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〜第6章〜ラドン編
72話「黒幕」
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伯爵がそう叫んだ瞬間、ヤゴの群れがもぞもぞと体を揺らして互いの身を寄せ合い始めた。奇妙な光景だ。軍兵のように規律のとれた動きをしていたヤゴたちが途端に本来の本能的な雑な動きになっていき・・・。
「なっ」
そして仲間の体を食い始めたのだ。それも一匹や二匹ではない。すべてのヤゴが同族を容赦なく殺し合いを始めたのである。
甲殻が剥がされ、薄い皮膜が破れれば色素のない白濁色のペースト化した内臓が漏れ出し、それは他のヤゴの内臓と混ざり合う。
空気に触れたことで内臓には体液が乾燥した結果できた薄い皮膜に覆われる。その現象は今生き残っているすべてのヤゴの数の分だけ行われた。
「ふははははっ!完全な吸血鬼の魔力ではないため不十分ですが・・・それでもこれは成功と言って差し支えないでしょう!」
メガニューラに乗ったままの伯爵が歓喜のあまり大笑いしておる。たぶんヤゴの共食いは奴の「成功」の内の過程だろう。
我はヤゴの無数の死体からなる巨大な肉塊の魔力を見る。伯爵の言う通り、そして我の予想通り、あのヤゴたちは吸血鬼の魔力が体の一部に宿っている。それが大量に融合したことで、少なかった吸血鬼の魔力が積もりに積もって増幅していくのが確認できた。
「嫌な予感する」
顔を少し青ざめさせたサエラ。その予感には我も同意だし、他の皆も同じ考えに至っているのだろう。
「吸血鬼の魔力の効果は再生と復活だ。まさか・・・」
「はっはっは!その通り!魂を持たないアンデットが活動できるように、吸血鬼の生命はその魔力そのものと言っても過言ではありません。依り代となった肉体が死に至る致命傷を負っても再生できるのは、そもそも本体が異なるからです」
魔女の予想に答える伯爵。こちらとしてはありがたいが、なぜ悪人は情報を吐きたがるのか。・・・あぁ自分の力を誇示したいからか。よくわかる我もやったもん。
「つ ま り 自我を持たない大量の吸血鬼化した生物の死体を近場に置けば、生命維持のために片っ端から融合を開始するというわけです」
なるほど、個としてではなく群れとして生きる生物なら互いの意思が反発しあうことなどなく、再生能力を使ってスムーズに合体が可能となるわけか。
なら、ここでダメージを与えるのは得策ではない。下手に刺激すると耐性をつけようとさらに進化する可能性がある。
・・・そう、進化なのだ。あのヤゴたちは自身の肉体を卵として、新たな生物を形成しようとしている。そして進化は考えられないような速度で完成するだろう。
「お主らっ!すぐに攻撃を仕掛けるのは悪手だ!まずは様子見からであるぞ!シオン、魔女!」
「シールドを重ねましたよ!」
「やつかれの魔力で補強しよう。カウンターの魔法陣も展開済みだ」
うむ、すでに集会所の防御は整っているようだ。さすがだ。シング族を守り切るのが最優先事項であるからな。
「なんですか、少しでも戦闘を学習させたかったのですがね・・・ですがそれも不要でしょう。さぁ!誕生しなさい!我がルブイエ家の集大成よ!」
体液が流れ落ちないよう、体が崩れないよう支えていた被膜が伯爵の言葉を合図に引き裂かれた。腕は6本で蝙蝠に酷似したような4枚の羽が2対となり、短い胴体からその数倍はあろう巨大で長い腹は尻尾のように垂れ下がっている。
口は肉食獣の牙を生やし、犬歯は針のように長く、先端に進むにつれ細くなっている。頭部は蛇そのものだ。
「・・・竜王さま?。」
ベタが呆然とした顔で呟く。そう、肉塊が形成した巨大な怪物は、成体のウロボロス・・・廃墟で見つけた像と瓜二つの顔立ちをしていたのだ。しかし、その顔は青くなく、白い。
そこでガマが不機嫌そうにベタの肩をたたいた。
「バカ者。竜王さま。もっと凛々しい。惑わされるなカタワレ。」
バカ者はお主だ。どう見たってあれ我だろ。
「・・・然り。なんたる失態。」
「自覚がある。謝罪せよ。」
「竜王さま。ごめんなさい。」
「うん気にせんからええよ」
だって本人が似てると思っちゃったんだし。
「・・・あ、ウ―ロさんだ」
「ほんとですね。あれウ―ロさんですよね?」
「おい、あれウ―ロじゃね?」
「確かにあれはウロボロスだな」
「キィィィ?」
「わうん?」
ほら、みんなあの巨大生物・・・言ってしまうとドラゴンの胴体を無理矢理トンボに見立てたような姿なのだが、そのトンボモドキはやはり客観的に見ても我とそっくりであるらしい。
ティとフィンに至ってはどっちが本物なのかと忙しそうに我とトンボモドキを交互に見ておる。いや、我が本物だからな?子竜の愛くるしい顔見て、成体のごつい顔はあと100年くらい経たないと成れないから。
「・・・ねぇねぇ、何だかぁ全然ビビってないよぉあいつらぁ」
「黙ってください!!」
淡白な反応しか見せない我らに伯爵はかなり不満らしい。クルーウのツッコミに地団太を踏みながら憤慨している。
いや、これほどの魔物を人工的に創り出したという技術力は凄まじいものだが、顔がのぅ。どう見ても我だし。どうにも緊張感がそがれてしまうのかもしれん。
「えぇい!ボロスフライ!奴らを食い殺し、シングから吸血鬼の魔力を獲得するのです!」
「ジュラアァァァァァァァァ!!」
トンボモドキ・・・ボロスフライは伯爵の命令を受けると、奇妙な雄たけびを上げて滑空降下してきたのだった。
次回更新は火曜日のお昼です。
「なっ」
そして仲間の体を食い始めたのだ。それも一匹や二匹ではない。すべてのヤゴが同族を容赦なく殺し合いを始めたのである。
甲殻が剥がされ、薄い皮膜が破れれば色素のない白濁色のペースト化した内臓が漏れ出し、それは他のヤゴの内臓と混ざり合う。
空気に触れたことで内臓には体液が乾燥した結果できた薄い皮膜に覆われる。その現象は今生き残っているすべてのヤゴの数の分だけ行われた。
「ふははははっ!完全な吸血鬼の魔力ではないため不十分ですが・・・それでもこれは成功と言って差し支えないでしょう!」
メガニューラに乗ったままの伯爵が歓喜のあまり大笑いしておる。たぶんヤゴの共食いは奴の「成功」の内の過程だろう。
我はヤゴの無数の死体からなる巨大な肉塊の魔力を見る。伯爵の言う通り、そして我の予想通り、あのヤゴたちは吸血鬼の魔力が体の一部に宿っている。それが大量に融合したことで、少なかった吸血鬼の魔力が積もりに積もって増幅していくのが確認できた。
「嫌な予感する」
顔を少し青ざめさせたサエラ。その予感には我も同意だし、他の皆も同じ考えに至っているのだろう。
「吸血鬼の魔力の効果は再生と復活だ。まさか・・・」
「はっはっは!その通り!魂を持たないアンデットが活動できるように、吸血鬼の生命はその魔力そのものと言っても過言ではありません。依り代となった肉体が死に至る致命傷を負っても再生できるのは、そもそも本体が異なるからです」
魔女の予想に答える伯爵。こちらとしてはありがたいが、なぜ悪人は情報を吐きたがるのか。・・・あぁ自分の力を誇示したいからか。よくわかる我もやったもん。
「つ ま り 自我を持たない大量の吸血鬼化した生物の死体を近場に置けば、生命維持のために片っ端から融合を開始するというわけです」
なるほど、個としてではなく群れとして生きる生物なら互いの意思が反発しあうことなどなく、再生能力を使ってスムーズに合体が可能となるわけか。
なら、ここでダメージを与えるのは得策ではない。下手に刺激すると耐性をつけようとさらに進化する可能性がある。
・・・そう、進化なのだ。あのヤゴたちは自身の肉体を卵として、新たな生物を形成しようとしている。そして進化は考えられないような速度で完成するだろう。
「お主らっ!すぐに攻撃を仕掛けるのは悪手だ!まずは様子見からであるぞ!シオン、魔女!」
「シールドを重ねましたよ!」
「やつかれの魔力で補強しよう。カウンターの魔法陣も展開済みだ」
うむ、すでに集会所の防御は整っているようだ。さすがだ。シング族を守り切るのが最優先事項であるからな。
「なんですか、少しでも戦闘を学習させたかったのですがね・・・ですがそれも不要でしょう。さぁ!誕生しなさい!我がルブイエ家の集大成よ!」
体液が流れ落ちないよう、体が崩れないよう支えていた被膜が伯爵の言葉を合図に引き裂かれた。腕は6本で蝙蝠に酷似したような4枚の羽が2対となり、短い胴体からその数倍はあろう巨大で長い腹は尻尾のように垂れ下がっている。
口は肉食獣の牙を生やし、犬歯は針のように長く、先端に進むにつれ細くなっている。頭部は蛇そのものだ。
「・・・竜王さま?。」
ベタが呆然とした顔で呟く。そう、肉塊が形成した巨大な怪物は、成体のウロボロス・・・廃墟で見つけた像と瓜二つの顔立ちをしていたのだ。しかし、その顔は青くなく、白い。
そこでガマが不機嫌そうにベタの肩をたたいた。
「バカ者。竜王さま。もっと凛々しい。惑わされるなカタワレ。」
バカ者はお主だ。どう見たってあれ我だろ。
「・・・然り。なんたる失態。」
「自覚がある。謝罪せよ。」
「竜王さま。ごめんなさい。」
「うん気にせんからええよ」
だって本人が似てると思っちゃったんだし。
「・・・あ、ウ―ロさんだ」
「ほんとですね。あれウ―ロさんですよね?」
「おい、あれウ―ロじゃね?」
「確かにあれはウロボロスだな」
「キィィィ?」
「わうん?」
ほら、みんなあの巨大生物・・・言ってしまうとドラゴンの胴体を無理矢理トンボに見立てたような姿なのだが、そのトンボモドキはやはり客観的に見ても我とそっくりであるらしい。
ティとフィンに至ってはどっちが本物なのかと忙しそうに我とトンボモドキを交互に見ておる。いや、我が本物だからな?子竜の愛くるしい顔見て、成体のごつい顔はあと100年くらい経たないと成れないから。
「・・・ねぇねぇ、何だかぁ全然ビビってないよぉあいつらぁ」
「黙ってください!!」
淡白な反応しか見せない我らに伯爵はかなり不満らしい。クルーウのツッコミに地団太を踏みながら憤慨している。
いや、これほどの魔物を人工的に創り出したという技術力は凄まじいものだが、顔がのぅ。どう見ても我だし。どうにも緊張感がそがれてしまうのかもしれん。
「えぇい!ボロスフライ!奴らを食い殺し、シングから吸血鬼の魔力を獲得するのです!」
「ジュラアァァァァァァァァ!!」
トンボモドキ・・・ボロスフライは伯爵の命令を受けると、奇妙な雄たけびを上げて滑空降下してきたのだった。
次回更新は火曜日のお昼です。
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