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第1章〜ウロボロス復活〜

第17話「サエラVSゴードン」

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「今、テメェなんつった?」



 やべえええええええええええええ!!聞いたことのないサエラのドスの効いた声を聞き、我とシオンは顔を真っ青にした。
 我はビビリ、シオンは過去起きた惨劇を思い出し。明確な殺意のこ持った存在が目の前に現れたのだ。

「え、あ、アタシ、何かまずいこと言ったかしら?」

 流石のゴードンも突然豹変したサエラを見て、戸惑いつつも後ずさる。現役の冒険者を退かせる眼力ってどんな‥‥‥うわ、怖。
 おそらくゴードンはサエラの見た目と少年のような好みに惑わされ、完全に性別を間違えてしまったらしい。
 とりあえずこの誤解は解いておかねば!

「ご、ごごごごごゴードン!サエラは女子だぞ!!」

「えっ!?」

「えっ!」

 我がでかい声で指摘すると、ゴードンはおろかガルムすらも目を開いで驚いてみせた。マジか気付かなかったのかお前ら!
 すると魔女服のメアリーが目をあさって方向にそらしながら呟いた。

「や、やつかれは気付いてたぞ?うふふ」

 嘘つけ!!

「‥‥‥」

 まずい、サエラから瘴気のようなドス黒いオーラが流れてきてる。あわわわ。

「ひぃ、祟りじゃあ!祟りじゃあぁ!」

「ウーロさんお気を確かに!」

 シオンに肩を揺さぶられ、正気を取り戻した。そうだ!恐慌状態に陥ってる場合じゃない!今はこの怒れる鬼神を止めなくては!
 我が小さな脳みそをフル回転させていると、ガルムが焦りながら我にこう言ってきた。

「お前、ウーロだっけか?お前だって最初こいつと会った時、男だと思ったろ絶対!」

 テメェ何道連れにしようとしてんだ!!

「思ってないもん!ちょっと思ったけどすぐに女子だってわかったも‥‥‥ハッ!」

 しまった、我のバカ正直者!

「お前ら‥‥‥」

 サエラが一歩こちらに踏み出すと、ミシリと大地が歪んだような錯覚と音がした。
 それはあくまで我、否、この場にいる全ての者が思い込んだだけなのだが、それほどまでに空気が張りつめられていたのだ。
 空気を吐くサエラの吐息が猛獣の唸り声のようにしか聞こえん。なんで影がカゲロウのように揺らいでいるのだ。まさか、サエラは魔王の末裔なのでは‥‥‥。

「ガルム、おい!にえ!贄を捧げろ!」

「ゴードン!お前が言ったんだから責任取ってこい!」

「えぇ!?あ、アタシ!?」

 我が叫び、それに瞬時に反応したガルムはアッサリと仲間のゴードンを切り捨てた。
 ゴードンは信じられないと、手酷い裏切りを受けたような絶望的な表情を浮かばせたが、あやつ1人で我らが助かるならと、誰も擁護ようごしようとしない。
 実際、彼の一言が火種なのは間違いないので。

 ゴードンにサエラの視線が向いた瞬間、我らは病原菌から離れるように2人から距離をとった。
 孤立したゴードンはますます絶望的な顔をする。

「ちょ、ちょっと待ってサエラくちゃん!話せば、話せばわかるわ!」

 今一瞬、"くん"って言おうとしたな。それを見逃すサエラではないぞゴードン。

「‥‥‥ロス」

「へ?」

「ブッ殺す」

「ただの村娘が言っていいセリフじゃないわよぉぉぉおおお!?」

 ゴードンの断末魔に似たツッコミなど耳に入らないのだろう。地を蹴ったサエラは爆発的な速度でゴードンの元へと接近する。
 次に伸ばされたのは蛇だ。否、それは腕で、白く細い右手が鞭のように宙へ振るわれた。

 振り下ろされるのはゴードンの肩から腹にかけて。手刀による振りはしなやかで、一見当たっても痛くはなさそうに見える。
 だがそれは間違った認識である。白く細く、長いサエラの腕は華奢であるが、皮膚の下から浮き出る筋肉の盛り上がりがわずかに見て取れた。

 元々エルフは細身なので、どれだけ鍛えてもゴードンの肉体のように大きく膨れ上がらないのかもしれない。
 間違いなく凝縮された筋肉であった。高速に振られた質量は間違いなく凶器。ゴードンはそれを避けようと後ろへ下がった‥‥‥が。

「あっ!?」

 振り下ろした手の流れに乗るように、サエラが屈むように姿勢を低くした。
 手で杭を打つように地面を掴み、代わりに浮かせた片足をゴードンの足、正確にはかかとに直撃させた。ゴードンの片足が宙へ浮き、バランスを崩して体が揺らいだ。
 足の自由を奪うことで、ゴードンには一瞬の隙が生まれる。その隙はサエラの本命の一撃を振るうには充分な時間であった。

「スゥッ」

 キスをするように唇を突き出し、一瞬で空気を取り込むサエラ。それだけすると息を止め、拳を握った。
 威力を溜めるように体を縮めると、勢いよく突き出してゴードンの胴体へと拳を振るった。

「滅っ!!!」

 あれ?なんかアレ見たことあるような。

「っ!?」

 サエラのパンチに何か異様な気配を感じ取ったのか、ゴードンは一瞬本気で驚いて拳を凝視した。
 おそらくそれは反射的にだろう。自身に迫る拳の突きに、ゴードンは手の甲を手首にぶつけて払った。
 攻撃を回避されたが、サエラに落胆はない。執念深く、蛇が獲物に巻きつくようにゴードンに接近攻撃を仕掛け続けた。

「おい、今の槍拳だよな」

「ん?槍拳?」

 見学していたガルムが自己確認するために呟いた疑問に、我も乗っかり聞いてみる。

「聖王国の僧兵が使う武術だ。拳を敵の胴体に当てて、魔力を波紋状に浸透させて内側から内臓を破壊する殺人拳。なんでアイツ使えんだ?」

 なんであやつそんなん使えるの?

「いっ!?」

 すると同じく話を聞いていたシオンが既視感でも感じたのか、小さく悲鳴を上げて、両手で腹を押さえた。
 あぁ、そういえばお主お化けに変装した時、正面から直撃喰らったもんな。そりゃあんな断末魔出るわ。



 
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