時間停止能力を手に入れたけどエロいことには使えない

キザキ ケイ

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本編

01.エロいことできない時間停止に意味はあるのか

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 きっかけは本当に些細な会話だった。
 学校の昼休み、ろくに噛まずに昼食を食べ終えた男子高校生グループ。
 誰かが言い出した猥談が、なぜか俺をターゲットに牙を剥いて、勝手な推測や下品な憶測をいくつも立てられそうになったから。

「待て、やめろ、タイム!」

 と、制止を求めた。
 ただそれだけのはずだった。

「……は?」

 俺以外のすべてが停止した。
 俺だけが間抜けな声をあげた。
 まるで立体の造形物のような景色が広がっている。
 笑いながらペットボトルの蓋を開けようとして止まっている友人。ふわりと広がったまま静止するカーテン。離れたところには、椅子に座る直前で停止しているクラスメイトが見える。

「は?ドッキリ?」

 そろりと立ち上がる。俺は動ける。
 一方、俺以外のものは微動だにしない。よく見たら、開け放った窓から入ってきた小さな枯葉も止まっている。
 おそるおそるつついたら、枯葉を押すことができた。
 俺の指によって10センチほど移動した枯葉は、そのまま空中で静止している。

「……え、時間停止?」

 大きな声では言えないが、俺くらいのトシになると男子はみんなそういう映像にお世話になり始める。
 昔は河原で本を拾ったり、年上の兄弟に借りたりしなきゃならなかったらしいが、今どきはネットでいくらでも拾ってくることができる。
 そんなただれた知識が、時間停止AVという単語を弾き出した。

「ということは……」

 おそるおそる、隣の席に座っていた友人────カズの肩をつついてみる。

「いった!え、石像?」

 突き指するかと思った。カズの肩は微動だにせず、ものすごく硬い。服にシワすら寄らない。
 他のメンツも触ってみたが言わずもがな。ふわっとしてみえるカーテンも、ふわっとした形のままバリ硬なのでそういう美術作品みたいだ。
 いまいち現状を理解できず、もう一度宙に浮いている枯葉を押してみた。押せる。

「うーん……ある程度の大きさのものは動かない、のかな?」

 ふと気がついて、カズのふわふわした髪を撫でてみる。

「お、ちょっとだけ動くぞ」

 どうやら髪の一本一本は「ある程度の大きさ」に該当しないらしく、癖っ毛を撫で付けることができた。
 まぁ触り心地は良くないが。ワイヤーの束を撫でてるみたいだ。
 でも、俺はこんなときでもちょっとだけ、嬉しかった。
 カズの髪を撫でてみたいって、前から思ってたから。

「あーあ。どうせならエロいことできる時間停止させてくれよ!」

 小さなものしか動かせない、大きなものは硬すぎて感触すら違うとなれば、そういうAVのような……相手が気づかないうちに好き放題触る、みたいなことはできない。いや触れはするけど石像。
 こんな時間停止なんの意味もない。
 そこでふと、どうすればこの止まった時間を元に戻せるのか、と考え至ってぞっとした。
 時間、戻せなかったら……どうなるんだ?

「てかササってさぁ……んあ?」
「ササ、なに突っ立ってんの」
「え、あ……」

 音が、動きが────時間が戻ってきた。なんの前触れもなく。
 元に、戻った、のか。
 友人はペットボトルの蓋を難なくひねり、カーテンはふわりと落ちて、クラスメイトは椅子に着席した。
 見ると、床に小さな枯葉が落ちている。

「……え、夢?」

 呆然とする俺の異様な姿に仲間たちは鼻白んで、話題は別に移っていった。
 カズだけは不思議そうに俺を見ていたけど、問われることはなかった。
 聞かれても答えられない。
 昼休みに白昼夢を見て、カズの髪に触る内容だった、なんて。

(あぁ、くそっ。カズは友だち、カズは友だち……)

 いつものように言い聞かせる。
 中高一貫の男子校なんかでゲイのレッテルを貼られたら生きていけない。
 あと2年、俺はこの環境で生き延びなければいけないんだ。
 飲みかけだった紙パックの牛乳をすすりながら、まだ少しだけ手のひらに残ったカズの髪の硬い感触を思い出していた。
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