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4節 破壊の芽

第2話 傷つく姿

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 なんとかエルゴに言うことを聞かせて、俺たちは楽々塔のある街へ戻れるかと思っていた。
 だが、雨が降り出してしまい、すぐには戻れそうになかった。仕方なくエルゴの擬人化魔法を戻して、俺たちは道中で見つけた古小屋で雨宿りをしていた。

「あ~あ。誰も傘を持ってないなんて」
「日傘を持ってきておいて、雨傘を持って来なかったやつには言われたくないぜ」
「そう言うドンボも、何も持ってきてないじゃないか」

 だな、俺が持ってきたのは神器だけ。つまりは、荷物なんて持ってきてねぇ。現地調達で済むと思っていたからだ。

「父ちゃん、眠い」
「ん? 寝りゃ良いじゃねぇか」
「だよな。寝る」

 何を思っているのかは分からないが、エルゴはいちいち寝ることを躊躇っていた。
 だが、俺が許可したことでエルゴは眠りについた。

「ふぅ…んじゃ、俺たちも休もうぜ」
「そうだね。今のうちにゆっくりしておこ」

 俺たちもゆっくりすることにした。
 


 その夜、雨も上がり、虫の鳴く声がした。そんな中、『ドングッシャアァ!』という爆発音が遠くから響いた。耳鳴り程度で済んだが、音がした方向は昼頃に俺たちがいた方からだった。

「な、なんだ⁉︎」
「洞窟のほうだ、行くぞ!」
「事件だったらまずいからね。急ぐよ!」
「…? どうしたんだよ父ちゃん?」

 爆発音ではなく、俺たちが慌てる音でエルゴが起きたらしい。だが、エルゴは危険すぎる。だからって、俺がいなくちゃコイツらはどうしようもねぇし。

「ドンボはここにいて! エルゴのためにも!」
「なっ、俺がいなきゃオメェらどうすんだよ⁉︎」
「確認しに行くだけだ、戦闘が必要になればお前も呼ぶ。それに、お前は隊長だ。怪我をされても困る」

 スタントの冷静な判断に、俺は反論できなかった。特に、俺を隊長と呼んだことに、不覚ながらにも嬉しさを覚えてしまった。

「分かった、でも危険になったらすぐに呼べ! 良いな!」
「了解っす! それじゃ、張り切って行くっすよ!」

 俺とエルゴを残し、アイツらは駆け出していった。本当ならば、俺だって混じりたいが、エルゴのためだ。そう思えば、なぜか悔しさもなくなっていた。

「父ちゃん…なんでそんな顔してるんだ?」
「ん? 何か変な顔してるか?」
「なんか…悲しそうだぜ。何かあったのか? 俺様、なんでも力になるぜ!」
「エルゴ…」
『≪にっしししし! 行っちまったぜ、兄貴≫!」
『≪そうみてぇだな。陽動作戦は成功だな。よし、捕獲作戦にうつ…おい、誰かいるぞ⁉︎≫』

 古小屋の扉が見覚えのない猫獣人2人組によって開けられた。
 下っ端と思われる背の低い三毛模様のやつは片目を怪我しており、兄貴と呼ばれているやつは黄色と黒の虎模様をした、いかにも悪そうなやつだ。
 しかも、エルゴを見ながら捕獲作戦って言ってたことから考えるに、エルゴのことを狙っているのはたしかなようだ。

「≪テメェら、何者だ? 俺はドンボ・バグーラ、コイツの親だ。俺の許可なく、何をしにきた?」
「≪へっ、テメェのような放浪者に用はねぇ。さっさとそのドラゴンを差し出せ!≫」
「≪痛い目に遭いたくなかったら、兄貴の言うことを聞きやがれ!≫」

 2人組は銃タイプの魔法道具を俺に向かって構えた。だが、俺はそれくらいで身震いしねぇ。それに、エルゴは大切な家族だ。テメェらごときに渡してたまるか。

「≪悪いな、エルゴはそう簡単には渡せねぇ。まっ、何か取引するってなら考えなくもないぜ?≫」
「≪ほう、面白い。おい、ありったけの金を出せ!≫」
「≪ガッテンだぜ兄貴!≫
「と、とうちゃ-」
「黙れ。これは大人の話だ」

 どれだけの覚悟があるか、見定めさせてもらうぜ。それが俺のやり方さ。

「≪どうだ! これだけの大金だ! これをやるから、さっさとよこしな!≫」

 虎模様の猫やろうは、ドサドサと床に札束を投げ捨てた。これは好機だ、そう見た俺はある一言を発した。

「≪おいおい、取引だぜ? 商売人に金を拾わせるやつがいるかよ。手渡しでなきゃ、取引に応じないぜ≫」
「≪ちっ、図々しいやつだな。よ…っと、これで良いんだろ?≫」
「≪こりゃ…どうもっ!≫」

 床に魔法道具を置き、手を塞がれた虎模様の猫やろうの顎に、俺はアッパーを決めた。そして、床の魔法道具を手に取って、俺は一瞬で引き金を引いた。
 その弾を当てるつもりはなく、壁に撃った。そのはずが、なんと銃弾は1人でに下っ端のやつに命中した。

「なっ、はぁ⁉︎」
「≪テメェ!≫」
「…父ちゃん…任せろ!」

 エルゴが勢いよく飛び出して、俺に殴りかかろうとした虎模様の猫やろうを逆に殴った。
 だが、エルゴの本気だ。虎模様の猫やろうは古小屋の壁に大穴開けるほどの威力で吹っ飛ばされた。

「けっ。ま、こんなもんだぜ。大丈夫か、父ちゃん⁉︎」
「あ、あぁ。ありがとな、助かったぜ」
「俺様のせいで、父ちゃん戦ってばっかだな…。邪魔、だよな、悪い」
「…何言ってやがんだ⁉︎」

 いきなり自分を責めだすエルゴに、俺は腹の底から怒声を出した。

「俺がオメェを邪魔だと思うか⁉︎ 俺をそんな底辺な人間だと思っているのか⁉︎ ふざけるな!」
「けどよ! 俺様がいるせいで、父ちゃん傷ついたり、戦ったり…! 俺様がいなけりゃ、もっと楽できるだろ!」
「できるかよっ! 俺は、お前のことが-」
「≪隙あり!≫」

 銃弾を打たれたというのに、なんと下っ端のやろうは1発の弾を撃った。だが、その弾はやつの近くにいた俺に狙いを定め、背中から腹へと貫通した。

「ぐわっ…⁉︎」
「父ちゃん⁉︎ テメェ…ヨクモォ!」

 俺を横にして、すぐにエルゴは下っ端のやろうに何かをした。だが、あまりの痛みに俺は何が起きているのかを理解できなかった。
 そして、鉄臭い匂いがする中で、俺は意識を失った。
 
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