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4節 破壊の芽

第8話 愛する子よ

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 脅威の口の中は、真っ暗闇だった。周りには何もなく、ただ一本道。空は闇に包まれ、稲妻がほとばしる。うっすらと足元と先が見えるが、その先に誰かがいる。
 後ろ姿だけだが、黒髪の、黒い腰出しルックスの上着に膝丈のスカートを履いた女性だ。
 その格好に、俺の中に眠るフラットさんの記憶が一瞬だけ蘇った。

「…まさか…オメェ、ノールか⁉︎」
『…ふふっ、やっぱり来た。この身体が大切にしていた者達。でも…もう遅い!』

 俺の声を聞いて振り返った女の顔には、変な仮面がついていた。それだけで、俺は分かった。ノールは脅威の口の中で戦い、敗れた。そしてこの仮面に操られているということをな。なら、やることはただ一つだぜ。

「オメェら、この弱っちいやつに一泡吹かせるぜ! 狙うは仮面だ、覚悟はいいな⁉︎」
「いつでも覚悟はできている。やらせてもらう!」
「父ちゃんの言うことは絶対だぜ!」
「でも…あのノールが負けるほどの相手っすよね…。フォール、どう見るっすか?」
「俺は、ドンボに委ねるだけだ」

 それで良いぜ。俺は隊長だ。その時点で、決定権も命令権も俺にあるんだ。他人は引っ込んでな!

「…やめてよっ!」
「あぁ? おいキール、何言い出すんだよ。まさか、ママと戦いたくない、なんて言い出さねぇよな」
「言うよ! だって…だって!」

 あぁもう、そういうのクソダリィんだよ。愛とか嫌悪とか、そういうのはケンカに持ち込んでほしくねぇ。

「ならいいぜ。キール、ちっと引っ込んでな!」
「ダメ! もし戦うっていうなら…私がやる」
「…けっ、勝手にしやがれ。オメェら、親子喧嘩になるから退いとけ」

 俺の指示を聞いて、他の連中は俺の目をポカンとした様子で眺める。だが、俺は意見を変える気はねぇ。キールが覚悟したことだ、手出し無用だろ。

「ワガママだって分かってる。だけど…私の親だから。きっと、なんとでもなる。お願い、私のママを返して!」
「私の愛しい娘。その瞳に映る全てを、破壊する!」

 俺はただ見守るだけだぜ。オメェが覚悟したことだ、その責務を全うしろ。
 俺の下につく以上は、自分の尻は自分で拭きな。それが俺の下につくって意味だ。

「私、強くなれた。きっと…。破壊の力を扱えなかった、あの頃とは違う。そうだよね、“クラッシャー破壊者”」

 あぁ、キールの短剣型神器はクラッシャーっていうんだな。フラットさんの記憶に、その名前がある。
 ノールが熱い眼差しでクラッシャーを扱う姿も。その姿はキールそっくりだ。

「容赦はしない。来なさい、キール!」
「うん。いくよ、ママ!」

 両者一斉に飛び出した。決意を込めたキールの神器は、赤い輝きを増している。さて、この戦いの見学とさせてもらおうか。キールの覚悟ってやつ、見せてもらうぜ。
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