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番外編 目撃する一般男子
俺は半田和人。
ごく普通の男子高校生だ。
身長は高くも低くもなく平均、とりたてて特徴のない平面的な顔に、痩せても太ってもない体。さらには、普段つるむ友人連中も全員そんな感じ。
起伏の少ない、我ながら安定した人生を歩んでいる自覚がある。
そんなある日。
俺の平凡で平穏な日常に、波乱が巻き起こった。
「……ん」
休日の昼前に、有名な待ち合わせスポットで友人を待っていた俺は、いつものように人間観察を行っていた。
有名な犬の像の周囲のスペースにいる人々は、大抵が人待ち顔でスマホや駅の出入り口を見つめている。
俺のような地味な男が、視線低く観察眼を光らせていても、誰も気にもとめない。だから遠慮なく、色々な人の顔形や服装をチェックできるのだ。
まぁ大体は、好みの出で立ちの女の子をこっそり盗み見る時間なんだけど……。
「んん……?」
そんな中、目に止まった一人の女性。
さらさらの黒髪をブラウンカラーのマフラーでゆるく押さえている。
ベージュのワンピースに踵の低いパンプス。淡い春色イエローのコートを身にまとったその人は、俺と同じくらいの身長だろうか。つまり女子にしてはやや長身。
スマホを握りしめ画面を一心に眺めている。待ち合わせは恋人か。
窺える範囲の横顔は、パッと見美女ではないが、割合好きな顔立ちだ。噛めば噛むほど味が出るタイプの……。
そこまで考えて、俺の目は彼女から離せなくなった。
「いや、まさかな……」
似ている。
俺の小学生から馴染みの友人に。
でも相手はどう見てもかわいらしい女の子だ。きれいな服にばっちり化粧、髪もあんなに長くない。
でも似てる。そう──── 一度女装したことがあった、彼のあの姿に。
どうにかこっそり正面から顔を見られないだろうか。そんなことを考えながら首を伸ばしていると、ふいに彼女が動いた。
周囲に待ち人の姿はない。遅れる連絡でもあったのだろう、彼女は横断歩道を真っ直ぐ渡って、カフェに入っていった。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ……」
俺は素早く待ち合わせの友人にメッセージを送り、後を追う。
女性は慣れた様子でカフェオレを注文し、二人がけの席のソファ側に座った。つまり、前を通り過ぎれば顔が見える。
俺は滅多に入らないオシャレカフェの独特な注文にまごつきながらもどうにか飲み物を頼み、ゆっくりと彼女のテーブルに近づいた。
「……」
やっぱり。
足を止めたのは1秒ほどだったが、これだけ近くで正面から顔を見ればいくら化粧してたってわかる。
数歩先で足を止めた人物が気になったのだろう、スマホに落としていた彼女の目がこちらを向いて、まんまるに見開かれた。
「那月……だよな?」
「え……えっ」
声を聞けばもう間違いない。
こいつは俺の幼馴染の窪田(くぼた)那月だ。
「おまえ……何やってんの?」
反応と声で確信できたので、遠慮なくソファの隣に座って覗き込む。
俺の呆れた声に那月は顔を赤くして俯いた。
「ど、どなたかとお間違いでは……?」
「はぁ?」
蚊の鳴くような声で情けなく告げられ、声がひっくり返る。
こいつシラを切る気か?
深く俯き顔を背け、手で目元を隠している那月は明らかに動揺している。
今更言い逃れできると思っているのか。
こちとら何年の付き合いだと思ってる。多少装いが違っても、近くでよく見れば間違うことなどない。ついでにおまえが握りしめてるそのスマホのリング、歴研のみんなでゲーセンで取ったやつじゃねえか。
それを指摘するとようやく諦めがついたのか、顔がこっちを向いた。
間違いなく男だ。今も立派な男のはずだ。なんせ学校で週5は会ってるんだから。
よくよく見ても、きれいにペイントされているものの顔の作りは見慣れた那月そのものだ。
しかし遠目で見ると彼はどう見ても女性だった。なんていうか、所作とか雰囲気が。
女は化粧で化けるというが男も例外ではなかったのか。
薄味の顔立ちに化粧がよく映えるという知見を得た。
「うーん……いやホントうまく化けたな」
「化けたとか言うな」
「そんなカッコで何してんの?」
「……」
この期に及んでまただんまりか。
そういえばふと、駅前でこいつを見かけたときの心象を思い出した。まさか。
「那月おまえ、彼女できたんか?」
「ウッ」
手持ち無沙汰に口に運んだカフェオレが気道に入ったのか、那月はむせた。
げほげほと空咳を繰り返す友人の背中をさすってやる。
こいつのこの反応、図星だな。
あれ、でも、待てよ?
「おまえ彼女とそのカッコで会うのか?」
「……」
「そういうプレイ……いや、おまえ、もしかして、」
「おい」
突然第三者の鋭い声が俺たちの間に割り込んだ。
空いた反対側のソファ席に誰かがどかっと座り、那月の体がそちら側へ勢いよく引かれる。
「俺のオンナにちょっかい出してんじゃねーぞ」
「……え」
那月の肩ごと体を抱き込んで俺を睨みつける人物には見覚えがあった。
大柄で派手な金髪、それに威圧感のある三白眼────こいつ、たしか1組の溝渕じゃないか?
溝渕辰巳……我が校きっての問題児、泣く子も黙るマジの不良。
校則違反の金髪に校則違反のピアス、着崩したダルダルの制服で廊下の真ん中を歩く姿を何度も見かけた。
遅刻欠席早退当たり前、マンガかドラマのように閉鎖されているはずの屋上を根城にしていて、同じくらい不良の仲間たちとつるんでは、酒にタバコに女にケンカと黒い噂の絶えない男。
ろくに授業を受けないくせに成績だけは妙に良く、その上親だか親族だかが社会的地位の高い人間らしく教師も手をこまねいているとかなんとか。
そんな男が、那月を「俺のオンナ」呼ばわりだと……?
「ちょ、ちょっと、辰巳くん!」
「行くぞ那月」
俺がポカンとしている間に、溝渕は那月を強引に連れ去った。
那月も咎める声はかけていたが、引っ張られる手を外そうとはしていなかった。
俺と同じくらい地味で小心者の那月と、素行不良で目立つ溝渕。普通なら接点などないはずなのに。
「マジか……」
そこには追いかけることができず立ち尽くす俺と、飲みかけの二人分のカップが残された。
強く腕を引かれていたのはカフェを出るまでだった。
「たつみくん」
軽く手を振って、前を行く男の注意を向けさせる。
顔半分だけ振り向いてみせた辰巳の顔は般若のように恐ろしく、那月は一瞬怯んだ。
しかし彼の顔が怖いのは元からだ。気を取り直して言葉を接ぐ。
「あの、さっきのはクラスメイトで幼馴染の、」
「どこ触られた」
「え?」
「……いや」
ずんずん歩いていく辰巳の足は目的地のビルを通り過ぎ、真っ直ぐ街の奥へ向かっていく。
その頃にはもう那月も新たな行き先に気づいていた。
最近知ったことだが、那月の恋人は性欲が強い。
今までは初心者の那月のために我慢していてくれたらしい。
求められること自体は嬉しくないわけがないが、ランチの予定が消えるとなると……那月はぺこぺこに空く予定の腹を擦った。
手早くチェックインしたホテルは怪しげなところではなく、シンプルで小綺麗な部屋だった。もっとも、室内を吟味する余裕などない。
「んっ……たつみ、く」
「黙ってろ」
噛みつかれ、那月はおとなしく口を噤んだ。その代わり唇を開いて辰巳の荒ぶる気持ちごと受け入れる。
引きずり出された舌をそこそこの力で噛まれると、恐怖とよく似たぞくぞくする刺激が背筋を駆け上がってくる。
無意識に腰が揺れ、昂り始めた体を押し付けた。辰巳の体も熱を持っている。
「はぁ……くそッ」
ひとしきり口づけてから辰巳が発したのは、苛立ったような捨て台詞だった。
「辰巳くん? どうしたの……?」
「……」
恐る恐る問いかけると、無言で睨まれた。これは相当に機嫌が悪そうだ。
最近知ったことだが、那月の恋人は独占欲も強い。
放っておいたって誰にも奪られない地味な「男」姿の那月でさえ、辰巳は独り占めしたがる。
友人との交流も、学校の中では良いが外へ出たら控えるよう言われたほどだ。
那月が女性の姿にもなるせいで、辰巳の敵は男女を問わない。どこから掻っ攫われてもおかしくない……と彼は思い込んでいる。
辰巳の過剰な束縛に困惑することもあるが、少しだけ嬉しいとも感じる那月の気持ちは複雑だ。
「あの、ごめんね。知らない相手じゃないとはいえ、おしゃべりしてたの嫌だった……よね」
「……」
「つ、次からは気をつけるから……」
「別にいい。ダチだったんだろ」
おや、と思う。
那月のことに関してはやたらと狭量な辰巳にしては珍しく、譲歩の言葉が出た。
「てかおまえ、なんでもかんでも受け入れすぎなんだよ」
「えぇ?」
「知り合いとも誰ともしゃべんなとか、最悪すぎるだろ。ちょっとは拒否しろよ」
「そんなぁ。辰巳くんが言ったんじゃないか……」
どうやら彼の不満の矛先は那月に向いてしまったらしい。
確かに理不尽な束縛だと思う。何度か「恋人 束縛 激しい」などのキーワードでネット検索してしまうくらいには。
しかしどうやら彼自身も那月への態度を測りかねているようなので、今は様子見しているところだった。
那月が他人になびくことなく、誰かに奪われるようなものでもないと辰巳が納得できれば、ネット検索で出てきた世間一般の恋人らしい関係性に着地できるのではないかと思っている。
元々、恋人同士になれるなんて思ってもいなかったのだ。多少の束縛など気にもならない。
そういう気持ちを込めて、目の前の長身にそっと抱きつく。
「束縛されるくらいのほうが、無関心でいられるよりいいよ。本当に嫌だったらちゃんと言うから」
「……ん」
拗ねたように短い返事に少し笑ってしまった。
辰巳は那月が思っていたような、大人びて余裕のある男では全然ない。
年相応にひねくれて唇を尖らせることもある、同い年の男子高校生だ。
だからこそ、男子高校生が恋人とホテルにいたらどういう気持ちになるかもわかってしまう。
「とりあえず……一回、シとく?」
辰巳も那月も、とても外には出られないほど体が火照ったままだ。
「そうだな」
「ひゃっ、んん……っ」
服の裾から入り込んだ手のひらが素肌に触れてくる。
思わず甘ったるい声が出て、那月は恥ずかしさに頬を染めた。辰巳はすっかりいつもの調子を取り戻したらしい。
フリルのついた薄い下着を押し上げるものは男の象徴でしかなく、那月としては背徳的すぎるし恥ずかしいが、辰巳は女装の那月を興奮させるのが好きらしい。
「ほ、ほどほどにしてね……」
「約束はできねーな」
「あう……」
那月のコートを剥ぎ取り、さらに脱がせようとしている辰巳の目はぎらぎらと欲望に光っている。
昼食を逃すどころでは済まないかもしれないという予感に、那月は小さく嘆息して再び凹んだ腹をさすった。
ごく普通の男子高校生だ。
身長は高くも低くもなく平均、とりたてて特徴のない平面的な顔に、痩せても太ってもない体。さらには、普段つるむ友人連中も全員そんな感じ。
起伏の少ない、我ながら安定した人生を歩んでいる自覚がある。
そんなある日。
俺の平凡で平穏な日常に、波乱が巻き起こった。
「……ん」
休日の昼前に、有名な待ち合わせスポットで友人を待っていた俺は、いつものように人間観察を行っていた。
有名な犬の像の周囲のスペースにいる人々は、大抵が人待ち顔でスマホや駅の出入り口を見つめている。
俺のような地味な男が、視線低く観察眼を光らせていても、誰も気にもとめない。だから遠慮なく、色々な人の顔形や服装をチェックできるのだ。
まぁ大体は、好みの出で立ちの女の子をこっそり盗み見る時間なんだけど……。
「んん……?」
そんな中、目に止まった一人の女性。
さらさらの黒髪をブラウンカラーのマフラーでゆるく押さえている。
ベージュのワンピースに踵の低いパンプス。淡い春色イエローのコートを身にまとったその人は、俺と同じくらいの身長だろうか。つまり女子にしてはやや長身。
スマホを握りしめ画面を一心に眺めている。待ち合わせは恋人か。
窺える範囲の横顔は、パッと見美女ではないが、割合好きな顔立ちだ。噛めば噛むほど味が出るタイプの……。
そこまで考えて、俺の目は彼女から離せなくなった。
「いや、まさかな……」
似ている。
俺の小学生から馴染みの友人に。
でも相手はどう見てもかわいらしい女の子だ。きれいな服にばっちり化粧、髪もあんなに長くない。
でも似てる。そう──── 一度女装したことがあった、彼のあの姿に。
どうにかこっそり正面から顔を見られないだろうか。そんなことを考えながら首を伸ばしていると、ふいに彼女が動いた。
周囲に待ち人の姿はない。遅れる連絡でもあったのだろう、彼女は横断歩道を真っ直ぐ渡って、カフェに入っていった。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ……」
俺は素早く待ち合わせの友人にメッセージを送り、後を追う。
女性は慣れた様子でカフェオレを注文し、二人がけの席のソファ側に座った。つまり、前を通り過ぎれば顔が見える。
俺は滅多に入らないオシャレカフェの独特な注文にまごつきながらもどうにか飲み物を頼み、ゆっくりと彼女のテーブルに近づいた。
「……」
やっぱり。
足を止めたのは1秒ほどだったが、これだけ近くで正面から顔を見ればいくら化粧してたってわかる。
数歩先で足を止めた人物が気になったのだろう、スマホに落としていた彼女の目がこちらを向いて、まんまるに見開かれた。
「那月……だよな?」
「え……えっ」
声を聞けばもう間違いない。
こいつは俺の幼馴染の窪田(くぼた)那月だ。
「おまえ……何やってんの?」
反応と声で確信できたので、遠慮なくソファの隣に座って覗き込む。
俺の呆れた声に那月は顔を赤くして俯いた。
「ど、どなたかとお間違いでは……?」
「はぁ?」
蚊の鳴くような声で情けなく告げられ、声がひっくり返る。
こいつシラを切る気か?
深く俯き顔を背け、手で目元を隠している那月は明らかに動揺している。
今更言い逃れできると思っているのか。
こちとら何年の付き合いだと思ってる。多少装いが違っても、近くでよく見れば間違うことなどない。ついでにおまえが握りしめてるそのスマホのリング、歴研のみんなでゲーセンで取ったやつじゃねえか。
それを指摘するとようやく諦めがついたのか、顔がこっちを向いた。
間違いなく男だ。今も立派な男のはずだ。なんせ学校で週5は会ってるんだから。
よくよく見ても、きれいにペイントされているものの顔の作りは見慣れた那月そのものだ。
しかし遠目で見ると彼はどう見ても女性だった。なんていうか、所作とか雰囲気が。
女は化粧で化けるというが男も例外ではなかったのか。
薄味の顔立ちに化粧がよく映えるという知見を得た。
「うーん……いやホントうまく化けたな」
「化けたとか言うな」
「そんなカッコで何してんの?」
「……」
この期に及んでまただんまりか。
そういえばふと、駅前でこいつを見かけたときの心象を思い出した。まさか。
「那月おまえ、彼女できたんか?」
「ウッ」
手持ち無沙汰に口に運んだカフェオレが気道に入ったのか、那月はむせた。
げほげほと空咳を繰り返す友人の背中をさすってやる。
こいつのこの反応、図星だな。
あれ、でも、待てよ?
「おまえ彼女とそのカッコで会うのか?」
「……」
「そういうプレイ……いや、おまえ、もしかして、」
「おい」
突然第三者の鋭い声が俺たちの間に割り込んだ。
空いた反対側のソファ席に誰かがどかっと座り、那月の体がそちら側へ勢いよく引かれる。
「俺のオンナにちょっかい出してんじゃねーぞ」
「……え」
那月の肩ごと体を抱き込んで俺を睨みつける人物には見覚えがあった。
大柄で派手な金髪、それに威圧感のある三白眼────こいつ、たしか1組の溝渕じゃないか?
溝渕辰巳……我が校きっての問題児、泣く子も黙るマジの不良。
校則違反の金髪に校則違反のピアス、着崩したダルダルの制服で廊下の真ん中を歩く姿を何度も見かけた。
遅刻欠席早退当たり前、マンガかドラマのように閉鎖されているはずの屋上を根城にしていて、同じくらい不良の仲間たちとつるんでは、酒にタバコに女にケンカと黒い噂の絶えない男。
ろくに授業を受けないくせに成績だけは妙に良く、その上親だか親族だかが社会的地位の高い人間らしく教師も手をこまねいているとかなんとか。
そんな男が、那月を「俺のオンナ」呼ばわりだと……?
「ちょ、ちょっと、辰巳くん!」
「行くぞ那月」
俺がポカンとしている間に、溝渕は那月を強引に連れ去った。
那月も咎める声はかけていたが、引っ張られる手を外そうとはしていなかった。
俺と同じくらい地味で小心者の那月と、素行不良で目立つ溝渕。普通なら接点などないはずなのに。
「マジか……」
そこには追いかけることができず立ち尽くす俺と、飲みかけの二人分のカップが残された。
強く腕を引かれていたのはカフェを出るまでだった。
「たつみくん」
軽く手を振って、前を行く男の注意を向けさせる。
顔半分だけ振り向いてみせた辰巳の顔は般若のように恐ろしく、那月は一瞬怯んだ。
しかし彼の顔が怖いのは元からだ。気を取り直して言葉を接ぐ。
「あの、さっきのはクラスメイトで幼馴染の、」
「どこ触られた」
「え?」
「……いや」
ずんずん歩いていく辰巳の足は目的地のビルを通り過ぎ、真っ直ぐ街の奥へ向かっていく。
その頃にはもう那月も新たな行き先に気づいていた。
最近知ったことだが、那月の恋人は性欲が強い。
今までは初心者の那月のために我慢していてくれたらしい。
求められること自体は嬉しくないわけがないが、ランチの予定が消えるとなると……那月はぺこぺこに空く予定の腹を擦った。
手早くチェックインしたホテルは怪しげなところではなく、シンプルで小綺麗な部屋だった。もっとも、室内を吟味する余裕などない。
「んっ……たつみ、く」
「黙ってろ」
噛みつかれ、那月はおとなしく口を噤んだ。その代わり唇を開いて辰巳の荒ぶる気持ちごと受け入れる。
引きずり出された舌をそこそこの力で噛まれると、恐怖とよく似たぞくぞくする刺激が背筋を駆け上がってくる。
無意識に腰が揺れ、昂り始めた体を押し付けた。辰巳の体も熱を持っている。
「はぁ……くそッ」
ひとしきり口づけてから辰巳が発したのは、苛立ったような捨て台詞だった。
「辰巳くん? どうしたの……?」
「……」
恐る恐る問いかけると、無言で睨まれた。これは相当に機嫌が悪そうだ。
最近知ったことだが、那月の恋人は独占欲も強い。
放っておいたって誰にも奪られない地味な「男」姿の那月でさえ、辰巳は独り占めしたがる。
友人との交流も、学校の中では良いが外へ出たら控えるよう言われたほどだ。
那月が女性の姿にもなるせいで、辰巳の敵は男女を問わない。どこから掻っ攫われてもおかしくない……と彼は思い込んでいる。
辰巳の過剰な束縛に困惑することもあるが、少しだけ嬉しいとも感じる那月の気持ちは複雑だ。
「あの、ごめんね。知らない相手じゃないとはいえ、おしゃべりしてたの嫌だった……よね」
「……」
「つ、次からは気をつけるから……」
「別にいい。ダチだったんだろ」
おや、と思う。
那月のことに関してはやたらと狭量な辰巳にしては珍しく、譲歩の言葉が出た。
「てかおまえ、なんでもかんでも受け入れすぎなんだよ」
「えぇ?」
「知り合いとも誰ともしゃべんなとか、最悪すぎるだろ。ちょっとは拒否しろよ」
「そんなぁ。辰巳くんが言ったんじゃないか……」
どうやら彼の不満の矛先は那月に向いてしまったらしい。
確かに理不尽な束縛だと思う。何度か「恋人 束縛 激しい」などのキーワードでネット検索してしまうくらいには。
しかしどうやら彼自身も那月への態度を測りかねているようなので、今は様子見しているところだった。
那月が他人になびくことなく、誰かに奪われるようなものでもないと辰巳が納得できれば、ネット検索で出てきた世間一般の恋人らしい関係性に着地できるのではないかと思っている。
元々、恋人同士になれるなんて思ってもいなかったのだ。多少の束縛など気にもならない。
そういう気持ちを込めて、目の前の長身にそっと抱きつく。
「束縛されるくらいのほうが、無関心でいられるよりいいよ。本当に嫌だったらちゃんと言うから」
「……ん」
拗ねたように短い返事に少し笑ってしまった。
辰巳は那月が思っていたような、大人びて余裕のある男では全然ない。
年相応にひねくれて唇を尖らせることもある、同い年の男子高校生だ。
だからこそ、男子高校生が恋人とホテルにいたらどういう気持ちになるかもわかってしまう。
「とりあえず……一回、シとく?」
辰巳も那月も、とても外には出られないほど体が火照ったままだ。
「そうだな」
「ひゃっ、んん……っ」
服の裾から入り込んだ手のひらが素肌に触れてくる。
思わず甘ったるい声が出て、那月は恥ずかしさに頬を染めた。辰巳はすっかりいつもの調子を取り戻したらしい。
フリルのついた薄い下着を押し上げるものは男の象徴でしかなく、那月としては背徳的すぎるし恥ずかしいが、辰巳は女装の那月を興奮させるのが好きらしい。
「ほ、ほどほどにしてね……」
「約束はできねーな」
「あう……」
那月のコートを剥ぎ取り、さらに脱がせようとしている辰巳の目はぎらぎらと欲望に光っている。
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