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48話 顔合わせ
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馬車に乗りギル様を見ると、エンディミオン様に会えるんだとウキウキした様子になっている。そんな彼に、私はある頼みごとをした。
「ギル様、医務室までは子どもの姿になってもらっても良いですか?」
「なぜだ? この姿ではダメなのか?」
そう言うギル様は、不思議そうな顔をしている。
「大人の姿をしていると、子どもの姿の時よりもギル様のことが気になる人が多いんです」
「そうなのか……? では、その方がクリスタにとって好都合なら、医務室まで子どもの姿になろう」
そう言うと、ギル様はまだ馬車の中だが、なぜか子どもの姿に戻った。そして、とても残念そうな顔をして呟いた。
「子どもの姿になったら、座ったままでは外が見えんのう……」
――何で馬車に乗った瞬間大人の姿になったのかと思っていたけれど、景色が見たかったのね。
それだったら、なおさら騎士団に着くまでは大人の姿のままでいいのに……。
何で今、子どもの姿になったのかしら……?
「ギル様、騎士団に着くまでは――」
「大人の姿のままでいいですよ」そう声をかけようとしたが、その言葉はギル様によってかき消された。
「そうだ! クリスタ! 我を膝に乗せてくれっ」
ええっ! と戸惑ってしまう。しかし、そんな私をよそに、名案が浮かんだ! という表情をしたギル様は、返事を聞く前に勝手に膝の上に座ってきた。
――どちらが甘えんぼうなのかしらね?
あまりにも子どもらしい様子に、思わずクスっと笑みが零れる。そして、私は窓に手を張り付け、外の景色を眺めるギル様を膝に乗せ、馬車に揺られた。
◇ ◇ ◇
それからすぐ、馬車は騎士団に到着した。そのため、私たちは馬車から降り医務室へと足を進め始めた。
すると、色々と気になるものがあったのだろう。
「クリスタ、あれは何だ!?」
そう言いながら、ギル様は勝手にどこかに走って行こうとした。そして、それが3回繰り返されたあたりで、私はギル様と強制的に手を繋ぎ、そのままの状態で医務室へと辿り着いた。
「おはようございます」
そう声をかけながら医務室の中に足を踏み入れると、楽しそうな顔をした先生と、笑顔のエンディミオン卿が既にいることが確認できた。
――良かった。ちゃんと来てくれてたのね。
先生もギル様を見て嬉しそうだわ。
ギル様もきっと嬉しいでしょうね。
そう思いながら、喜んでいるであろうギル様を見ようとしたところ、突然ギル様が子どもから大人へと姿を変えた。
「ギル様、どうしてその姿に?」
「恩人に会うのだ。完全体でないと失礼であろう」
そう言いながら、ギル様は自信たっぷり表情で口角を上げ、先生とエンディミオン様のいる方へと視線を向けた。そのため、私もつられるように2人がいる方へと視線を向けた。
すると、手を繋いだままギル様が大人になったからだろう。私たちが手を繋いでいる部分を、何とも言えない顔で凝視し、立ち尽くしているエンディミオン様が視界に入った。
そのことに気付いた瞬間、なぜか猛烈な罪悪感が襲ってきた。そのため、身体が勝手に動き私はギル様と繋いでいた手をバッと離した。そして、この空気を切り替えるべく、私はギル様に声をかけた。
「ギル様! あちらにいる男性が、あのハンカチを下さったエンディミオン様ですよ」
そう声をかけた瞬間、エンディミオン様は我にかえったかのように、光の速さで距離を詰めてきた。
そうかと思うと、ギル様に向かって先ほどの表情は幻だったかのように、それは上品な笑みを携え挨拶を始めた。
「初めまして。第3騎士団長を務めております、エンディミオン・ルアンと申します。今日はお会い下さり誠にありがとうございます」
「ほう、そなたがクリスタと我を結び付けた人の子だな!」
このギル様の言葉を聞いた瞬間、エンディミオン様は笑顔のままピシリと固まってしまった。だが、そんなエンディミオン様の様子を気にすることは無く、ギル様は言葉を続けた。
「我の名はギルバートだ。ギルと呼んでくれ。そなたにはずっと礼を言いたかったのだ。
あのハンカチをクリスタに持たせてくれたこと、かたじけない。ありがとう」
この言葉はエンディミオン様の心に響いたのだろう。金縛りが解けたように、エンディミオン様は緩く微笑んだ。すると、そのタイミングで気を遣った先生が声をかけてきた。
「まあまあ、皆さん。立ち話はなんですから、お話はあちらでどうぞ」
この先生の鶴の一声により、私たちは医務室内の奥にあるソファへと移動した。私の隣にはギル様が座っており、対面にはエンディミオン様が1人で座った。そして、早速エンディミオン様がギル様に口を開いた。
「私のハンカチがどのようにして、クリスタ様とギル様を結びつけたのでしょうか? 一応クリスタ様から、軽く聞いたことはありますが……」
「――っ!」
この質問を聞いた瞬間、私はヤバいと思った。なぜなら、エンディミオン様に以前ハンカチの話しをしたとき、かなりオブラートに包んでぼやかした説明しかしていなかったからだ。
一方で、ギル様はオブラートなんて知らないから、すべてそのままダイレクトに伝えてしまう。きっと、今回も容赦ない答えをするんだろうと瞬時に悟った。そして、それは予想通りだった。
「実は我がクリスタが敵だと思って攻撃をしようとしたら、クリスタはそのハンカチを我に見えるように掲げたんだ。それで、あの信じられないほど下手な刺繍を見たら、クリスタに戦意が無いことが明白だと分かり、それを機に仲良くなったんだ」
そう言うと、ギル様は懐かしむように目を細め、フッと笑みを零した。
――悪気も容赦もない言葉だったけれど、エンディミオン様は大丈夫かしら……?
そう思い、ギル様を見ていた私は、視線を前にいるエンディミオン様に戻した。すると、エンディミオン様は何故か頬を少し紅潮させながら、私の方を向いてはにかんできた。
――何で!?
このタイミングでそんな顔をして私を見る意味が分からないっ……!
意味が分からず困惑してしまう。しかし、エンディミオン様は再び視線をギル様に戻し質問を再開した。
「そういうことでしたか……。それなら下手で良かったです! ところで、ギル様はクリスタ様の結婚相手が見つかるまで、こちらにおられるのですよね?」
「ああ、そうだぞっ」
そう力強い返事をすると、ギル様の右側に座っている私の頭の右側をギル様が撫で始めた。
「もう傷付いてほしくないのだ。それに、こう見えてクリスタは甘えたなところもあるから、気を張っている分ちゃんと甘やかしてやらないとな」
――よりにもよってエンディミオン様の前でなんてことを!
そう思いながらエンディミオン様の顔をチラッと見ると、いつもは余裕があるはずの彼の笑顔が引き攣っていた。だがそんなことを気にするはずのないギル様は、先生に話しを振った。
「なあ、アルバートもそのように思うだろう?」
「ふふっ、以前もそのように仰っていましたね」
そう言いながら否定も肯定もせずに、アルバート先生はこの状況を楽しんでいるかのように微笑んだ。
――こういう時に意外と助けてくれないところは、カイルそっくりなんだから!
というより、この状況が続くのは良くないわ。
何といっても恥ずかしすぎる!
取り敢えず、ギル様のこの手を止めないとっ……。
「ギル様、恥ずかしいですから……」
そう素直に伝え、ギル様の手をそっと掴み頭を撫でるその手を下ろさせた。すると、エンディミオン様は葛藤から抜け出したようで、ギル様に真剣な眼差しで話しかけた。
「ギル様、私はクリスタ様のことを、好きなだけ甘やかす自信があります!」
――そんな真剣な表情でなんてことを言っているの……!?
甘やかすとかそう言う問題じゃないでしょう!?
恥ずかしさと混乱でどうにかなりそうだ。そんななか、ギル様にはなぜかエンディミオン様の言葉が響いたようで、早速反応を示した。
「ほう……。クリスタの相手に志願するというのだな……。では、他には?」
「他の誰よりもクリスタ様を愛しております。この想いは誰にも負けません!」
この言葉に、勝手に顔が赤くなってしまうのを自分でも感じる。羞恥心で爆発してしまいそうだ。
すると、そんな私を見て不思議そうな顔をしながら、ギル様が私にとんでもない質問をしてきた。
「のう、クリスタ。アルバートがダメな理由は分かったが、エンディはダメなのか? ハンカチもくれたんだ。それに何より、エンディがクリスタを想う気持ちに濁りは無いぞ?」
ギル様は何の気なしにした発言だろうが、私にとってはある意味人生が賭かった質問だ。そのため、何とか気を落ち着かせようとしながら、ギル様の質問に答えを返そうと必死に頭を巡らせた。
初対面の時は、本当にヤバイ人だと思った。それにもちろん、今も変な人だと思うことはたくさんある。
――でも……正直好感度はだいぶ高い気がするのよね。
エンディミオン様といて楽しいと思うことが、最近はずっと増えたし……。
ただ、この彼への気持ちが恋愛感情なのかと聞かれると……分からない。
今までのエンディミオンの行動を思い出すと、相手としてダメとは言えない。だけど何かこれといった決定打に欠けるのだ。
そう思ってしまう理由……それは、エンディミオン様に対しレアードほど骨抜き状態になってないからかもしれない。
それに公爵令息なんだから、私よりももっと良い相手がいるだろうと思ってしまう。
それらを踏まえ、緊張を何とか抑えながら、ギル様にだけ聞こえるくらいの小声で伝えた。
「ダっ、ダメという訳ではない、ですが……まだ、ちょっと分かりません……」
今まではお断りしますと一刀両断にしていた。だが、相手としてダメかと聞かれると決してダメではない。そのため、今日初めて断り以外の思いを、本人相手にではないが口にした。
もうそれだけで、心臓が破裂しそうなほどドキドキしているのが分かる。それだけ勇気を出して、こっそりギル様だけに伝えたのだ。
すると、ギル様はそんな私の答えを聞き、うんうんと頷きながら嬉しそうに微笑んだ。そしてあろうことか、ギル様はその笑顔のままエンディミオン様に口を開いた。
「どうやらダメでは無いらしいぞ!」
――ギル様何で言っちゃうの!
2人だけの秘密じゃなかったの!?
そう思いながら、あらゆる感情を押し殺しギル様を見た。すると予想外なことに、ギル様はさらに言葉を続けた。
「だが……まだ我と一緒に過ごす時間がほしいみたいだな」
そう言いながら、ギル様は私の肩をポンポンと叩いてきた。そしてすぐに、ギル様はエンディミオン様に諭すように語りかけた。
「一方でなく双方の想いが通じなければ、どれだけ想いが強かろうと無意味だ。エンディ……本気でクリスタを想うのであれば、もっと努力することだ」
「はい! ギル様!」
そう発する彼は、希望に満ちたようなキラキラと輝く目でギル様を見つめている。すると、そんな彼を見てギル様は嬉しそうに微笑み口を開いた。
「その心意気、気に入った。エンディ……あとはクリスタの気持ち次第だぞ」
「ギル様ったら、何言っているんですかっ……。エンディミオン様も――」
そう言いかけたが、私はその先の言葉を言えなかった。エンディミオン様の凛々しく微笑んだその顔が、あまりにも眩しく感じたからだ。
最近は特に、彼の様々な表情に調子を崩されているような気がする。そのため、現実逃避するように視線を逸らしたところ、その視線の先にいた先生がぼそっと呟いた。
「ははっ、十分以上に努力してるとは思うんですがね……」
その言葉を聞いて、以前カイルに言われた言葉が蘇り、私は再び胸が締め付けられた。
「ギル様、医務室までは子どもの姿になってもらっても良いですか?」
「なぜだ? この姿ではダメなのか?」
そう言うギル様は、不思議そうな顔をしている。
「大人の姿をしていると、子どもの姿の時よりもギル様のことが気になる人が多いんです」
「そうなのか……? では、その方がクリスタにとって好都合なら、医務室まで子どもの姿になろう」
そう言うと、ギル様はまだ馬車の中だが、なぜか子どもの姿に戻った。そして、とても残念そうな顔をして呟いた。
「子どもの姿になったら、座ったままでは外が見えんのう……」
――何で馬車に乗った瞬間大人の姿になったのかと思っていたけれど、景色が見たかったのね。
それだったら、なおさら騎士団に着くまでは大人の姿のままでいいのに……。
何で今、子どもの姿になったのかしら……?
「ギル様、騎士団に着くまでは――」
「大人の姿のままでいいですよ」そう声をかけようとしたが、その言葉はギル様によってかき消された。
「そうだ! クリスタ! 我を膝に乗せてくれっ」
ええっ! と戸惑ってしまう。しかし、そんな私をよそに、名案が浮かんだ! という表情をしたギル様は、返事を聞く前に勝手に膝の上に座ってきた。
――どちらが甘えんぼうなのかしらね?
あまりにも子どもらしい様子に、思わずクスっと笑みが零れる。そして、私は窓に手を張り付け、外の景色を眺めるギル様を膝に乗せ、馬車に揺られた。
◇ ◇ ◇
それからすぐ、馬車は騎士団に到着した。そのため、私たちは馬車から降り医務室へと足を進め始めた。
すると、色々と気になるものがあったのだろう。
「クリスタ、あれは何だ!?」
そう言いながら、ギル様は勝手にどこかに走って行こうとした。そして、それが3回繰り返されたあたりで、私はギル様と強制的に手を繋ぎ、そのままの状態で医務室へと辿り着いた。
「おはようございます」
そう声をかけながら医務室の中に足を踏み入れると、楽しそうな顔をした先生と、笑顔のエンディミオン卿が既にいることが確認できた。
――良かった。ちゃんと来てくれてたのね。
先生もギル様を見て嬉しそうだわ。
ギル様もきっと嬉しいでしょうね。
そう思いながら、喜んでいるであろうギル様を見ようとしたところ、突然ギル様が子どもから大人へと姿を変えた。
「ギル様、どうしてその姿に?」
「恩人に会うのだ。完全体でないと失礼であろう」
そう言いながら、ギル様は自信たっぷり表情で口角を上げ、先生とエンディミオン様のいる方へと視線を向けた。そのため、私もつられるように2人がいる方へと視線を向けた。
すると、手を繋いだままギル様が大人になったからだろう。私たちが手を繋いでいる部分を、何とも言えない顔で凝視し、立ち尽くしているエンディミオン様が視界に入った。
そのことに気付いた瞬間、なぜか猛烈な罪悪感が襲ってきた。そのため、身体が勝手に動き私はギル様と繋いでいた手をバッと離した。そして、この空気を切り替えるべく、私はギル様に声をかけた。
「ギル様! あちらにいる男性が、あのハンカチを下さったエンディミオン様ですよ」
そう声をかけた瞬間、エンディミオン様は我にかえったかのように、光の速さで距離を詰めてきた。
そうかと思うと、ギル様に向かって先ほどの表情は幻だったかのように、それは上品な笑みを携え挨拶を始めた。
「初めまして。第3騎士団長を務めております、エンディミオン・ルアンと申します。今日はお会い下さり誠にありがとうございます」
「ほう、そなたがクリスタと我を結び付けた人の子だな!」
このギル様の言葉を聞いた瞬間、エンディミオン様は笑顔のままピシリと固まってしまった。だが、そんなエンディミオン様の様子を気にすることは無く、ギル様は言葉を続けた。
「我の名はギルバートだ。ギルと呼んでくれ。そなたにはずっと礼を言いたかったのだ。
あのハンカチをクリスタに持たせてくれたこと、かたじけない。ありがとう」
この言葉はエンディミオン様の心に響いたのだろう。金縛りが解けたように、エンディミオン様は緩く微笑んだ。すると、そのタイミングで気を遣った先生が声をかけてきた。
「まあまあ、皆さん。立ち話はなんですから、お話はあちらでどうぞ」
この先生の鶴の一声により、私たちは医務室内の奥にあるソファへと移動した。私の隣にはギル様が座っており、対面にはエンディミオン様が1人で座った。そして、早速エンディミオン様がギル様に口を開いた。
「私のハンカチがどのようにして、クリスタ様とギル様を結びつけたのでしょうか? 一応クリスタ様から、軽く聞いたことはありますが……」
「――っ!」
この質問を聞いた瞬間、私はヤバいと思った。なぜなら、エンディミオン様に以前ハンカチの話しをしたとき、かなりオブラートに包んでぼやかした説明しかしていなかったからだ。
一方で、ギル様はオブラートなんて知らないから、すべてそのままダイレクトに伝えてしまう。きっと、今回も容赦ない答えをするんだろうと瞬時に悟った。そして、それは予想通りだった。
「実は我がクリスタが敵だと思って攻撃をしようとしたら、クリスタはそのハンカチを我に見えるように掲げたんだ。それで、あの信じられないほど下手な刺繍を見たら、クリスタに戦意が無いことが明白だと分かり、それを機に仲良くなったんだ」
そう言うと、ギル様は懐かしむように目を細め、フッと笑みを零した。
――悪気も容赦もない言葉だったけれど、エンディミオン様は大丈夫かしら……?
そう思い、ギル様を見ていた私は、視線を前にいるエンディミオン様に戻した。すると、エンディミオン様は何故か頬を少し紅潮させながら、私の方を向いてはにかんできた。
――何で!?
このタイミングでそんな顔をして私を見る意味が分からないっ……!
意味が分からず困惑してしまう。しかし、エンディミオン様は再び視線をギル様に戻し質問を再開した。
「そういうことでしたか……。それなら下手で良かったです! ところで、ギル様はクリスタ様の結婚相手が見つかるまで、こちらにおられるのですよね?」
「ああ、そうだぞっ」
そう力強い返事をすると、ギル様の右側に座っている私の頭の右側をギル様が撫で始めた。
「もう傷付いてほしくないのだ。それに、こう見えてクリスタは甘えたなところもあるから、気を張っている分ちゃんと甘やかしてやらないとな」
――よりにもよってエンディミオン様の前でなんてことを!
そう思いながらエンディミオン様の顔をチラッと見ると、いつもは余裕があるはずの彼の笑顔が引き攣っていた。だがそんなことを気にするはずのないギル様は、先生に話しを振った。
「なあ、アルバートもそのように思うだろう?」
「ふふっ、以前もそのように仰っていましたね」
そう言いながら否定も肯定もせずに、アルバート先生はこの状況を楽しんでいるかのように微笑んだ。
――こういう時に意外と助けてくれないところは、カイルそっくりなんだから!
というより、この状況が続くのは良くないわ。
何といっても恥ずかしすぎる!
取り敢えず、ギル様のこの手を止めないとっ……。
「ギル様、恥ずかしいですから……」
そう素直に伝え、ギル様の手をそっと掴み頭を撫でるその手を下ろさせた。すると、エンディミオン様は葛藤から抜け出したようで、ギル様に真剣な眼差しで話しかけた。
「ギル様、私はクリスタ様のことを、好きなだけ甘やかす自信があります!」
――そんな真剣な表情でなんてことを言っているの……!?
甘やかすとかそう言う問題じゃないでしょう!?
恥ずかしさと混乱でどうにかなりそうだ。そんななか、ギル様にはなぜかエンディミオン様の言葉が響いたようで、早速反応を示した。
「ほう……。クリスタの相手に志願するというのだな……。では、他には?」
「他の誰よりもクリスタ様を愛しております。この想いは誰にも負けません!」
この言葉に、勝手に顔が赤くなってしまうのを自分でも感じる。羞恥心で爆発してしまいそうだ。
すると、そんな私を見て不思議そうな顔をしながら、ギル様が私にとんでもない質問をしてきた。
「のう、クリスタ。アルバートがダメな理由は分かったが、エンディはダメなのか? ハンカチもくれたんだ。それに何より、エンディがクリスタを想う気持ちに濁りは無いぞ?」
ギル様は何の気なしにした発言だろうが、私にとってはある意味人生が賭かった質問だ。そのため、何とか気を落ち着かせようとしながら、ギル様の質問に答えを返そうと必死に頭を巡らせた。
初対面の時は、本当にヤバイ人だと思った。それにもちろん、今も変な人だと思うことはたくさんある。
――でも……正直好感度はだいぶ高い気がするのよね。
エンディミオン様といて楽しいと思うことが、最近はずっと増えたし……。
ただ、この彼への気持ちが恋愛感情なのかと聞かれると……分からない。
今までのエンディミオンの行動を思い出すと、相手としてダメとは言えない。だけど何かこれといった決定打に欠けるのだ。
そう思ってしまう理由……それは、エンディミオン様に対しレアードほど骨抜き状態になってないからかもしれない。
それに公爵令息なんだから、私よりももっと良い相手がいるだろうと思ってしまう。
それらを踏まえ、緊張を何とか抑えながら、ギル様にだけ聞こえるくらいの小声で伝えた。
「ダっ、ダメという訳ではない、ですが……まだ、ちょっと分かりません……」
今まではお断りしますと一刀両断にしていた。だが、相手としてダメかと聞かれると決してダメではない。そのため、今日初めて断り以外の思いを、本人相手にではないが口にした。
もうそれだけで、心臓が破裂しそうなほどドキドキしているのが分かる。それだけ勇気を出して、こっそりギル様だけに伝えたのだ。
すると、ギル様はそんな私の答えを聞き、うんうんと頷きながら嬉しそうに微笑んだ。そしてあろうことか、ギル様はその笑顔のままエンディミオン様に口を開いた。
「どうやらダメでは無いらしいぞ!」
――ギル様何で言っちゃうの!
2人だけの秘密じゃなかったの!?
そう思いながら、あらゆる感情を押し殺しギル様を見た。すると予想外なことに、ギル様はさらに言葉を続けた。
「だが……まだ我と一緒に過ごす時間がほしいみたいだな」
そう言いながら、ギル様は私の肩をポンポンと叩いてきた。そしてすぐに、ギル様はエンディミオン様に諭すように語りかけた。
「一方でなく双方の想いが通じなければ、どれだけ想いが強かろうと無意味だ。エンディ……本気でクリスタを想うのであれば、もっと努力することだ」
「はい! ギル様!」
そう発する彼は、希望に満ちたようなキラキラと輝く目でギル様を見つめている。すると、そんな彼を見てギル様は嬉しそうに微笑み口を開いた。
「その心意気、気に入った。エンディ……あとはクリスタの気持ち次第だぞ」
「ギル様ったら、何言っているんですかっ……。エンディミオン様も――」
そう言いかけたが、私はその先の言葉を言えなかった。エンディミオン様の凛々しく微笑んだその顔が、あまりにも眩しく感じたからだ。
最近は特に、彼の様々な表情に調子を崩されているような気がする。そのため、現実逃避するように視線を逸らしたところ、その視線の先にいた先生がぼそっと呟いた。
「ははっ、十分以上に努力してるとは思うんですがね……」
その言葉を聞いて、以前カイルに言われた言葉が蘇り、私は再び胸が締め付けられた。
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