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第2章〜不死編〜
第79.5話「ブリッツ商会」
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リメット。全ての国家から商人や旅人が訪れ、様々な品や資源が集まる交易都市として名高い街。
帝国の辺境に位置するものの、その価値は美しく強固な外壁に例え、帝国の宝石とも言われている。
そんな都市で店を開くのは、多くの商人にとっての夢であり、そこで商売するのに情景を抱く。
事実、リメットで拠点を構えることができるのは大きな商会くらいなもので、個人で手が出せるものでもない。
ブリッツ商会。リメットでも上位に組するほどの巨大なこの商会も、リメットで支部をつくることに成功した商人組織の一つだった。
ブリッツ商会は冒険者ギルドから魔鉱石の買取をほぼ独占してる。そして、その魔鉱石を元手に魔道具を生産し、貴族向けに販売して大きな利益を得ることに成功した。
魔道具の販売に関しては、リメットで揺るぎない立場を獲得しているのだ。
ブリッツ商会の会長2代目。ルドス・エバンは競争の激しいリメットで勝ち上がった商人の一人だった。
元は上級貴族、エバン家の次男。幼いながらも跡取りは兄であると早々に判断し、独立後はコネを利用しブリッツ商会に参加。
その後、魔道具で利益を上げ、会長まで上り詰めた男である。
「‥‥‥」
エバンは高級品に囲まれた執務室にてルドスは今月の魔道具の売り上げグラフを眺めていた。
品質の良い紙に書かれた報告書は、予想通りに順調な坂が描かれていた。
今回も、黒字だ。利益は着々と上がっている。
コンコン、耳に良いノックの音が鳴った。ルドスは低くも、ハッキリした声で返事を返す。
「入れ」
「失礼します」
許可を出し入ってきたのは、自分の右腕と言ってもいい補佐係の男であった。自身より年下のこの男は、若輩ながらも確かな才能を有していて、ルドスはそれを過去の自分と重ね合わせていた。
故に補佐として近くに置き、次の会長の席に座らせようと考えていた。
「何の用だ?何か問題でも起きたか?」
「いえ、魔道具の取引は上々です。ただ少々、会長が耳に入れた方が良い情報が届きまして」
「ほぉ?」
老化によって重く下がった瞼が蛇の眼光のようにギラリと開く。鋭い視線を受けてなお、補佐の男は表情を崩さない。
金になる。利益に繋がる話ではない。が、耳には入れた方がいい‥‥‥知っておいた方が良い情報。
ルドスは補佐の言葉に興味を惹かれて 次のセリフを続けるよう促した。
「支部長でもなく幹部の者でもなく、私が知っておいた方が良いことか?言ってみろ」
「‥‥‥猛獣使いのガルムが、新人の冒険者を推薦したようなのです」
「それで?」
猛獣使いのガルムといえば、リメットで知らぬ者はいないというほど、高名な冒険者だ。
Sランカー。現代の英雄の称号とされる彼のランクは、貴族に匹敵する発言力を有すという。特にガルムは冒険者というより政治家に近く、そのコネは帝国全土まで広がっている‥‥‥とまで噂されている。
噂は噂。されど火がなければ煙は立たない。そう評されるほどの人脈があるのは確かだろう。
だが、所詮はその程度。彼は戦士であって商人ではない。なのであの狼はこちらから強く干渉しなければ吠えたりしないし、こちらを侵入者扱いはしない。
だからガルムが今更新米を冒険者に推薦したところで、自分にとっては頭の片隅に入れておく程度の情報でしかない。
が、この男は無能ではないのは、ルドス自身よく知っていた。今のは前振りというだけで、より重要な情報が後に控えているのだとすぐに察することができた。
男の続きを待つ。
「エルフ2人と‥‥‥トカゲの魔物の従魔。が、冒険者として新たにギルドに登録されたとのことです」
「エルフ?まぁ、今時珍しいのは確かだな。だが私に深く関わる話でもないだろう?」
「ええ、ですが一部の冒険者たちは、トカゲの魔物がドラゴンの子供じゃないかと推測しているようです」
「‥‥‥それは間違い無いのか?」
「いえ、あくまで憶測の領域です」
「なら‥‥‥」
「ですが実際、そのトカゲの魔物が人語を用いて自分がドラゴンだと偉そうに話していたのが目撃されているのです」
「‥‥‥」
ドラゴン。絵本や英雄譚に登場する絶対的な生物の支配者。圧倒的な力は神に匹敵するとまで言われ、生きる災害扱いされる超常的な存在。ルドスもその脅威はよく知っていた。
だからこそ、眉をひそめて怪訝に男を見た。
「ドラゴンだと?バカバカしい。そんなもの嘘に決まってるだろう。だいたい事実だとして、なぜドラゴンがエルフと共に冒険者などしてる?」
「えぇですが、彼女らを連れてきたのが猛獣使いというのもあって、もしかしたら‥‥‥と思っている冒険者も多いんです」
‥‥‥万が一。本当にそれがドラゴンなら。ある程度の可能性を考え、ルドスは首を横に振った。
「だから、それがどうした?Sランカーがドラゴンを仲間にした連中を冒険者にした。だからこのブリッツ商会に何の影響を与えるというのだ」
「猛獣使いはあの魔族の魔道具屋を贔屓してました。ドラゴンなら、魔鉱石の採掘も他の冒険者がするより効率よく行えます。つまり‥‥‥」
そこまで男が言って、ルドスはその先の言葉と意味を察した。つまりドラゴンが問題なのではなく、ドラゴンの魔力を索敵する能力が問題なのだと男は言いたいのだろう。
魔族の魔道具屋は、魔鉱石の供給をほぼ絶たれていた。
が、ガルムの手駒がそれを解決すれば‥‥‥元々質の良い魔道具を作るとあって、魔族と魔族の組する商会に多大な利益を与える可能性がある。
つまり、将来的にブリッツ商会のライバルとなる可能性がある。単なる従魔持ちの冒険者ならいざ知らず、ドラゴンだということが本当ならば、そんな予想が本物になるかもしれない。
「‥‥‥それが確かなら、手を打たねばな。とにかく情報を集めろ。その魔物がドラゴンかワイバーンか、それともただのトカゲなのか。確実な証拠を集めろ」
「はっ」
男にそう言うと、すぐに彼は部屋から出て行った。命令を実行するためだろう。
ルドスはそれを見届けると、机から立って窓の前に立ち、そこから見えるリメットの街並みを眺めた。
「‥‥‥」
その目は、どこか遠いところを強く睨んでいた。
帝国の辺境に位置するものの、その価値は美しく強固な外壁に例え、帝国の宝石とも言われている。
そんな都市で店を開くのは、多くの商人にとっての夢であり、そこで商売するのに情景を抱く。
事実、リメットで拠点を構えることができるのは大きな商会くらいなもので、個人で手が出せるものでもない。
ブリッツ商会。リメットでも上位に組するほどの巨大なこの商会も、リメットで支部をつくることに成功した商人組織の一つだった。
ブリッツ商会は冒険者ギルドから魔鉱石の買取をほぼ独占してる。そして、その魔鉱石を元手に魔道具を生産し、貴族向けに販売して大きな利益を得ることに成功した。
魔道具の販売に関しては、リメットで揺るぎない立場を獲得しているのだ。
ブリッツ商会の会長2代目。ルドス・エバンは競争の激しいリメットで勝ち上がった商人の一人だった。
元は上級貴族、エバン家の次男。幼いながらも跡取りは兄であると早々に判断し、独立後はコネを利用しブリッツ商会に参加。
その後、魔道具で利益を上げ、会長まで上り詰めた男である。
「‥‥‥」
エバンは高級品に囲まれた執務室にてルドスは今月の魔道具の売り上げグラフを眺めていた。
品質の良い紙に書かれた報告書は、予想通りに順調な坂が描かれていた。
今回も、黒字だ。利益は着々と上がっている。
コンコン、耳に良いノックの音が鳴った。ルドスは低くも、ハッキリした声で返事を返す。
「入れ」
「失礼します」
許可を出し入ってきたのは、自分の右腕と言ってもいい補佐係の男であった。自身より年下のこの男は、若輩ながらも確かな才能を有していて、ルドスはそれを過去の自分と重ね合わせていた。
故に補佐として近くに置き、次の会長の席に座らせようと考えていた。
「何の用だ?何か問題でも起きたか?」
「いえ、魔道具の取引は上々です。ただ少々、会長が耳に入れた方が良い情報が届きまして」
「ほぉ?」
老化によって重く下がった瞼が蛇の眼光のようにギラリと開く。鋭い視線を受けてなお、補佐の男は表情を崩さない。
金になる。利益に繋がる話ではない。が、耳には入れた方がいい‥‥‥知っておいた方が良い情報。
ルドスは補佐の言葉に興味を惹かれて 次のセリフを続けるよう促した。
「支部長でもなく幹部の者でもなく、私が知っておいた方が良いことか?言ってみろ」
「‥‥‥猛獣使いのガルムが、新人の冒険者を推薦したようなのです」
「それで?」
猛獣使いのガルムといえば、リメットで知らぬ者はいないというほど、高名な冒険者だ。
Sランカー。現代の英雄の称号とされる彼のランクは、貴族に匹敵する発言力を有すという。特にガルムは冒険者というより政治家に近く、そのコネは帝国全土まで広がっている‥‥‥とまで噂されている。
噂は噂。されど火がなければ煙は立たない。そう評されるほどの人脈があるのは確かだろう。
だが、所詮はその程度。彼は戦士であって商人ではない。なのであの狼はこちらから強く干渉しなければ吠えたりしないし、こちらを侵入者扱いはしない。
だからガルムが今更新米を冒険者に推薦したところで、自分にとっては頭の片隅に入れておく程度の情報でしかない。
が、この男は無能ではないのは、ルドス自身よく知っていた。今のは前振りというだけで、より重要な情報が後に控えているのだとすぐに察することができた。
男の続きを待つ。
「エルフ2人と‥‥‥トカゲの魔物の従魔。が、冒険者として新たにギルドに登録されたとのことです」
「エルフ?まぁ、今時珍しいのは確かだな。だが私に深く関わる話でもないだろう?」
「ええ、ですが一部の冒険者たちは、トカゲの魔物がドラゴンの子供じゃないかと推測しているようです」
「‥‥‥それは間違い無いのか?」
「いえ、あくまで憶測の領域です」
「なら‥‥‥」
「ですが実際、そのトカゲの魔物が人語を用いて自分がドラゴンだと偉そうに話していたのが目撃されているのです」
「‥‥‥」
ドラゴン。絵本や英雄譚に登場する絶対的な生物の支配者。圧倒的な力は神に匹敵するとまで言われ、生きる災害扱いされる超常的な存在。ルドスもその脅威はよく知っていた。
だからこそ、眉をひそめて怪訝に男を見た。
「ドラゴンだと?バカバカしい。そんなもの嘘に決まってるだろう。だいたい事実だとして、なぜドラゴンがエルフと共に冒険者などしてる?」
「えぇですが、彼女らを連れてきたのが猛獣使いというのもあって、もしかしたら‥‥‥と思っている冒険者も多いんです」
‥‥‥万が一。本当にそれがドラゴンなら。ある程度の可能性を考え、ルドスは首を横に振った。
「だから、それがどうした?Sランカーがドラゴンを仲間にした連中を冒険者にした。だからこのブリッツ商会に何の影響を与えるというのだ」
「猛獣使いはあの魔族の魔道具屋を贔屓してました。ドラゴンなら、魔鉱石の採掘も他の冒険者がするより効率よく行えます。つまり‥‥‥」
そこまで男が言って、ルドスはその先の言葉と意味を察した。つまりドラゴンが問題なのではなく、ドラゴンの魔力を索敵する能力が問題なのだと男は言いたいのだろう。
魔族の魔道具屋は、魔鉱石の供給をほぼ絶たれていた。
が、ガルムの手駒がそれを解決すれば‥‥‥元々質の良い魔道具を作るとあって、魔族と魔族の組する商会に多大な利益を与える可能性がある。
つまり、将来的にブリッツ商会のライバルとなる可能性がある。単なる従魔持ちの冒険者ならいざ知らず、ドラゴンだということが本当ならば、そんな予想が本物になるかもしれない。
「‥‥‥それが確かなら、手を打たねばな。とにかく情報を集めろ。その魔物がドラゴンかワイバーンか、それともただのトカゲなのか。確実な証拠を集めろ」
「はっ」
男にそう言うと、すぐに彼は部屋から出て行った。命令を実行するためだろう。
ルドスはそれを見届けると、机から立って窓の前に立ち、そこから見えるリメットの街並みを眺めた。
「‥‥‥」
その目は、どこか遠いところを強く睨んでいた。
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