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神獣
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ここらへんが妥協点だろうと思われた。それに日を改めれば手伝ってあげることもできるだろう。サクラが自分が探すと言いかねないとヴァンは内心ハラハラしていたが、サクラも一応納得したようだったので安心した。
「ところで、グルちゃんはどんな魔法が使えるの? 神獣ってことは何かできるんでしょ?」
ヴァンはまたハラハラした。幼さゆえにできる率直すぎる質問だった。
「ちょっとサクラ、ダメだよ……」
初めて会った人に能力を聞くというのは不躾なことだった。普通は能力を隠しておきたいものなのだ。ヴァンの指摘にサクラはハッとした。失礼な質問をしたと気づいたのだ。
「ごめんなさい。無神経だったね」
「いえいえ、構いませんよ。よろしかったらお見せ致しましょうか?」
「いいの?」
「ええ」
では、と言うと突然グルナイユの全身を青色の炎が包んだ。
「おお!」 「わぁ」
ヴァンとサクラが感嘆の声をあげる。グルナイユが近づいてきてサクラに手を差し伸べる。もちろんその手も炎に包まれている。サクラは躊躇したが意を決して差し伸べられた手を握った。すると炎がサクラを取り込んで一段と大きくなる。
「……暖かいけど、熱くない」
ヴァンは一瞬慌てたが、大丈夫そうなのでホッとした。
「小生の炎は燃やしたいものだけを燃やすことができるのです」
「そうなんだ。それにしても綺麗な炎ね」
「ありがとうございます」
しばらく炎のい中にいるという奇妙な体験をサクラは楽しんだ。視界の全てが蒼く煌めいていて美しかった。
「ありがとう、グルちゃん。もういいよ」
ふっと炎が消える。感動のあまりサクラはボーっとしていた。
「そうか、君はサラマンダーなんだね?」
サラマンダーとは炎を操る火蜥蜴のことである。錬金術師パラケルススの“妖精の書“において地、水、火、風の自然四大精霊の一つに数えられていた。
グルナイユは満足そうに頷いた。
「その通りです。ヴァン様は博識でございますなぁ」
「サラマンダーの名前自体は有名だからね。でも見るのは初めてだよ」
「そうですね。実は小生も他のサラマンダーに会ったことがございません。いつか仲間に会ってみたいものです」
グルナイユがしみじみと言う。表情が豊かなので妙に人間くさいという印象をヴァンとサクラに与えていた。
それで、とグルナイユが言う。
「ヴァン様とサクラ様はこれからどちらに行かれるのですか?」
「ああ。そうだね。図書館って所だよ」
「こんな森の中に図書館があるのですか?」
「そうみたいだね」
ヴァンは地図を取り出して、ここだよっと指をさす。
「確かに図書館とありますな」
「うん。でもまずは現在地を割り出さないとね。がむしゃらに移動しちゃったから、今どこにいるのかわからないんだよ」
「小生のせいでございますね。申し訳ない」
「気にしないで。位置特定はそれほど難しくないと思うしね」
「そうなの?」
サクラが驚く。実は現在地がわからないことは深刻な問題だと思っていたのだ。
「この辺は木が高いからね。上に登れば街が見えるはずだよ。そうすれば位置がわかる」
そうなんだ、と言うサクラは良くわかっていないという様子だった。ヴァンは辺りにある木の中から幹が太くそして高く成長しているものを選んだ。
「ちょっと待ってて」
そう言うとヴァンはスルスルと自ら選んだ木を登っていった。サクラは心配そうにその姿を目で追っていたが、やがて枝葉に遮られて見えなくなってしまった。サクラはやきもきしてヴァンの帰りを待った。鬼の血をひく者ならばこの程度の高さから落ちたとして、大した怪我はしないはずなのだが、ヴァンのことになるとサクラはつい心配してしまうのだった。
姿が見えなくなって五分程たった頃、ヴァンは地上に戻ってきた。そして地図を広げて地面に置いた。
「わかったの?」
「いや、まだだよ。方位角はとれたからこれからわかるよ」
「……そう」
サクラはヴァンの意図がわからないので、黙って見守ることにした。ヴァンはヒップバッグから裁縫セットを取り出し糸を二本、三十センチ程の長さに切ると糸の両端にマスキングテープをつけて、とりあえず地図の端の方に貼り付けた。そしてコンパスを地図の上に置くと準備完了と言った。
「まずは待ち外れの海岸にある灯台だね。方位角二千五百。その逆方位角は五千七百っと」
地図上の灯台から五千七百をコンパスで測って先程の糸を張る。同様に北区の教会から逆方位角をとって糸を張った。すると二本の糸が交差している状態になった。糸の重なる場所をヴァンが指さす。
「ここが僕達のいる位置だよ。まぁ正確ではないけれど、そんなに誤差はないと思うよ」
ほーっとグルナイユが感心している。サクラも同様だ。
「さっきの数字は何? 二千五百とか五千七百だっけ?」
「角度だよ。一周六千四百ミルで、半分の三千二百を足したり、または引くと逆方位角になるんだ。で、今やったのは後方交会法ってやつで、二つの既知点から逆方位角をとることで位置を割り出すことができるんだよ」
サクラはなるほどと思った。言葉で理解するのは難しかったが、実際にヴァンのやっているのを見たのでなんとなくわかった。ちょっと自分でも勉強してみるのもいいかなと好奇心がそそられた。
「こんなこと知ってるなんてヴァンはすごい人なのね」
「ふふふ、ようやく気づいたかね?」
「少しね」
「ところで、グルちゃんはどんな魔法が使えるの? 神獣ってことは何かできるんでしょ?」
ヴァンはまたハラハラした。幼さゆえにできる率直すぎる質問だった。
「ちょっとサクラ、ダメだよ……」
初めて会った人に能力を聞くというのは不躾なことだった。普通は能力を隠しておきたいものなのだ。ヴァンの指摘にサクラはハッとした。失礼な質問をしたと気づいたのだ。
「ごめんなさい。無神経だったね」
「いえいえ、構いませんよ。よろしかったらお見せ致しましょうか?」
「いいの?」
「ええ」
では、と言うと突然グルナイユの全身を青色の炎が包んだ。
「おお!」 「わぁ」
ヴァンとサクラが感嘆の声をあげる。グルナイユが近づいてきてサクラに手を差し伸べる。もちろんその手も炎に包まれている。サクラは躊躇したが意を決して差し伸べられた手を握った。すると炎がサクラを取り込んで一段と大きくなる。
「……暖かいけど、熱くない」
ヴァンは一瞬慌てたが、大丈夫そうなのでホッとした。
「小生の炎は燃やしたいものだけを燃やすことができるのです」
「そうなんだ。それにしても綺麗な炎ね」
「ありがとうございます」
しばらく炎のい中にいるという奇妙な体験をサクラは楽しんだ。視界の全てが蒼く煌めいていて美しかった。
「ありがとう、グルちゃん。もういいよ」
ふっと炎が消える。感動のあまりサクラはボーっとしていた。
「そうか、君はサラマンダーなんだね?」
サラマンダーとは炎を操る火蜥蜴のことである。錬金術師パラケルススの“妖精の書“において地、水、火、風の自然四大精霊の一つに数えられていた。
グルナイユは満足そうに頷いた。
「その通りです。ヴァン様は博識でございますなぁ」
「サラマンダーの名前自体は有名だからね。でも見るのは初めてだよ」
「そうですね。実は小生も他のサラマンダーに会ったことがございません。いつか仲間に会ってみたいものです」
グルナイユがしみじみと言う。表情が豊かなので妙に人間くさいという印象をヴァンとサクラに与えていた。
それで、とグルナイユが言う。
「ヴァン様とサクラ様はこれからどちらに行かれるのですか?」
「ああ。そうだね。図書館って所だよ」
「こんな森の中に図書館があるのですか?」
「そうみたいだね」
ヴァンは地図を取り出して、ここだよっと指をさす。
「確かに図書館とありますな」
「うん。でもまずは現在地を割り出さないとね。がむしゃらに移動しちゃったから、今どこにいるのかわからないんだよ」
「小生のせいでございますね。申し訳ない」
「気にしないで。位置特定はそれほど難しくないと思うしね」
「そうなの?」
サクラが驚く。実は現在地がわからないことは深刻な問題だと思っていたのだ。
「この辺は木が高いからね。上に登れば街が見えるはずだよ。そうすれば位置がわかる」
そうなんだ、と言うサクラは良くわかっていないという様子だった。ヴァンは辺りにある木の中から幹が太くそして高く成長しているものを選んだ。
「ちょっと待ってて」
そう言うとヴァンはスルスルと自ら選んだ木を登っていった。サクラは心配そうにその姿を目で追っていたが、やがて枝葉に遮られて見えなくなってしまった。サクラはやきもきしてヴァンの帰りを待った。鬼の血をひく者ならばこの程度の高さから落ちたとして、大した怪我はしないはずなのだが、ヴァンのことになるとサクラはつい心配してしまうのだった。
姿が見えなくなって五分程たった頃、ヴァンは地上に戻ってきた。そして地図を広げて地面に置いた。
「わかったの?」
「いや、まだだよ。方位角はとれたからこれからわかるよ」
「……そう」
サクラはヴァンの意図がわからないので、黙って見守ることにした。ヴァンはヒップバッグから裁縫セットを取り出し糸を二本、三十センチ程の長さに切ると糸の両端にマスキングテープをつけて、とりあえず地図の端の方に貼り付けた。そしてコンパスを地図の上に置くと準備完了と言った。
「まずは待ち外れの海岸にある灯台だね。方位角二千五百。その逆方位角は五千七百っと」
地図上の灯台から五千七百をコンパスで測って先程の糸を張る。同様に北区の教会から逆方位角をとって糸を張った。すると二本の糸が交差している状態になった。糸の重なる場所をヴァンが指さす。
「ここが僕達のいる位置だよ。まぁ正確ではないけれど、そんなに誤差はないと思うよ」
ほーっとグルナイユが感心している。サクラも同様だ。
「さっきの数字は何? 二千五百とか五千七百だっけ?」
「角度だよ。一周六千四百ミルで、半分の三千二百を足したり、または引くと逆方位角になるんだ。で、今やったのは後方交会法ってやつで、二つの既知点から逆方位角をとることで位置を割り出すことができるんだよ」
サクラはなるほどと思った。言葉で理解するのは難しかったが、実際にヴァンのやっているのを見たのでなんとなくわかった。ちょっと自分でも勉強してみるのもいいかなと好奇心がそそられた。
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「ふふふ、ようやく気づいたかね?」
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