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第3章 心繋げば
第4話 因縁
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京都伏見城。イベント場所は城下公園と決められていた。だが、碁盤の目上の地形という特徴的な道のため、全員は迷子になっていた。
「おい、住宅街じゃねぇか」
「ぼくに言われても、地図を持ってるのはキールなわけだ。文句があるならキールに言え」
「ごめん…ちょっと道間違えちゃったみたい」
「気にすることはないぜ。道は道に繋がってんだ、必ず辿り着けるってもんよ!」
クッセェことしか言わねぇけど、実際その通りなのがもっとムカつく。
こうなったら、俺の天性の勘で突き進んでやるか。
「おい、こっちだ、ついて-」
『はい、アイです!』
「は⁉︎」
アイビッシュのやつはここにいねぇだろ⁈ 何で声がするんだよ⁉︎ 電話口っぽいノイズもしねぇし…。
「立体電話だから声もリアルなだけだ」
「その能力、本当ズルすぎだろ」
『で、道案内ですよね。任せておいてください! このアイビッシュの目を、タァンとご覧にみせましょう!」
立体映像に映るアイビッシュは、瞼を閉ざして神力を使った。
『見えました! そこを右折して、3つ目の信号を左折です!』
「ありがとう、助かったよ」
「流石だぜ、アイ」
『ワァァァァ、バトラーさんに褒められるなんて光栄です! イベント頑張ってください!』
やれやれ、声がでかいやつだな。そういうとこが、アイビッシュらしさなのかもな。
「じゃあこれで。留守番の方は任せたぞ」
『あ、え~っと…その件で謝らなきゃいけないことがあって…』
「? どうしたの?」
『それが…またやっちゃいまして』
「またぁ⁉︎ 何回やる気だよ!」
またって、何やらかしたんだよ。同じ失敗しちゃいけないだろ。子供じゃないんだし。
「あ、ドンボは知らないんだっけ。アイビッシュはね、ちょっと変わった子でさ。演劇が好きで、気付けば1人劇やってるんだ。それで、1人にしちゃうと大声で演劇やるから周りの部署からのクレームが凄くって」
「でも、あの演技力はたしかにイベントに向いてる」
「だな、才能はあるんだが…戦闘ができない以上はスタッフなんだよな」
「仕方ない、そういう社風でやっているんだ」
「…なんだよ、それ」
アイビッシュがそんな扱いを受けていると知り、ドンボの中にあの記憶がフラッシュバックした。
それは、暗くて湿り気が漂う、狭い狭い部屋の中。扉の向こうから、壁の向こうから、啜り泣く声がする。
そんな空間に、ドンボがいた。
「…泣くな! 鬱陶しい! 余計なこと考えちまうだろうが!」
その頃から、ドンボは尖っていた。人の悲しみを、他人事のようにしか思っていない。そんな彼だったのだ。
「ったく…まともに寝れやしねぇ」
「おい、番号0891。時間だ、来い」
「…やなこった、俺は今から寝るんだ」
「逆らうな! 言うことを聞かないなら、こうだっ!」
施設の人間は、ドンボに毎日のように暴力を振るっていた。その証拠に、ドンボの身体、顔はアザだらけ。だが、彼は甘んじてそれを受け続けた。
その結果、彼の身体から神力が抜かれることはほとんどなかった。
その代わり、少しの自由さえも犠牲にして…。
「ふざけんなよ! 戦力だけがお前らにとっては全てなのか⁈」
「な、なんだいきなり。当然だ、それがファイターに基本になるわけで-」
「基本とかそういうわけじゃなくって…あぁもう! なんで分かんねぇかな⁉︎」
その様子を、木陰から1人の青年が息を潜めながら見ていた。
「あ、あの子…もしかして、ドンボ…かな?」
「俺はそういうことを言いたいんじゃなくて!」
「だったら止めなきゃ!」
木陰から覗くことをやめ、青年は光が溢れる外へと飛び出した。
その姿は狐獣人で、服もボロボロ、まさに放浪中のお尋ね者という感じだった。
「やめて! きみ、ドンボだろ?」
「んあ? ってお前か、ゴルン⁉︎」
そう、その青年こそ、このイベントを行うきっかけとなったゴルン・フォスクだった。
「な、コイツがゴルン⁉︎」
「あぁ、久しぶりだな! どうよ、無事脱走できただろ? いやぁ、お前もやりゃあできるじゃねぇか!」
「う、うん…それで、後ろの人たちは…?」
「あぁ。俺が世話してやってるしたっぱよ!」
「おい、ふざけるのもそれくらいにしろ」
「ちぇ、ちょっとくらいは意地張ったって良いじゃんかよ」
って、このセリフじゃキールに怒ってた俺のメンツがズタボロじゃねぇか。
「な、なんか雰囲気変わったね。ドンボ」
「そうか? 別に変わりないと思うが…」
「ううん、変わった。だからさ…こうやってきみと話す日を待ってたんだよっ!」
急に目の色を変えて、ゴルンはドンボにナイフを向けた。
「おいおい、まさかまだ根に持ってんのかよ?」
「ちょ、なになに⁉︎ まさか厄介ごとに巻き込もうとか考えてないよね⁉︎」
「巻き込まれたくないなら逃げてな! コイツは危険だぜ?」
いつになく真剣な瞳でそう語るドンボに、全員は信じざるを得なかった。
「危険だからなんだ、ファイターである以上は、退くわけにはいかない」
「そうだね! やるよ!」
「なら、俺の足を引っ張んなよ!」
コイツ相手にするのは骨が折れるどころの話じゃ済まないからな。それなら、まだ一緒のほうが良い。
「それじゃあ、カメラは俺に任せとけ! フォールは指揮に集中しとけ!」
「もちろん! お前ら、全力でやってこい!」
「「イエッサー!」」
「え、あ、イエッサー?」
何か合図があるなら先に説明しとけって! 驚くだろうが!
「突風札・血霧!」
「破壊札・破壊之遠吠!」
「なんのこれしき! 騙札・乱舞分身!」
2人の業が、ゴルンの分身だけに命中し、本体に当たることなく役目を果たした。
「うそでしょ⁉︎」
「攻撃が通らないか…」
「ダァ! 足引っ張んなつっただろ! もう良い、そこで見ていやがれ! ゴルン、お前の売った喧嘩だ、後悔すんなよ! 斬札・冥界葬斬!」
「くっ⁉︎」
フラットの神力は操れこそできないが、今までよりもずっと強い威力で業を扱えるようになった。
その結果、素早い斬撃がゴルンを襲い、守りすらもままならない状態に追い込んだ。
「ちっ、仕方ない。騙札・煙亡!」
この状況はどうしようもないと悟り、ゴルンは神業を使って逃げ出した。
「ちっ、逃したか」
「説明してもらおうか? アイツとはどういう関係だ?」
「そうだよ! なんで恨み買ってるの?」
「そういう話は公の場所でするな! さっ、空気を入れ替えてイベント準備といくぜ」
「近くに一般人がいなかったのが救いだよな。よし、じゃあ任せる。俺は宿にチェックインしてくる」
フォールは荷物を持って、宿の方に向かった。
「あっ、俺も行ってくるぜ。すぐ戻るからな!」
ああ言っておいて、酒なんか飲まれたらいけないと考えて、ナックルはフォールを追いかけていった。
「…まっ、俺は遊びいってるんで、おつっした~!」
「あ、おい! まったく…」
「あんな自分勝手なやつ、初めてだよ」
「……」
どの口が言うんだと思いながら、スタントはキールを見つめた。だが、スタントの中にまた、自分の感じたことがない感情が芽生えていた。それは冷たくて、心を刺すような、痛いものだった。
「おい、住宅街じゃねぇか」
「ぼくに言われても、地図を持ってるのはキールなわけだ。文句があるならキールに言え」
「ごめん…ちょっと道間違えちゃったみたい」
「気にすることはないぜ。道は道に繋がってんだ、必ず辿り着けるってもんよ!」
クッセェことしか言わねぇけど、実際その通りなのがもっとムカつく。
こうなったら、俺の天性の勘で突き進んでやるか。
「おい、こっちだ、ついて-」
『はい、アイです!』
「は⁉︎」
アイビッシュのやつはここにいねぇだろ⁈ 何で声がするんだよ⁉︎ 電話口っぽいノイズもしねぇし…。
「立体電話だから声もリアルなだけだ」
「その能力、本当ズルすぎだろ」
『で、道案内ですよね。任せておいてください! このアイビッシュの目を、タァンとご覧にみせましょう!」
立体映像に映るアイビッシュは、瞼を閉ざして神力を使った。
『見えました! そこを右折して、3つ目の信号を左折です!』
「ありがとう、助かったよ」
「流石だぜ、アイ」
『ワァァァァ、バトラーさんに褒められるなんて光栄です! イベント頑張ってください!』
やれやれ、声がでかいやつだな。そういうとこが、アイビッシュらしさなのかもな。
「じゃあこれで。留守番の方は任せたぞ」
『あ、え~っと…その件で謝らなきゃいけないことがあって…』
「? どうしたの?」
『それが…またやっちゃいまして』
「またぁ⁉︎ 何回やる気だよ!」
またって、何やらかしたんだよ。同じ失敗しちゃいけないだろ。子供じゃないんだし。
「あ、ドンボは知らないんだっけ。アイビッシュはね、ちょっと変わった子でさ。演劇が好きで、気付けば1人劇やってるんだ。それで、1人にしちゃうと大声で演劇やるから周りの部署からのクレームが凄くって」
「でも、あの演技力はたしかにイベントに向いてる」
「だな、才能はあるんだが…戦闘ができない以上はスタッフなんだよな」
「仕方ない、そういう社風でやっているんだ」
「…なんだよ、それ」
アイビッシュがそんな扱いを受けていると知り、ドンボの中にあの記憶がフラッシュバックした。
それは、暗くて湿り気が漂う、狭い狭い部屋の中。扉の向こうから、壁の向こうから、啜り泣く声がする。
そんな空間に、ドンボがいた。
「…泣くな! 鬱陶しい! 余計なこと考えちまうだろうが!」
その頃から、ドンボは尖っていた。人の悲しみを、他人事のようにしか思っていない。そんな彼だったのだ。
「ったく…まともに寝れやしねぇ」
「おい、番号0891。時間だ、来い」
「…やなこった、俺は今から寝るんだ」
「逆らうな! 言うことを聞かないなら、こうだっ!」
施設の人間は、ドンボに毎日のように暴力を振るっていた。その証拠に、ドンボの身体、顔はアザだらけ。だが、彼は甘んじてそれを受け続けた。
その結果、彼の身体から神力が抜かれることはほとんどなかった。
その代わり、少しの自由さえも犠牲にして…。
「ふざけんなよ! 戦力だけがお前らにとっては全てなのか⁈」
「な、なんだいきなり。当然だ、それがファイターに基本になるわけで-」
「基本とかそういうわけじゃなくって…あぁもう! なんで分かんねぇかな⁉︎」
その様子を、木陰から1人の青年が息を潜めながら見ていた。
「あ、あの子…もしかして、ドンボ…かな?」
「俺はそういうことを言いたいんじゃなくて!」
「だったら止めなきゃ!」
木陰から覗くことをやめ、青年は光が溢れる外へと飛び出した。
その姿は狐獣人で、服もボロボロ、まさに放浪中のお尋ね者という感じだった。
「やめて! きみ、ドンボだろ?」
「んあ? ってお前か、ゴルン⁉︎」
そう、その青年こそ、このイベントを行うきっかけとなったゴルン・フォスクだった。
「な、コイツがゴルン⁉︎」
「あぁ、久しぶりだな! どうよ、無事脱走できただろ? いやぁ、お前もやりゃあできるじゃねぇか!」
「う、うん…それで、後ろの人たちは…?」
「あぁ。俺が世話してやってるしたっぱよ!」
「おい、ふざけるのもそれくらいにしろ」
「ちぇ、ちょっとくらいは意地張ったって良いじゃんかよ」
って、このセリフじゃキールに怒ってた俺のメンツがズタボロじゃねぇか。
「な、なんか雰囲気変わったね。ドンボ」
「そうか? 別に変わりないと思うが…」
「ううん、変わった。だからさ…こうやってきみと話す日を待ってたんだよっ!」
急に目の色を変えて、ゴルンはドンボにナイフを向けた。
「おいおい、まさかまだ根に持ってんのかよ?」
「ちょ、なになに⁉︎ まさか厄介ごとに巻き込もうとか考えてないよね⁉︎」
「巻き込まれたくないなら逃げてな! コイツは危険だぜ?」
いつになく真剣な瞳でそう語るドンボに、全員は信じざるを得なかった。
「危険だからなんだ、ファイターである以上は、退くわけにはいかない」
「そうだね! やるよ!」
「なら、俺の足を引っ張んなよ!」
コイツ相手にするのは骨が折れるどころの話じゃ済まないからな。それなら、まだ一緒のほうが良い。
「それじゃあ、カメラは俺に任せとけ! フォールは指揮に集中しとけ!」
「もちろん! お前ら、全力でやってこい!」
「「イエッサー!」」
「え、あ、イエッサー?」
何か合図があるなら先に説明しとけって! 驚くだろうが!
「突風札・血霧!」
「破壊札・破壊之遠吠!」
「なんのこれしき! 騙札・乱舞分身!」
2人の業が、ゴルンの分身だけに命中し、本体に当たることなく役目を果たした。
「うそでしょ⁉︎」
「攻撃が通らないか…」
「ダァ! 足引っ張んなつっただろ! もう良い、そこで見ていやがれ! ゴルン、お前の売った喧嘩だ、後悔すんなよ! 斬札・冥界葬斬!」
「くっ⁉︎」
フラットの神力は操れこそできないが、今までよりもずっと強い威力で業を扱えるようになった。
その結果、素早い斬撃がゴルンを襲い、守りすらもままならない状態に追い込んだ。
「ちっ、仕方ない。騙札・煙亡!」
この状況はどうしようもないと悟り、ゴルンは神業を使って逃げ出した。
「ちっ、逃したか」
「説明してもらおうか? アイツとはどういう関係だ?」
「そうだよ! なんで恨み買ってるの?」
「そういう話は公の場所でするな! さっ、空気を入れ替えてイベント準備といくぜ」
「近くに一般人がいなかったのが救いだよな。よし、じゃあ任せる。俺は宿にチェックインしてくる」
フォールは荷物を持って、宿の方に向かった。
「あっ、俺も行ってくるぜ。すぐ戻るからな!」
ああ言っておいて、酒なんか飲まれたらいけないと考えて、ナックルはフォールを追いかけていった。
「…まっ、俺は遊びいってるんで、おつっした~!」
「あ、おい! まったく…」
「あんな自分勝手なやつ、初めてだよ」
「……」
どの口が言うんだと思いながら、スタントはキールを見つめた。だが、スタントの中にまた、自分の感じたことがない感情が芽生えていた。それは冷たくて、心を刺すような、痛いものだった。
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