プライド・オブ・ディスティニー

朝日 翔龍

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プロローグ 僕の居場所

第4話 拾い上げる

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 契約書のサインもしたし、これでファイターになれた……よね? サインだけじゃ、実感ないや。

「今日はここまでにしておこう。あの戦闘をした後だ、疲れているだろう」
「あぁ~、そういえば体が痛いって」
「歩くのでやっとなくらいだぜ……」

 だよね。あれだけの支援力を使って身体強化なんてしたら、筋肉痛どころの騒ぎじゃない。それなのに、意外にも歩くことはできるなんて。

「一応、湿布とか貼るから」
「お、湿布ならあるぞ。たしか、ここに……」

 ロアリングが引き戸を開けると、中から救急箱を取り出した。
 他にも頭痛薬とか絆創膏とか、必要最低限のものが収納されている。

「で、どこが痛いんだ?」
「腕とか肩とか胸とか背中とか……もう全身だ」

 その返答に、ロアリングは苦笑いしてため息を吐いた。

「流石に全身はなぁ……ならこっちだな」

 ロアリングは湿布をしまって、粉末状の鎮痛剤を代わりに取り出した。

「これ飲め。すぐに痛みも消えるぞ」
「お、おう。このままか?」
「あぁ、水と一緒に服用すると効果が薄まっちゃうからね」

 ナックルさんは渡された鎮痛剤を一気に飲み込んだ。それと同時に、バタリと倒れ込んだ。

「え、ちょっと⁉︎」
「心配すんな、薬の副作用だ」
「強すぎるあまり、激しい眠気に襲われるんだ。ただ、目を覚ますと嘘みたいに痛みが消えているのさ」

 嘘じゃないみたいだけど、いきなり倒れるからビックリしたよ。そういう説明は先にしておいてくれないと、心の準備ができないって。

「とりあえずソファに寝かしておくか。って、あ?」

 僕はナックルさんを背負ってソファまで運んだ。
 ただそれだけなのに、ペーターさんもロアリングも僕の方をじっと不思議そうに見つめてくる。

「え、っと?」
「いや、君、見かけによらず力持ちだね……」
「あぁ、俺様でも流石にその筋肉ダルマをそんな軽々と背負える自信は……」

 2人はそう言うけど、そんなにすごいことかな。たしかに僕の体はヒョロヒョロとしてるけど、ナックルさんを持ちあげることに関しては余裕だし。多分、この2人にもできそうだけど。

「……とりあえず、君はどうするんだい? 今日は特に仕事も……?」

 席についたペーターさんが、自分のタブレット端末から立体映像を映し出すなり目を止めた。

「……ふむ。フラットくん、ちょうど来たよ。ファイターを、救いに行こう」
「えっ? 救うって……え?」
「さっき言ったばっかだろ? 俺様たちは、政府に踊らされるだけのファイターを救うってな」

 いや、聞いたばっかだよ? もちろん覚えてるよ? ただ、そんな急展開についていけるほど単純じゃないよ。
 どういう仕事なのか、どういうふうにやればいいのか、まだ何も分かっていないのにほいほいと了承できないって。

「まあ、まずこれを読んでみてくれ」
「えっと……?」

 ――政府によって禁忌を超えた存在の保護。

 ペーターさんが僕に見せた立体映像にはそう書かれていた。また、その映像に載せられていた写真には、黒いフードを被ったヒョウ型獣人の姿があった。

「……政府は、こういう存在を生み続けてるんだ。俺たち獣人が生まれたのも、政府が発祥だぜ?」
「え?」
「教科書には載せられない内容だからね。知らなくて当然だろう」

 教科書にもインターネットにも、獣人は宇宙から落下した隕石にくっついていた微生物があちこちに飛散して生物に寄生した結果生まれた存在って教わってきた。
 
 ――でも、今考えるとそれってアリジゴクのことにしか聞こえない。

 アリジゴクも同じく隕石にくっついていた微生物。それを都合よく使って、そんな倫理観のカケラもないことまでしてるなんて……。

「政府は、経済さえ何を犠牲にしてでも回るならそれでいいって考えだ。人間のDNAと、動物のDNAとを融合させ、成功した個体を実験台として扱う」
「……俺様も、同じだ。なんとか脱走して、ペーターに拾われた」

 そんな政府が、国民を守る……? 国民を守ってるのは、政府なんかじゃない。政府が駒としか見ていない、ファイターじゃん。
 嘘だらけ、倫理感を捨てている、命を駒扱い。秩序を保つために秩序を壊している政府を変えるのは、ここしかない。

「最初はまいったよ、死ぬために戦っていくしか考えていなかったからね」
「……そういうふうに作られているからな。俺様も行くぜ、対等に話せるのは俺様だけだからな」

 たしかに、そうかもしれない。僕には、実験台として扱われる気持ちは分からない。そんな僕に何を言われても、絵空事にしか聞こえないだろう。

「内容は分かりましたけど……どうやるんです? 保護って……」
「大丈夫だ。行動範囲は既に絞られている。浅草寺周辺を探索すれば見つけられるはずだ」
「了解だぜ! そら行くぞ、後輩!」

 ロアリングが僕の手を痛いほど無理矢理引っ張って外へと連れ出した。痛いはずだけど、嫌な感じはしない。ナックルさんと付き合ってるせいか、慣れちゃったのかもしれない。

「あ、そうだ。フラット、スーツあるか?」
「スーツ……? ビジネス用ならあるけど……」
「あぁ~、そういうのじゃなくってな。戦闘用のだ、戦闘用の」

 戦闘用って、ナックルさんの鎧みたいなやつのことかな。僕は今までファイターやってないから、そういうのは持ってない。

「まあその反応を見る限り、持ってないな。先に作っとくか!」
「え、ちょっと仕事は~⁉︎」

 いい人なのは分かるんだけど、優先すべき事項があやふやなのか振り回される。ナックルさん以上に計画性がない人っているんだなぁ、なんてしみじみ思う僕であった。
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