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第1章~我、目覚める~

1話「蘇りの我①」(プロローグ)

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「う、うぬぅ~」

 呻き声、と表現するのが正しいだろう。我は久々に動かす自身の体に慣れる為に、寝起きのニンゲンがするような背伸びをする。
 パキポキという音が鳴る背骨が意外と気持ちが良い。うむうむ、癖になりそうだ。
 ついでに首も横に曲げる。ボキボキっと鳴った。骨が折れるわけでもないのになぜこの音が鳴るのだろうか。
 まぁ気持ち良い。

「クックック、我は蘇ったぞ」

 暗い洞窟の中で我は一匹、不敵な笑みを浮かべ顎に手を当てた。
 数百年前、我は勇者に討たれるのではなく、自らこの命を絶った。いわゆる自爆である。
 何度も死と転生を繰り返してきたが、自殺というのは初めての経験だった。
 最も、正直こうもアッサリ蘇ることができるなど思ってもいなかったがな。最悪本当に死・・・というか、消滅する覚悟であったのだ。

 構わなかった。あのニンゲン共に一矢を報いることが出来るなら、本当に死んでも構わなかった。
 しかし我はこうして蘇った。どうやら我、竜王ウロボロスはそう簡単に死ぬことなど許されないらしい。

 さて、今生はどうしてくれようか?我が復活したこの洞窟は、ベヒモスウォールにある我が巣の中でも最も思い入れのある安全地帯だ。我はこの洞窟で初めて誕生したのだ。
 おそらくしばらくはここにいれば安全・・・じっくり今後のことについて考える事はできよう。
 うむ・・・というか我の死後、世界はどうなったのだろうな?人類が勝ったか?魔王軍が支配したか?はたまたニンゲンと魔族が手を組んだか・・・いやそれはないな。

 ふむ、世の情勢に変わりがないのなら、今回は魔王軍に味方するのも悪くはなかろう。魔王軍はニンゲンのようにモンスターの素材で装備を作るという風習はないからな。
 え?ならなぜ今まで魔王軍に入団しなかったかだと?そんなの入る前に勇者に討伐されてるからに決まっているだろうが!
 だいたい復活してから次の日には勇者が来るのだ。本当にニンゲンの物欲の深さには感心させられる。褒め言葉ではないが。

 って、あーいかんいかん、せっかく時期をズラして復活したのだ。勇者やニンゲンに邪魔されず、自由に生きていくことを考えねば。
 まぁとりあえず魔王軍の領地に向かうことは決定として、その次に食料だ。この体を再生した事でかなりエネルギーを消耗したはず、残量がなくなる前に補給しなければ。
 そうと決まれば狩りに赴かねばなるまい。普段は光合成で間に合うが、数百年分のエネルギーとなれば全く足りぬ。
 幸い、我には不死の能力があるのだ。死しても自ら専用の輪廻の中で蘇る。死んだらやり直せば良いのだ。レッツこんてにゅーである!!

 さぁ行こう!我の冒険はこれからだ!

 と、その時・・・我の中で違和感を感じた。普段感じることのない違和感だ。
 改めて洞窟内を見渡すが、この洞窟はここまで大きかっただろうか?いやむしろ成体となった我の体が大きすぎて入れなかったのだ。
 だからこそ懐かしみを感じていたというのに・・・むむ?色々とおかしいぞ。
 そもそもなぜ我はこの洞窟で蘇った?今までは死んだ場所にそのまま復活していたというのに。
 当初はチリ一つ残さず消滅したらかと思っていたが・・・嫌な方向に想像ができてきた。
 そういえば、手足もなんだか短いかもしれぬ。顔も重く、首で支えるのが少々辛い。
 ・・・仕方あるまい、こんな時は・・・

「ステータスッ!!」

 我がそう言うと、目の前に半透明な四角形状のウィンドウが表示された。これは一般的にステータスという自身の能力を表示するための鑑定魔法の一種である。初歩の初歩だ。
 正式名称は旧式八等級構成識別かんていウンタラカンタラ・・・・

 ともかく!この中に、今の我としての情報が全て絵描き出されるのだ。
 そしてステータス画面に表示された情報は・・・

☆☆☆☆☆

名 ・ウロボロス
種族・ドラゴン/エンシェントドラゴン/不死竜
称号・伝説の素材/不滅の竜王/中ボス/リザレクション
状態・子竜/弱体化
魔法~~~ーーーーーーー

☆☆☆☆☆

「何・・・だと?子、子竜だと!?子竜だとおおおおおおおおおおおおおお!!?」


 数百年ぶりの悲鳴は、そんな内容だった。
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