虹虹の音色

朝日 翔龍

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第3章 MIRA CREATE!

第16話 居場所

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 優助くんと約束を交わした翌日。その予告は、突然だった。

「来週から文化週間だ」

 担任の先生から、突然そう言われたのだ。でも、中等部の頃の文化週間はちょうど1ヶ月後くらいだったはず。

「先生、文化週間って来月なんじゃないですか?」

 僕の記憶通り、やっぱり来月の5月のはず。なのに4月中旬でやると言い出す先生の目は一切揺るぐことはなかった。

「それは中等部の話。高等部は中等部と被らないように1ヶ月早くやるんだ」
「「えぇ~っ⁉︎」」

 聞かされていない話だ。それに、中には部活を変えた生徒や、入ったばかりで部活どころか学校に馴染めていない外部生もいる。
 それなのに、そんな生徒を全く気にかけないスケジュールに生徒は不満の声をとめどなく上げる。

「不満なのは分かる。だが、良いか? 完成度とかは求めていない」
「えっ?」

 先生が言い出す言葉に、不満の声に包まれていた教室が無音になった。それは僕も例外じゃなかった。不満だらけの心が真っ白になった。

「求めているのは、君達が楽しんでいる顔だけ。青春している姿なんだ」
「せい……しゅん……」

 僕は中庭を写す窓を見た。地面には桜の花びらが織りなす絨毯が広がる。
 春がようやく来た。なんとなく、そんな気がした。と同時に、僕は机の中からノートを取り出し文字を綴り出す。
 隣に座っているのは、優助くんが、僕のノートを見ている。でも気にしない。書き続ける。忘れていた全てを、今取り戻すために。



 気付けば放課後だった。授業中もほとんど言葉を綴り続け、4つの詩を書いていた。

「ふぅ……」
「ん、お疲れさん!」
「うわっ! ゆ、優助くん……」

 優助くんが僕の肩を強く叩き、机の上に缶サイダーを置いてくれた。

「疲れたときには甘いもんだ。昨日は楽しかったなぁ~」
「うん……夢中で」

 あんなに夢中になったのは初めてだ。言葉に感情を込めたのも。今までは叫んでいたはずなのに。優助くんの音は僕の感情を弾ませてくれる。今でも覚えている。この心が弾けていた、名前のない感情。
 僕の初めてを、優助くんの音が与えてくれる。かーくんとは違った景色へ導いてくれる。ううん、違う。導くだけじゃない。この手をちゃんと握ってくれる。僕に握り返すことを求めて。

「……ありがとな」
「お礼を言うのは、僕だよ! 見つけてくれて……ありがとう」

 「ありがとう」だけじゃ足りない。僕の中には、声だけじゃ表せられない感情がある。それに気付いたとき、僕はまた言葉を綴り始めた。
 でもこの手を、優助くんは止めた。

「言うな言うな。ありがとうだけで充分だしよ」
「……うん。分かった」

 僕はノートを閉じて鞄の中へ仕舞い込んだ。僕の居場所、またできた。生まれ変わって、出会いに来てくれた。

「ねぇ、練習……してこ?」
「あ~。お前、書いてて聞いてなかったな? 今日からみっちり練習だで!」
「ほんと⁉︎ 行こっ!」
「んな焦ることはねぇだろ」
「ぶふっ! ハハッ!」

 苦笑いする優助くんを見て、思わず僕は吹き出すほど笑ってしまった。

「なっ、笑うこたぁないだろ!」
「ごめん、でも……ふふっ、行こっか!」
「また笑ったな! 待て~~~っ!」

 子供のような無邪気の笑い声をあげながら僕達はかけっこする。傾いた夕日が映し出す影は長く長く伸びて、いつかの僕達と繋げていく。
 ちゃんと覚えている。それで良い。やっと気付けた答えを胸に抱えて、僕はまた1歩を紡ぎ出す。僕が僕でいられる場所、また見つけられた。
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