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第4章〜不死〜
42話
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「ぐわぁあ!」
血しぶきをあげながら、赤と白を基調とした鎧を纏う戦士が倒れた。
死んでこそいないが、重傷だろう。呻き声を上げずにうずくまっている。血が滝のように流れ落ちる。
動こうにも動けない。今だからこそ、頑丈な鎧がいつもより重く感じていた。
「ダース!」
倒れた男の仲間だろう。同じ鎧を着た兵士が駆け寄るが、倒れた男ダースは彼に手を向けて制した。寄るな。近づくなと。
そして精一杯の声で仲間に伝える。
「来るな、来るなぁ!殺されるぞ!」
そう言った男の背後に、それがふわりと舞い降りて来た。しかし大きく羽を広げるその姿はどう見ても天使というより悪魔のそれで、羽毛はなく代わりに皮膜が、羽根の代わりに瘴気が漂う。
ゆっくりと地面に降り立ち、その着地音が聞こえた男は悔しそうに口の中噛み、勢いよく振り向いて降り立ったそれに向かって大声で叫んだ。
「ルーデス!てめぇ!なんで吸血鬼なんかになってやがる!?みんなを守るんじゃなかったのかよ!団長みたいに成るんじゃなかったのかよ!?」
言葉の先にいるのは、十数年前の姿のままを保った、かつての後輩。
熱意のあり、真面目で誠実そうだった目はいつの間にか赤く淀んで、肌は生気のない白色で染まっていた。
表情は冷たく、自分を道端に落ちているゴミと同格のように思われていることを感じさせられる。
氷のような目にダースは背筋が凍りつくのを感じたが、勇気を振り絞ってさらに口を動かした。
「今のお前をユーリさんが見たら・・・きっと悲しむぞ」
ルーデスの愛した女性の名を告げると、ピキッと空気に亀裂が走った錯覚を皆が感じた。
無感情だったルーデスの表情が怒りに染まり、目に見えて変化を見せつけてくる。
またたくまにルーデスの優顔に血管が浮き出た。
強烈な殺意。全身の産毛を含めた毛が逆立つのをダースは感じていた。
「・・・彼女の名を」
文字通り、牙を剥いた。
「言うなぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
赤く濁流のように渦巻く粘液を腕に纏わせ、それを倒れて動けないダースの向かって殴りつけようと腕を振り上げた。
ズズズと回転しながらルーデスの腕に絡みつく粘液は、その回転の速さから空気の切れる音が盛大に鳴っていた。当たれば人の皮膚くらい簡単にペロリと剥がすだろう。
そんな脅威が迫って来る中、ダースの視界がゆっくりと動き刹那の合間に昔の記憶が蘇る。
子供の頃の記憶、大人になってからの思い出。あぁそうか、これが走馬灯かと他人事のように思えた。
「ダァァァスゥゥウ!」
仲間の名前を叫ぶ声。ここまでかと諦め、目を閉じた・・・が、閉じた瞼の裏側から、一向に自分の意識が失われる感覚はなかった。
おそるおそる目を開くと、目の前で2メートル以上ある巨漢の男が、ルーデスの攻撃を巨大な大剣で受け止めていた。
「・・・だん、ちょう?」
血で掠れた、しかし乾いた声。信じられないとばかりに目を見開いたダースの前に立つのは、レギオンを率いる生きる伝説。プロドディス・ドミニクであった。
「うおおおおおおおおおお!!」
獣のような雄叫び。体に活でもいれたのか、気合の入った叫びに比例するようにプロドディスの力が増していく。
彼は彼以上も背丈のある鋼の大剣でルーデスを振り払った。スキルでも魔法でもない、純粋な肉体の力でバンパイアロードを跳ね返したのだ。
「くっ!」
流石にプロドディスの割り込みは予想していなかったのか、ルーデスは煙幕代わりとでも言うつもりか、黒い霧を吹き出して視界を奪う。
周囲を覆った霧に対し、プロドディスは煩わしそうにブンと乱暴に腕を振った。
太い腕から生まれた風圧が、あっという間に霧を霧散させる。すると距離をとったルーデスが、親の仇でも見るような憎悪のこもった目でプロドディスを睨んでいた。
逃げるつもりはないらしい。大きく開かれた翼は飛行のためではなく、威嚇のためと思われる。野生動物のように自分より大きい生き物に対し、対抗しようとしているのだ。
とはいえ考えてやっているわけではなかった。無意識のうちに本能で動かしているのだろう。
なぜならその目は殺意こそ浮かんでいるが、確かな理性の色も見えたからである。
会話が成立すると確信を得たプロドディスは、挑発的に口元を笑みにした。
「よぉ、ルーデス。おめぇいつから仲間殺しの汚名を背負うようになったんだ?あぁん?」
しかしルーデスはプロドディスの言葉に反応を見せることはなかった。
確かに凝視はされているが、それはプロドディスの言葉に関心を持ったことではなく、観察という意味合いが強いような気がした。
プロドディスは軽く舌打ちをしてから、後ろにいる部下に指示を下す。
「ヒリト、ダースを連れて撤退しろ。ついでに他の連中にもここに近づかねぇようにな」
「し・・・しかし団長はっ」
「俺の心配は不要だ。さぁさっさと行け!」
有無を言わせぬ強い口調に、ヒリトと呼ばれた男は大きな背中に向かって敬礼をし、倒れたダースに肩を貸して撤退していった。
その間ルーデスは邪魔をすることなかった。
血しぶきをあげながら、赤と白を基調とした鎧を纏う戦士が倒れた。
死んでこそいないが、重傷だろう。呻き声を上げずにうずくまっている。血が滝のように流れ落ちる。
動こうにも動けない。今だからこそ、頑丈な鎧がいつもより重く感じていた。
「ダース!」
倒れた男の仲間だろう。同じ鎧を着た兵士が駆け寄るが、倒れた男ダースは彼に手を向けて制した。寄るな。近づくなと。
そして精一杯の声で仲間に伝える。
「来るな、来るなぁ!殺されるぞ!」
そう言った男の背後に、それがふわりと舞い降りて来た。しかし大きく羽を広げるその姿はどう見ても天使というより悪魔のそれで、羽毛はなく代わりに皮膜が、羽根の代わりに瘴気が漂う。
ゆっくりと地面に降り立ち、その着地音が聞こえた男は悔しそうに口の中噛み、勢いよく振り向いて降り立ったそれに向かって大声で叫んだ。
「ルーデス!てめぇ!なんで吸血鬼なんかになってやがる!?みんなを守るんじゃなかったのかよ!団長みたいに成るんじゃなかったのかよ!?」
言葉の先にいるのは、十数年前の姿のままを保った、かつての後輩。
熱意のあり、真面目で誠実そうだった目はいつの間にか赤く淀んで、肌は生気のない白色で染まっていた。
表情は冷たく、自分を道端に落ちているゴミと同格のように思われていることを感じさせられる。
氷のような目にダースは背筋が凍りつくのを感じたが、勇気を振り絞ってさらに口を動かした。
「今のお前をユーリさんが見たら・・・きっと悲しむぞ」
ルーデスの愛した女性の名を告げると、ピキッと空気に亀裂が走った錯覚を皆が感じた。
無感情だったルーデスの表情が怒りに染まり、目に見えて変化を見せつけてくる。
またたくまにルーデスの優顔に血管が浮き出た。
強烈な殺意。全身の産毛を含めた毛が逆立つのをダースは感じていた。
「・・・彼女の名を」
文字通り、牙を剥いた。
「言うなぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
赤く濁流のように渦巻く粘液を腕に纏わせ、それを倒れて動けないダースの向かって殴りつけようと腕を振り上げた。
ズズズと回転しながらルーデスの腕に絡みつく粘液は、その回転の速さから空気の切れる音が盛大に鳴っていた。当たれば人の皮膚くらい簡単にペロリと剥がすだろう。
そんな脅威が迫って来る中、ダースの視界がゆっくりと動き刹那の合間に昔の記憶が蘇る。
子供の頃の記憶、大人になってからの思い出。あぁそうか、これが走馬灯かと他人事のように思えた。
「ダァァァスゥゥウ!」
仲間の名前を叫ぶ声。ここまでかと諦め、目を閉じた・・・が、閉じた瞼の裏側から、一向に自分の意識が失われる感覚はなかった。
おそるおそる目を開くと、目の前で2メートル以上ある巨漢の男が、ルーデスの攻撃を巨大な大剣で受け止めていた。
「・・・だん、ちょう?」
血で掠れた、しかし乾いた声。信じられないとばかりに目を見開いたダースの前に立つのは、レギオンを率いる生きる伝説。プロドディス・ドミニクであった。
「うおおおおおおおおおお!!」
獣のような雄叫び。体に活でもいれたのか、気合の入った叫びに比例するようにプロドディスの力が増していく。
彼は彼以上も背丈のある鋼の大剣でルーデスを振り払った。スキルでも魔法でもない、純粋な肉体の力でバンパイアロードを跳ね返したのだ。
「くっ!」
流石にプロドディスの割り込みは予想していなかったのか、ルーデスは煙幕代わりとでも言うつもりか、黒い霧を吹き出して視界を奪う。
周囲を覆った霧に対し、プロドディスは煩わしそうにブンと乱暴に腕を振った。
太い腕から生まれた風圧が、あっという間に霧を霧散させる。すると距離をとったルーデスが、親の仇でも見るような憎悪のこもった目でプロドディスを睨んでいた。
逃げるつもりはないらしい。大きく開かれた翼は飛行のためではなく、威嚇のためと思われる。野生動物のように自分より大きい生き物に対し、対抗しようとしているのだ。
とはいえ考えてやっているわけではなかった。無意識のうちに本能で動かしているのだろう。
なぜならその目は殺意こそ浮かんでいるが、確かな理性の色も見えたからである。
会話が成立すると確信を得たプロドディスは、挑発的に口元を笑みにした。
「よぉ、ルーデス。おめぇいつから仲間殺しの汚名を背負うようになったんだ?あぁん?」
しかしルーデスはプロドディスの言葉に反応を見せることはなかった。
確かに凝視はされているが、それはプロドディスの言葉に関心を持ったことではなく、観察という意味合いが強いような気がした。
プロドディスは軽く舌打ちをしてから、後ろにいる部下に指示を下す。
「ヒリト、ダースを連れて撤退しろ。ついでに他の連中にもここに近づかねぇようにな」
「し・・・しかし団長はっ」
「俺の心配は不要だ。さぁさっさと行け!」
有無を言わせぬ強い口調に、ヒリトと呼ばれた男は大きな背中に向かって敬礼をし、倒れたダースに肩を貸して撤退していった。
その間ルーデスは邪魔をすることなかった。
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