【完結】あなたに私を捧げます〜生き神にされた私は死神と契約を結ぶ~

綺咲 潔

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23 風邪をひかなくても

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 シドの秘書としても働き始めてから、数日が経った。

 だが、私は秘書として大した仕事はしていなかった。シドがほとんど家を空けているため、仕事が無いのだ。

 仮に任せられたとしても、資料の整理や簡易な書類作成を済ませる。そんな、ものの数分で終わる程度の仕事ばかりだった。

――秘書になったからには、もっと役立ちたい……。

 その思いで、シドが働きやすい環境を作ろうとサポート業務に力を入れた。
 一見、これらの業務は大変そうに感じるかもしれない。

 しかし、ルーティン化された彼の行動は読みやすかった。そのため、特に苦労という苦労もないまま、私はメイド職と秘書を並行して働いていた。

「今日頼まれた書類作成は終わったわね。じゃあ、今から下拵えしましょうか」

 実は最近、私は料理に力を入れている。というのも、シドたちが想像以上に料理を気に入ってくれているようなのだ。

 シドはときたま、このあいだのあれを食べたいと言って、仕事に行くようにもなっていた。

 ベリーと特にアールも、あれを食べたいこれを食べたいと細かい注文付きで頼んでくるようになった。

 こんなに言ってくれるということは、美味しいと思ってくれているのかな?

 なんて思うと、ついつい料理にも力が入るもので。
 だから、私はもっと美味しいものを食べさせてあげたいと、料理を特に頑張っていた。

 日本にいた時、自炊ができる人間になっていて良かったと心底思いながら、晩になると四人で食事を摂る。

 そんな忙しくも穏やかな日々の中、私は中有界での生活に馴染んでいっていた。


 ◇◇◇


「今日も美味しいです~! この料理の名前は何と言うんですか?」
「これはミートローフよ」
「どうりで、このあいだのハンバーグとは何かが違うのですね!」

 アールは納得したように、一口サイズに切ったミートローフを口に入れた。そして、ほっぺを緩ませた。

 その姿にほっこりしていると、今度はベリーが声をかけてきた。

「ねえ、これは何味なの?」

 ベリーが指さすそれは、ボイルキャベツとゆで卵、カリカリに焼いたベーコンで作ったサラダだった。

「このサラダは、マヨネーズで味をつけているの」
「マヨネーズ?」
「ええ、卵黄とビネガーと塩と油で作った調味料なの」

 日本だったら既製品が売っているが、ここにはそれがない。だから研究して、ようやく合格レベルのものを使うことが出来たのだ。

「食べてみる?」
「うん」

 ベリーのその答えを聞き、彼にサラダをよそう。すると、ベリーはパクパクとそのサラダを食べ始めた。

「お口に合うかしら?」
「うんっ……ボクこれ好きだよ」

 好きという言葉が出てきて、心の中でガッツポーズをとる。

「嬉しいわ。よかった」

 もきゅもきゅと食べ進める目の前のベリーを見ながら、思わず口元を綻ばせる。

 そんな姿を斜め前に座る人物がジッと見つめていたことに、私が気付くことはなかった。


 ◇◇◇


 それからしばらくし食事が終わると、シドは再び仕事に行った。そして、帰ってくるといつものようにお風呂に直行した。

「……今日こそ言うべきよね」

 彼がお風呂に入っているあいだ、私はとある考え事をしていた。

 実はずっと前から気になっていた。シドはお風呂からあがったとき、最低限のタオルドライしかしていないくらい、髪が濡れているのだ。

 ふと頭に、首にかけたタオルに髪から伝った水滴がポタリと落ちている光景が過ぎる。

 乾かさなかったら風邪を引きかねないし、髪も傷みやすくなってしまうというのに……。

――まあ、シドの髪は艶があってサラッサラなんだけどね!

 でも、気になるものは気になる。

 痛んでなかったとしても、風邪は引くかもしれない。日本人としての記憶のせいで、衛生面がなおさら気になるのだ。

「主人の健康を気遣うのも、メイドとしての仕事よね。今日こそ、言うだけ言ってみましょう」

 よしっと気合を入れて拳を握る。
 すると、ちょうどタイミング良く彼が浴室から出てきた。そこで、私はすかさず彼に歩み寄った。

「シド」
「ん? 何?」
「髪を濡らしたままだと風邪をひいてしまいますよ。あなたが体調を崩したら大変です。乾かしてください」

 かなり直球に伝える。すると、彼は面食らった顔をした。だが、すぐに平然とした顔で口にした。

「俺ら天使は病気になんねーよ」
「っ……そうだとしても、乾かした方がメリットも多いでしょう?」
「だろうな。でも、あいにく乾かす気力なんて残ってないんだ。今は濡れているが、短いからすぐに乾くよ」

 彼はそう言うと、だろう? とでも言うように首を傾げる。だが、私は共感しなかった。

「だめです、乾かしてください。気になるんですよ。短くても――」
「じゃあ、あんたがどうにかしたら?」
「え……?」

 予想外の言葉に、思わず間抜けな声を漏らす。

「本当にどうにかしていいんですか?」
「えっ……何する気?」

 私が訊ねると、今度は彼が戸惑いの声を漏らした。だが、私はそんな彼の言葉は気にせず続けた。

「あなたが言ったんですからね」

 私はそう告げて、目の前に立つシドの手を取った。

「何をする気なんだ?」

 どこか心配そうな声で訊ねてくるシドの手を遠慮なく引く。そして、目的の場所に着き答えた。

「さあ、ここに座ってください」

 そう言うと、彼はリビングに置かれたソファーに素直に腰かけた。その隙に私は背もたれ側に回り、彼の後ろに立った。

「シドが乾かさないというなら、私が強制的に乾かします」
「あんたが?」
「そうですよ。では、さっそく失礼しますね」

 問答無用とでも言うように、タオルで彼の頭を包み込む。そして、摩擦で髪が痛まないよう気をつけながら、私は彼の髪を乾かし始めた。

――シド、ぜんぜん抵抗しないじゃない。

 意外なことに、シドは大人しく髪を乾かされていた。すごく大人しい大型犬みたいだ。

 そのことに心の中でギャップを感じながら、私はついでにヘッドマッサージも始めた。本当に疲れていそうだったから、少しでも楽になればとの思いだった。

「痛くないですか?」
「……うん」

 返ってきた声で、嫌がっていないことを確信する。こうして、私は彼の髪を多少強引ながらも、丁寧に乾かしていった。

 この乾かす作業が、次の日から当たり前のように定番化するとは、このときの私はまだ知らない……。
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