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2章 迷猫編

第2話 抵抗力

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 ライブが終わり、僕は舞台裏でお疲れ様とだけ伝えると、ロープが張られた、関係者以外立入禁止の地下室へと躊躇なく地下の階段を下った。
 その廊下の奥にある扉に近づいても開く気配はない。ロックされてるのかなと思い、ノックしてみた。すると、扉の上にあるモニターに全体的に緑色の画面が映り、そこにモスイさんの姿もあった。

「アランです。来ました」
「あぁ、今開けるよ」

 その言葉を耳にした刹那、扉が半分に分割されて左右にスライドし、セキュリティに遮られていた部屋の全貌が明らかになった。
 鉄のような壁に覆われ、部屋の中央にはにはレーダーのような机があり、それを囲うように8脚の椅子がある。一番奥の椅子に、モスイさんが軍服姿で座っていた。

「それで、教えることってなんですか、モスイさん」
「うむ。その前に1つ教えておこう。今の俺は、モスイ大尉だ。間違えるなよ」
「は、はい!」

 え、モスイさんって軍人だったんだ。ていうか、軍人なのに公の場に居座ってて大丈夫なのかな。

「アラン、俺が平然と街にいて大丈夫なのかって心配してんな?」
「まあ……そうですね」
「アッハッハ、それだから良いんじゃねぇか! なんたって俺たちは。秘密組織だ!」
「ひ、秘密組織?」

 たしかに、あんな機械での対バケモノ戦や対人戦は見たことがない。でも、かなり派手にやっていた気もするけど。

「あれくらいの事態のとき、俺たちは帝都華荘色組として帝都・東京やここら近辺を守り抜く」
「じゃあ普段のバケモノ発生や犯罪は普通のヒーロー活動程度ってことですか?」
「そういうことだ。それじゃあ早速。まず桜のことから話そうか」

 モスイさんの椅子が、床から出てきた3つの支点がついた支柱によって浮かび、モスイさんが座っていた背後に立体映像が浮かび上がる。それは、桜の全体像だった。

「まず、搭乗者に要される力から話すべきだな。搭乗者には、亡霊に対抗できる力。いわゆる霊力・・というものを使う。それほどの霊力を持つやつには痕ができるんだぜ」
「え、じゃあ、もしかして……」

 僕は右手の痕を見つめる。これがその証なのだと思うと、色々と興味深い。

「まあその話はおいおいするとして。次はヒーロースーツ、いわゆる戦闘服だな。お前達の衣装は、この燕尾をモチーフにした戦闘服だ。ボタンみたいなところに桜のチューブがついて、より効率的に霊力を使えるようになる」
「え、でもこの間は私服で……」
「あぁ、まだアランのは出来上がってなからな。それに合わせて全員私服で出撃してもらった」
「いやなんで⁉︎」

 まるでバケモノをナメているかのように、軽々しくそう言うモスイさん……じゃなかった、モスイ大尉につっこんだ。

「アッハッハ! アイツらはプロだからな。いわゆる特訓みたいなもんだ」
「でも……ハァ、もう良いです」

 これ以上ツッコミ入れてもこっちが疲れるだけと悟り、僕は諦めた。

「で最後に。これは守ってくれ。勝利のためなら犠牲をもいがまないという考えで戦わないでくれ」
「は、はい……?」

 何かを惜しむように、そう忠告するモスイ大佐に、僕は返事をするだけで良いのだろうかと迷った。

「まっ、話はこれだけよ! 時間取らせたな」
「い、いえ。あの、思ったんですけど」
「ん? どうしたよ」
「地下の階段、ただロープを張って立入禁止にしてるだけじゃ、今日みたいな日だと簡単に侵入されません?」

 仕事中は地下室の方に行ってないから細かくは分からないけど、さっき来るときはロープしか張られていなかった。

「あぁ、お客がいるときは事務のやつらが封鎖してる。柔道黒帯持ちだ、侵入者なんかヒョイっと背負い投げよ」
「あぁ~……なら大丈夫そうですね」
「うおっと! 大事な説明忘れてたぜ。俺たちは秘密部隊だからな、決して口外するなよ」
「了解しまし……イエッサー!」

 危なく返事を間違えるところだった。でもそのせいか、モスイ大佐は険しい顔つきだ。

「え、えっと……すみません」
「ん、いや考え事してただけだ。あ、そだ。見せてくれと頼めば、アイツらの痕も見せてもらえるかもな」
「え、それ気になる! ヒーローの秘密……! 行ってきますっ!」

 バンっと強く机を叩いて僕は立ち上がる。

「あぁ、行ってこい」

 モスイ大佐も止めることなく、笑って左手をまた小さく上げる。それを確認して、僕は部屋から飛び出して階段を駆け上る。
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