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〜第5章〜
48話「ウロボロス。学校を目指す」5
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そうこうしている内に、時刻は夕方を迎える時間帯となっていた。
冬だとこの時間は肌寒い風が弱々しく吹く。枯葉が風に吹かれて転がっていくのを、下校する生徒たちが踏みつけていく。
その生徒たちは、シオンと共に授業を受けていた者たち以外もいた。
いや、むしろ彼らの方が多いだろう。皆が皆、腰に模擬剣を下げている。
この施設では魔法を学ぶ魔術専攻の魔術科と、剣での護身術を学ぶための剣士科があるらしい。
圧倒的な数の少なさが特徴的な魔術科では、人口差が極端に現れるのも仕方のないことだろう。
魔術科の生徒も、人数の少なさを大して気にしている様子はない。
「すごいねシオンちゃん!先生の問題全部解いちゃって」
「ふふふ、勉強しましたからね」
目をキラキラと輝かせながら、ミリーに眩しい瞳を向けられるシオン。
どうやらあの神経質そうな女講師に目をつけられ、幾度か難問を投げつけられてしまったらしい。
しかし、これでも彼女は『竜の巫女姫』という肩書きをレッテルに住んでいた頃もらっていた。
竜の探知能力を会得するのに、国公認の魔術検定まで受け、合格までしているのだ。むしろ解けない方がおかしい。
「いやぁ、シオンがいてくれてスッキリしたぜ!あのパメック先生が焦ってんの初めて見たし」
ミリーと同じく、シオンと仲良くなった男子が笑いながら言う。やはり子供たちからすればあの講師の人気は不評であるらしい。
いつも無理難題な魔法テストを行い、不正解して当然な問題を解けなかった生徒、それも全員にネチネチした小言を聞かせていたそうだ。
それは子供たちも鬱憤が溜まるだろう。しかしそこに検定持ちのシオンがやってきた。
これからはそう講師も嫌味を言えなくなるだろう。
「でもあんなに魔法のこと詳しく知ってるのに、なんで学校に来たの?」
「そーよ。あたしなら絶対学校なんか行かないわ」
ミリーの質問に、近くにいた女子が同意する。子供らしい意見にシオンはあははと苦々しく笑った。
そして訳を話す。
「実は、回復魔法と防御魔法しか使えないんです。だから攻撃魔法が欲しくて・・・」
ウロボロスもサエラも聞いていないからこそ、シオンは学校に通い始めた訳を口にした。
か弱い後衛になりたいだなんだ言っても、結局は二人の役に立ちたかった。
しかし自分のできることは基本的に荷物運びだけ。こんなことは誰でもできる・・・と、本人は思っていた。実際あの重量を持ち運ぶのはシオンくらいでないと不可能だが。
ともかく、シオンは戦闘面でも二人に貢献したかったのだ。
慎重派のウロボロス、索敵担当のサエラ。二人のお陰で全員怪我せず帰還できる。
つまり回復魔法を使う機会が異常に少ないのである。それ自体は良い事だが、やはりできる事の幅を増やしたいとシオンは考えていた。
「へぇ、ダンジョン探索か。いーなー」
「俺も冒険者みたいな英雄になりたいぜ!」
「アンタじゃ無理よ。猫相手にビビってるようじゃ」
「び、びびってねぇーし!?」
同級生の会話にシオンはあははと笑いながら相槌を打つ。たまにはこういう会話もいいかと、何気にシオンは学生生活を満喫していた。
・・・さて、忘れてはならない存在がもう一匹いるのを覚えているだろうか?
そう、ウロボロスである。
シオンたちが学校を出始めたと同時に、ウロボロスもようやく学校へたどり着くことができた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
その姿はまるで砂漠を横断する旅人のようにボロボロであった。適当な木の棒を杖代わりに、息切れを起こしながらよたよたと歩く。
腰には命より大事にしている宝のようにピカピカな教科書を下げている。
すでに満身創痍な様子を見れば「どんな魔境行ってきたんだよ」とガルム辺りなら言うだろう。
驚く事なかれ。この傷を負ったのは街中である。
「つ、着いたぞ・・・長く、苦しい旅であった」
半日ほどの旅だ。
「匂いを嗅ぎながら移動するのは骨が折れるが・・・ふ、ふふ、やはり我はできる竜なのだ」
人に聞かれぬよう、小さな声で独り言を呟きながらウロボロスは学校を見上げた。
相変わらず石レンガの作りであるが、施設の中へとシオンの香りが漂っているのを感じた。
そう、ウロボロスはシオンの匂いを嗅ぎながら学校にやって来たのだ。そもそも場所を知らない。
もちろん困難を極めた道のりだった。人目につかないよう、路地裏や地下を移動し、途切れた匂いから新しい匂いを探し出してようやく到着したのだ。
人間にとっては簡単に通れる道でも、人に見られるわけにはいかないウロボロスにとっては難所ばかりであった。
そうしてやっとのこさゴール。すでに下校時刻であることに気付かずに「ジーン」と自分の努力に感動していた。
(さて、シオンはどこにおるのだ?)
建物から出て行く生徒を見ながらシオンを探すウロボロス。
隠れながらだと探していて死角が生まれるが、無理して見つかるわけにもいかない。
フリフリと首を動かし、見慣れたエルフの姿を求める。
「あっ!いたである!」
あくまで小声で言う。ウロボロスは呟きながら、わりと距離のある位置にいるシオンの姿を確認することができた。
彼女の周りには男子一人に女子が二人いるが、構うものかと地を蹴ってシオンのところに向かう。
(しおーん!)
目元に涙を浮かべ、シオンの元へ走るウロボロス。ついにここまでの苦労が報われると、キラキラと星を光らせる。
あと五歩ほどだろうか、それくらいまで距離を縮め、あとすこしで自身の存在をシオンが気付くだろうと思った・・・瞬間。
パタン。
シオンとウロボロスの間を木の扉が閉まって行き先を阻んだ。
「・・・へ?」
何が起こったのか。間抜けな呟きを漏らし、ウロボロスは木の扉をゆっくりと見上げた。
扉は巨大で四角い長方形の形の木の箱の入り口で、横一列に窓が付いていて中にはシオン以外の生徒も入っているのが見えた。
前後には大きな車輪が付いていて、反対側から見れば対照的な位置にもしっかり車輪があるはずだ。
そして箱の正面と思わしき端っこには、リメットの馬であるリメルロン二頭に紐が繋がっている。
「・・・馬車?」
ウロボロスの予想は正しく、これはバスと呼ばれる大型の馬車であったのだ。
「うーい、出発ぅ~~」
運転をする業者の声だろうか。そう言った瞬間、リメルロンは「ヒヒーン!」と豪快に鳴き、リズムよく蹄を石の道へ打ちつけながら馬車を引っ張って行く。
「それにしても、馬車で広場まで送ってもらえるなんて便利ですねー」
「そーだね」
馬車の中ではシオンとミリーが何気ない会話をしていた。
が、ふと窓の外に目を向けてみると、ほんの一瞬の隙間にウロボロスが絶望したような表情をしている様子が見えた。
「・・・えっ!?」
思わず窓に寄って外を凝視したが、開かないタイプの木枠の窓のようで、もう確認はできない。馬車自体の速度もそれなりにあるせいで、ウロボロスの写っていた風景はすでに過ぎてしまっていた。
(・・・気のせい、です・・か?)
「どうしたの?」
「え、いえ・・・なんでもないですよ?」
「?」
そうして、ウロボロスを置いて馬車は生徒たちを広場まで送って行くのだった。
シオンは帰宅後、急いでドアを開けて家の中に飛び込んだ。
そして家中をドタドタと慌ただしく駆けめくった。普段日向ぼっこしてあるところにはいない。トイレにも、本の置いてある書斎(仮)にも影の形もない。
「はぁ、はぁ」
どこにもいない。息切れを起こしながらシオンはやはり気のせいではなかったのではと思い始める。
「ただいま」
と、その時玄関から妹の帰宅を告げる言葉が聞こえてきた。シオンは廊下を走り、時々転びそうになりながらも玄関に向かった。
当然、玄関にはサエラだけで、ウロボロスはいない。
「サエラ!ウーロさん知りません!?」
「・・・?知らない」
事情を知らないサエラは汗をかいたシオンを見てコテンと首を傾げる。
何事かとサエラが尋ねようとした時には、シオンは走って自室へと向かって行ってしまった。
シオンは今朝荷物の整理をしていた部屋まで来ると、ある変化があることに気が付いた。
忘れていったはずの教科書がないのだ。
「・・・まさかっ!」
そして全てを察した。
「くそ、すっかり真夜中である。ここはどこだ?匂いが途切れて全然わからん。・・・ひ!ね、ネズミか脅かすでないわ!ひぃ!?か、影か!脅かすなど言うてるだろうが!あ、我の影か。
うぅ・・・だれか助けてくれええええええええええ!」
のちに無事に回収されたウロボロスは、二度と一匹で外出しないと心に誓ったのであった。
冬だとこの時間は肌寒い風が弱々しく吹く。枯葉が風に吹かれて転がっていくのを、下校する生徒たちが踏みつけていく。
その生徒たちは、シオンと共に授業を受けていた者たち以外もいた。
いや、むしろ彼らの方が多いだろう。皆が皆、腰に模擬剣を下げている。
この施設では魔法を学ぶ魔術専攻の魔術科と、剣での護身術を学ぶための剣士科があるらしい。
圧倒的な数の少なさが特徴的な魔術科では、人口差が極端に現れるのも仕方のないことだろう。
魔術科の生徒も、人数の少なさを大して気にしている様子はない。
「すごいねシオンちゃん!先生の問題全部解いちゃって」
「ふふふ、勉強しましたからね」
目をキラキラと輝かせながら、ミリーに眩しい瞳を向けられるシオン。
どうやらあの神経質そうな女講師に目をつけられ、幾度か難問を投げつけられてしまったらしい。
しかし、これでも彼女は『竜の巫女姫』という肩書きをレッテルに住んでいた頃もらっていた。
竜の探知能力を会得するのに、国公認の魔術検定まで受け、合格までしているのだ。むしろ解けない方がおかしい。
「いやぁ、シオンがいてくれてスッキリしたぜ!あのパメック先生が焦ってんの初めて見たし」
ミリーと同じく、シオンと仲良くなった男子が笑いながら言う。やはり子供たちからすればあの講師の人気は不評であるらしい。
いつも無理難題な魔法テストを行い、不正解して当然な問題を解けなかった生徒、それも全員にネチネチした小言を聞かせていたそうだ。
それは子供たちも鬱憤が溜まるだろう。しかしそこに検定持ちのシオンがやってきた。
これからはそう講師も嫌味を言えなくなるだろう。
「でもあんなに魔法のこと詳しく知ってるのに、なんで学校に来たの?」
「そーよ。あたしなら絶対学校なんか行かないわ」
ミリーの質問に、近くにいた女子が同意する。子供らしい意見にシオンはあははと苦々しく笑った。
そして訳を話す。
「実は、回復魔法と防御魔法しか使えないんです。だから攻撃魔法が欲しくて・・・」
ウロボロスもサエラも聞いていないからこそ、シオンは学校に通い始めた訳を口にした。
か弱い後衛になりたいだなんだ言っても、結局は二人の役に立ちたかった。
しかし自分のできることは基本的に荷物運びだけ。こんなことは誰でもできる・・・と、本人は思っていた。実際あの重量を持ち運ぶのはシオンくらいでないと不可能だが。
ともかく、シオンは戦闘面でも二人に貢献したかったのだ。
慎重派のウロボロス、索敵担当のサエラ。二人のお陰で全員怪我せず帰還できる。
つまり回復魔法を使う機会が異常に少ないのである。それ自体は良い事だが、やはりできる事の幅を増やしたいとシオンは考えていた。
「へぇ、ダンジョン探索か。いーなー」
「俺も冒険者みたいな英雄になりたいぜ!」
「アンタじゃ無理よ。猫相手にビビってるようじゃ」
「び、びびってねぇーし!?」
同級生の会話にシオンはあははと笑いながら相槌を打つ。たまにはこういう会話もいいかと、何気にシオンは学生生活を満喫していた。
・・・さて、忘れてはならない存在がもう一匹いるのを覚えているだろうか?
そう、ウロボロスである。
シオンたちが学校を出始めたと同時に、ウロボロスもようやく学校へたどり着くことができた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
その姿はまるで砂漠を横断する旅人のようにボロボロであった。適当な木の棒を杖代わりに、息切れを起こしながらよたよたと歩く。
腰には命より大事にしている宝のようにピカピカな教科書を下げている。
すでに満身創痍な様子を見れば「どんな魔境行ってきたんだよ」とガルム辺りなら言うだろう。
驚く事なかれ。この傷を負ったのは街中である。
「つ、着いたぞ・・・長く、苦しい旅であった」
半日ほどの旅だ。
「匂いを嗅ぎながら移動するのは骨が折れるが・・・ふ、ふふ、やはり我はできる竜なのだ」
人に聞かれぬよう、小さな声で独り言を呟きながらウロボロスは学校を見上げた。
相変わらず石レンガの作りであるが、施設の中へとシオンの香りが漂っているのを感じた。
そう、ウロボロスはシオンの匂いを嗅ぎながら学校にやって来たのだ。そもそも場所を知らない。
もちろん困難を極めた道のりだった。人目につかないよう、路地裏や地下を移動し、途切れた匂いから新しい匂いを探し出してようやく到着したのだ。
人間にとっては簡単に通れる道でも、人に見られるわけにはいかないウロボロスにとっては難所ばかりであった。
そうしてやっとのこさゴール。すでに下校時刻であることに気付かずに「ジーン」と自分の努力に感動していた。
(さて、シオンはどこにおるのだ?)
建物から出て行く生徒を見ながらシオンを探すウロボロス。
隠れながらだと探していて死角が生まれるが、無理して見つかるわけにもいかない。
フリフリと首を動かし、見慣れたエルフの姿を求める。
「あっ!いたである!」
あくまで小声で言う。ウロボロスは呟きながら、わりと距離のある位置にいるシオンの姿を確認することができた。
彼女の周りには男子一人に女子が二人いるが、構うものかと地を蹴ってシオンのところに向かう。
(しおーん!)
目元に涙を浮かべ、シオンの元へ走るウロボロス。ついにここまでの苦労が報われると、キラキラと星を光らせる。
あと五歩ほどだろうか、それくらいまで距離を縮め、あとすこしで自身の存在をシオンが気付くだろうと思った・・・瞬間。
パタン。
シオンとウロボロスの間を木の扉が閉まって行き先を阻んだ。
「・・・へ?」
何が起こったのか。間抜けな呟きを漏らし、ウロボロスは木の扉をゆっくりと見上げた。
扉は巨大で四角い長方形の形の木の箱の入り口で、横一列に窓が付いていて中にはシオン以外の生徒も入っているのが見えた。
前後には大きな車輪が付いていて、反対側から見れば対照的な位置にもしっかり車輪があるはずだ。
そして箱の正面と思わしき端っこには、リメットの馬であるリメルロン二頭に紐が繋がっている。
「・・・馬車?」
ウロボロスの予想は正しく、これはバスと呼ばれる大型の馬車であったのだ。
「うーい、出発ぅ~~」
運転をする業者の声だろうか。そう言った瞬間、リメルロンは「ヒヒーン!」と豪快に鳴き、リズムよく蹄を石の道へ打ちつけながら馬車を引っ張って行く。
「それにしても、馬車で広場まで送ってもらえるなんて便利ですねー」
「そーだね」
馬車の中ではシオンとミリーが何気ない会話をしていた。
が、ふと窓の外に目を向けてみると、ほんの一瞬の隙間にウロボロスが絶望したような表情をしている様子が見えた。
「・・・えっ!?」
思わず窓に寄って外を凝視したが、開かないタイプの木枠の窓のようで、もう確認はできない。馬車自体の速度もそれなりにあるせいで、ウロボロスの写っていた風景はすでに過ぎてしまっていた。
(・・・気のせい、です・・か?)
「どうしたの?」
「え、いえ・・・なんでもないですよ?」
「?」
そうして、ウロボロスを置いて馬車は生徒たちを広場まで送って行くのだった。
シオンは帰宅後、急いでドアを開けて家の中に飛び込んだ。
そして家中をドタドタと慌ただしく駆けめくった。普段日向ぼっこしてあるところにはいない。トイレにも、本の置いてある書斎(仮)にも影の形もない。
「はぁ、はぁ」
どこにもいない。息切れを起こしながらシオンはやはり気のせいではなかったのではと思い始める。
「ただいま」
と、その時玄関から妹の帰宅を告げる言葉が聞こえてきた。シオンは廊下を走り、時々転びそうになりながらも玄関に向かった。
当然、玄関にはサエラだけで、ウロボロスはいない。
「サエラ!ウーロさん知りません!?」
「・・・?知らない」
事情を知らないサエラは汗をかいたシオンを見てコテンと首を傾げる。
何事かとサエラが尋ねようとした時には、シオンは走って自室へと向かって行ってしまった。
シオンは今朝荷物の整理をしていた部屋まで来ると、ある変化があることに気が付いた。
忘れていったはずの教科書がないのだ。
「・・・まさかっ!」
そして全てを察した。
「くそ、すっかり真夜中である。ここはどこだ?匂いが途切れて全然わからん。・・・ひ!ね、ネズミか脅かすでないわ!ひぃ!?か、影か!脅かすなど言うてるだろうが!あ、我の影か。
うぅ・・・だれか助けてくれええええええええええ!」
のちに無事に回収されたウロボロスは、二度と一匹で外出しないと心に誓ったのであった。
応援ありがとうございます!
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