えた華菜の姿を見た隼人は、驚愕の表情を見せて驚く。そして、華菜の指摘された通り自分の背中に目を向けた隼人は、驚きの余り雄たけびを上げた!

〔うえー! 僕の背中に羽が生えているよ!! 一体これは如何した事なんだ!! 羽の生えた天使のイメージを念じて居たら、本当に自分の背中に羽が生えて空中に浮いてるよ~~!!!〕

〔そうよ、飛びたいイメージを頭に描いていたから、本当に羽が生えて飛べる様に成ったのよ! これで、あたし達は空を自由に羽ばたいて行けるわ。じゃあ早速、雁峠を上空から見渡せる位置まで飛んでいきましょう。隼人! あたしの様に羽ばたいて付いて来てみてね!!〕

 華菜は、雁峠を見渡せる位置まで行こう! と言い放つと、羽を大きく羽ばたきながら雁峠の道標が有る場所の上空100m位の所まで、一気に上昇して行くのだった。

〔ちょっと待ってよ、華菜! どうやったら、そんなに羽ばたいて上昇出来るんだい? 僕には今の場所で地味に羽をバタバタさせて、留まって居る事しか出来ないんだけど。何か、大きく羽ばたいて上昇するコツを教えてくれないかい?〕

〔も~う、隼人ったら鈍いのね~大きく羽ばたくコツは簡単な事よ! これもイメージが大事なのよ。自分の背中に有る羽を大きく大きくバタつかせて、羽で空気を仰ぐ様な感じのイメージを頭の中に思い浮かべるのよ。
 そして鳥の様に、自分は成ったんだ成ったんだ! 大空を飛べるんだ! って言う様に思えば、一気に上昇して自分の思うままに飛ぶ事が出来るわ~!〕

〔そうなんだ! 大きく羽ばたくのも頭の中でイメージする事が大事なんだね。僕も自由に飛べる様に、イメージしてみるよ華菜!〕

 華菜からアドバイスを貰った隼人は、暫くの間、目を閉じて瞑想して行くのだった。飛べる飛べる! 大空を鳥の様に自由に羽ばたいて行けるんだ! そう強く強く念じて行くと、次第に背中に生えた羽の動きが大きく早く成って行く。
 そして隼人は羽を羽ばたかせるコツを掴んだ様で、段々と空に上昇して行き、華菜の居る場所まで飛んで行く事が出来たのだった。

〔華菜の所まで辿り着けましたよ。やはり、羽を羽ばたかせるイメージを頭の中で描けば良いんですね、もう大丈夫です。僕は鳥の様に自由に空を飛ぶ事が出来る様に成りました!〕

〔隼人、やったわね! 羽を羽ばたかせるコツが掴めた様で良かったわ。これで、あたし達は空を自由に飛ぶ事が出来る様に成った訳ね。それにしても、空から眺める景色って素晴らしいわ~ 〕

〔華菜のアドバイスが功を奏しましたよ。1度、羽ばたき方が分かれば、自由自在に飛び回る事が出来ますね。この高さから眺めと、笠取山の頂上や小屋の有る位置、雁峠の何処に皆んなが居るのかが手に取る様に分かりますね〕

〔空から眺める景色が、こんなにも手に取る様にハッキリと分かるなんて、 思いもよらなかったわ。真下の雁峠を眺めると、皆んなが何処に居るか一目瞭然だわね。そうだ! こうなったら、皆んなの居る所に近寄ってみましょうよ。先ずは、友香里の所に行ってみましょう、隼人!〕

〔確かに皆んなが、雁峠の何処に居るかハッキリと分かりますね。天使に成った僕達の姿を近くで見せつけて上げましょうよ。友香里は、地上で寝そべって居る僕達の姿を、さっきからジロジロと眺めて居ますね。何だか気に成るから、真っ先に友香里の所へ飛んで行ってみましょう!〕

 隼人は、地上で寝そべって居る自分達の姿を眺めて居る友香里が気に成る様で、真っ先に友香里の所へ飛んで行くと言い放つと、一気に急降下をするのだった。その突然の行動に、慌てふためく華菜。

〔あ~待ってよ、隼人! 羽ばたき方が分かったからって、急に行動に移さないでよ。あたしを置いてかないで~!〕
 友香里の所へと飛んで行った隼人を追って、華菜は自分の羽を大きく羽ばたかせて急降下して行くのであった――

 ――そして、こちらは友香里の居る、草原の西側の展望地。友香里は西側の山並みが眺められる場所に居たのだが、北側の斜面に居る隼人と華菜の姿が気に成る様で時折、2人の様子を気に掛けながら落ち着きなく座って居るのだった。

「隼人と華菜ったら、さっきまで仲良く話して居たと思ったら、今度は2人でシートの上に寝っ転がってしまったわ。んん~さっきから、ちっとも動いていないじゃない。ぐっすりと寝てしまって居るのかしら? 
 それにしても、2人の仲の良さが気に成るのよね。だいたいが自由行動に成るって言った途端、2人でアイコンタクトをして、申し合わせた様に一緒の場所で休憩を取るなんて如何いう事よ!」

 友香里は、仲が良すぎる隼人と華菜の様子を見て終始、落ち着きなく視線を2人に注ぐのだった。当の隼人と華菜は、実際の所、交際をして居るのだから仲良く一緒に居るのも無理はないのである。

「2人の仲の良い様子が気に成って仕方がないわ。あんなに仲良くお喋りして居る様子を見せられたら、私の目のやり場が無いじゃない。もう、これは決定的ね。あの2人は、付き合っているに違いないわ! 一体、何時の間に仲が進展して、付き合うまでに発展して行ったのかしら? 
 何よ~華菜ったら、私を置いてきぼりにして彼氏を作ってしまうなんて! それも、余りにも身近に居る隼人くんよ! 今度、華菜をとっ捕まえて真相を問い質してやるわ~!」

 余りにも仲の良い姿を見せつけられた友香里は、隼人と華菜が付き合っているのでは? と、今まで抱いていた疑念から、確信へと変わって来ているのであった。
 幼馴染で親友の華菜が彼氏を作ってしまった事で、自分は彼氏が居ないのに先を越されてしまった訳なので、残念で悔しい気持ちでいっぱいに成って居る友香里の姿がそこには有ったのだ。

「あの2人は何時まで寝っ転がってるのよ。ああ~あ、華菜に先を越されてしまったから、私は負けてしまった感が否めないわ。ふう~今、この場所を吹き抜けて行く穏やかな風が心地よくて、私の負けて悔しい気持ちを癒してくれてるわ」

 負けて悔しい気持ちを癒してくれる心地よい風に、ため息を付きながらも爽快な表情を浮かべて居る友香里。だが、この心地よい風は2人の人物によるものだった。

〔友香里ったら、僕達の羽で起こしている風が気持ち良いみたいだね。こんなに目の前で羽を羽ばたかせているのに、如何やら僕達の姿は見えない様ですね!〕

〔そうね、あたし達の姿は友香里には見えないみたいね。こんなに目の前に居るのにね。あたしと隼人の仲の事を疑り出してる事を口にしていたわ。と、言うよりも付き合ってる事を確信して居る様だわね〕

〔友香里は、僕達の仲の事に感ずいて居る様なのか。だとすると、近い内に何か聞かれるかもしれませんよ。特に華菜の方に厳しい取り調べが来るんじゃなですか〕

〔やめてよ~取り調べ何て言い方よしてよね。まるで、あたしが犯罪者みたいじゃない。まあ、近い内に友香里に呼び出されるのは確実だけどね。……ねえ隼人、ちょっと友香里をからかって上げましょうか。
 2人で、おもいっきり羽で仰いで強風を送ってやりましょうよ。そしたら、他の人が居る場所へ飛んで逃げて行きましょう!〕

〔あ~華菜ったら、友香里をからかう事を考え付くなんて。まあ、僕達の姿が見えない様だから、からかってみても良いんじゃないかな。それじゃあ早速、おもいっきり羽で仰いで凄い強風を送って驚かせてやりましょう!〕

 羽で仰いで強風を送り、友香里を驚かせてやろう! と考えた隼人と華菜は、羽に神経を集中して大きくバタつかせて行き、目の前に居る友香里に目がけて強風を送って行く。

⦅ビュウー! ビュウー!! ビュ、ビュビュウーー!!!⦆

 いきなり、突風が吹き荒れて凄まじい風が友香里の居る場所を吹き抜けて行くのだった。その強風に飛ばされぬように帽子を押さえて、必死に耐える友香里。

「ちょっとちょっと、何で私の居る場所ばかり突風が吹いているのよ~帽子が飛ばされちゃうわ。あ~何だか、嫌がらせの様に拭いて来る風だわ!」

〔やりましたね、友香里がドギマギして居ますよ。からかうのは、この辺にして他の人の所へ行きましょうか。僕は隊長と春海さんが居る、北側の斜面の方に行きますよ~!〕

〔友香里の苦しそうな顔が、笑っちゃうわね! そうね、この辺で終わりにして強風地獄から解放してやりましょうか。あたしは、雁峠の道標の所に居る穂乃花の所へと行って見るわね~〕

 強風を浴びて困惑している友香里を見て居た2人は、からかうのを止めにする事をお互いに話し合って決めると颯爽とその場から退散して、隼人は先生と春海の元へ、華菜は穂乃花の元へと飛び立って行くのだった。

「えっ? 突然、強風が止んだじゃない。如何した事なの、さっきまで嫌がらせの様に吹いていたのに~」

 嫌がらせの様に吹いていた風が突然止んだ事で、如何してなの? と言う不思議そうな顔を見せながら辺りをキョロキョロと見渡す友香里。もっとも、この強風は天使の羽を持った隼人と華菜が、からかう為に行っていた事なのだが、その事を知る由もない友香里の姿がそこには有ったのです。




 そして、こちらは先生と春海の居る雁峠の北側斜面。2人は、笹原と樹林帯との境の位置と成る場所まで登り、眼下に望む雁峠や南東に有る笠取山の写真撮影を行って居たのだ。春海もデジカメを持参しており、山岸先生と同じく写真を撮る事が好きな様である。

「雁峠の道標の有る地点から20mほど高い位置に来ただけなのに凄く展望が開けて、ここから見ると雁峠の笹原の広さが良く分かるわ。それにしても、のどかな笹原の草原よね。いつまでも、のんびりと過ごしたく成ってしまう場所だわ~」

「この雁峠の、のどかな風景は、そこに居る人を癒してくれる力を持っているんじゃないでしょうか。ほら、少し下に有る木の下では、星野と杉咲が先ほどから寝そべって居ますし、その更に下の草原では沢井が座りながら景色を眺めて、のんびりと過ごしてますよ」

「まあ~皆んな、この雁峠の癒しの空間の中で、すっかり寛いで居るわね。よ~し、あの子達の、まったりとした姿を写真に収めてあげるわ!」

 春海は眼下の草原で、のんびり、まったりと過ごして居る3人の姿を写真に収めるべく、デジカメのシャッターを切って行く。すると、その時! 友香里が座って居る場所だけが、何故か強風が吹き抜けて行くのが見て取れたのだ。

「あれあれ? 如何した事だろう。何故、沢井の座って居る場所だけが、あんなに風が吹き抜けているのだろうか。明らかに集中して、そこの場所だけに風が吹いていたのだが、、」

「そうですね、シャッターを切りながらも、風が友香里の居る場所だけに吹き抜けて行くのが分かりましたよ。明らかに、友香里の周りの笹だけが揺れていましたからね。一体、何故なんでしょうかね?」

 先生と春海は、友香里の居る場所だけに風が吹き抜けて行くのを目撃して何故、特定の場所だけに風が吹いているのか首を捻って考え込んでしまうのだった。
 この特定の場所に吹く風は天使の羽を持った隼人と華菜が起こしているのだが、その姿を目で見る事は出来ないので、不思議がるのは無理も無いのである。

〔先ほど、僕と華菜が特定の場所に巻き起こした強風が、不思議な出来事として見てる様ですね。まあ、僕達の姿が見えないのだから、そう感じるのも仕方のない事でしょうけど〕

 先生と春海が特定の場所に吹き荒れた風の事で話し合って居る時、実は既に天使の羽を持った隼人が瞬時に移動して2人の目の前に来て居たのだ。

「特定の場所だけに風が吹く光景は初めて見たわ。不思議な事が有るものね」
「今に見た不思議な風の吹き方は見た事が有りませんよ。これは、山の神様が巻き起こした現象じゃないでしょうか。私はそう思うのですが」

「そうね先生の言う通り、山の神様の仕業なのかも知れませんね。凄く不思議な現象の場面を、わたし達は目撃してしまったと言う事ですね」

 友香里を襲った強風は、山の神様の仕業ではないのか? と言う事を話している先生と春海。だが、その2人が真剣に話している目の前には、天使の羽を持つ隼人がニヤケタ顔を見せながら居たのだった。

〔フ~フフフフ! 自分には2人の姿がハッキリと見えるのに、お2人さんからは僕の姿が見えないなんて、何だか僕からしてみると凄く不思議な感じがしてますよ。……んん~と、こうなったら友香里の時と同じ様に羽で風を送ってやって、驚かせて上げようかな!〕

 隼人は、自分の姿が相手には見えない事を良い事に、友香里と同じ様に強風を送って驚かせてやる事を思いつき、神経を羽に集中して大きく羽をバタつかせて行く。

⦅ヒュー! ヒュー! ヒュウーヒュヒュウー!!⦆
 隼人の天使の羽から起こされた風が、目前に居る先生と春海に襲い掛かる!

「キャーッ! 何よ如何したのよ、わたし達の目の前から凄い風が吹いて来たわ!」
「これは如何した事だ! 明らかに自分達の場所にだけ強風が吹き荒れているぞ。先ほど見た光景と同じ事が、今ここで起こっているではないか!」

 隼人が大きく羽をばたつかせるので、2人に強い風が吹き荒れるのだった。先ほど友香里に吹いていた強風と同じく、その特定の場所だけに吹く風が今度は自分達に襲いかかり、何故だろう? と不思議かる先生と春海。

〔よーし、上手い具合いに羽で強風を送る事が出来たぞ! 2人の驚いた顔が凄く可笑しくて笑ってしまうよ。ん~と、からかうのは、この辺で終わりにして退散しようかな。さあ、もっと上空の方を飛んでみよ~と!〕

 先生と春海の驚いた様子を見て腹を抱えながら笑う隼人。相手には姿が見えないのを良い事に、からかってしまうのは良くないと思うのだが、困ったものである。そうこうして居る内に、隼人は2人の元を離れて空高く飛び立って行くのだった。




 最後に、穂乃花に目を向けてみよう。穂乃花は最初に到着した雁峠の道標の有る場所に設けられたベンチにザックを置いた後、雁峠の笹原の草原が気持ち良くて、うたた寝をしてしまって居た様である。

「はあ~この場所に着いてから、このベンチにザックを降ろして身体を横たわらせて居たら、数分間の間だったけど寝てしまいましたの。余りにも、雁峠の笹原の草原が開放的で気持ちが良いから、寝てしまうのも無理は無いと言う所ね。
 隼人と華菜に至っては、先ほどから寝そべって居て、ほとんど動いていないわ。本当に寝てしまって居るのかしら? まあ何にしても、この雁峠の開放感あふれる景観が、そうさせてしまうのかも知れないわ」

 ベンチで、うたた寝して居た穂乃花はハッとして目覚めると辺りを見回すのだった。すると、他にも同じ様にして寝そべって居る隼人と華菜を発見した様だ。雁峠の爽快な景観がそうさせてしまうのだが、これも自然がもたらす恩恵と言った所であろう。

〔穂乃花は、あたし達が木の下で寝そべって居るのが気に成る様ね。まあ本当の所は、魂が抜けて仮死状態の様に成ってると言った方が良いのかしら〕

 穂乃花が、うたた寝から目覚めた時、既に天使の羽を持った華菜が目の前に来ていたのだ。華菜は、自分の姿が相手には見えていない事を良い事に、穂乃花の顔をまじまじと見つめて居るのであった。
 すると穂乃花は、ベンチの近くに設けられた雁峠の案内看板が目に留まった様で、近寄って行くのだった。

「この雁峠って、如何いう由来が有って名前が付けられたのかなあ? ここに案内看板が有るから、何か由来が書かれているかも知れないわ」

 穂乃花は、この雁峠と言う名前の由来が何か気に成った様で、案内看板に目を注ぎ読み進めて行くのだった。その隣では、天使の羽を持った華菜も一緒に成って読み進めて行く。

「フムフム、この辺りを雁の群れが山を越えて行った事に由来しているのね。だから雁峠と名付けられたと言う訳なのですね。そうすると、この上空を雁の群れが通過をして行くのか~」

〔なるほどね~雁が山越えをして行く道筋の所だから[雁峠]と名付けられたんだ。この上空を雁が飛んで行くって事ね。
 ……そうだ! あたしが雁の様に成って雁峠の上を羽ばたいて行き、穂乃花に雁の群れが通過したかの如く、風を感じさせてあげようかしら。うん、今すぐ実行に移しましょう!〕

 雁峠の由来が、雁の群れが山越えをして行った事からだったのを知った華菜と穂乃花。すると華菜は、羽を羽ばたかせて雁峠の上空20mまで一気に上昇して行くのだった。如何やら、名前の由来が分かった華菜は、自分が雁の様に羽ばたいて通過して見せて、穂乃花に風を感じさせようと考えた様である。

〔よ~し、この高さまで来れば良いわね。ここから一気に急降下して 、穂乃花の頭上スレスレの所を通り抜けて行ってやるわ〕

 空中で留まり穂乃花の居る場所を確認した華菜は、羽を大きく羽ばたかせながら一気に急降下して行く!
⦅ヒュー! ヒューー!! ヒュヒュヒューーー!!!⦆
 
 穂乃花の頭上スレスレの所を大きく羽ばたきながら通過して行く華菜。自分の頭の上を何かの羽で仰がれた様な風を感じた穂乃花は、驚きの表情を見せて居るのだった。

「キャー何なに! 今、確かに、わたくしの頭の上を何かが羽ばたいて通過して行く様な感じがしたわ。でも、鳥が飛んでいる様子は無いし、風だけが吹いていたと言う事なのかしら~?」

〔フフフフフ、穂乃花ったら目を丸くして驚いているわ。上手く急接近して風を送れたから、鳥が飛んでいる感じを体感できたんじゃないかしら。そうだな~もう一度、急降下して風を送ってあげて驚かせてあげよ~と!〕

 穂乃花の驚く顔を見た華菜は、もう一度、鳥が飛んでいる感じを体感させてやろうと考えた様だ。そして、再び穂乃花の頭上を目掛けて急降下を開始したのだ。

⦅ヒュヒュー! ヒュヒュー! ヒューー!! ヒュヒュヒューーー!!!⦆
 華菜は1回目の時よりも、大きく素早く羽ばたきながら急降下して穂乃花の頭上を通過して行くのだった。

「あ~ん、何なの! さっきよりも強い風が吹き抜けて行くわ。も~う、帽子が飛ばされてしまったじゃない~!」
 穂乃花は、華菜の強烈な羽ばたきによって、被っていた帽子を飛ばされてしまうのだった。その帽子を捕まえるべく必死に駆けて行く穂乃花。

〔うわ~2度目の羽ばたきの威力が強すぎたのかしら。かなり遠くまで帽子が飛んで行ってしまってるわ。あたし達が寝そべって居る木の近くまで飛んで行ってしまったわね。ん~と、この辺で穂乃花に風を送って驚かせるのは止めにしましょう。
 ……あっ! 隼人が、かなり高い場所で旋回しながら飛んでいるわね。あたしも高い場所に急上昇して、隼人と一緒に大空を飛び回りましょう~〕

 穂乃花が帽子を追って駆けて行く姿を見た華菜は、もうこれ以上は驚かせるのは止めにしようと考えた様だ。そして華菜は、上空で飛び回っている隼人を見つけて一緒に大空を飛ぼうと思い、一気に空高く急上昇して行くのだった。

〔あ~華菜! 僕の所へと来たんだね〕
〔隼人~あたしも貴方と一緒に大空を飛びに来たわよ。さあ手を繋ぎながら羽ばたいて、大空からこの辺りの山々を眺めましょうよ~〕

〔僕は、さっきから旋回しながら大空から眺める景色を眺めて居たんだけど、空高くから眺める景色は山頂から眺める景色とは、また違った感覚で見る事が出来ますよ。それじゃあ、まづは笠取山の上空に行って見ましょう、華菜!〕

〔うん、そうしましょう隼人! さあ、あたしと手を繋いで、大空から沢山の山々を眺めに行きましょう~〕

 隼人と華菜はお互いに手を伸ばして繋ぐと、眼下に開けている奥秩父の山々を上空から眺めるべく、羽を大きく優雅に羽ばたかせて大空を飛んで行く。その顔には、天使の笑顔が満ち溢れて居るのだった……

「……えっ、さっきまで見て感じていた出来事は何だったのかしら? もしかして、あたし達は本当に天使の羽を持って空を飛んで居たって事なの、、」

「……ハッ? 僕は先ほどまで空を飛んで居たんじゃなかったのかな。やっぱり飛んで居た感覚と、空から眺めていた景色の記憶が鮮明に頭に残っているよ」

 木の下で寝そべって居た隼人と華菜は、目を開けて自分が天使の羽を持って大空を飛んでいた事を思い起こしながら目覚めたのだった。そして目覚めた2人は、ゆっくりと起き上がるとお互いに顔を見合わせて口を開くのだった。

「隼人! あたし達は本当に羽の生えた天使に成って空を飛べたね!」
「うん! 華菜の言う通りに信じて念じていたら、本当に天使に成って大空を飛べたよ!」

 飛べると信じて念じていたら、自分の身体から魂が抜け出して羽の生えた天使に成り大空を飛べた事に、2人は満面の笑みを浮かべて喜んで居たのだった。すると、隼人と華菜の所に近寄って来る人物が!

「隼人! 華菜! さっきまで寝そべって気待ち良く寝て居たじゃない。何だか2人共、仲が良いわね。良い夢でも見たんじゃないから~」

 隼人と華菜に近寄って来たのは、羽が生えた天使の華菜のイタズラに寄って帽子が飛ばされてしまった穂乃花であった。飛ばされた帽子は2人の近くまで飛ばされていたのだ。

「あ~穂乃花、あたし達の隣に来て居たのね」
「さっきまで、良い夢を見て居たんです。おはようございます、穂乃花!」

「良い夢って、一体どんな夢だったのかしら? 何だか気に成るけど、後で教えてくださいね。それはそうと集合時間まで、あと5分に成っているわよ。一緒に道標の有る場所へ行きましょう~」

「あっ! そうね、もう集合時間が近く成っているわね。あたし達も穂乃花と一緒に行くわ。隼人! シートを片付けてしまいましょう」
「何だか、あっと言う間に休憩時間が終わってしまいましたね。シートを片付けて集合場所まで行きましょうか!」

 隼人と華菜は立ち上がり、使っていたシートを片付けると、穂乃花と一緒に集合場所の道標に向かって歩いて行くのだった。先ほどまで、自分の身体から魂が抜けだして羽の生えた天使に成って居た隼人と華菜。
 この2人が織り成した奇跡は、雁峠の草原に風を送って、他に居合わせた皆んなを驚かせると言う不思議な出来事を発生させたのです。読者様は、こんな経験はないでしょうか? 
 外を歩いて居る時や、公園に居たりした時、突然に吹き荒れた突発的な強風に襲われた事が誰しも一度や二度、有ると思います。その突発的に吹く風は、もしかしたら隼人と華菜の様に、魂が抜けだして天使に成った人が風を送って驚かせてるのかも知れません。
 もしくは、本当に天使が存在して居るのかも知れません。一般の人の目には見えていない天使が、イタズラをしていると言う事です。[風のイタズラ]成らぬ、[天使のイタズラ]と言った所でしょうか。信じるか信じないかは読者様次第です!




「お~い、友香里! 何時まで草原に座って黄昏てるのよ~もう集合時間に成って、皆んな集まって居るわよ。あとは貴女だけだから早く来てよね~」

 集合時間に成っても一人、草原で黄昏て居る友香里に声を掛ける華菜。その呼びかけに反応した友香里は、ゆっくりと立ち上がり集合場所の道標の所へと向かって歩んで行く。

(あ~隼人と華菜の事が気に成って考え込んで居たら、集合時間の事を打ち忘れてしまったわ。フン! 何よ! 華菜ったら嬉しそうな顔をして。
 そりゃあ、私を置いてきぼりにして彼氏を作ってしまったんだろうから、顔も締まりがなく成る訳よね。来週に学園で会ったら、尋問して白状させてやるわ!)

 友香里は、華菜に彼氏が出来たのではないのか? と言う疑念を抱きながら、道標の有る集合場所へと一番最後に到着するのだった。

「遅れてすいませんでした。余りにも草原の開放感が素晴らしくて、思いにふけって居たんです。こんなに、のんびりと過ごせられる場所って、なかなか無いと思うわ~」

「友香里ったら、いつまでもボケ~と草原で佇んで居たから、如何したのかと思ったわ。貴女は、この雁峠の草原から沢山の癒しを貰えた様ね」

「何か、思いにふけって居るようでしたから何か悩み事でも有ったんですか? 僕は見ていて心配に成ってしまいましたよ」

(も~う! 何が、悩み事でも有ったんですか? よ~あなた達が、その悩みの元を作っているんじゃない。幸せそうなお2人さんが羨ましいわ)

「まあ、何と言うか、私にも考え事が有って思いにふけりたい時が有るって事よ。……それじゃあ、遅れて来た私が言うのもなんだけど、全員揃いましたから次の目的地に出発しましょう~」

 一番最後に到着した友香里が、何ごとも無かった様に出発の掛け声を上げる姿に、唖然とした顔で見つめる山楽部の面々と春海。

「友香里ったら一番遅くに到着したのに、動じる事無く平常心で話せるのが凄いと思いますの。そのおおらかな人柄が羨ましいですわ。本当に、わたくしには真似の出来ないモノを持っているわね」

「その、おおらかな人柄が友香里の持ち味って事ですね。僕も友香里を見習って、おおらかな人に成れる様に頑張ってみようかな!」

「一番遅くに集合場所に来た人の言うセリフでは無いのだが。まあ、その能天気な所が君の持ち味だからな。それでは全員揃った所で、次なる目的地に移動するとしようか」

「先生の言う通り、友香里さんは能天気で天然な人なのかも知れないですね。その友香里さんの言う通り、次の目的地に出発しましょう、皆さん!」

 皆んなから何ごとにも動じない、おおらかで能天気な性格を指摘された友香里は、苦笑いを浮かべて居るのだった。そして友香里は、開き直った様にして口を開いた。

「は~い! それじゃあ、私が出発の音頭を取らせて貰います。次なる目的地に向けて~出発! と言いたい所ですが、次の目的地は何処ですか、隊長?」

「音頭を取ろうとして居る者が、次の目的地を知っていないで如何するんだ。次なる目的地は笠取小屋だぞ。今後は登山計画書を事前に見て把握をしておくのだよ!」

「あっ! そんなに近い場所が次の目的地だったんですね。私ったら大事な登山計画書を見ていないなんて、登山者として失格ですよね。今度から気を付けます。では皆さん、次の目的地が分かった所で、出発の音頭を取らせて貰います。次なる目的地の笠取小屋に向けて~出発~~!!」

〚はい、笠取小屋に向けて出発しま~す!!〛
 おおらかで能天気な友香里の出発の音頭に呼応して、掛け声を上げた山楽部御一行と春海。

 次の目的地は何と! あっという間に着いてしまいそうな歩行行程が僅か40分の笠取小屋に戻るだけであるが、[天使のイタズラ]によって巻き起こされた風による不思議な出来事が発生した雁峠を後に、皆んなは力強く歩き出して行くのでありました~!!
しおりを挟む

処理中です...