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第1章〜ウロボロス復活〜

第26話「年上好きの竜」

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「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!ウーロちゃぁんかわうぃいいいいい!!」

「ひぃ!」

 我は野太くも黄色い叫び声を真正面から受け、嘆かわしくも怯えてしまった。
 だって怖いんだもん。叫んだ本人、ゴードンから逃げてサエラの後ろに隠れる。

「やめろゴードン。見た目バケモンなんだからよお前」

「‥‥‥それ言わないで頂戴」

 自身が人と逸脱した外見であるということは自覚しているのか、ガルムに言われるとしゅんとでかい体を小さくした。クマが子鹿になったかのようである。悪いことをした。

「そうだ、お前も人化の薬飲めよ」

「喧嘩売ってんなら買うわよ」

 ガルムとゴードンの追いかけっこが始まり、砂煙をあげながら2人は去っていった。
 謝るタイミングがなくなってしまったぞ‥‥‥。
 我は飼い主に置いていかれたフィンの方を向いて耳を撫でた。

「フィン。ガルム行ってしまったが良いのか?」

「わん!」

 ‥‥‥良いらしい。

「で、サエラはどこ行きたいんですか?」

「お菓子屋さん」

「あぁ」

 サエラの言った意味がわかったのか、シオンはなるほどと手のひらに拳をポンと当てた。
 2週間ほどこの村で生活しているが、外についてはあまりわかってない我と、そもそもこの村にいたのが初めてなメアリーは一緒に首を傾げて疑問符を浮かべた。

 なんだそれ。菓子でも売っているのか?すると仕草で我らの心情が分かったのだろうシオンが説明してくれた。

「ウーロさんは知らないですよね。村の一部に雑貨店とか、食料品とか売ってるお店があるんですよ」

「そんなものがあったのか」

 我あまり外に出ないしな。出るとしてもサエラの狩りについていくのばっかりだし。

「で、そこに子供たちがよく通うお店があって、そこではお菓子とか売ってくれるんですよ」

「駄菓子屋みたいなものか」

「ですです」

 それに準ずる店のことを知っているのか、メアリーが納得するとシオンもそれを肯定する。
 ダガシヤか。なるほど‥‥‥なるほど?

「うん?」

「行ってみればわかるよ」

 我を哀れむように肩をポンと叩いてくるサエラ。ち、違うし!別にダガシーヤがわからんわけじゃないし!あれじゃろ?えっと、あれをあれしてあれがこうなるあんなお店!

「行きますよ!行けばわかります!」

「行こ、ウーロ」

「‥‥‥う、うむ」

 サエラがそう言い、我の手を引いて道を歩き出した。
 し、仕方がないなぁ。そこまで言うなら大人しくついていってやろう。ホントは知ってるけど、知ってるけどね。
 こうして我らはエルフ2人と人間1人、魔物2匹というなんともまぁ変な集団でお菓子屋に向かったのである。




 村の店が並んでいる地区はそれなりの距離を歩かなければならなかった。マンドの店とは違う場所にある。まぁあれは移動式だし、そもそもここの村の商人ではないのだが。
 野菜の種などを売ってる店、弓矢や麻酔など狩りに使う道具を売る店。保存食を売る店など、数はあるかどれも地味である。
 村の住宅と建築はほぼ変わりなく、何を売ってるのかという看板があるだけである。

「あそこです。あそこ」

 先頭を歩くシオンが指差すと、そこには随分と古い建物があった。看板には「菓子屋」の文字が刻まれていて、それが菓子を売る店だということがすぐに分かった。
 だが、我はひとつ疑問に思ったのだ。

「こんな村で菓子屋など‥‥‥儲かるのか?」

「失礼な‥‥‥まぁ、ウーロさんの言いたいこともわかりますけど」

 ぶっちゃけ、レッテル村は裕福な村とは言えない。そもそも山岳地帯に位置する村なので特産品などないし、あっても輸出に手間がかかるのだ。
 だから金を多く持たない村人ばかりの土地で、お菓子という嗜好品でしかない食品を売るのはあまりにも非効率だと思うのだ。

「店長がすっごいお金持ちって噂もあります」

「趣味でやっているというのか?一体なぜ」

「さぁ?こんな村なのになんでいるんでしょ?」

「本当によくわからない人。こんな村にいるのが不思議」

「ま、噂は噂ですから」

「‥‥‥自分の村をこんなとか言うなよ」

 メアリーがボソリと言うが、実際何もない村なので。

「でもお菓子は美味しいんですよ!わぁ久しぶりです」

「姉さん散財しないでよ」

「オカネハツカウモノナンデス」

 ジトリと妹に睨まれ、居づらそうに目線を逃す姉。上下関係を再確認したところで、我らはそのお菓子屋とやらのドアを開いた。
 そして驚く。なぜならそこには妙齢な女性がいたからである。

「あら、シオンちゃん、サエラちゃん、いらっしゃい。それとえぇと‥‥‥?」

 鈴のなるような静かで穏やかな声質で、その女性は見覚えのない我とメアリーとフィンを見て小首を傾げる。
 わからないのは当然なので、シオンが説明をしてくれた。

「この子はウーロさんです!で、こっちはマンドさんの護衛で来た冒険者のメアリーさんと従魔のフィンちゃんです」

「ど、どうも」

「わん!」

「あらあらどうも。可愛い冒険者さんもいたものだわ」

「か、かわっ」

 金髪が美しい"お姉さん"な外見をしたエルフに微笑まれ、照れるメアリー。
 我はというと依然として固まっていた。だって、絶対店長おばあちゃんだと思ってたのに‥‥‥。
 すると今度は糸目気味な女性の視線が我に向いた。あひっ。

「こんにちは。ウーロくんって言うのね?」

「はひ、ど、どうもデス」

 なんだ?この気持ち。すんごい胸部がドギマギする。はわわっ、うまく喋れん。バカな、我こんなにコミュ症であったか!?
 む、むね、おっきぃ。

「‥‥‥」

 おそらく我は顔を真っ赤にしていたのだろう。自分でもわかるほど頰が熱くなっていた。
 それをサエラが不愉快そうに眺めて、顔を反らしながら我の尻をペシンと叩いてきた。

「ほわっ!?な、何何!?なんである!?」

「変態」

 解せぬ。


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