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決意の女装男子
住所と記憶を頼りに再び訪れた部屋を、辰巳くんが中から開けてくれた。
「……入れば?」
「う、うん」
ショルダーバッグの肩紐をぎゅっと握りしめて、一歩踏み出す。
今日の僕はいつも通り女装だ。
男の姿で辰巳くんに会うことも考えたけど、別人と間違われ門前払いされるかもと思うと実行できなかった。
そのかわり可能な限り彩度を抑えることにした。
飾り気の少ない控えめな上下に、おとなしい色味のメイク。就活生かブラックフォーマルか、という仕上がりになってしまったけどしょうがない。
通された辰巳くんの部屋は以前と変わりなかった。相変わらずご家族は不在のようだ。
「もう会わないつもりかと思ってた」
辰巳くんはどこにも腰を下ろさず、ドアの近くに立った。
腕を組んで僕を見下ろすのは、いつも「僕」と会ってくれていた優しい彼じゃない。
冷たい声と冷たい目に気圧されそうになって、なんとか踏ん張る。そのままの勢いで頭を下げた。
「あの、ごめんなさい!」
「……それは、何に対しての謝罪?」
「前来たとき、挨拶もしないで逃げちゃったことと……それと……ずっと言えなかったことがあって」
心臓がばくばくと暴れ、胃がきりきり痛む。
しっかりしろ、ここまで来たらもう言うしかないんだ。
怖くて震える足を叱咤して、悲しくて揺れる視線を真っ直ぐ辰巳くんへ向ける。
「僕、本当は男なんだ……これは、女装で、それで」
握った手に力を込める。必死に我慢していたのに、目元が熱くなって涙が滲んだ。
ダメだ、泣くな。僕が泣く資格はない。
「辰巳くんのこと、好きになっちゃったんだ……ごめんなさい……」
言ってから、目の周りを強く擦って鼻をすする。
とうとう言ってしまった。
フラれることがわかっていてする告白なんて、ただの自己満足だ。辰巳くんに負担をかけるエゴでしかない。でも、この想いが時間とともに消えていくのを待つには僕の心が脆すぎた。
辰巳くんは答えない。空気が重くなっていく。
あぁ、このまま消えてしまえたらどんなに楽だろう。
「……はぁ?」
しばらく無言の時間が流れて、頭上に投げかけられたのはそんな一言。
「ちょっと待て。お前、俺のことフりに来たんじゃないのか」
「え?」
思わず見つめた辰巳くんは、なんだか変な顔をしていた。
心底解せないといったその表情は初めて見るもので、珍しいけど、それを貴重に思う余裕はない。
「僕はその、前に失礼なことをしたのを謝って、性別を偽ってたことも謝りたくて」
「いやそこじゃねぇよ。てか男なことは知ってたし」
「え!?」
思考が止まった。
知ってた? 僕が男だってことを? 僕が────趣味で女装していることを、知られてた。
恥ずかしくて顔から火が出る。
いや、僕だって本気で外見の性別を欺けるなんて思い上がってなんかいない。
本物の女の子みたいに可愛くなりきれないし、ファッションもメイクも勉強中の身だ。男にしては小柄らしいけど骨格は男のものだし、喉仏も出てる。見る人が見れば違和感があるのだろうと承知してる。
でも辰巳くんにバレてるなんて思いもしなかった。
僕のこの格好のことを、彼は一度も尋ねなかったから。
「辰巳くんは……僕が男だとわかってて、何度も会ってくれたの?」
「あぁ」
「い、いつから」
「二回目んときには。最初は疑ってもいなかったけど」
「え、そ、そんな前から……」
信じられない。
しつこいナンパから助けてくれた辰巳くんに、借りた帽子を返しに行ったあのときにはすでに、僕の性別がバレていたなんて。
「んなことはどうでもいいんだよ。お前、なんでまた来たんだ。好きってなんだよ」
「えっ、どうでもよくはないと思うけど……す、好きなのはその、れ、恋愛感情として……?」
「じゃあなんで逃げた」
「えと……女の子だと思われてるのに、体を触られて男だとバレたら、きっと怒らせて幻滅されちゃうって、その、怖くなって……」
「……はぁーー……」
辰巳くんはとても大きな溜め息を吐き出して、どっかりとベッドに座った。
どうしよう。いよいよ幻滅されてしまっただろうか。
しばらくそのまま待っていたが、彼が言葉を発することはなかった。仕方なく待ちの姿勢を表すため、僕も横に座る。
ベッドに並んで座るのは気が引けたので、床に。
「どこ座ってんだよ。こっち来い」
しかし気遣いも虚しく引き上げられ、辰巳くんの横に並ぶことになった。
座ると僕と彼の身長差はあまりなくなって、間近に整った顔貌が来る。この顔にはいつまで経っても慣れない。
「嫌じゃなかったんだな?」
「あ、うん……」
「そうか。なら今から続きやるぞ」
「え? 何を?」
「セックス。決まってんだろ」
目を丸くしてぽかんとしていたら、ぽすん、とシーツの上に押し倒された。
展開が早すぎてついていけない。いや、そもそも。
「僕たち、男同士だよ?」
「それがどうした」
「だって、そういうのって男女じゃないと……」
「マジで言ってんのか? 今どき男同士とか珍しくもなんともねぇし」
「え、そ、そうなの?」
これ見よがしに溜め息を吐かれた。
男と女がどうするのかもよく知らない僕が、男同士がどうするかなんて知るはずがない。でもそんなこと大きな声で言えるわけもない。
「はー……まぁいい」
ベッドの上で小さくなっている僕に、辰巳くんは触れるだけのキスをした。
「これは嫌じゃない?」
「う、うん」
「触るのは?」
僕より一回り大きい辰巳くんの手が、僕の腕を撫でながら肩に触れる。
平気だと頷くと、手のひらが緩めた襟元からするりと入り込んだ。
素肌に触れられることなんて家族でも近頃ないことだったから、くすぐったい。
でも、嫌だとは感じない。
「嫌になったら逃げる前に言え。いいな」
「は、はい」
これが辰巳くんの素の姿なんだろうか。
いつも微笑みを向けてくれていたのが今は真顔で、そうしていると彼本来の伶俐な印象の顔立ちが際立つ。
聞き慣れない粗野な言葉遣いはちょっとだけ怖いけど、僕の服を魔法のように素早く脱がせていく手は決して乱暴じゃない。
ブラウスの小さくてやたら多いボタンには舌打ちしてたけど。
「下着まで女物か。徹底してんな」
鼻で笑われて、かぁっと頬が火照る。
女装を始めた当初は、下着は自前の男物だった。
でもそれだと、特にトップスはどうしても仕上がりに違和感があって……今は、パッドを入れなくても自然に胸があるように見せるブラジャーと、控えめなレースのショーツを身につけている。
どちらもできるだけ布があって華美じゃないものだけど、男の体にブラジャーが巻きついている時点で不自然だし、女の子にはない膨らみがショーツの前を押し上げているのが見なくてもわかる。
恥ずかしくて体を背けようとしたけど、それは許してもらえなかった。
「逃げんな。見せろ」
「やっ……は、恥ずかし……」
「今更だろ」
あっという間に下着も取り払われ、素肌を辰巳くんの手が這い回る。
触れられたところがぞわっと粟立った。
「なんか、くすぐったいよ……」
「素質あるな。すぐ気持ちよくなる」
辰巳くんの返事はにべもない。
こんなので気持ちよくなるものなんだろうか。
そう疑問に思っていられたのは、ほんの僅かな間だけだった。
「あ、あっ、ひ、ぁあ……っ、たつみ、く、んんっ」
「何。嫌か?」
「や、じゃな、けどっ! あっあっ、んぅ……」
唇を好き勝手貪られ、酸欠の体がびくびく跳ねる。
自分で出した体液でどろどろなのに、辰巳くんはまだ僕への責めを緩めてくれない。ぐちゅぐちゅと泡が立つほど激しく擦りたてられ、また吐精する。
「やぁ……っ、おしり、なんか変……」
「変じゃねぇ。気持ちいいって言え」
「ひっ……きもち、いい……きもちぃ……っ」
「そうだ、そのまま力抜いてろ」
男同士はお尻を使うなんて知りもしなかった僕に、辰巳くんは徹底的に実地で快感を教え込んだ。
頭がおかしくなりそうなほど長時間、尻の穴をほじくられて、それがなぜか途中から気持ち良くなってしまって。
僕が嫌がると、辰巳くんは僕の前を刺激してきた。
そうされると逃げる気も散って、また腰を高く掲げさせられてしまう。
気がついたときには僕の中に辰巳くんが我が物顔で入り込んでいて、呆然としてしまった。
「あ……おなか、あつい……」
「いい子だ。そのままぼーっとしてな」
「んゃ……ぁ、あぁっ、うごかな、で……」
腕を振り回して抵抗しても、難なく抑え込まれて唇に噛みつかれると逆らえない。
キスするときは目を閉じろって教えられたのを実践すると、視覚の情報がなくなって、中にいる辰巳くんをよりリアルに感じてしまう。
情けない声で……女の子みたい、と称するにも憚られる掠れた喘ぎを漏らすだけの僕を、辰巳くんは簡単に奪っていく。
いつの間にか僕は何度も射精していて、辰巳くんも僕の中でいった。
「どうだった。嫌なことあったか?」
「うぅん……嵐みたいだった……」
「ふーん。シャワー浴びてけよ。立てるか?」
気怠い空気の中、ゆっくり身を起こしてベッドを出る。
足がふらついて驚いた。こんなに体力を使う行為だとは。
それでもなんとか一人で立てたので、ありがたく浴室を借りる。
体中自分の出したものと汗とその他諸々でベタついていて、きらきらして見える女の子たちも好きな男の子とこういうことをしているんだなぁと下世話なことを考える。
「好きな……男の子……」
自分で思ったことに照れる。
玉砕覚悟で告白したのに、なぜか、より深い関係になってしまった。
辰巳くんは経験豊富なのか終始リードしてくれて、少し苦しいことはあっても痛いことはしなかった。
彼との経験値の差を突きつけられて少しヘコむ。
「あ、そういえば……」
僕は好きだと告げたけど、辰巳くんは僕を好きだと言わなかった。
もしかして、僕があんまりにも悲壮で必死そうだったから、お情けで触れてくれたのかも知れない。
あり得る……。
でもそれにしたって、多少の情はあった上での行動だろう。
「辰巳くんにも……好きになってもらいたいな……」
フラレるつもりで来たというのに、浅ましくも欲を持ってしまった。
僕は勘違いで辰巳くんから逃げてしまったけど、彼から何かを拒絶されたことは一度もない。
もしかしたらこの調子で押していけば、いつか、ほんのちょっとくらいは、好きの気持ちを返してもらえるかもしれない。
そうと決まれば僕のすべきことはひとつ。
女装を極める。
もっと女の子らしく、かわいくてきれいで、かっこいい辰巳くんの隣に立っても見劣りしないような、そんな子になりきってみせなくては。
「がんばらなきゃ……!」
あたたかなシャワーが降り注ぐ浴室で、僕はこぶしを握って決意を固めた。
それから僕は辰巳くんと会う日のことを、デートだと思うようになった。
手や唇を触れ合わせることが増えて、お互いに触るだけの日もあれば、セックスにもつれ込むことも何度かあった。
されるばっかりは申し訳なくて、僕も辰巳くんに気持ち良くなってもらおうとがんばったけど……僕の手技や口淫はどうしようもなく下手らしくて、すぐにやめさせられてしまう。
「下手くそ」
辛辣な言葉とは裏腹に、仕方なさそうに笑って僕の体を押し倒す辰巳くんに見惚れているうち僕は翻弄され、喘がされるだけになる。
いつか「上手くなったな」と言ってほしいと思っているけど、どこか他所で練習するわけにいかないし、どうすればいいのか目下考え中だ。
「おい。またなんかくだらないこと考えてるだろ」
「え、えっ。くだらないことなんかじゃないよ」
「どうだか」
辰巳くんの指が僕の頬をいたずらにくすぐって離れていく。
こうした何気ない触れ合いで、心臓の鼓動が速くなる。
いい加減慣れてもいい頃だと思うのに、僕はつくづく小心者だ。
考え事といえばもうひとつ。
僕は未だに、窪田那月として────辰巳くんの同級生の男子高校生として、彼に会うことができないでいる。
「……入れば?」
「う、うん」
ショルダーバッグの肩紐をぎゅっと握りしめて、一歩踏み出す。
今日の僕はいつも通り女装だ。
男の姿で辰巳くんに会うことも考えたけど、別人と間違われ門前払いされるかもと思うと実行できなかった。
そのかわり可能な限り彩度を抑えることにした。
飾り気の少ない控えめな上下に、おとなしい色味のメイク。就活生かブラックフォーマルか、という仕上がりになってしまったけどしょうがない。
通された辰巳くんの部屋は以前と変わりなかった。相変わらずご家族は不在のようだ。
「もう会わないつもりかと思ってた」
辰巳くんはどこにも腰を下ろさず、ドアの近くに立った。
腕を組んで僕を見下ろすのは、いつも「僕」と会ってくれていた優しい彼じゃない。
冷たい声と冷たい目に気圧されそうになって、なんとか踏ん張る。そのままの勢いで頭を下げた。
「あの、ごめんなさい!」
「……それは、何に対しての謝罪?」
「前来たとき、挨拶もしないで逃げちゃったことと……それと……ずっと言えなかったことがあって」
心臓がばくばくと暴れ、胃がきりきり痛む。
しっかりしろ、ここまで来たらもう言うしかないんだ。
怖くて震える足を叱咤して、悲しくて揺れる視線を真っ直ぐ辰巳くんへ向ける。
「僕、本当は男なんだ……これは、女装で、それで」
握った手に力を込める。必死に我慢していたのに、目元が熱くなって涙が滲んだ。
ダメだ、泣くな。僕が泣く資格はない。
「辰巳くんのこと、好きになっちゃったんだ……ごめんなさい……」
言ってから、目の周りを強く擦って鼻をすする。
とうとう言ってしまった。
フラれることがわかっていてする告白なんて、ただの自己満足だ。辰巳くんに負担をかけるエゴでしかない。でも、この想いが時間とともに消えていくのを待つには僕の心が脆すぎた。
辰巳くんは答えない。空気が重くなっていく。
あぁ、このまま消えてしまえたらどんなに楽だろう。
「……はぁ?」
しばらく無言の時間が流れて、頭上に投げかけられたのはそんな一言。
「ちょっと待て。お前、俺のことフりに来たんじゃないのか」
「え?」
思わず見つめた辰巳くんは、なんだか変な顔をしていた。
心底解せないといったその表情は初めて見るもので、珍しいけど、それを貴重に思う余裕はない。
「僕はその、前に失礼なことをしたのを謝って、性別を偽ってたことも謝りたくて」
「いやそこじゃねぇよ。てか男なことは知ってたし」
「え!?」
思考が止まった。
知ってた? 僕が男だってことを? 僕が────趣味で女装していることを、知られてた。
恥ずかしくて顔から火が出る。
いや、僕だって本気で外見の性別を欺けるなんて思い上がってなんかいない。
本物の女の子みたいに可愛くなりきれないし、ファッションもメイクも勉強中の身だ。男にしては小柄らしいけど骨格は男のものだし、喉仏も出てる。見る人が見れば違和感があるのだろうと承知してる。
でも辰巳くんにバレてるなんて思いもしなかった。
僕のこの格好のことを、彼は一度も尋ねなかったから。
「辰巳くんは……僕が男だとわかってて、何度も会ってくれたの?」
「あぁ」
「い、いつから」
「二回目んときには。最初は疑ってもいなかったけど」
「え、そ、そんな前から……」
信じられない。
しつこいナンパから助けてくれた辰巳くんに、借りた帽子を返しに行ったあのときにはすでに、僕の性別がバレていたなんて。
「んなことはどうでもいいんだよ。お前、なんでまた来たんだ。好きってなんだよ」
「えっ、どうでもよくはないと思うけど……す、好きなのはその、れ、恋愛感情として……?」
「じゃあなんで逃げた」
「えと……女の子だと思われてるのに、体を触られて男だとバレたら、きっと怒らせて幻滅されちゃうって、その、怖くなって……」
「……はぁーー……」
辰巳くんはとても大きな溜め息を吐き出して、どっかりとベッドに座った。
どうしよう。いよいよ幻滅されてしまっただろうか。
しばらくそのまま待っていたが、彼が言葉を発することはなかった。仕方なく待ちの姿勢を表すため、僕も横に座る。
ベッドに並んで座るのは気が引けたので、床に。
「どこ座ってんだよ。こっち来い」
しかし気遣いも虚しく引き上げられ、辰巳くんの横に並ぶことになった。
座ると僕と彼の身長差はあまりなくなって、間近に整った顔貌が来る。この顔にはいつまで経っても慣れない。
「嫌じゃなかったんだな?」
「あ、うん……」
「そうか。なら今から続きやるぞ」
「え? 何を?」
「セックス。決まってんだろ」
目を丸くしてぽかんとしていたら、ぽすん、とシーツの上に押し倒された。
展開が早すぎてついていけない。いや、そもそも。
「僕たち、男同士だよ?」
「それがどうした」
「だって、そういうのって男女じゃないと……」
「マジで言ってんのか? 今どき男同士とか珍しくもなんともねぇし」
「え、そ、そうなの?」
これ見よがしに溜め息を吐かれた。
男と女がどうするのかもよく知らない僕が、男同士がどうするかなんて知るはずがない。でもそんなこと大きな声で言えるわけもない。
「はー……まぁいい」
ベッドの上で小さくなっている僕に、辰巳くんは触れるだけのキスをした。
「これは嫌じゃない?」
「う、うん」
「触るのは?」
僕より一回り大きい辰巳くんの手が、僕の腕を撫でながら肩に触れる。
平気だと頷くと、手のひらが緩めた襟元からするりと入り込んだ。
素肌に触れられることなんて家族でも近頃ないことだったから、くすぐったい。
でも、嫌だとは感じない。
「嫌になったら逃げる前に言え。いいな」
「は、はい」
これが辰巳くんの素の姿なんだろうか。
いつも微笑みを向けてくれていたのが今は真顔で、そうしていると彼本来の伶俐な印象の顔立ちが際立つ。
聞き慣れない粗野な言葉遣いはちょっとだけ怖いけど、僕の服を魔法のように素早く脱がせていく手は決して乱暴じゃない。
ブラウスの小さくてやたら多いボタンには舌打ちしてたけど。
「下着まで女物か。徹底してんな」
鼻で笑われて、かぁっと頬が火照る。
女装を始めた当初は、下着は自前の男物だった。
でもそれだと、特にトップスはどうしても仕上がりに違和感があって……今は、パッドを入れなくても自然に胸があるように見せるブラジャーと、控えめなレースのショーツを身につけている。
どちらもできるだけ布があって華美じゃないものだけど、男の体にブラジャーが巻きついている時点で不自然だし、女の子にはない膨らみがショーツの前を押し上げているのが見なくてもわかる。
恥ずかしくて体を背けようとしたけど、それは許してもらえなかった。
「逃げんな。見せろ」
「やっ……は、恥ずかし……」
「今更だろ」
あっという間に下着も取り払われ、素肌を辰巳くんの手が這い回る。
触れられたところがぞわっと粟立った。
「なんか、くすぐったいよ……」
「素質あるな。すぐ気持ちよくなる」
辰巳くんの返事はにべもない。
こんなので気持ちよくなるものなんだろうか。
そう疑問に思っていられたのは、ほんの僅かな間だけだった。
「あ、あっ、ひ、ぁあ……っ、たつみ、く、んんっ」
「何。嫌か?」
「や、じゃな、けどっ! あっあっ、んぅ……」
唇を好き勝手貪られ、酸欠の体がびくびく跳ねる。
自分で出した体液でどろどろなのに、辰巳くんはまだ僕への責めを緩めてくれない。ぐちゅぐちゅと泡が立つほど激しく擦りたてられ、また吐精する。
「やぁ……っ、おしり、なんか変……」
「変じゃねぇ。気持ちいいって言え」
「ひっ……きもち、いい……きもちぃ……っ」
「そうだ、そのまま力抜いてろ」
男同士はお尻を使うなんて知りもしなかった僕に、辰巳くんは徹底的に実地で快感を教え込んだ。
頭がおかしくなりそうなほど長時間、尻の穴をほじくられて、それがなぜか途中から気持ち良くなってしまって。
僕が嫌がると、辰巳くんは僕の前を刺激してきた。
そうされると逃げる気も散って、また腰を高く掲げさせられてしまう。
気がついたときには僕の中に辰巳くんが我が物顔で入り込んでいて、呆然としてしまった。
「あ……おなか、あつい……」
「いい子だ。そのままぼーっとしてな」
「んゃ……ぁ、あぁっ、うごかな、で……」
腕を振り回して抵抗しても、難なく抑え込まれて唇に噛みつかれると逆らえない。
キスするときは目を閉じろって教えられたのを実践すると、視覚の情報がなくなって、中にいる辰巳くんをよりリアルに感じてしまう。
情けない声で……女の子みたい、と称するにも憚られる掠れた喘ぎを漏らすだけの僕を、辰巳くんは簡単に奪っていく。
いつの間にか僕は何度も射精していて、辰巳くんも僕の中でいった。
「どうだった。嫌なことあったか?」
「うぅん……嵐みたいだった……」
「ふーん。シャワー浴びてけよ。立てるか?」
気怠い空気の中、ゆっくり身を起こしてベッドを出る。
足がふらついて驚いた。こんなに体力を使う行為だとは。
それでもなんとか一人で立てたので、ありがたく浴室を借りる。
体中自分の出したものと汗とその他諸々でベタついていて、きらきらして見える女の子たちも好きな男の子とこういうことをしているんだなぁと下世話なことを考える。
「好きな……男の子……」
自分で思ったことに照れる。
玉砕覚悟で告白したのに、なぜか、より深い関係になってしまった。
辰巳くんは経験豊富なのか終始リードしてくれて、少し苦しいことはあっても痛いことはしなかった。
彼との経験値の差を突きつけられて少しヘコむ。
「あ、そういえば……」
僕は好きだと告げたけど、辰巳くんは僕を好きだと言わなかった。
もしかして、僕があんまりにも悲壮で必死そうだったから、お情けで触れてくれたのかも知れない。
あり得る……。
でもそれにしたって、多少の情はあった上での行動だろう。
「辰巳くんにも……好きになってもらいたいな……」
フラレるつもりで来たというのに、浅ましくも欲を持ってしまった。
僕は勘違いで辰巳くんから逃げてしまったけど、彼から何かを拒絶されたことは一度もない。
もしかしたらこの調子で押していけば、いつか、ほんのちょっとくらいは、好きの気持ちを返してもらえるかもしれない。
そうと決まれば僕のすべきことはひとつ。
女装を極める。
もっと女の子らしく、かわいくてきれいで、かっこいい辰巳くんの隣に立っても見劣りしないような、そんな子になりきってみせなくては。
「がんばらなきゃ……!」
あたたかなシャワーが降り注ぐ浴室で、僕はこぶしを握って決意を固めた。
それから僕は辰巳くんと会う日のことを、デートだと思うようになった。
手や唇を触れ合わせることが増えて、お互いに触るだけの日もあれば、セックスにもつれ込むことも何度かあった。
されるばっかりは申し訳なくて、僕も辰巳くんに気持ち良くなってもらおうとがんばったけど……僕の手技や口淫はどうしようもなく下手らしくて、すぐにやめさせられてしまう。
「下手くそ」
辛辣な言葉とは裏腹に、仕方なさそうに笑って僕の体を押し倒す辰巳くんに見惚れているうち僕は翻弄され、喘がされるだけになる。
いつか「上手くなったな」と言ってほしいと思っているけど、どこか他所で練習するわけにいかないし、どうすればいいのか目下考え中だ。
「おい。またなんかくだらないこと考えてるだろ」
「え、えっ。くだらないことなんかじゃないよ」
「どうだか」
辰巳くんの指が僕の頬をいたずらにくすぐって離れていく。
こうした何気ない触れ合いで、心臓の鼓動が速くなる。
いい加減慣れてもいい頃だと思うのに、僕はつくづく小心者だ。
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