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4話 お守り
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試練の開始地点は、まさに断崖絶壁と言う言葉がぴったりな崖の上だった。この崖を降りるところから、既に試練は始まっている。
この試練は、死ぬ確率が高いため試練を受ける者や、試練開始日は一部の人の間でしか共有されない。もし帰ってきたら、そのときに初めて試練を受けた人が発表されるという形だ。
そのため、試練者は人知れず試練を開始することになる。しかし、それでは試練者の士気が下がるということで、騎士団員のうち事情を知っている者が試練者を見送るという慣習ができた。
そして試練当日、全部で10団ある騎士団の全騎士団長が、試練開始地点まで来てくれた。
――こんなにもすごい人たちが来てくれるだなんて……。
滅多に見ることの出来ない光景に、思わず感動してしまう。すると、突然そのなかの1人が声を発した。
「クリスタ……!」
その声は、4年間毎日聞き続けた声だ。飽きるほど聞いたこの声は、見なくても誰のものか分かる。
――カイル……。
カイルは、魔導士学校の同期生だ。彼は成績優秀者として次席で卒業した。声が聞こえた方を見ると、彼が駆け足でこちらに近付いてきている。
現在彼は、騎士団の中の魔導士部隊で結成された第8騎士団の団長をしている。だから、こうして今彼はここにいるのだ。
「おい、クリスタ! どうしてこんな試練受けるんだよ! 聞いたぞ!? ずっと言ってきたけど、あの人の為にお前は自分のことを犠牲にしすぎじゃないか? 今からでも――」
「いいの! それに犠牲だなんて思ってないわ! 私が受けるって決めたんだから!」
「でも……!」
4年間勉学を共にし切磋琢磨してきた友人だからこそ、反対するのが分かっていた。だから、私はカイルに試練を受けることをギリギリまで隠していた。
そして案の上、カイルはこれから出発するという今も、試練を受けることに反対している。
――カイルが心配してくれていることは十分分かってる。
だけど、私は絶対にこの試練を受けるのよ。
揺らいじゃダメ!
そう心で自身に言い聞かせていると、カイル以外の団長たちも集まって来た。
「我々はあなたに十分なほど助けられています。無理はしなくても……」
私が治癒ポーションや回復ポーションを提供しているからだろう。数人の見知った団長たちが、無理をしなくてもと話しかけてくる。
――私は行くと決めているんだから、今は引き止める人よりも御武運をと言ってくれる人の方がちょうどいいんだけど……。
そんな風に思っていると、ふいに視界にある男性が入って来た。
――あら、魔塔でよく見かける人だったけど、第3騎士団の団長だったのね。
女たらしで有名とは聞いたことあるけど、この顔な上に、団長だったなんてそりゃあモテるはずだわ。
こんな状況で考えることではないのは百も承知だが、妙に冷静になりそんなことを考えていた。すると、その男性が突然私の方へと近付いてきた。
「少々お話しする時間を頂いてもよろしいでしょうか」
「え、ええ。手短であれば……」
――仕事で見送りに来ただけの初対面の人なのに、何を話すことがあるのかしら?
そう思っていると、小麦色の肌に良く映えるハニーブロンドの髪を輝かせながら、彼は口を開いた。
「私もあなたに助けられたうちの一人です。心配していないと言うと嘘になりますが、私はあなたが無事帰って来られるお人だと信じております。何かの役に立つという訳ではないですが、よろしければこちらを受け取ってくれませんか」
そう言うと、彼は懐から何やら取り出すと、それを私へと差し出してきた。
――ハンカチ?
突然初対面の人に、それは綺麗に畳まれたハンカチを差し出され困惑してしまう。しかし、彼の吸い込まれそうな程に美しいアイスブルーの瞳でじっと見つめられ、ついそのハンカチを受け取ってしまった。
受け取ると彼は、ホッとしたように微笑みを滲ませた。
「このハンカチはお守りです。あなたの無事を祈りながら、私はあなたの帰りを待っております。どうか御武運をっ……」
あなたは私の恋人か何かですかとつい突っ込みを入れたくなる。そんな彼の熱量に戸惑ってしまうが、信じているという彼の思いやりを強く感じた。
誰よりも背中を押してくれているのは、もしかしたら彼かもしれないとさえ思えた。そう、心にくる何かを彼から感じた。
「ありがとうございます。お守りとして持って行きますね」
そう言って彼の顔を改めてみると、魔塔以外のどこかでも見覚えがあるような気がしてきた。
「すみません、あなたのおなま――」
彼に名前を聞こうとしたところ、私を呼びかける声が聞こえた。
「お姉様!」
「クリスタ!」
振り返ってみると、アイラとレアード様だった。お継母様は来ていなかった。
「アイラ! レアード様! 来てくれたの!?」
嬉しくなり第3騎士団長に軽くお辞儀をし、私は2人に駆け寄った。
「こんな日に見送りに来ない方がどうかしているわ。お姉様、絶対に無事帰って来てね」
「クリスタ、帰ってきたらすぐにでも結婚しよう。必ず君のことを待ってるからね」
「2人とも……ありがとう」
――私の決意を知っているからこそ、この2人は私を後押しする言葉だけをかけてくれるのね。
2人が来てくれて嬉しいわ……。
2人の配慮を考え、出発前だというのについ感極まりそうになる。だけど、私はそんな湿っぽいのは嫌いだ。
「じゃあ……行くわね。必ず戻るから」
2人にそう言い残し、皆に行ってきますと宣言して、私は崖から飛び降りた。こうして、ついに生贄の試練が始まった。
この試練は、死ぬ確率が高いため試練を受ける者や、試練開始日は一部の人の間でしか共有されない。もし帰ってきたら、そのときに初めて試練を受けた人が発表されるという形だ。
そのため、試練者は人知れず試練を開始することになる。しかし、それでは試練者の士気が下がるということで、騎士団員のうち事情を知っている者が試練者を見送るという慣習ができた。
そして試練当日、全部で10団ある騎士団の全騎士団長が、試練開始地点まで来てくれた。
――こんなにもすごい人たちが来てくれるだなんて……。
滅多に見ることの出来ない光景に、思わず感動してしまう。すると、突然そのなかの1人が声を発した。
「クリスタ……!」
その声は、4年間毎日聞き続けた声だ。飽きるほど聞いたこの声は、見なくても誰のものか分かる。
――カイル……。
カイルは、魔導士学校の同期生だ。彼は成績優秀者として次席で卒業した。声が聞こえた方を見ると、彼が駆け足でこちらに近付いてきている。
現在彼は、騎士団の中の魔導士部隊で結成された第8騎士団の団長をしている。だから、こうして今彼はここにいるのだ。
「おい、クリスタ! どうしてこんな試練受けるんだよ! 聞いたぞ!? ずっと言ってきたけど、あの人の為にお前は自分のことを犠牲にしすぎじゃないか? 今からでも――」
「いいの! それに犠牲だなんて思ってないわ! 私が受けるって決めたんだから!」
「でも……!」
4年間勉学を共にし切磋琢磨してきた友人だからこそ、反対するのが分かっていた。だから、私はカイルに試練を受けることをギリギリまで隠していた。
そして案の上、カイルはこれから出発するという今も、試練を受けることに反対している。
――カイルが心配してくれていることは十分分かってる。
だけど、私は絶対にこの試練を受けるのよ。
揺らいじゃダメ!
そう心で自身に言い聞かせていると、カイル以外の団長たちも集まって来た。
「我々はあなたに十分なほど助けられています。無理はしなくても……」
私が治癒ポーションや回復ポーションを提供しているからだろう。数人の見知った団長たちが、無理をしなくてもと話しかけてくる。
――私は行くと決めているんだから、今は引き止める人よりも御武運をと言ってくれる人の方がちょうどいいんだけど……。
そんな風に思っていると、ふいに視界にある男性が入って来た。
――あら、魔塔でよく見かける人だったけど、第3騎士団の団長だったのね。
女たらしで有名とは聞いたことあるけど、この顔な上に、団長だったなんてそりゃあモテるはずだわ。
こんな状況で考えることではないのは百も承知だが、妙に冷静になりそんなことを考えていた。すると、その男性が突然私の方へと近付いてきた。
「少々お話しする時間を頂いてもよろしいでしょうか」
「え、ええ。手短であれば……」
――仕事で見送りに来ただけの初対面の人なのに、何を話すことがあるのかしら?
そう思っていると、小麦色の肌に良く映えるハニーブロンドの髪を輝かせながら、彼は口を開いた。
「私もあなたに助けられたうちの一人です。心配していないと言うと嘘になりますが、私はあなたが無事帰って来られるお人だと信じております。何かの役に立つという訳ではないですが、よろしければこちらを受け取ってくれませんか」
そう言うと、彼は懐から何やら取り出すと、それを私へと差し出してきた。
――ハンカチ?
突然初対面の人に、それは綺麗に畳まれたハンカチを差し出され困惑してしまう。しかし、彼の吸い込まれそうな程に美しいアイスブルーの瞳でじっと見つめられ、ついそのハンカチを受け取ってしまった。
受け取ると彼は、ホッとしたように微笑みを滲ませた。
「このハンカチはお守りです。あなたの無事を祈りながら、私はあなたの帰りを待っております。どうか御武運をっ……」
あなたは私の恋人か何かですかとつい突っ込みを入れたくなる。そんな彼の熱量に戸惑ってしまうが、信じているという彼の思いやりを強く感じた。
誰よりも背中を押してくれているのは、もしかしたら彼かもしれないとさえ思えた。そう、心にくる何かを彼から感じた。
「ありがとうございます。お守りとして持って行きますね」
そう言って彼の顔を改めてみると、魔塔以外のどこかでも見覚えがあるような気がしてきた。
「すみません、あなたのおなま――」
彼に名前を聞こうとしたところ、私を呼びかける声が聞こえた。
「お姉様!」
「クリスタ!」
振り返ってみると、アイラとレアード様だった。お継母様は来ていなかった。
「アイラ! レアード様! 来てくれたの!?」
嬉しくなり第3騎士団長に軽くお辞儀をし、私は2人に駆け寄った。
「こんな日に見送りに来ない方がどうかしているわ。お姉様、絶対に無事帰って来てね」
「クリスタ、帰ってきたらすぐにでも結婚しよう。必ず君のことを待ってるからね」
「2人とも……ありがとう」
――私の決意を知っているからこそ、この2人は私を後押しする言葉だけをかけてくれるのね。
2人が来てくれて嬉しいわ……。
2人の配慮を考え、出発前だというのについ感極まりそうになる。だけど、私はそんな湿っぽいのは嫌いだ。
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