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〜第6章〜ラドン編
59話
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突然の仲間たちによる奇行を目の当たりにしたガルムは呆れつつも、確実に戦果を挙げている攻撃に複雑な気持ちを隠せない。
適当に近くにいたメガニューラを斬り捨て、地面を思いっきり蹴る。
靴の裏に風を宿らせた跳躍は、一回のジャンプでウロボロスたちの元へ飛び込む事が出来た。
犬というより猫のような身軽さを見せたガルムはシオンの方へ顔を向ける。
「なにしてんだお前ら」
「よく聞いてくれましたガルムさん!これはわたしたちの合体技なのですよ!」
「合体技ぁ?」
明らかにウロボロスがブレスを四方八方に発射してるようにしか見えない。どこが合体してるなど、見た目だけで判別できそうにない。
なにかカラクリがあるのかと魔力を意識して感じ取ると、ガルムは気付く。半径5メートルほどのスペースがシオンの魔力に覆われていたのだ。
「・・・シールドか」
ガルムは見事正解を的中させたらしい。シオンは得意げだった顔をさらに緩ませ、ドラゴンのような鼻息をふんふんと鳴らした。
「その通り!学校で魔法の勉強をしたわたしは味方全体を囲む結界を張れるようになったのです」
「俺が来た時にゃ弾かれなかったぞ」
ガルムが疑問を投げかけたその時、飛んで火に入る夏の虫とでも言うべきか、2匹ほどのメガニューラがシオンに向かって大口を開けて飛んできた。
鋭い爪に硬い甲殻でできた口に噛まれれば、シオンの柔肌など簡単に切り裂かれてしまう。
だがメガニューラはシオンが展開したシールド部分の魔力に触れると、電撃に触れたように体を大きく痙攣させた。そして殴られたように弾き飛ばされ、飛んで来た速度の反動ともいえる速さで壁にぶつかった。
「・・・俺がこうならなかった理由は?」
地味に強力な結界にガルムは口元を引きつらせながら尋ねる。万が一自分が喰らったらこうなるのかと、先ほどのメガニューラを反面教師として脳内に留める。
「それは、味方判定があるからですよ」
つまりシオンが味方と思えば、シールドの出入りが可能というわけだ。
「判定?どんな基準だよ」
「わたしが味方と判断した場合です」
「・・・あ、そう」
便利だが、危険な魔法だった。万が一悪ふざけでシオンの機嫌を損ねればシールドで飛ばされるかもしれない。
他者の認識がどこまで影響するかわからないが、魔法じたい現実改変というあやふやな技術なのだ。
「で?これのどこが合体技だよ」
「わたしがシールドを張り!」
「私が敵を検知して!」
「ふぁれふぁこうへひふる!」
「「「これが合体技!」」」
シオンに続くようにサエラが口を挟み、ウロボロスは・・・おそらく「我が攻撃する」と言っているのだろう。ブレスを撃ちながら喋るのは至難の業である。
「・・・あっそ」
ガルムは呆れた顔を作るが、内心では感心していた。顔に出すと調子に乗られるとわかっているのだ。どこかの赤毛の魔女のように。
(攻撃されないようにシオンが防御、サエラの魔力パルスで全方位の敵を検知、そこにウーロのブレスで狙撃・・・か。ウーロのブレスは味方判定なのか?一方的に攻撃できんなこれ)
例えるなら、絶対に壊せない岩から発射した火球が追尾してくるようなものだ。反撃してもシールドに弾かれるから回避するしかない。エグいなと思ったガルム。
無論対策できないわけではない。この無差別攻撃に効果があるのは盗賊や低ランクの魔物など雑魚の群れだろう。Aランカークラスの冒険者なら反撃出来ないことはない。
ガルムなら風魔法で火球の軌道をそらし、メアリーなら念動力で操り、レッドキャップならブラッドボムで相殺できる。
Aランカーのゴードンなら、鋼鉄の鎧を身に纏えば簡単に防御できるだろう。即席にしては強力な連携技だが、格上相手に無双できるものではない。
「ほいっほいっほぃぃー」
現にクルーウは飛んでくる火球を刀一本でさばいている。まるでまな板の上に乗せられた魚を次々に刺身に変えていく料理人のような鮮やかな腕前だ。
魔法の核を潰し、刀を振るうたびに炎が砕けた硝石みたいに煌めく。
周りを燃え尽きたメガニューラが落ちていくのを気にしていない様子を見ると、やはりかわいい子と呼んでても駒であることに変わりはないようだ。
「チッ。変態め。」
「腐ってもSランカー。」
ウロボロスの攻撃をまるで脅威に感じていないクルーウに、ベタとガマが忌々しそうに言う。自分たちが崇拝する存在の攻撃を跳ね返す様子が面白くないらしい。
とは言っても、ウロボロスが全盛期の力を取り戻せばクルーウ程度が相手にならないことくらい知っている。
もし全力なら、はじめに食らったあの火球の時点でクルーウは消し炭になっていただろう。
そう思ってベタとガマは心の苛立ちを落ち着かせる。
すると急にウロボロスからの火球発射がなくなり、途端に周りが静かになる。
サエラがウロボロスの尻をポンポンと叩くが、出てくるのは火球ではなく「おぅ、おふっ」という声だけだ。
「どうしたの?」
「魔力切れたである」
そりゃあんなに撃ちまくれば無くなる。
「うふふぅ、弾切れぇ?なら今度はぁ・・・こっちだぁ!!」
今までのお返しのつもりか、一瞬でシオンのシールドまで接近したクルーウは刀を振った。
次の瞬間にはシールドと刀の接触音が遅れて聞こえてくる。それはガラスをこするような不快で甲高い音だった。シールドが悲鳴を上げているようにも聞こえる。
おそらく今の一撃は、竜の鱗すら切断する強力なものだったろう。それでもシオンのシールドは傷はひとつなく耐え抜いてみせた。
クルーウが首を傾げる。
「あれぇ?あれれぇ?おっかしぃなあ。斬れないぞぉ?」
「あれ?なんで斬れないんですか?」
シールドを張った張本人であるシオンすら首を傾げていた。
シオンはガルムやクルーウの切断能力の高さが、空間に干渉しているということは知っている。その豊富な知識や発想力が答えを導き出していたのだ。
故に、なぜ自身のシールドがクルーウの攻撃を耐えたのか?その疑問が頭をよぎった。
しかし考える暇はない。なぜなら次の瞬間には、大音量の地響きとともに足元が崩れ始めたからだ。
ふわっとした浮遊感が、その場にいる全員を襲う。
適当に近くにいたメガニューラを斬り捨て、地面を思いっきり蹴る。
靴の裏に風を宿らせた跳躍は、一回のジャンプでウロボロスたちの元へ飛び込む事が出来た。
犬というより猫のような身軽さを見せたガルムはシオンの方へ顔を向ける。
「なにしてんだお前ら」
「よく聞いてくれましたガルムさん!これはわたしたちの合体技なのですよ!」
「合体技ぁ?」
明らかにウロボロスがブレスを四方八方に発射してるようにしか見えない。どこが合体してるなど、見た目だけで判別できそうにない。
なにかカラクリがあるのかと魔力を意識して感じ取ると、ガルムは気付く。半径5メートルほどのスペースがシオンの魔力に覆われていたのだ。
「・・・シールドか」
ガルムは見事正解を的中させたらしい。シオンは得意げだった顔をさらに緩ませ、ドラゴンのような鼻息をふんふんと鳴らした。
「その通り!学校で魔法の勉強をしたわたしは味方全体を囲む結界を張れるようになったのです」
「俺が来た時にゃ弾かれなかったぞ」
ガルムが疑問を投げかけたその時、飛んで火に入る夏の虫とでも言うべきか、2匹ほどのメガニューラがシオンに向かって大口を開けて飛んできた。
鋭い爪に硬い甲殻でできた口に噛まれれば、シオンの柔肌など簡単に切り裂かれてしまう。
だがメガニューラはシオンが展開したシールド部分の魔力に触れると、電撃に触れたように体を大きく痙攣させた。そして殴られたように弾き飛ばされ、飛んで来た速度の反動ともいえる速さで壁にぶつかった。
「・・・俺がこうならなかった理由は?」
地味に強力な結界にガルムは口元を引きつらせながら尋ねる。万が一自分が喰らったらこうなるのかと、先ほどのメガニューラを反面教師として脳内に留める。
「それは、味方判定があるからですよ」
つまりシオンが味方と思えば、シールドの出入りが可能というわけだ。
「判定?どんな基準だよ」
「わたしが味方と判断した場合です」
「・・・あ、そう」
便利だが、危険な魔法だった。万が一悪ふざけでシオンの機嫌を損ねればシールドで飛ばされるかもしれない。
他者の認識がどこまで影響するかわからないが、魔法じたい現実改変というあやふやな技術なのだ。
「で?これのどこが合体技だよ」
「わたしがシールドを張り!」
「私が敵を検知して!」
「ふぁれふぁこうへひふる!」
「「「これが合体技!」」」
シオンに続くようにサエラが口を挟み、ウロボロスは・・・おそらく「我が攻撃する」と言っているのだろう。ブレスを撃ちながら喋るのは至難の業である。
「・・・あっそ」
ガルムは呆れた顔を作るが、内心では感心していた。顔に出すと調子に乗られるとわかっているのだ。どこかの赤毛の魔女のように。
(攻撃されないようにシオンが防御、サエラの魔力パルスで全方位の敵を検知、そこにウーロのブレスで狙撃・・・か。ウーロのブレスは味方判定なのか?一方的に攻撃できんなこれ)
例えるなら、絶対に壊せない岩から発射した火球が追尾してくるようなものだ。反撃してもシールドに弾かれるから回避するしかない。エグいなと思ったガルム。
無論対策できないわけではない。この無差別攻撃に効果があるのは盗賊や低ランクの魔物など雑魚の群れだろう。Aランカークラスの冒険者なら反撃出来ないことはない。
ガルムなら風魔法で火球の軌道をそらし、メアリーなら念動力で操り、レッドキャップならブラッドボムで相殺できる。
Aランカーのゴードンなら、鋼鉄の鎧を身に纏えば簡単に防御できるだろう。即席にしては強力な連携技だが、格上相手に無双できるものではない。
「ほいっほいっほぃぃー」
現にクルーウは飛んでくる火球を刀一本でさばいている。まるでまな板の上に乗せられた魚を次々に刺身に変えていく料理人のような鮮やかな腕前だ。
魔法の核を潰し、刀を振るうたびに炎が砕けた硝石みたいに煌めく。
周りを燃え尽きたメガニューラが落ちていくのを気にしていない様子を見ると、やはりかわいい子と呼んでても駒であることに変わりはないようだ。
「チッ。変態め。」
「腐ってもSランカー。」
ウロボロスの攻撃をまるで脅威に感じていないクルーウに、ベタとガマが忌々しそうに言う。自分たちが崇拝する存在の攻撃を跳ね返す様子が面白くないらしい。
とは言っても、ウロボロスが全盛期の力を取り戻せばクルーウ程度が相手にならないことくらい知っている。
もし全力なら、はじめに食らったあの火球の時点でクルーウは消し炭になっていただろう。
そう思ってベタとガマは心の苛立ちを落ち着かせる。
すると急にウロボロスからの火球発射がなくなり、途端に周りが静かになる。
サエラがウロボロスの尻をポンポンと叩くが、出てくるのは火球ではなく「おぅ、おふっ」という声だけだ。
「どうしたの?」
「魔力切れたである」
そりゃあんなに撃ちまくれば無くなる。
「うふふぅ、弾切れぇ?なら今度はぁ・・・こっちだぁ!!」
今までのお返しのつもりか、一瞬でシオンのシールドまで接近したクルーウは刀を振った。
次の瞬間にはシールドと刀の接触音が遅れて聞こえてくる。それはガラスをこするような不快で甲高い音だった。シールドが悲鳴を上げているようにも聞こえる。
おそらく今の一撃は、竜の鱗すら切断する強力なものだったろう。それでもシオンのシールドは傷はひとつなく耐え抜いてみせた。
クルーウが首を傾げる。
「あれぇ?あれれぇ?おっかしぃなあ。斬れないぞぉ?」
「あれ?なんで斬れないんですか?」
シールドを張った張本人であるシオンすら首を傾げていた。
シオンはガルムやクルーウの切断能力の高さが、空間に干渉しているということは知っている。その豊富な知識や発想力が答えを導き出していたのだ。
故に、なぜ自身のシールドがクルーウの攻撃を耐えたのか?その疑問が頭をよぎった。
しかし考える暇はない。なぜなら次の瞬間には、大音量の地響きとともに足元が崩れ始めたからだ。
ふわっとした浮遊感が、その場にいる全員を襲う。
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