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2章 迷猫編

第17話 少しずつ

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 ドラバースとテイラ帰還を記念して、僕達は超豪華なレストランへと来ている。
 予約必須どころかドレスコードまで設けられているほどの所で、どの席も純正の絹で作られているクロスが掛けられいている。その席の座る人たちも、煌びやかなドレスだったり高価そうなスーツだったりと、富豪と見て分かる。
 こんな中に、大学生丸出しみたいなスーツ姿の僕がいて良いのかなと不安になってしまう。

「ほら、背筋伸ばせって」
「だ、だって緊張しちゃって……」
「ハッハッハ。ヒーローならこういう場所、慣れといたほうがタメになるぜ? ガキにゃ早いかもだがな」

 モスイさんが冗談混じりにそう言ってくれたおかげで、僕の緊張の糸がほぐれた。

「まっ、ヒーロー手当てで8割引きなんだしお金は気にしなくて良いでしょ」
「でもエリス、ヒーロー手当なんて聞いたことないよ?」
「……大きな声では言えないが、俺たち帝防は政府によって作られている秘密戦闘部隊だ。この証明書があるヒーローには、8割引きさせるよう命じてあるだけって感じだがな」

 つまるとこ、僕達は政府によって出来上がっている組織ってわけか。
 それは良いんだけど、なんか一般人を騙しているみたいで気乗りできないなぁ……。

「アラン、それより早く頼もうぜ?」
「え、こういうとこってコースで来るんじゃないの?」
「そうだよ。テイラくん、マナー勉強し直したら?」
「エリスでもそれくらいは知ってるんじゃないか?」
「たしかぁ、前菜でサラダとか来るんだっけ?」

 幼いエリスでもコースのマナー知っているのに、テイラと来たらこれだ。そう思うと、僕よりテイラのほうが相応しくないんじゃ……。

「気、晴れたか?」
「あ、うん。ありがと、マスケル」
「じゃあ早速、コース開始!」
 
 『ウーッ! ウーッ!』

「あーあ、コース終わっちゃった」

 鳴り響く警報の音。もう聞き慣れたよ、ヒーロー出陣の合図。さぁて――

「コースを台無しにしてくれたこと、後悔させてあげようか!」
「おっ! 言うようになったなアラン!」

 ヒーローになってから、気が強くなれた気がする。ただの気のせいかもしれないけれど、ほんの少しは変われた。それは間違いない。

「よしっ! それじゃあ見習いさんよ、出撃命令頼んだぜ」
「はい! 帝防、出撃!」
「『イエッサー!』」

 命令と共に、僕達はそれぞれのお代を机に置いて、レストランを飛び抜けた。
 外では、バケモノが操る兵器機兵が蔓延っていた。街にはまだ人がたくさんいる。見たことのない機械が暴れているんだ、怯えてしまっている。

「皆さん、こちらへ! シェルターはすぐそこですから!」
「あ、はい!」

 急いで僕達は避難誘導を始めた。こういった状況は、よく暴動の起きる寮で慣れている。
 みんなもまた、すぐに避難を進めてくれて、効率よくスピーディーに全てが済んだ。
 でも、桜がないとこの機兵とは対等に戦えない。どうすべきかは、1つしか手段はない。

「プレイアさんとマスケルは、桜をここまでお願いします! 僕とテイラ、ドラバースはここで応戦しますっ!」
「ってことは、帝防スカイラインの出番だね! 行くよマッスー!」
「分かったが、その呼び名、やめてくれ」
「えっと、そのスカイラインって?」

 そのワードには聞き覚えがなく、僕は尋ねた。

「桜を運送する飛行船! 400ノットまで出せるんだから、ここまではあっという間!」
「モールからここまでは5キロ以内だが……まあ、手っ取り早いか」

 最高時速を聞くと驚きだが、そこまで必要ないんじゃないかな。ただ桜2機だと心許ないし、運んでもらったほうが良い。

「それじゃあ、帝防スカイライン使って!」
「オーケー!」 「任せろ!」
「僕達は機兵を相手する!」
「へっ、腕が鳴るぜ!」 「力はなくともやり尽くす!」

 どんなにバラバラな僕達でも、同じ方向を向けばどんなものより強くなれる。少しずつ、少しずつ、実感できないけれど、気付けば強くなっている。この場所にいられること。それだけの幸せを胸に、僕はこの戦場を見つめ返した。
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