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本編
11.今日までと明日から
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颯真の告白に、俺は素っ頓狂な声を上げた。
「えぇ? 俺ら、アルファ同士だよ?」
俺と颯真の仲がいいから誤解してるやつも多いけど、本来同性のアルファ同士ってのは、あまり仲良くなれない。
たとえるならオスの肉食獣。
彼らには縄張りがあり、侵入した他のオスを許さない。親兄弟は例外だけど、一方で親兄弟すら敵視し合い若くして独り立ちするアルファは多い。
それだけ、縄張り意識やプライドを重視する性なんだ。
しかしどんな集団にも例外はいて、俺はいわゆるアルファらしくないアルファだという。
水道と電気が通った離れが建ってるような颯真の家は、言わずもがな代々優秀でプライドが高いアルファ家系。颯真自身も格の高い、いわゆる強いアルファだ。
そんな颯真が格下とはいえアルファの俺と、無害なベータの友人たちと同等に仲良くしてられるのは、俺が突然変異アルファとベータの間に生まれた、肉食獣の本能が薄い個体のせいだろう。
悪く言えば、雑種。
なので俺は世間一般の常識に外れ、アルファの友人が複数いるアルファなんだけど……だからと言って、同じ第二性の男同士で恋に落ちる可能性は相当に低いわけで。
「気持ちを自覚したのは、ユキがオメガになってからだ」
「それって……」
まさにさっきまで考えていたことではないか。
うぶな颯真は、身近に突然現れた、重いことを言わず番になる必要もない、お手軽なオメガと寝たことで勘違いをしてしまった。
いわゆる気の迷いというやつだ。
「いやいやよく考えなよ。今はオメガが珍しいだろうけど、颯真みたいな文武両道イケメンアルファなら周りがほっとかない。大学でオメガと同じキャンパスになれば、ビュッフェみたいによりどりみどり食べ放題なんだよ?」
「ビュッフェって」
颯真が妙なところに引っかかってちょっと笑った。俺も釣られて笑った。
いや笑ってる場合じゃないぞ。
「今急いで近くのオメガで手を打つことないよ。それに俺はオメガもどきなんだ。本物のオメガはきっともっといい匂いで、柔らかくて小さくて、もっと可愛いよ」
本物のオメガなんて見たことないけど、ネットで見る写真や文章の中のオメガは、どいつもこいつも俺とは似ても似つかない存在だった。
守ってあげたいと思わせる、小動物のような雰囲気。
第一性が男でも、清楚だったり可憐だったりする。
そして発情期には信じられないくらい淫らで妖しくアルファを誘う。
俺にはどれも、どれ一つオメガらしい要素はない。
「でも、ユキは一人しかいない」
「え……」
「気づいたのは、ユキがオメガになってからだった。でも俺はユキがオメガだから欲しいんじゃない。ユキがオメガだから好きなんじゃない」
驚く俺に、颯真はぽつぽつと心のうちを話してくれた。
彼曰く、俺がオメガになるまでは気持ちにストッパーがあったのだという。
「ユキはアルファだから、特別に思うわけがない」と。
他のアルファに感じる嫌悪感や敵愾心が俺相手だと湧かないのは、俺がアルファらしくないアルファだから。
それ以上の意味はないと思い込んでいた。
「でもユキがオメガになって、俺の中にあったストッパーがなくなった。ユキに恋とか愛とか、そういう気持ちを持っていいって、背中を押されたような気がした」
「こ、恋って」
「今回のことはきっかけに過ぎない。俺はユキがアルファでも好きだった。オメガでもベータでも、きっと第二性がなくたって好きになった。気持ちより先に体を繋げてしまったから、信じられないだろうけど、これが俺の本心なんだ」
めちゃくちゃ好き好き言われて照れる。言葉の端々に溢れんばかりの感情が乗っている。
こんな告白をされて、気の迷いだなんて簡単に切り捨てられるわけがない。
颯真は俺がどんな性別でも好きになってくれるというのか。
でも、じゃあなぜ。
「なんでオメガのままでいてほしいんだ?」
「性別なんてなんでもいい……と本当は言い切りたいんだが、アルファやベータだと、ユキを他に獲られたら奪い返せる自信がない」
「他……」
「ユキがオメガなら、番にできる。俺のフェロモン以外感じない、俺以外を誘うこともない、余所見なんてできない唯一の番に」
熱のこもった至近距離の視線に、思わず顔を背ける。
頬が赤くなってるかもしれない。
「そんなこと考えながら俺の発情期相手してくれてたの? 案外むっつりなんだな」
「う……それを言われると……本当は、あの状態でもうなじを噛めば番にできるんじゃないかとウズウズしてた」
俺より理性的に見えた颯真の意外な言葉だった。
あのとき噛まれてたら、どうなってたんだろ。
まさか本当に番になったりはしなかったと思うけど……我が事ながら自信はない。
「でも我慢したんだ? 俺の首にベルト巻いて」
「体だけ番にしたって意味がない。俺はユキの心とか考え方とか、そういう部分を好きになったんだから」
「そ、そっか……」
これだけ言葉を尽くされれば、本気だってことがわかる。
それならこっちも誠意を持って返事しなくては。
俺は今日、アルファに戻るつもりでここに来た。
でも確固たる意志があったわけじゃない。
ある日突然不当に、冤罪で、第二性を変えられてしまったのだから、当然元に戻してもらわなきゃならない。俺が一週間考えてきたのは、たったそれだけの理由だ。
しかしここにきて事情が変わった。
オメガとしての俺を求められている。他ならぬ、親友である颯真に。
学校という狭い社会では優秀な部類だけど、アルファとしてはそれほど特別じゃない、茫洋と日々を過ごしていたアルファとしての俺。
一方で、薬を飲めばそれほど苦労することなく、すでに発情期まで済ませて、しかも俺を番として一番にと望んでくれるアルファがいる、オメガとしての俺。
あれ。もしかして、まんざらでもないんじゃないか?
「はー。青春だのぅ……」
俺と颯真しかいなかったはずの場所に、突如第三者が現れた。
高く澄んだ変声期前の少年の声。
慌てて振り向いた俺の前に、白装束の少年が立っている。
「神様!」
「おう、大便の男子高校生。きちんと期日に顔を出すとは感心感心」
「待って。いくらなんでもそのあだ名は酷すぎ」
「お、そうか。いやすまんすまん」
神様は悪びれもせず呵呵と笑った。
かといって俺の名前を尋ねるでもなく、お馴染みの細い棒を一振りする。
「それで? こちらは準備できておるが、おまえさんはそうでもないようだのぉ」
「あー、うん。神様、アルファに戻るのって保留できる?」
空き地に音もなく現れた、およそ時代錯誤な服装の少年に目を見開いて驚き固まっていた颯真は、今度は俺の言葉に耳を疑いこっちを向いた。
「ゆ、ユキ! 本当にいいのか、今戻らなくて」
「なんだよー。自分から告っといて、俺がアルファに戻ってもいいの?」
「いや……だ、だけど」
「じゃあいいじゃん。できるならしばらくオメガのままで、颯真のことちゃんと考えたい。というわけで神様、どう?」
神様は長い棒を持ったまま器用に腕を組んで、うんうんと頷いた。
「可能である。変化させたものを元に戻すのは、それほど力を必要としないのでな」
「そうなんだ。じゃあしばらくこのままでいるね」
「ユキ……」
颯真のイケメンがくしゃりと歪んで、抱き寄せられた。
抵抗しないでいると、正面からぎゅうっと抱き締められる。
泣いてはいないみたいだけど、すごく喜んでくれてるのが伝わってくる。
「さて。そうと決まればいくつか注意事項がある。二人とも聞け」
「はーい。颯真、一回離れて」
颯真の背中をぱたぱた叩いて抱擁を解かせ、神様に向き直る。
少年姿の神様は、見た目に全くそぐわない「よっこらせ」という声と共に祠が乗っている四角い岩に腰掛けた。
神器だという長い棒を俺の体に一度翳し、戻す。
「そうか、おまえたち交わったのだな」
「えっ!?」
そういうのわかっちゃうもんなのか。
恥ずかしいやら恐ろしいやらで目を白黒させる俺たちに白装束の少年は「神様だからのぅ」と胸を張ってみせた。
「そういう仲なら心得よ。おまえの体は完全なオメガではない。子を孕むことはできず、首筋を噛まれても番となることはできん」
「え、そうなの?」
「所詮、怒りに任せて咄嗟に使った力。完全な変化ではなかったようだのぅ。とりわけオメガが子をつくる器官は、生まれながらにオメガたる者たちでも時間を掛けて成長させるもの。子を成す場所が不完全であるうちは、番も結べぬ」
確かに、アルファとオメガの番関係はそれなりの年齢に達してからだと聞いたことがある。
それより今の俺が子どもを産めてしまう状態じゃなくて良かった。
あのどろどろ発情期の最中に避妊薬を飲んだ記憶はない。さすがにドラッグストアで気軽に買える薬じゃないし、高校生でいきなり性転換した上に妊娠……という、両親卒倒コンボを決めるつもりはなかったから。
「その言い方だと、ユキを完全なオメガにすることもできそうですよね」
ずっと神様の動向を注視していた颯真が口を挟んだ。
神様はそんな颯真をちらりと見て頷く。
「当然である。神様だからのぅ。おまえをアルファに戻すために溜めた力で、子を成す器官の成長を促し、オメガたる機能を万全にすることも可能」
「でも……それって」
「そう。おまえのために神が用意した力、使うのは一度きり」
アルファに戻るか。オメガと成るか────。
立ち尽くす俺たちを横目に、白装束の神様は音もなく祠から降りて地面に立った。
棒を杖のように突いて、俺たちを────俺を見つめる。
「期限は特にないが、その調子でそこなアルファと絆を深めれば、元の体に戻すのは難しくなろう。三月以内に、再び答えを聞かせよ」
「あ……わかり、ました」
「うむ。どちらの答えを出すにしても尊重しよう。おまえには苦労を掛けてしまったからな。では」
次こそは手土産を持って参れ。
少年神様はそう言って、以前と同じく風のように消えた。
「神様、実在したんだな……」
呆然としながらぽつりと呟かれた颯真の言葉に、うんうんと頷く。
初回の邂逅は白昼夢じみていたので、こうして第三者がいる場に現れるとすごくリアルな神様だった。
相変わらず子供の見た目だし、威厳とかオーラとかはなかったけど。
「それよりユキ! 本当に、体戻してもらわなくて良かったのか?」
放心状態から立ち直った颯真に勢いよく詰められ、再度頷く。
「うん。神様も三ヶ月以内なら戻せるって言ってたし、ゆっくり考える」
「本当に大丈夫なのか……だって三ヶ月って言ったら」
「もう一度発情期が来るかもしれない」
俺だってちゃんと考えて神様に返事したんだ。ぼけっとしてたわけじゃない。
たった一人誰にも体のことを告げられず、オメガ性を持て余して苦しんだとしたら、俺は今日確実にアルファの体を取り戻していただろう。
でも俺には颯真がいる。
「次の発情期も、颯真が相手してくれると思ったんだけど。それとも、その辺の知らないアルファに抱かれてきた方がいい?」
挑発的に告げた瞬間、颯真の目がぎらりと光った。
飢えた獣に睨まれるような、恐ろしいけどゾクゾクと湧き上がるものがある、欲望を剥き出しにした姿。
そうだった。記憶が曖昧だけど、発情期の最中も彼はこんな表情をしていた。
「そんなことは許さない……わかった。発情期もそれ以外も、全部付き合う」
「へへ。お世話になります」
「はぁ……ノリが軽い……心配だ」
獣の瞳は本当に一瞬だった。
すぐにいつも通りになった颯真は、地面に置いてあった二人分の鞄を拾い上げる。片方を渡してくれながら、仕方ないと笑った。
「三ヶ月の間、ユキに選んでもらえるよう頑張るよ」
へにょっと眉を下げる颯真に、不覚にもちょっとだけ心ときめいたのはナイショだ。
「えぇ? 俺ら、アルファ同士だよ?」
俺と颯真の仲がいいから誤解してるやつも多いけど、本来同性のアルファ同士ってのは、あまり仲良くなれない。
たとえるならオスの肉食獣。
彼らには縄張りがあり、侵入した他のオスを許さない。親兄弟は例外だけど、一方で親兄弟すら敵視し合い若くして独り立ちするアルファは多い。
それだけ、縄張り意識やプライドを重視する性なんだ。
しかしどんな集団にも例外はいて、俺はいわゆるアルファらしくないアルファだという。
水道と電気が通った離れが建ってるような颯真の家は、言わずもがな代々優秀でプライドが高いアルファ家系。颯真自身も格の高い、いわゆる強いアルファだ。
そんな颯真が格下とはいえアルファの俺と、無害なベータの友人たちと同等に仲良くしてられるのは、俺が突然変異アルファとベータの間に生まれた、肉食獣の本能が薄い個体のせいだろう。
悪く言えば、雑種。
なので俺は世間一般の常識に外れ、アルファの友人が複数いるアルファなんだけど……だからと言って、同じ第二性の男同士で恋に落ちる可能性は相当に低いわけで。
「気持ちを自覚したのは、ユキがオメガになってからだ」
「それって……」
まさにさっきまで考えていたことではないか。
うぶな颯真は、身近に突然現れた、重いことを言わず番になる必要もない、お手軽なオメガと寝たことで勘違いをしてしまった。
いわゆる気の迷いというやつだ。
「いやいやよく考えなよ。今はオメガが珍しいだろうけど、颯真みたいな文武両道イケメンアルファなら周りがほっとかない。大学でオメガと同じキャンパスになれば、ビュッフェみたいによりどりみどり食べ放題なんだよ?」
「ビュッフェって」
颯真が妙なところに引っかかってちょっと笑った。俺も釣られて笑った。
いや笑ってる場合じゃないぞ。
「今急いで近くのオメガで手を打つことないよ。それに俺はオメガもどきなんだ。本物のオメガはきっともっといい匂いで、柔らかくて小さくて、もっと可愛いよ」
本物のオメガなんて見たことないけど、ネットで見る写真や文章の中のオメガは、どいつもこいつも俺とは似ても似つかない存在だった。
守ってあげたいと思わせる、小動物のような雰囲気。
第一性が男でも、清楚だったり可憐だったりする。
そして発情期には信じられないくらい淫らで妖しくアルファを誘う。
俺にはどれも、どれ一つオメガらしい要素はない。
「でも、ユキは一人しかいない」
「え……」
「気づいたのは、ユキがオメガになってからだった。でも俺はユキがオメガだから欲しいんじゃない。ユキがオメガだから好きなんじゃない」
驚く俺に、颯真はぽつぽつと心のうちを話してくれた。
彼曰く、俺がオメガになるまでは気持ちにストッパーがあったのだという。
「ユキはアルファだから、特別に思うわけがない」と。
他のアルファに感じる嫌悪感や敵愾心が俺相手だと湧かないのは、俺がアルファらしくないアルファだから。
それ以上の意味はないと思い込んでいた。
「でもユキがオメガになって、俺の中にあったストッパーがなくなった。ユキに恋とか愛とか、そういう気持ちを持っていいって、背中を押されたような気がした」
「こ、恋って」
「今回のことはきっかけに過ぎない。俺はユキがアルファでも好きだった。オメガでもベータでも、きっと第二性がなくたって好きになった。気持ちより先に体を繋げてしまったから、信じられないだろうけど、これが俺の本心なんだ」
めちゃくちゃ好き好き言われて照れる。言葉の端々に溢れんばかりの感情が乗っている。
こんな告白をされて、気の迷いだなんて簡単に切り捨てられるわけがない。
颯真は俺がどんな性別でも好きになってくれるというのか。
でも、じゃあなぜ。
「なんでオメガのままでいてほしいんだ?」
「性別なんてなんでもいい……と本当は言い切りたいんだが、アルファやベータだと、ユキを他に獲られたら奪い返せる自信がない」
「他……」
「ユキがオメガなら、番にできる。俺のフェロモン以外感じない、俺以外を誘うこともない、余所見なんてできない唯一の番に」
熱のこもった至近距離の視線に、思わず顔を背ける。
頬が赤くなってるかもしれない。
「そんなこと考えながら俺の発情期相手してくれてたの? 案外むっつりなんだな」
「う……それを言われると……本当は、あの状態でもうなじを噛めば番にできるんじゃないかとウズウズしてた」
俺より理性的に見えた颯真の意外な言葉だった。
あのとき噛まれてたら、どうなってたんだろ。
まさか本当に番になったりはしなかったと思うけど……我が事ながら自信はない。
「でも我慢したんだ? 俺の首にベルト巻いて」
「体だけ番にしたって意味がない。俺はユキの心とか考え方とか、そういう部分を好きになったんだから」
「そ、そっか……」
これだけ言葉を尽くされれば、本気だってことがわかる。
それならこっちも誠意を持って返事しなくては。
俺は今日、アルファに戻るつもりでここに来た。
でも確固たる意志があったわけじゃない。
ある日突然不当に、冤罪で、第二性を変えられてしまったのだから、当然元に戻してもらわなきゃならない。俺が一週間考えてきたのは、たったそれだけの理由だ。
しかしここにきて事情が変わった。
オメガとしての俺を求められている。他ならぬ、親友である颯真に。
学校という狭い社会では優秀な部類だけど、アルファとしてはそれほど特別じゃない、茫洋と日々を過ごしていたアルファとしての俺。
一方で、薬を飲めばそれほど苦労することなく、すでに発情期まで済ませて、しかも俺を番として一番にと望んでくれるアルファがいる、オメガとしての俺。
あれ。もしかして、まんざらでもないんじゃないか?
「はー。青春だのぅ……」
俺と颯真しかいなかったはずの場所に、突如第三者が現れた。
高く澄んだ変声期前の少年の声。
慌てて振り向いた俺の前に、白装束の少年が立っている。
「神様!」
「おう、大便の男子高校生。きちんと期日に顔を出すとは感心感心」
「待って。いくらなんでもそのあだ名は酷すぎ」
「お、そうか。いやすまんすまん」
神様は悪びれもせず呵呵と笑った。
かといって俺の名前を尋ねるでもなく、お馴染みの細い棒を一振りする。
「それで? こちらは準備できておるが、おまえさんはそうでもないようだのぉ」
「あー、うん。神様、アルファに戻るのって保留できる?」
空き地に音もなく現れた、およそ時代錯誤な服装の少年に目を見開いて驚き固まっていた颯真は、今度は俺の言葉に耳を疑いこっちを向いた。
「ゆ、ユキ! 本当にいいのか、今戻らなくて」
「なんだよー。自分から告っといて、俺がアルファに戻ってもいいの?」
「いや……だ、だけど」
「じゃあいいじゃん。できるならしばらくオメガのままで、颯真のことちゃんと考えたい。というわけで神様、どう?」
神様は長い棒を持ったまま器用に腕を組んで、うんうんと頷いた。
「可能である。変化させたものを元に戻すのは、それほど力を必要としないのでな」
「そうなんだ。じゃあしばらくこのままでいるね」
「ユキ……」
颯真のイケメンがくしゃりと歪んで、抱き寄せられた。
抵抗しないでいると、正面からぎゅうっと抱き締められる。
泣いてはいないみたいだけど、すごく喜んでくれてるのが伝わってくる。
「さて。そうと決まればいくつか注意事項がある。二人とも聞け」
「はーい。颯真、一回離れて」
颯真の背中をぱたぱた叩いて抱擁を解かせ、神様に向き直る。
少年姿の神様は、見た目に全くそぐわない「よっこらせ」という声と共に祠が乗っている四角い岩に腰掛けた。
神器だという長い棒を俺の体に一度翳し、戻す。
「そうか、おまえたち交わったのだな」
「えっ!?」
そういうのわかっちゃうもんなのか。
恥ずかしいやら恐ろしいやらで目を白黒させる俺たちに白装束の少年は「神様だからのぅ」と胸を張ってみせた。
「そういう仲なら心得よ。おまえの体は完全なオメガではない。子を孕むことはできず、首筋を噛まれても番となることはできん」
「え、そうなの?」
「所詮、怒りに任せて咄嗟に使った力。完全な変化ではなかったようだのぅ。とりわけオメガが子をつくる器官は、生まれながらにオメガたる者たちでも時間を掛けて成長させるもの。子を成す場所が不完全であるうちは、番も結べぬ」
確かに、アルファとオメガの番関係はそれなりの年齢に達してからだと聞いたことがある。
それより今の俺が子どもを産めてしまう状態じゃなくて良かった。
あのどろどろ発情期の最中に避妊薬を飲んだ記憶はない。さすがにドラッグストアで気軽に買える薬じゃないし、高校生でいきなり性転換した上に妊娠……という、両親卒倒コンボを決めるつもりはなかったから。
「その言い方だと、ユキを完全なオメガにすることもできそうですよね」
ずっと神様の動向を注視していた颯真が口を挟んだ。
神様はそんな颯真をちらりと見て頷く。
「当然である。神様だからのぅ。おまえをアルファに戻すために溜めた力で、子を成す器官の成長を促し、オメガたる機能を万全にすることも可能」
「でも……それって」
「そう。おまえのために神が用意した力、使うのは一度きり」
アルファに戻るか。オメガと成るか────。
立ち尽くす俺たちを横目に、白装束の神様は音もなく祠から降りて地面に立った。
棒を杖のように突いて、俺たちを────俺を見つめる。
「期限は特にないが、その調子でそこなアルファと絆を深めれば、元の体に戻すのは難しくなろう。三月以内に、再び答えを聞かせよ」
「あ……わかり、ました」
「うむ。どちらの答えを出すにしても尊重しよう。おまえには苦労を掛けてしまったからな。では」
次こそは手土産を持って参れ。
少年神様はそう言って、以前と同じく風のように消えた。
「神様、実在したんだな……」
呆然としながらぽつりと呟かれた颯真の言葉に、うんうんと頷く。
初回の邂逅は白昼夢じみていたので、こうして第三者がいる場に現れるとすごくリアルな神様だった。
相変わらず子供の見た目だし、威厳とかオーラとかはなかったけど。
「それよりユキ! 本当に、体戻してもらわなくて良かったのか?」
放心状態から立ち直った颯真に勢いよく詰められ、再度頷く。
「うん。神様も三ヶ月以内なら戻せるって言ってたし、ゆっくり考える」
「本当に大丈夫なのか……だって三ヶ月って言ったら」
「もう一度発情期が来るかもしれない」
俺だってちゃんと考えて神様に返事したんだ。ぼけっとしてたわけじゃない。
たった一人誰にも体のことを告げられず、オメガ性を持て余して苦しんだとしたら、俺は今日確実にアルファの体を取り戻していただろう。
でも俺には颯真がいる。
「次の発情期も、颯真が相手してくれると思ったんだけど。それとも、その辺の知らないアルファに抱かれてきた方がいい?」
挑発的に告げた瞬間、颯真の目がぎらりと光った。
飢えた獣に睨まれるような、恐ろしいけどゾクゾクと湧き上がるものがある、欲望を剥き出しにした姿。
そうだった。記憶が曖昧だけど、発情期の最中も彼はこんな表情をしていた。
「そんなことは許さない……わかった。発情期もそれ以外も、全部付き合う」
「へへ。お世話になります」
「はぁ……ノリが軽い……心配だ」
獣の瞳は本当に一瞬だった。
すぐにいつも通りになった颯真は、地面に置いてあった二人分の鞄を拾い上げる。片方を渡してくれながら、仕方ないと笑った。
「三ヶ月の間、ユキに選んでもらえるよう頑張るよ」
へにょっと眉を下げる颯真に、不覚にもちょっとだけ心ときめいたのはナイショだ。
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