上 下
26 / 59
第1章1節 破壊の母

第4話 破壊から生まれた街

しおりを挟む
 歩くこと2時間。陽炎が揺れる中に、街並みが見える。あと少しだとは、分かっているが、歩くことに疲れを感じていた。

「ちょ、休まない? 疲れたんだけど」
「ぼくも、一旦休みたい」
「そうっすね、あと少しなんすから、休んでも大丈夫っすよ」
「にしても、人に会わないってのが、どうも引っかかるな」
「だな。普通なら会いそうなものだが…」

 戦場跡って、観光地とか、少なくとも有名な場所になりやすいものなんだが、なんで誰もいねぇんだ?

「まさかな」
「? どうかしたんすか?」
「いや、もしかしたらあの街も廃村とかだったり…と思っただけだ」
「えぇ⁉︎」
「それはないっすよ。カメラの映像に人の姿がバッチリ映ってたっすもん」
「それなら良いんだ。てなると、余計に怖いことが想像できそうだけど」

 余計に怖いこと? 街があるってなら、怖えことなんて、他には何もねぇだろ。

「この戦場跡、割と新しいもの。だから放射能がもし使われていたら…」
「えぇっ、私達、被爆者ってことになるの⁉︎」
「大丈夫だ。放射線物質はねぇよ」

 一応は、あの人から力を貰ってんだ。それくらいは、分かるんだよ。余計なことに心配してないで、休むなら、ちゃんと休もうぜ?

「流石はフラットから力を貰っただけあるな。だそうだ、安心しろ」
「フラットから…力を? ドンボ、その話、詳しく-」
『ベイカ! ペッペトゥーユー⁉︎』
「「⁉︎」」


 聞き慣れない言語に、その上、とても怒っているかのような声色が突然響き、全員は咄嗟に声のした方を振り向いた。
 彼らの背後には、頭にターバン、装備は民族服のような軽装備を身に纏い、片手に剣を持つ猫型獣人が大勢いた。

「あっ、もしかしてこの世界! ここは俺に任せるっす! ≪あの、落ち着いて! 俺たちは異世界人だ。ところで、ノールを知っているか≫?」


 その容姿と言葉に、エドはあることに気がついた。それは、ここは偶然にも、元々エドが暮らしていた世界であった。そのため、訛りこそ違うけれど、言語は通じていた。

「そんなことしなくても。ほらよ、翻訳機!」


 フォールは、イヤホンタイプとマイクタイプの翻訳機を全員に手渡した。
 イヤホンタイプので、相手からの言葉を翻訳して使用者の耳へ、マイクタイプので自分の言葉を相手の言語に変換して思いを伝える。
 どちらも、脳波を掴み、言霊を翻訳するため、タイムラグは小数第10位の桁単位と、どんなに耳が良かろうと決して気付けない、こんなときのための逸品である。

「≪我々は知っている。だが、我々は許可できない。あなた方が悪い思想を持っているかもしれない≫》」
「えっと……≪悪い思想って、なんですか?≫」
「≪殺意、私怨、政府転覆、などだ≫」
「えぇ⁉︎   持ってないよ! ていうか、さっきなんて言ったの?」
「落ち着くように促して、ノールを知っているかどうかをを、聞いたっす」

 それさえ聞けば、充分な気がするんだが。それでも、警戒心を解かないとなると、解決策は1つしかないか。

「なら仕方ない。≪俺たちは、テメェらと刃を交えたい≫」
「え、何言ってんの⁉︎   相手は悪い意志を持ってないか疑ってんだよ⁉︎」
「だからだ。こういう戦闘民族は、刃を交わすことで分かるって相場が決まってんだよ」

 この中じゃ、俺にしか分からねぇかもだがな。そういうもんなんだよ、戦いしか知らねぇやつらに、自分達の思いを伝える手段ってな。

 ドンボのかなり危険な提案で、作戦は成功し、会話は成立したらしいが、いきなり相手陣は勢い任せという感じに、襲いかかってきた。

「≪ちょっと、ストップ! お願いだから待ってください!≫」
「≪おっと? どうした?≫」
「≪いきなりすぎるっす。話をさせてもらいたいっす」
「≪分かった≫」


 全員からすれば、疲れているところに、戦闘狂人が現れたのだ。肉体に次いで、精神的にも疲れ始めていた。

「さっ、体制整えて…戦うっすよ!」
「そうか……! 行くぜオメェら!」
「「イエッサー!」」


 流石に、一般人相手に神器は使えない。そのため、神器の元となっているものを、それぞれ取り出した。
 完全な神でない者、つまりファイターは、自分の大事なものを、神器にする。キールは、父親であるキルユウから貰った短剣、スタントは、幼い頃から持ち続けているボウガン、エドとドンボは、神器が神器なために拳と、いつもの戦闘に比べれば、だいぶ小規模な戦闘方法で。

「っと。その前に。翻訳機は、回収させてくれ。それ、お前らの給料3ヶ月分だ」
「ハァ⁉︎   先に言えよな! まっ、ギリギリセーフで、良しにしとくか」


 今更にも、フォールは、翻訳機セットを全員から回収した。だが、あまりに遅い彼の発言に、誰も良くは思わなかった。
 しかし、そんないつも通りの彼に、かえって突然の戦闘に対する焦燥感が、消え失せた。

「課長らしくて、かえって安心するけどね」
「それより、やるっすよ!」
「俺が命令する! フォール、指揮は任せたぜ!」
「あぁ。分かっている!」
(フラットの力を得たらしいが……やはり、全然発揮できてないな。身の丈に合っていない、というのが正しいか)


 たしかにそうであった。ドンボは戦闘で、フラットの能力を一切使わない。いや、正確には使えないのであろう。実際、彼の戦闘記録だと、法の力のデータは1ミクロンも存在していない。
 つまりは、無意識に使っている、ということもないのだ。

「あのままじゃ、まずいな。なんとかしないと、手遅れになる」


 戦う彼の背中を見ながら、フォールはそう呟いた。ドンボ自身も知らない、とてつもない苦痛が、この先に待ち受けていると、フォールは分かっている。
 だからこそ、ある考えをフォールは抱いた。それは、自分の仲間を助けることよりも、優先すべきことだと、確信して。

しおりを挟む

処理中です...