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1章 昇竜
第10話 精一杯を踏み締めて
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その夜、僕は誠意を込めて、名刺の裏に書かれていた携帯の番号に電話をかけた。
2コール目の途中で繋がり、僕が立体映像電話を許可する前に、モスイさんの方から許可をしたらしく、立体映像が立ち上がった。
『やあ、アランくん。電話をよこしてくれてありがとね』
「いえ、返事はしないといけないので」
『それで、答えは決まったかい?』
その声を聞いて、僕は頬を思い切りあげて笑顔で言葉を、声を出した。
「はい! 精一杯、頑張らせていただきますっ!」
『そうかい。ヒーローに直に触れて答えを見つけられたようでなによりだよ』
「でも、やりすぎです。テイラが困ってました」
『アハハ、本当にテイラは君が好きなようだねぇ』
テイラの僕に対することを知っているかのような発言に、僕の頬は熱くなっていた。
『テイラ、きみのことばかり話すんだよ。すごく自慢げに、まるで弟みたいにさ』
「弟……」
僕はその言葉に胸が痛んだ。弟が僕にいたわけじゃない。だけど、消したいほど痛い記憶が僕の胸のうちを突き刺していく。
『あっと、ごめんね。それじゃあ、楽しみに待っているからね。明日の午後4時に来れるかい?』
「明日の午後4時……はい、でもアルバイトがあるので、できればお迎えお願いしても良いでしょうか?」
この近辺にある地球防衛放送局といえば、横浜の湘南区のはず。だけど、僕のアルバイト先は泉区。
そしてアルバイト終了時間は午後の3時と、余裕がない。だからお願いするしかない。
『構わないけど、きみの能力は使わないのかい?』
「僕の能力は、あまり知られたくないので……」
『分かった。何時に迎えに行けば良いかな?』
「15時でお願いします」
『よし。じゃあその時間に合わせるよ。明日はよろしくね。それじゃあ』
嬉しそうな笑顔を浮かべて、モスイさんは通話を終えた。それによって訪れた、しんと静まりかえった夜の静寂を感じて、僕は自室のカーテンを開けて窓から夜空を見上げた。反射して映る僕の顔は、頬を少しばかり上げていた。
「よし。明日もあるし、ご飯食べてさっさと寝よっと!」
バサっと思いきりカーテンを閉めて、僕は厨房に全速力で向かった。
そして迎えた翌日。僕は電話受付のバイトを終えて、モスイさんの黒い高級車に乗せられて、飛行運転でこれ以上にない近道ができて約束の時間通りに地球防衛放送局に着いた。
--予想を反して、銀座本社の。
「な、なんで銀座に?」
「アッハハ、湘南区のほうだと思わせちゃったかな」
僕の考えていたことがあっさりと読まれてしまった。流石は戦うヒーローの映像を指揮する人だ。顔色ですぐに何を思っているのか分かってしまうのだろう。
「まあ安心してくれ。銀座に来るのは一応今日だけだ。新入手続きをするには本社に来ないとどうしようもなくてね」
「あ、あぁ~……って、一応?」
一応ってワードがつくってことは、来るのはこれっきりっていうわけでもなさそうだ。
「あぁ。月に1回、ディレクターでの集まりがあるからね。それには参加してもらいたい」
「え、でも単位とか……」
「それは安心してくれ。君を見つけてすぐに大学に話は通してある」
早すぎる展開に、僕の脳は追いつけなかった。
え、そうなると僕がディレクターになると承諾していないのに大学はOKを出したってことだよね。
大学、退学しようかな……。
「アッハハ、ジョークだよジョーク。悪かった」
「え……ヒ、ヒーローでもジョーク……」
「ハハッ、ボクはヒーローじゃないさ。この年齢で、異能力も衰えたからね」
異能力が衰え、消滅する年齢は50代くらいと言われている。だけど、モスイさんの顔を何度見返してもそんな歳に見えない。概算だけど、高くても42歳くらいに見える。
「えっと……おいくつですか?」
「それ聞くよねぇ。これでもボク、62なんだ」
「えぇぇっ⁉︎ って、それも嘘ですよね」
「……」
さっきの件もあるから、もう騙されないという自信を持ってそう言ったは良いものの、何も言わずに微笑むだけのモスイさんに、僕は自信を喪失した。
「え、まさか本当ですか⁈」
「プッ……! わ、悪い悪いっ! きみ、純粋すぎだよ」
どうやら、これも嘘だったらしい。僕のあまりに疑わない性格に、モスイさんは今にも大笑いしそうなほどに歯を噛み締めながら声を殺している。
やられっぱなしも性に合わないから、僕はモスイさんの脇をくすぐった。
「ワッハ! やめっ、ワッハハハハハ!」
やられた分だけやり返すつもりが、童心に帰ってしまい楽しみに浸って思う存分にやりたいだけやっていた。
『おいそこで何をやっている⁉︎』
そんな僕を見つけて、駐車場へ警察服を着た虎型獣人の男が駆け寄ってきた。
「あ、え~っと……正当防衛です!」
「どっからどう見ても正当防衛不成立! てなわけだ、署まで--」
「あー、ちょっと待ってくれ」
僕の腕を無理矢理引こうとする獣人の手を、モスイさんが止めた。
「ふぅ、やっと解放された。で、マスケル。彼が、新しいディレクターだ。許してくれ」
「なっ、こんな子供がディレクター⁉︎」
たしかに獣人の身長は、180センチメートルはあるだろう。それに対して僕は163センチ。この身長差で子供だと言っているんだろう。
「小さくてすみません。これでも大学2年生なんです」
「嘘言わなくて大丈夫だ、どうせこのインチキディレクターにそう言えって言われただけだろ?」
「いやボクは何も言ってないさ。なぁ?」
なんか、今にもすごい凄惨な光景になりそうな瞬間を目の当たりにしている気がする。
「えっと……」
『あ、何やってんの~っ! これじゃあ通れないじゃん~っ!』
門の前で言い合いをしている2人の後ろから、か細い女の子の怒る声がした。
あまりに小すぎるのか、それとも2人が大きいのか、彼女の姿は2人の隙間からなんとか足だけが見えた。
「え、子供⁉︎」
いくら自称ヒートオタクの僕でもそんなに背の小さいヒーローがいるなんて知らない。それゆえに驚きを隠しはできなかった。
「あれ、もしかして新しい先生⁉︎」
「せ、先生⁉︎」
2人の隙間を縫うように飛び出てきた金髪パーマに青い瞳をした白ドレスの少女が、僕を見た途端にそう驚いていた。
「違うよユリー。この人は新しいディレクターだ」
どう返せば良いか分からず戸惑う僕の肩に、言い合いをやめたモスイさんが手を置いてくれた。
「なぁんだ」
「えっと、先生って?」
「あぁ。ここは地球防衛放送局の本部かつ、ヒーロー養成所だ。このユリーは、その生徒なんだよ」
「生徒って、こんな子供が⁉︎」
「さっき子供って言われて顔歪ませてたやつのセリフか?」
たしかにこの獣人の言う通り、さっきは子供と言われて少し腹を立てた。でも、それとこれとは全く別物だろう。ていうか、大学生なのに子供扱いされたら誰だって怒るだろう。
「これでもわたくし、養成所ではナンバーワンなの。このままいけば、今週起きるバケモノ退治に参加できるのよ!」
「えぇっ⁉︎ いやいや、子供がそんなこと--」
「本当だよ。彼女の異能力のコントロールは素晴らしいなんて言葉じゃ足りないくらいだ」
さっきまで嘘をつかれまくったせいで信用できないけれど、でもこの瞳……。
あぁもう、何も信じられなくなりそう!
「あはは、イジワルして悪かったよ。でもこれは本当のことだ」
「本当の本当ですよね?」
「あぁ。立ち話もなんだし、こっちにおいで。本部の案内も兼ねて話してあげるよ」
「モスイのおじさま、わたくし先に行って参りますわ。それではごきげんよう」
お嬢様のようにドレスの裾を両手で広げて、キチンと一礼すると彼女はササっと建物の中へ入って行った。
「元気な子だ。それじゃあ、ボクたちも行こうか」
「自分は勤務中ですのでまた後ほど」
「マスケル、硬いこと言うなよ。勤務中って言っても、どうせ非番なのに働いてるだけだろ?」
「うぐっ……まったく。今日だけだ」
非番なのに働くとか、体壊すどころの話じゃない気がするんだけど。法律とかに絶対引っかかるし。
「さっ、アランくん。行くよ」
「あ、はい!」
でも、夢にまで見てた場所に近づけるんだ。戸惑いは残っているけど、この今を受け入れよう。いつかきっと、受け入れるはずだ。
右手をギュッと強く握りしめ、僕を待つ2人の顔を見つめて、一歩を踏み出した--。
2コール目の途中で繋がり、僕が立体映像電話を許可する前に、モスイさんの方から許可をしたらしく、立体映像が立ち上がった。
『やあ、アランくん。電話をよこしてくれてありがとね』
「いえ、返事はしないといけないので」
『それで、答えは決まったかい?』
その声を聞いて、僕は頬を思い切りあげて笑顔で言葉を、声を出した。
「はい! 精一杯、頑張らせていただきますっ!」
『そうかい。ヒーローに直に触れて答えを見つけられたようでなによりだよ』
「でも、やりすぎです。テイラが困ってました」
『アハハ、本当にテイラは君が好きなようだねぇ』
テイラの僕に対することを知っているかのような発言に、僕の頬は熱くなっていた。
『テイラ、きみのことばかり話すんだよ。すごく自慢げに、まるで弟みたいにさ』
「弟……」
僕はその言葉に胸が痛んだ。弟が僕にいたわけじゃない。だけど、消したいほど痛い記憶が僕の胸のうちを突き刺していく。
『あっと、ごめんね。それじゃあ、楽しみに待っているからね。明日の午後4時に来れるかい?』
「明日の午後4時……はい、でもアルバイトがあるので、できればお迎えお願いしても良いでしょうか?」
この近辺にある地球防衛放送局といえば、横浜の湘南区のはず。だけど、僕のアルバイト先は泉区。
そしてアルバイト終了時間は午後の3時と、余裕がない。だからお願いするしかない。
『構わないけど、きみの能力は使わないのかい?』
「僕の能力は、あまり知られたくないので……」
『分かった。何時に迎えに行けば良いかな?』
「15時でお願いします」
『よし。じゃあその時間に合わせるよ。明日はよろしくね。それじゃあ』
嬉しそうな笑顔を浮かべて、モスイさんは通話を終えた。それによって訪れた、しんと静まりかえった夜の静寂を感じて、僕は自室のカーテンを開けて窓から夜空を見上げた。反射して映る僕の顔は、頬を少しばかり上げていた。
「よし。明日もあるし、ご飯食べてさっさと寝よっと!」
バサっと思いきりカーテンを閉めて、僕は厨房に全速力で向かった。
そして迎えた翌日。僕は電話受付のバイトを終えて、モスイさんの黒い高級車に乗せられて、飛行運転でこれ以上にない近道ができて約束の時間通りに地球防衛放送局に着いた。
--予想を反して、銀座本社の。
「な、なんで銀座に?」
「アッハハ、湘南区のほうだと思わせちゃったかな」
僕の考えていたことがあっさりと読まれてしまった。流石は戦うヒーローの映像を指揮する人だ。顔色ですぐに何を思っているのか分かってしまうのだろう。
「まあ安心してくれ。銀座に来るのは一応今日だけだ。新入手続きをするには本社に来ないとどうしようもなくてね」
「あ、あぁ~……って、一応?」
一応ってワードがつくってことは、来るのはこれっきりっていうわけでもなさそうだ。
「あぁ。月に1回、ディレクターでの集まりがあるからね。それには参加してもらいたい」
「え、でも単位とか……」
「それは安心してくれ。君を見つけてすぐに大学に話は通してある」
早すぎる展開に、僕の脳は追いつけなかった。
え、そうなると僕がディレクターになると承諾していないのに大学はOKを出したってことだよね。
大学、退学しようかな……。
「アッハハ、ジョークだよジョーク。悪かった」
「え……ヒ、ヒーローでもジョーク……」
「ハハッ、ボクはヒーローじゃないさ。この年齢で、異能力も衰えたからね」
異能力が衰え、消滅する年齢は50代くらいと言われている。だけど、モスイさんの顔を何度見返してもそんな歳に見えない。概算だけど、高くても42歳くらいに見える。
「えっと……おいくつですか?」
「それ聞くよねぇ。これでもボク、62なんだ」
「えぇぇっ⁉︎ って、それも嘘ですよね」
「……」
さっきの件もあるから、もう騙されないという自信を持ってそう言ったは良いものの、何も言わずに微笑むだけのモスイさんに、僕は自信を喪失した。
「え、まさか本当ですか⁈」
「プッ……! わ、悪い悪いっ! きみ、純粋すぎだよ」
どうやら、これも嘘だったらしい。僕のあまりに疑わない性格に、モスイさんは今にも大笑いしそうなほどに歯を噛み締めながら声を殺している。
やられっぱなしも性に合わないから、僕はモスイさんの脇をくすぐった。
「ワッハ! やめっ、ワッハハハハハ!」
やられた分だけやり返すつもりが、童心に帰ってしまい楽しみに浸って思う存分にやりたいだけやっていた。
『おいそこで何をやっている⁉︎』
そんな僕を見つけて、駐車場へ警察服を着た虎型獣人の男が駆け寄ってきた。
「あ、え~っと……正当防衛です!」
「どっからどう見ても正当防衛不成立! てなわけだ、署まで--」
「あー、ちょっと待ってくれ」
僕の腕を無理矢理引こうとする獣人の手を、モスイさんが止めた。
「ふぅ、やっと解放された。で、マスケル。彼が、新しいディレクターだ。許してくれ」
「なっ、こんな子供がディレクター⁉︎」
たしかに獣人の身長は、180センチメートルはあるだろう。それに対して僕は163センチ。この身長差で子供だと言っているんだろう。
「小さくてすみません。これでも大学2年生なんです」
「嘘言わなくて大丈夫だ、どうせこのインチキディレクターにそう言えって言われただけだろ?」
「いやボクは何も言ってないさ。なぁ?」
なんか、今にもすごい凄惨な光景になりそうな瞬間を目の当たりにしている気がする。
「えっと……」
『あ、何やってんの~っ! これじゃあ通れないじゃん~っ!』
門の前で言い合いをしている2人の後ろから、か細い女の子の怒る声がした。
あまりに小すぎるのか、それとも2人が大きいのか、彼女の姿は2人の隙間からなんとか足だけが見えた。
「え、子供⁉︎」
いくら自称ヒートオタクの僕でもそんなに背の小さいヒーローがいるなんて知らない。それゆえに驚きを隠しはできなかった。
「あれ、もしかして新しい先生⁉︎」
「せ、先生⁉︎」
2人の隙間を縫うように飛び出てきた金髪パーマに青い瞳をした白ドレスの少女が、僕を見た途端にそう驚いていた。
「違うよユリー。この人は新しいディレクターだ」
どう返せば良いか分からず戸惑う僕の肩に、言い合いをやめたモスイさんが手を置いてくれた。
「なぁんだ」
「えっと、先生って?」
「あぁ。ここは地球防衛放送局の本部かつ、ヒーロー養成所だ。このユリーは、その生徒なんだよ」
「生徒って、こんな子供が⁉︎」
「さっき子供って言われて顔歪ませてたやつのセリフか?」
たしかにこの獣人の言う通り、さっきは子供と言われて少し腹を立てた。でも、それとこれとは全く別物だろう。ていうか、大学生なのに子供扱いされたら誰だって怒るだろう。
「これでもわたくし、養成所ではナンバーワンなの。このままいけば、今週起きるバケモノ退治に参加できるのよ!」
「えぇっ⁉︎ いやいや、子供がそんなこと--」
「本当だよ。彼女の異能力のコントロールは素晴らしいなんて言葉じゃ足りないくらいだ」
さっきまで嘘をつかれまくったせいで信用できないけれど、でもこの瞳……。
あぁもう、何も信じられなくなりそう!
「あはは、イジワルして悪かったよ。でもこれは本当のことだ」
「本当の本当ですよね?」
「あぁ。立ち話もなんだし、こっちにおいで。本部の案内も兼ねて話してあげるよ」
「モスイのおじさま、わたくし先に行って参りますわ。それではごきげんよう」
お嬢様のようにドレスの裾を両手で広げて、キチンと一礼すると彼女はササっと建物の中へ入って行った。
「元気な子だ。それじゃあ、ボクたちも行こうか」
「自分は勤務中ですのでまた後ほど」
「マスケル、硬いこと言うなよ。勤務中って言っても、どうせ非番なのに働いてるだけだろ?」
「うぐっ……まったく。今日だけだ」
非番なのに働くとか、体壊すどころの話じゃない気がするんだけど。法律とかに絶対引っかかるし。
「さっ、アランくん。行くよ」
「あ、はい!」
でも、夢にまで見てた場所に近づけるんだ。戸惑いは残っているけど、この今を受け入れよう。いつかきっと、受け入れるはずだ。
右手をギュッと強く握りしめ、僕を待つ2人の顔を見つめて、一歩を踏み出した--。
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