猫になりたいと祈ってみたら猫になった

山本・T

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テスト前

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「だりぃ~」「帰りてぇ~」「眠ぃ~」野太い三人の男子の声がこだまする。

 高校二年生の田島洋一、三村龍平、竹本智明が教室で叫ぶ。いつもはうるさいと女子に一喝されるが今日に限ってはみんな同意のようだ。

そう、学生の天敵、中間テストが待ち構えている。教室の雰囲気もどんよりとした空気が流れている。

 学生の本文は勉強で、テストを受けなければいけないのは致し方ないが、やっぱり受けなくていいなら受けたくないというのが本心だろう。じっとしていても残念ながら試験日はやってくる。

「なあ、三人で白紙のテスト出してみようぜ」と智明が言う。

「おっ、いいかもなそれ、三人のボイコットってか」龍平は悪い顔をしながら言う。

「バカを言うなよ、来年受験だぜ。それにそりゃじゃあ、捨て身で笑いをとりに行くことになるじゃねぇか」と洋一は教科書を見ながら言う。

 洋一は必死だった。洋一は指定校推薦で大学に行きたいと思っている。そうなるとまずは校内の競争に勝たなければならない。洋一は内申点を少しでも上げたいと思っているのでこの三学期の中間試験は何があっても評価をあげなければと焦りを感じていた。もっと前から勉強をしておけばよかったと思うが時間が戻ることはない。その分を取り返そうと必死に勉強をしているのだ。

「なぁ、智明、今日も勉強を教えてくれよ~」と懇願するが、

龍平が「流石に今日は各自で勉強しようぜ、智明だって自分の勉強があるだろうしさ」とのろのろと教科書を開きながら言う。

「いやぁ、そうだけどよぅ」と弱気になって洋一は呟く。

「お前はどうすんだよ」と龍平に聞くと、教科書をぱたんと閉じて、

「人生諦めも大事だぜ」とサムズアップをする。

「あほか、来年、受験だぞ、どうすんだよお前」と慌てて聞くが、

「人生何とかなるもんだぜ。それに困ったら智明が何とかしてくれるだろうよ」とあっけらかんに言うが智明は、

「俺が何とかするとしたらかわいい女の子だけむっさぐるしい野郎の面倒なんて見ないつぅの」と突き放すと、

「そんなこと言わないで何とかしてくれよぅ」と龍平は祈り手をしながら智明に懇願するが、

「バカなこと言ってないでとっとと勉強して一点でも上げる努力をしろ」と突き放されてしまう。

龍平は渋々教科書を開け、勉強を始めた。

「智明~、どうしたら成績って上がるんだ」と洋一は聞くが、

「企業秘密、それにまだお前は勉強が足りないと思うぞ」とサラリと言った。

「そうだよなぁ、俺も帰宅部になって勉強に集中しようかな」と言うと龍平は、

「たぶんお前は帰宅部になったところで勉強しないと思うぞ」と教科書に線を引きながら言う。

「そうそう、お前は勉強と運動を両方やらないと時間の使い方がわからないだろ」と智明はノートを見ながらサクッと言った。

「そうだよな~、はぁ~どうにか楽に成績が上がればいいんだけどな~」と洋一はため息をつき、おとなしく教科書とノートを見比べた。



 「ただいま」洋一は実家に帰ると靴を脱ぎ、カバンを置くとミーコが洋一に近づいてくる。

 ミーコとは洋一の家、田島家のペットであり、雑種だが綺麗な白と茶色の毛を持ち、顔も飼い主の欲目もあるんだろうが、整っているのではないかと思う。

洋一の足元に近づいてきて顔をすりすりとしてくる。

「はぁ~、お前くらいかわいくてなついてくれる子が彼女だったらなぁ」と洋一がミーコを抱き上げ、自分の顔をすりすりとするとそれを見ていた妹の晴代が冷たい視線を向けながら、

「お兄ちゃん、いくら人間に相手にされないからって自分の飼い猫に欲情しないでよね」と冷たく言うと、母一代が、

「17歳で彼女の一人もいないのは寂しいもんよね、ミーコが彼女代わりで終わっちゃうんじゃないかしら」と少し笑いながら晴代に話す。

「聞こえてんぞ、二人とも。俺は彼女ができないんじゃなくて作らないんだよ。この受験前でくそ忙しいときに彼女なんか作っていられるか」と反論するが、

「お兄ちゃん今まで、彼女いたことあったっけ?いないよね?いるわけないよね」と晴代はニヤニヤしながら言う。

ちきしょう、どうせその通りだ。返す言葉もなく、視線をミーコに変え、

「母さんも晴代も俺に意地悪ばっかりするんだぜ、俺の心は傷だらけだよ。それに比べてミーコはいつも俺になついてくれるもんなぁ~」と頭をなでると、ミーコは満足したようでニャーと一鳴きすると洋一のもとから晴代のところへ去っていく。

 そんな様子を見た晴代が「まっ、ミーコも女の子だもんね。女心がわからないお兄ちゃんのそばにずっといるのはミーコも大変か。お~よしよし」とミーコをなでると、ミーコは気持ちよさそう香箱座りをして晴代のそばから離れない。

どうやらしばらく晴代のそばにいるようだ。やっぱり猫の気持ちもよくわからん。

 母さんが「まっ、洋一がどうしたいかは洋一が決めなさい。それと女心の勉強は忘れずにしておきなさい」と鋭い指摘をもらう。

 すると晴代も「そうだ、そうだ。妹がいて、女心がわからないなんてお兄ちゃんは、妹がいるアドバンテージを活かしきれてない残念な高校生だなぁ」とクックックと笑う。

続けて「お兄ちゃんのことを知っている1年生もいるんだし、それを活かしきれていないあたり本当に残念、残念」と笑う。

 同じ高校に通う晴代は友達が多いらしく、それに上級生にも物おじしないところがあるので上級生でも晴代のことを知っている人は多い。将来の生徒会長ともささやかれているが今のところ本人にその気はないようだが。

「俺は年上が好きなんだよ」と反論するが、

「どうだかなぁ~お兄ちゃんの好きな女優とかアイドルってみんな童顔だしな~」といたずらっぽく笑った。

「とにかく、俺だって受験とかしっかりしたいんだし、受験が終わってからでも彼女はできるだろ」と話を終わらせようとして、立ち上がり、ミーコをなでて、自室に戻ろうとするとミーコが洋一のほうを向き、軽く首を振った。それはまるで洋一もまだまだだなぁと言わんばかりの態度だった。

洋一はため息を吐き、自室に戻って着替え始めた。それと同時に母さんが、

「着替えたらリビングにいらっしゃい、試験前だしあんたたち夜はしっかり勉強したいでしょ」と言った。

 晴代が「勉強変わりにやってくれるの」と聞くと、

「バカをおっしゃい、私はもう勉強し終えたから今更したくないの。それに学生の本文は勉強でしょ。だから自分で頑張んな」と真面目な顔で母さんは答えた。

「なんだぁ~」と晴代は肩をすくめるとミーコをなでると、自室に戻り、勉強の準備をし始めた。

 母さんが「今日は早めに夕ご飯を食べよ、そしたらたくさん勉強できるからね」とにっこり笑って言う姿はまるでエンマ大王が笑っているような姿だった。



 夕食を終えると洋一も晴代も自分の部屋に戻っていった。珍しく父、洋介も早く帰ってきており、夕食を共にしたが、父親に対して絶賛反抗期中の晴代は父さんと話をしたくないらしくそそくさと自室に戻ってしまった。洋一はそんな父親を見て不憫に思い、あれこれ話しかけようとするが、父さんは、
「俺のことは気にするな、反抗期なんてそんなもんさ」と涼しい顔をし、
「洋一も自分の勉強があるだろう、進路もそろそろ決めなきゃならんだろうし、決まったら父さんと母さんに話なさい。とにかく後悔のないように今勉強をして、いろんな選択肢が選べるようにしたほうがいいと父さんは思うぞ」と言う。

すると母さんが
「そうよ、自分の人生を決めるのは自分なんだし、まだ何をしたいかよくわからいだろうから、できるだけ選べる選択しは増やしておきなさい。そうしないと、私みたく父さんと結婚しかできないなんてことになるわよ」と笑いながら言うと、
「おいおい、結婚したいオーラを出してたのは一代だろ?それに俺と結婚して嫌だったのか?」と聞くと
「冗談よ、私はあなたと結婚出来て幸せよ」と息子が目の前にいるのによくもまあ、こんなことができると思う。

父さんも母さんも四十代だが二人とも仲が良い。
こういうのをきっとおしどり夫婦と言うんだろうなと子供ながら思う。
ただこれ以上いるとのろけ話を聞かされかねないと思い、洋一はそそくさと自分の部屋に戻っていった。

 部屋に戻るとさっき父さんに言われたことを思い出し、進路のことを少し考えてみた。

「これと言ってまだやりたいことはないんだよなぁ、よくわかんないしな」と一人つぶやいた。けど確かに進路を広げるためにも成績を高めておくのは必要だよな、と考え、とりあえず勉強をしようと、教科書とノートと参考書を開き、勉強をすることにした。



「ふぅ、一息入れるか」そう思って時計を見ると夜10時になっていた。明日は国語と英語と世界史の試験だ。どちらかと言えば洋一は理数系だが、かといって手を抜くわけには行かない。さっき両親に言われたように進路が決められていない以上、どの教科も成績を上げておきたいと思うし、一応理数系進学を選択したとは言え、幸い2年生ということで、努力は必要だが、文系に進路変更をしようと思えばできる時期だ。

とにかく、今できることをやっておかなければ後悔してしまうかもしれない。そう思い洋一は、顔をパシッと叩き、気合を入れ直した。12時までは頑張りたい。そう思うと最後の追い込みをかけ、参考書にかじりついた。


「こんなもんかな」と洋一は時計を見た。12時10分を回ったぐらいだろうか?家に帰ってきてから5時間しっかりと勉強をしたことに満足感を覚え、明日の試験に備え、通学バックに明日の教科の準備と、筆記用具が入っているかを確認する。シャープペンの芯が切れていないか、念のために鉛筆も二本入れておく。

とにかく洋一はそういうところを入念に済ませないと落ち着かないタイプなのだ。そういえば晴代はまだ勉強しているのだろうか?そういえば晴代の成績のことを聞いたことがないなと思い、同じ高校の先輩として、少し試験のアドバイスをしに行こうかと思い、部屋を出ると、どうやら晴代はすでに眠っているようだ。

いい気なもんだ。来年になったら苦労するのは自分だぞと思いながら、心の中で舌打ちをした。だが、人の心配をしている余裕なんてないかと思いなおし、風呂に入りに行く。どうやらみんな入り終わったらしく、俺が一番最後らしい。

 ドアを開け、風呂に入ろうとすると、すでにお湯はぬるくなっており、もう入る気はしない。仕方なく栓を抜き、水を流すとシャワーで体を洗う。一通り洗い終えると、田島家のルールである最後に風呂に入った人が風呂掃除をするというものに習い、風呂掃除を始める。

「先に入っておけば良かったか」と少し後悔したが、せっかく勉強に集中できていたんだ、今日はこれでいいやとおとなしく、掃除をし、風呂から出終わるとすでに1時近くになっていた。

 やばい、明日に向けて早く寝なければと思い、慌てて着替え、部屋に入ろうとすると、物音に気付いたであろうミーコが洋一のもとへやってきた。軽やかな足取りでベットに乗ると、早くこっちへ来いと言わんばかりに洋一を待っている。

 しょうがない奴だなっと思いながらも、洋一はベットに腰掛け、グルグルとのどを鳴らすミーコを撫でる。ミーコもまた洋一に顔を擦り付ける。いつもなら少し撫でると満足し、両親の部屋へ去っていくミーコだが今日に限っては洋一の部屋から動こうとしない。

 そんなミーコをかわいく思い、ミーコを抱っこをするとミーコは抱っこは嫌なのか少し洋一からは離れていく。洋一は抱っこをあきらめ、ベットに入り寝ようとすると、ミーコもベットに入ってくる。

 珍しいときもあるんだなと思いながらミーコを見ると、すでに眠る準備に入っている。

 昼間ずっと寝ているミーコが夜もすぐに寝ようとするところを見て、洋一は、ミーコに、「お前はいいよな、勉強もせず、1日中ゴロゴロとしていられて、たまにはお前になて一日中ゆっくり眠っていたい気分だよ」とつぶやくと、ミーコは目を開け、上目遣いをしながら、ミャッと小さく返事をした。
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