プライド・オブ・ディスティニー

朝日 翔龍

文字の大きさ
6 / 8
プロローグ 僕の居場所

第6話 精一杯の手

しおりを挟む
 マドールさんと共に店から出ると、すぐそばの路地裏へとたどり着いた。そこに、写真と全く同じ格好をしたヒョウ型の獣人が座り込んでいた。
 間違いなく、エドだ。タダ、やはりケモノ臭い。

「……エドちゃん、少しいいかしら……?」
「……なんで、人間なんか連れて来たんすか」

 エドは僕をキッと睨みつける。その目には、輝きはなかった。
 その目に、僕は今にも泣きそうになった。この目は、僕も知っている。僕も持っていた目だ。ナックルさんと出会うまでの、あの目と全く同じだ。

「エド、僕たちは君と同じだよ」
「お前を作り出した政府を全否定するために、お前を保護しに来た」

 僕たちの目的を、嘘偽りなくぶつける。それしか、できない。でも、これならできる。唯一無二の言葉なんだ。

「……興味ないっす」

 エドはそのまま立ち去ろうとした。

「待てよ」

 エドの腕を、メイトが強く握りしめて引き止めた。

「……離せっす」
「お前、自由になりたくねぇか?」

 自由……。そっか、メイトにしか言えないことだ。実験台という名の束縛された人生。それを知っているからこそ、心の底から言える言葉。僕には、絵空事でしかならないものだ。

「……なれるなら、とっくになれてるっす」
「……どういう意味だ?」
「エドくんの心臓と脳には、あるものが埋められているの」
「……ッ⁉︎」

 僕の目には、それが何かは分からないけれど見ることはできた。秩序なんてない、ドス黒いオーラが、エドの頭と胸を覆い隠している。

「……最悪……!」
「お前、見えるんすか?」

 エドの目に、一瞬だけ光が宿った。

「見える……ってほどじゃないけど……何されたの? 爆弾とかじゃないよね……?」
「……正解に近いわ。埋め込まれているのは、放電装置。一瞬で気持ちよくなるくらいの、ね」

 何本ネジがぶっ飛んだらそんな思考回路に堕ちるんだ。自分たちが生み出した命だからって、好き勝手に扱っていいわけがない。生まれた以上、生きる意味がある。それを、実験台としてだなんて……!

「少しでも政治に逆らったものなら電流が流れるみたいなの。まだ弱めで済んでいるけれど、いつ本気の電流が流れるか……」
「エド、ちょっとごめんね」

 僕はすかさずエドの頭を触れようとした。だけど――

「触るなっす!」
「いっ……!」

 僕の手を、エドは鋭い爪で引っ掻いた。
 引っ掻かれたばかりなのに、傷の周辺がプックリと腫れる。

「おい大丈夫か⁉︎」
「大丈夫よ、見せてちょうだい」

 マドールさんが僕の傷を触れるなり、嘘みたいに傷も腫れも消えていた。

「……エド。僕はエドの痛みを全部は分からない。でも、政府を憎んでいるのは同じ。だから――」
「ダメ! エドちゃんの前でそんなこと言ったら――」
「アガァァァァァァ⁉︎」

 マドールの忠告が遅かった。フラットが政府への恨みを発した影響で、エドの脳や心臓に埋め込まれた放電装置が作動した。

「エドちゃん!」
「……エド!」

 理由なんてなかった。僕は、気付けばエドに抱きついていた。
 あまりの痛みに暴れるエドは、僕のあちこちを引っ掻く。でも、そんな痛みなんてどうでも良かった。どうでも良くなるくらい、僕はエドを抱きながら泣いていた。
 自分でも分からない感情が、僕の全身に流れ、力へと変わった。

 フラットの涙一粒一粒がエドに伝うたび、その力がエドの中に埋められていた放電装置が弱まっていく。

 ――やがて、装置が止まってしまうほどに。

「……凄いわ、フラットちゃん、本当にクラリオなのね……」
「あぁ……俺様も想定外だぜ……」

 フラットの力をしかと目に焼き付け、正真正銘あのクラリオの息子だと認識した。

「……ハァ、ハァ……!」
「エド、大丈夫⁉︎ エド、エド!」

 息を安定して繰り返せるようになり、僕は咄嗟に名前を呼び続ける。

「ハァ、ハァ……だ、だいじょ……ハァ、ハァ……」
「……もう、大丈夫だよ……」

 僕に何ができるか。まだ答えは曖昧だけど、ひとつだけ分かった。政府に踊らされるだけの人生に、終止符を打つこと。それが僕の生きる道だ。救える命を、二度と失わないように。

「……見てて、みんな……僕はもう、誰も殺さないから……!」

 一度は恐れてしまったこの力。今なら愛してあげられる。殺しじゃない、救うために使ってあげられる。

「とりあえず、エドを保護するぞ。フラット、いいか?」
「え、なんで僕⁉︎」
「そりゃあ、あのデカブツを背負えるんだ。いいだろ?」

 デカブツって、ナックルさんのことだよね。幼馴染だからコツが分かってて背負えるだけなんだけどなぁ。でもまあ、エドなら軽そうだしいいか。

「よっと……?」

 僕、一応は男を背負ってるよね? すごく、軽い。ありえないくらい軽い。子どもを背負ってる感覚と同じ。
 その重みが、また僕の目に涙を浮かべた。

「……エド、帰ったらたくさん食べよう。僕の幸せ、全部あげるから」

 あのとき、ナックルさんから教えてもらったように。僕も全部あげようと思う。僕が知ってる幸せを、精一杯。エドの知らない当たり前の中で――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...