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プロローグ 僕の居場所
第6話 精一杯の手
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マドールさんと共に店から出ると、すぐそばの路地裏へとたどり着いた。そこに、写真と全く同じ格好をしたヒョウ型の獣人が座り込んでいた。
間違いなく、エドだ。タダ、やはりケモノ臭い。
「……エドちゃん、少しいいかしら……?」
「……なんで、人間なんか連れて来たんすか」
エドは僕をキッと睨みつける。その目には、輝きはなかった。
その目に、僕は今にも泣きそうになった。この目は、僕も知っている。僕も持っていた目だ。ナックルさんと出会うまでの、あの目と全く同じだ。
「エド、僕たちは君と同じだよ」
「お前を作り出した政府を全否定するために、お前を保護しに来た」
僕たちの目的を、嘘偽りなくぶつける。それしか、できない。でも、これならできる。唯一無二の言葉なんだ。
「……興味ないっす」
エドはそのまま立ち去ろうとした。
「待てよ」
エドの腕を、メイトが強く握りしめて引き止めた。
「……離せっす」
「お前、自由になりたくねぇか?」
自由……。そっか、メイトにしか言えないことだ。実験台という名の束縛された人生。それを知っているからこそ、心の底から言える言葉。僕には、絵空事でしかならないものだ。
「……なれるなら、とっくになれてるっす」
「……どういう意味だ?」
「エドくんの心臓と脳には、あるものが埋められているの」
「……ッ⁉︎」
僕の目には、それが何かは分からないけれど見ることはできた。秩序なんてない、ドス黒いオーラが、エドの頭と胸を覆い隠している。
「……最悪……!」
「お前、見えるんすか?」
エドの目に、一瞬だけ光が宿った。
「見える……ってほどじゃないけど……何されたの? 爆弾とかじゃないよね……?」
「……正解に近いわ。埋め込まれているのは、放電装置。一瞬で気持ちよくなるくらいの、ね」
何本ネジがぶっ飛んだらそんな思考回路に堕ちるんだ。自分たちが生み出した命だからって、好き勝手に扱っていいわけがない。生まれた以上、生きる意味がある。それを、実験台としてだなんて……!
「少しでも政治に逆らったものなら電流が流れるみたいなの。まだ弱めで済んでいるけれど、いつ本気の電流が流れるか……」
「エド、ちょっとごめんね」
僕はすかさずエドの頭を触れようとした。だけど――
「触るなっす!」
「いっ……!」
僕の手を、エドは鋭い爪で引っ掻いた。
引っ掻かれたばかりなのに、傷の周辺がプックリと腫れる。
「おい大丈夫か⁉︎」
「大丈夫よ、見せてちょうだい」
マドールさんが僕の傷を触れるなり、嘘みたいに傷も腫れも消えていた。
「……エド。僕はエドの痛みを全部は分からない。でも、政府を憎んでいるのは同じ。だから――」
「ダメ! エドちゃんの前でそんなこと言ったら――」
「アガァァァァァァ⁉︎」
マドールの忠告が遅かった。フラットが政府への恨みを発した影響で、エドの脳や心臓に埋め込まれた放電装置が作動した。
「エドちゃん!」
「……エド!」
理由なんてなかった。僕は、気付けばエドに抱きついていた。
あまりの痛みに暴れるエドは、僕のあちこちを引っ掻く。でも、そんな痛みなんてどうでも良かった。どうでも良くなるくらい、僕はエドを抱きながら泣いていた。
自分でも分からない感情が、僕の全身に流れ、力へと変わった。
フラットの涙一粒一粒がエドに伝うたび、その力がエドの中に埋められていた放電装置が弱まっていく。
――やがて、装置が止まってしまうほどに。
「……凄いわ、フラットちゃん、本当にクラリオなのね……」
「あぁ……俺様も想定外だぜ……」
フラットの力をしかと目に焼き付け、正真正銘あのクラリオの息子だと認識した。
「……ハァ、ハァ……!」
「エド、大丈夫⁉︎ エド、エド!」
息を安定して繰り返せるようになり、僕は咄嗟に名前を呼び続ける。
「ハァ、ハァ……だ、だいじょ……ハァ、ハァ……」
「……もう、大丈夫だよ……」
僕に何ができるか。まだ答えは曖昧だけど、ひとつだけ分かった。政府に踊らされるだけの人生に、終止符を打つこと。それが僕の生きる道だ。救える命を、二度と失わないように。
「……見てて、みんな……僕はもう、誰も殺さないから……!」
一度は恐れてしまったこの力。今なら愛してあげられる。殺しじゃない、救うために使ってあげられる。
「とりあえず、エドを保護するぞ。フラット、いいか?」
「え、なんで僕⁉︎」
「そりゃあ、あのデカブツを背負えるんだ。いいだろ?」
デカブツって、ナックルさんのことだよね。幼馴染だからコツが分かってて背負えるだけなんだけどなぁ。でもまあ、エドなら軽そうだしいいか。
「よっと……?」
僕、一応は男を背負ってるよね? すごく、軽い。ありえないくらい軽い。子どもを背負ってる感覚と同じ。
その重みが、また僕の目に涙を浮かべた。
「……エド、帰ったらたくさん食べよう。僕の幸せ、全部あげるから」
あのとき、ナックルさんから教えてもらったように。僕も全部あげようと思う。僕が知ってる幸せを、精一杯。エドの知らない当たり前の中で――
間違いなく、エドだ。タダ、やはりケモノ臭い。
「……エドちゃん、少しいいかしら……?」
「……なんで、人間なんか連れて来たんすか」
エドは僕をキッと睨みつける。その目には、輝きはなかった。
その目に、僕は今にも泣きそうになった。この目は、僕も知っている。僕も持っていた目だ。ナックルさんと出会うまでの、あの目と全く同じだ。
「エド、僕たちは君と同じだよ」
「お前を作り出した政府を全否定するために、お前を保護しに来た」
僕たちの目的を、嘘偽りなくぶつける。それしか、できない。でも、これならできる。唯一無二の言葉なんだ。
「……興味ないっす」
エドはそのまま立ち去ろうとした。
「待てよ」
エドの腕を、メイトが強く握りしめて引き止めた。
「……離せっす」
「お前、自由になりたくねぇか?」
自由……。そっか、メイトにしか言えないことだ。実験台という名の束縛された人生。それを知っているからこそ、心の底から言える言葉。僕には、絵空事でしかならないものだ。
「……なれるなら、とっくになれてるっす」
「……どういう意味だ?」
「エドくんの心臓と脳には、あるものが埋められているの」
「……ッ⁉︎」
僕の目には、それが何かは分からないけれど見ることはできた。秩序なんてない、ドス黒いオーラが、エドの頭と胸を覆い隠している。
「……最悪……!」
「お前、見えるんすか?」
エドの目に、一瞬だけ光が宿った。
「見える……ってほどじゃないけど……何されたの? 爆弾とかじゃないよね……?」
「……正解に近いわ。埋め込まれているのは、放電装置。一瞬で気持ちよくなるくらいの、ね」
何本ネジがぶっ飛んだらそんな思考回路に堕ちるんだ。自分たちが生み出した命だからって、好き勝手に扱っていいわけがない。生まれた以上、生きる意味がある。それを、実験台としてだなんて……!
「少しでも政治に逆らったものなら電流が流れるみたいなの。まだ弱めで済んでいるけれど、いつ本気の電流が流れるか……」
「エド、ちょっとごめんね」
僕はすかさずエドの頭を触れようとした。だけど――
「触るなっす!」
「いっ……!」
僕の手を、エドは鋭い爪で引っ掻いた。
引っ掻かれたばかりなのに、傷の周辺がプックリと腫れる。
「おい大丈夫か⁉︎」
「大丈夫よ、見せてちょうだい」
マドールさんが僕の傷を触れるなり、嘘みたいに傷も腫れも消えていた。
「……エド。僕はエドの痛みを全部は分からない。でも、政府を憎んでいるのは同じ。だから――」
「ダメ! エドちゃんの前でそんなこと言ったら――」
「アガァァァァァァ⁉︎」
マドールの忠告が遅かった。フラットが政府への恨みを発した影響で、エドの脳や心臓に埋め込まれた放電装置が作動した。
「エドちゃん!」
「……エド!」
理由なんてなかった。僕は、気付けばエドに抱きついていた。
あまりの痛みに暴れるエドは、僕のあちこちを引っ掻く。でも、そんな痛みなんてどうでも良かった。どうでも良くなるくらい、僕はエドを抱きながら泣いていた。
自分でも分からない感情が、僕の全身に流れ、力へと変わった。
フラットの涙一粒一粒がエドに伝うたび、その力がエドの中に埋められていた放電装置が弱まっていく。
――やがて、装置が止まってしまうほどに。
「……凄いわ、フラットちゃん、本当にクラリオなのね……」
「あぁ……俺様も想定外だぜ……」
フラットの力をしかと目に焼き付け、正真正銘あのクラリオの息子だと認識した。
「……ハァ、ハァ……!」
「エド、大丈夫⁉︎ エド、エド!」
息を安定して繰り返せるようになり、僕は咄嗟に名前を呼び続ける。
「ハァ、ハァ……だ、だいじょ……ハァ、ハァ……」
「……もう、大丈夫だよ……」
僕に何ができるか。まだ答えは曖昧だけど、ひとつだけ分かった。政府に踊らされるだけの人生に、終止符を打つこと。それが僕の生きる道だ。救える命を、二度と失わないように。
「……見てて、みんな……僕はもう、誰も殺さないから……!」
一度は恐れてしまったこの力。今なら愛してあげられる。殺しじゃない、救うために使ってあげられる。
「とりあえず、エドを保護するぞ。フラット、いいか?」
「え、なんで僕⁉︎」
「そりゃあ、あのデカブツを背負えるんだ。いいだろ?」
デカブツって、ナックルさんのことだよね。幼馴染だからコツが分かってて背負えるだけなんだけどなぁ。でもまあ、エドなら軽そうだしいいか。
「よっと……?」
僕、一応は男を背負ってるよね? すごく、軽い。ありえないくらい軽い。子どもを背負ってる感覚と同じ。
その重みが、また僕の目に涙を浮かべた。
「……エド、帰ったらたくさん食べよう。僕の幸せ、全部あげるから」
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