時間停止能力を手に入れたけどエロいことには使えない

キザキ ケイ

文字の大きさ
1 / 10
本編

01.エロいことできない時間停止に意味はあるのか

 きっかけは本当に些細な会話だった。
 学校の昼休み、ろくに噛まずに昼食を食べ終えた男子高校生グループ。
 誰かが言い出した猥談が、なぜか俺をターゲットに牙を剥いて、勝手な推測や下品な憶測をいくつも立てられそうになったから。

「待て、やめろ、タイム!」

 と、制止を求めた。
 ただそれだけのはずだった。

「……は?」

 俺以外のすべてが停止した。
 俺だけが間抜けな声をあげた。
 まるで立体の造形物のような景色が広がっている。
 笑いながらペットボトルの蓋を開けようとして止まっている友人。ふわりと広がったまま静止するカーテン。離れたところには、椅子に座る直前で停止しているクラスメイトが見える。

「は?ドッキリ?」

 そろりと立ち上がる。俺は動ける。
 一方、俺以外のものは微動だにしない。よく見たら、開け放った窓から入ってきた小さな枯葉も止まっている。
 おそるおそるつついたら、枯葉を押すことができた。
 俺の指によって10センチほど移動した枯葉は、そのまま空中で静止している。

「……え、時間停止?」

 大きな声では言えないが、俺くらいのトシになると男子はみんなそういう映像にお世話になり始める。
 昔は河原で本を拾ったり、年上の兄弟に借りたりしなきゃならなかったらしいが、今どきはネットでいくらでも拾ってくることができる。
 そんなただれた知識が、時間停止AVという単語を弾き出した。

「ということは……」

 おそるおそる、隣の席に座っていた友人────カズの肩をつついてみる。

「いった!え、石像?」

 突き指するかと思った。カズの肩は微動だにせず、ものすごく硬い。服にシワすら寄らない。
 他のメンツも触ってみたが言わずもがな。ふわっとしてみえるカーテンも、ふわっとした形のままバリ硬なのでそういう美術作品みたいだ。
 いまいち現状を理解できず、もう一度宙に浮いている枯葉を押してみた。押せる。

「うーん……ある程度の大きさのものは動かない、のかな?」

 ふと気がついて、カズのふわふわした髪を撫でてみる。

「お、ちょっとだけ動くぞ」

 どうやら髪の一本一本は「ある程度の大きさ」に該当しないらしく、癖っ毛を撫で付けることができた。
 まぁ触り心地は良くないが。ワイヤーの束を撫でてるみたいだ。
 でも、俺はこんなときでもちょっとだけ、嬉しかった。
 カズの髪を撫でてみたいって、前から思ってたから。

「あーあ。どうせならエロいことできる時間停止させてくれよ!」

 小さなものしか動かせない、大きなものは硬すぎて感触すら違うとなれば、そういうAVのような……相手が気づかないうちに好き放題触る、みたいなことはできない。いや触れはするけど石像。
 こんな時間停止なんの意味もない。
 そこでふと、どうすればこの止まった時間を元に戻せるのか、と考え至ってぞっとした。
 時間、戻せなかったら……どうなるんだ?

「てかササってさぁ……んあ?」
「ササ、なに突っ立ってんの」
「え、あ……」

 音が、動きが────時間が戻ってきた。なんの前触れもなく。
 元に、戻った、のか。
 友人はペットボトルの蓋を難なくひねり、カーテンはふわりと落ちて、クラスメイトは椅子に着席した。
 見ると、床に小さな枯葉が落ちている。

「……え、夢?」

 呆然とする俺の異様な姿に仲間たちは鼻白んで、話題は別に移っていった。
 カズだけは不思議そうに俺を見ていたけど、問われることはなかった。
 聞かれても答えられない。
 昼休みに白昼夢を見て、カズの髪に触る内容だった、なんて。

(あぁ、くそっ。カズは友だち、カズは友だち……)

 いつものように言い聞かせる。
 中高一貫の男子校なんかでゲイのレッテルを貼られたら生きていけない。
 あと2年、俺はこの環境で生き延びなければいけないんだ。
 飲みかけだった紙パックの牛乳をすすりながら、まだ少しだけ手のひらに残ったカズの髪の硬い感触を思い出していた。

あなたにおすすめの小説

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。

雪 いつき
BL
 凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。  二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。  それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。 「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」  人前でそんな発言をして爽やかに笑う。  発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

【完結】みにくい勇者の子

バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……?     光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。  攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。