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〜第6章〜ラドン編
62話
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生温い半液状態の肉を飲み込む。生臭く、泥臭い味と臭いが感覚を貫ぎ、それは次第に全身から押し出されるように湧き上がった吐き気へと変わる。
食感を例えるならそれはスライムで、肌に張り付かないほどの粘性と人肌ほどの生ぬるい温度。そして何よりもかすかに臭う石油くさい匂い。
それでも異物とも言える肉を胃に収め、時折胃酸の混ざった喉を焼く酸の味が口から顔を出そうとするのを必死に押しとどめる。柔らかいを通り越した肉は竜の強靭な胃液によって溶かされ、その栄養は血液によって全身を駆け巡る。
1匹食って、また1匹食う。そうしているうちにいつか舌の感覚がなくなり、食すことに慣れていった。
しかしお世辞にも食感がいいとはいえない。結局はこの不愉快を体言化したような餌を食べなければならないことに、竜・・・ウロボロスは絶望を隠すことができなかった。
「おげぇぇぇ」
「ふぁいと!ふぁいと!あと3匹ですよ!」
「がんばれ。がんばれ」
「キィ!キィ!キィ!」
肉、ヤゴの脚をヤケになった感じに飲み込むウロボロスに対し、少女たちは無責任むき出しの応援をしていた。
シオンもサエラも子供らしい童顔をまだ残しているとはいえ、一般的に見れば非常に顔立ちの整った美少女である。
スプリガンであるティも、魔物から見ればそれなりに魅力的だ。
仮にも雄であるウロボロスは、年若く麗しい少女たちに元気つけられるのに気分を悪くすることはない。するはずがない。そう思い込むことで、ヤゴを食べるための活力を生み出す。
やはり不味い。
「うっぷ、んぅぷ。・・・これは?」
続いて噛み付いたヤゴの頭は、棒で叩き割ったスイカのように割れていた。
体液と肉と甲殻が混ざり、ペースト状になったタンパク質がむき出しになっている。ウロボロスはさらに顔を引きつらせた。
虫ゆえに、動物のような肥大化した脳がないのが幸いである。それでもグロテスクな見た目へと変貌したヤゴは気持ち悪いを通り越して不気味である。
「姉さんが叩き潰したやつ」
サエラがそういって一部陥没した地面を指差した。そこは見事にクレーターができており、事情を知らぬものが見ればゴーレムでも暴れたのかと勘違いするだろう。
ポンポンと軽く脚で床を叩いてみたウロボロス。決して柔らかいものではない。
「・・・おかしくない?」
「違いますよ。メアリーさんが作ったこの杖が強いんですよ」
「嘘つけ」
シオンの苦し紛れの呟きを逃がさない。シオンが両手で握っている杖は傷一つなく、多少付着した体液を除けば新品そのものだった。
先端のダイヤモンドが美しく輝く。だがそれは嗜好品や鑑賞用ではなく、明らかに生き物へ害を与えるための鈍器の輝きであった。
誇らしそうに、金剛と称される宝石が煌めく。
精霊ナイアス・アイグレーの生み出したダイヤにリメット特産の黒檀を削ってできた杖の大部分。防御力は鉄で作る盾よりもあるかもしれない。
それプラスシオンのバンパイアロード並みの・・・否、超える怪力が破壊力を高める。杖の硬さはそのまま攻撃力に変換され、当たれば岩をガラスのように簡単に破壊するだろう。
頭を潰されたヤゴを再度見たウロボロスは、むしろ形が残っていることに驚きつつ、かぶりついた。
ヤゴに痛覚があるかは不明だが、一発で仕留められたのは幸運だったのか。それは本人のみぞ知る謎である。
「うっぷ、うへぇ。ごちそうさまである」
「頑張ったねウーロさん」
よしよしと完食したウロボロスの頭を撫でるサエラ。角と頭蓋骨の間に関節があるのか、あるいは角自体が軟骨に近い作りなのか。触ると人形の耳のように柔軟に動く。
気持ち良さそうに「クルクル」と喉を鳴らすが、同時に不調を訴える腹の音も聞こえる。食べるべきでないエネルギーを必死になって栄養に変換しているのだ。
「では、いってくるぞ」
「いってらっしゃいです」
シオンが手を振って見送り、ウロボロスは穴の中へ入っていく。その様子をサエラは心配が映る瞳で見ていた。
「ウ―ロさん、大丈夫かな」
「大丈夫ですよ。結構強いですし」
果たして伝説級の竜に対して「結構強い」という評価が正しいかははなはだ疑問だが、シオンは安心させるつもりでサエラの肩をポンポンと叩く。服の上からでもわかる筋肉質が硬かった。
現状に至っている経緯は、生き埋め状態になっている人物の様子を見に行ったウロボロスたちが戻ってきたところまでさかのぼる。
ウロボロスとティは生き埋めになっている人物を確認したはいいのだが、救助するには壁を破壊する必要があった。なので一旦相談しにシオンたちの元へ戻ったウロボロスたち。
そこにはヤゴの死骸の山があった。吸血鬼化で強化されているとしても所詮は虫で、その群れはあっけなくサエラの猛攻に骸に変わっていたのだ。
それを見てちょうどいいと頷いたのはウロボロス。エネルギーをヤゴを食って補給し、内側から壁を粉砕しようと閃いたのである。
外からシオンの怪力で壁を掘削してもいいのだが、そうなると救助対象まで粉砕しかねない。
なのでわざわざ不味いヤゴを食って魔力を補給し、ウロボロスは壁を破るために再び潜って行ったのだ。
「潰れちゃうかも」
「大丈夫・・・ですよ多分」
サエラの心配は、壊した壁の破片に潰されてしまうことである。エンシェントドラゴンであろうと、子竜であるウロボロスの鱗は柔い。大きな岩は簡単にウロボロスの体を傷つけるだろう。
やはり止めるべきだったかと軽く後悔をしだしたサエラであったが、時すでに遅し。
ばらくすると、グラグラと壁が揺れ始めた。ウロボロスが中で暴しれているのである。このままだとウロボロスではなく、自分たちがぺちゃんこになってしまう。シオンはしぶるサエラを引きずりながら、壁から距離を取った。
そして決壊した。どがん!と重く、乾いた音と砂煙。壁の破片とともにウロボロスがカンフーキックのポーズで飛び出してきた。
「あちょー!」
セリフもこれである。どこで知ったかは謎だ。
ウロボロスは無傷で飛び出したかと思うと、空中回転しながら着地し、シャキーンとカッコつけるような決めポーズを構えて見せた。浮かんだ表情はどや顔である。
その真上から、影がウロボロスを覆った。コンマ数遅れて、ひゅーんという空気を通過する音を立てて瓦礫がウロボロスの頭に直撃した。ドヤ顔が歪む。
さながらお笑い芸人の頭に降り注ぐたらいである。女性陣が「あっ」と声を漏らした時には哀れな子竜が地面に背中を密着させた瞬間であった。
「な・・・んでこうなるの」
洞窟なのになぜか星が見える天井を眺めながら、ウロボロスは呟くのであった。
食感を例えるならそれはスライムで、肌に張り付かないほどの粘性と人肌ほどの生ぬるい温度。そして何よりもかすかに臭う石油くさい匂い。
それでも異物とも言える肉を胃に収め、時折胃酸の混ざった喉を焼く酸の味が口から顔を出そうとするのを必死に押しとどめる。柔らかいを通り越した肉は竜の強靭な胃液によって溶かされ、その栄養は血液によって全身を駆け巡る。
1匹食って、また1匹食う。そうしているうちにいつか舌の感覚がなくなり、食すことに慣れていった。
しかしお世辞にも食感がいいとはいえない。結局はこの不愉快を体言化したような餌を食べなければならないことに、竜・・・ウロボロスは絶望を隠すことができなかった。
「おげぇぇぇ」
「ふぁいと!ふぁいと!あと3匹ですよ!」
「がんばれ。がんばれ」
「キィ!キィ!キィ!」
肉、ヤゴの脚をヤケになった感じに飲み込むウロボロスに対し、少女たちは無責任むき出しの応援をしていた。
シオンもサエラも子供らしい童顔をまだ残しているとはいえ、一般的に見れば非常に顔立ちの整った美少女である。
スプリガンであるティも、魔物から見ればそれなりに魅力的だ。
仮にも雄であるウロボロスは、年若く麗しい少女たちに元気つけられるのに気分を悪くすることはない。するはずがない。そう思い込むことで、ヤゴを食べるための活力を生み出す。
やはり不味い。
「うっぷ、んぅぷ。・・・これは?」
続いて噛み付いたヤゴの頭は、棒で叩き割ったスイカのように割れていた。
体液と肉と甲殻が混ざり、ペースト状になったタンパク質がむき出しになっている。ウロボロスはさらに顔を引きつらせた。
虫ゆえに、動物のような肥大化した脳がないのが幸いである。それでもグロテスクな見た目へと変貌したヤゴは気持ち悪いを通り越して不気味である。
「姉さんが叩き潰したやつ」
サエラがそういって一部陥没した地面を指差した。そこは見事にクレーターができており、事情を知らぬものが見ればゴーレムでも暴れたのかと勘違いするだろう。
ポンポンと軽く脚で床を叩いてみたウロボロス。決して柔らかいものではない。
「・・・おかしくない?」
「違いますよ。メアリーさんが作ったこの杖が強いんですよ」
「嘘つけ」
シオンの苦し紛れの呟きを逃がさない。シオンが両手で握っている杖は傷一つなく、多少付着した体液を除けば新品そのものだった。
先端のダイヤモンドが美しく輝く。だがそれは嗜好品や鑑賞用ではなく、明らかに生き物へ害を与えるための鈍器の輝きであった。
誇らしそうに、金剛と称される宝石が煌めく。
精霊ナイアス・アイグレーの生み出したダイヤにリメット特産の黒檀を削ってできた杖の大部分。防御力は鉄で作る盾よりもあるかもしれない。
それプラスシオンのバンパイアロード並みの・・・否、超える怪力が破壊力を高める。杖の硬さはそのまま攻撃力に変換され、当たれば岩をガラスのように簡単に破壊するだろう。
頭を潰されたヤゴを再度見たウロボロスは、むしろ形が残っていることに驚きつつ、かぶりついた。
ヤゴに痛覚があるかは不明だが、一発で仕留められたのは幸運だったのか。それは本人のみぞ知る謎である。
「うっぷ、うへぇ。ごちそうさまである」
「頑張ったねウーロさん」
よしよしと完食したウロボロスの頭を撫でるサエラ。角と頭蓋骨の間に関節があるのか、あるいは角自体が軟骨に近い作りなのか。触ると人形の耳のように柔軟に動く。
気持ち良さそうに「クルクル」と喉を鳴らすが、同時に不調を訴える腹の音も聞こえる。食べるべきでないエネルギーを必死になって栄養に変換しているのだ。
「では、いってくるぞ」
「いってらっしゃいです」
シオンが手を振って見送り、ウロボロスは穴の中へ入っていく。その様子をサエラは心配が映る瞳で見ていた。
「ウ―ロさん、大丈夫かな」
「大丈夫ですよ。結構強いですし」
果たして伝説級の竜に対して「結構強い」という評価が正しいかははなはだ疑問だが、シオンは安心させるつもりでサエラの肩をポンポンと叩く。服の上からでもわかる筋肉質が硬かった。
現状に至っている経緯は、生き埋め状態になっている人物の様子を見に行ったウロボロスたちが戻ってきたところまでさかのぼる。
ウロボロスとティは生き埋めになっている人物を確認したはいいのだが、救助するには壁を破壊する必要があった。なので一旦相談しにシオンたちの元へ戻ったウロボロスたち。
そこにはヤゴの死骸の山があった。吸血鬼化で強化されているとしても所詮は虫で、その群れはあっけなくサエラの猛攻に骸に変わっていたのだ。
それを見てちょうどいいと頷いたのはウロボロス。エネルギーをヤゴを食って補給し、内側から壁を粉砕しようと閃いたのである。
外からシオンの怪力で壁を掘削してもいいのだが、そうなると救助対象まで粉砕しかねない。
なのでわざわざ不味いヤゴを食って魔力を補給し、ウロボロスは壁を破るために再び潜って行ったのだ。
「潰れちゃうかも」
「大丈夫・・・ですよ多分」
サエラの心配は、壊した壁の破片に潰されてしまうことである。エンシェントドラゴンであろうと、子竜であるウロボロスの鱗は柔い。大きな岩は簡単にウロボロスの体を傷つけるだろう。
やはり止めるべきだったかと軽く後悔をしだしたサエラであったが、時すでに遅し。
ばらくすると、グラグラと壁が揺れ始めた。ウロボロスが中で暴しれているのである。このままだとウロボロスではなく、自分たちがぺちゃんこになってしまう。シオンはしぶるサエラを引きずりながら、壁から距離を取った。
そして決壊した。どがん!と重く、乾いた音と砂煙。壁の破片とともにウロボロスがカンフーキックのポーズで飛び出してきた。
「あちょー!」
セリフもこれである。どこで知ったかは謎だ。
ウロボロスは無傷で飛び出したかと思うと、空中回転しながら着地し、シャキーンとカッコつけるような決めポーズを構えて見せた。浮かんだ表情はどや顔である。
その真上から、影がウロボロスを覆った。コンマ数遅れて、ひゅーんという空気を通過する音を立てて瓦礫がウロボロスの頭に直撃した。ドヤ顔が歪む。
さながらお笑い芸人の頭に降り注ぐたらいである。女性陣が「あっ」と声を漏らした時には哀れな子竜が地面に背中を密着させた瞬間であった。
「な・・・んでこうなるの」
洞窟なのになぜか星が見える天井を眺めながら、ウロボロスは呟くのであった。
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