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第3章~魔物の口~

13話「ダンジョン②」

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 コツンコツンとシオンとサエラの靴が階段を下る音が静かに鳴り響く。まるで職人が長い時間をかけて磨き切った大理石のような滑らかさのある階段は、とてもダンジョンに続いているとは思えない神秘さがあった。
 中々長い階段ではあるが、一段一段の階段の幅が長いので疲れにくくはある。

「あのーウーロさん、歩くのが辛かったら言ってくださいね?私抱えますから」

 四足歩行で歩く我を見て、シオンが気を使ってくれるように言ってくれた。しかし心配は無用だ。普通の階段なら少々辛いところがあるが、この螺旋階段のような水平の面が広い階段なら十分歩ける。
 とゆうか荷物を色々と背負っているシオンの方が辛いだろうに。
 正直あの怪力なら余裕だろうが、これから未知の領域ダンジョンに向かうのだ。何があるかわからないし、あまり無理はさせたくないのだ。

「我のことで心配はいらん。それに、ダンジョンに入る前に体をほぐしておきたいしな」

 そう言ってシオンの提案を断っておく。嘘は言ってない。疲れもしないので寝起きの体を温めるのにちょうどいい。
 するとなぜかシオンはガッカリするかのように項垂れ、その肩をサエラが無表情にポンと叩いた。もしかして我を抱っこしたかったのか?知らんが。

 ともあれ、軽い運動になる程度には階段が歩きやすいのはありがたい。この階段を作った者に感謝の気持ちを捧げたいが、実はこの螺旋階段を作ったのは人間ではないらしい。
 話を信じるなら、どうやら「魔物の口」が初めて出現した時にはすでに1階層に通じる螺旋階段は存在してたという。まるで地中に眠っていた古代遺跡が、そのまま現れたかのように・・・明らかに自然のものではなく人工的な建築物が出現したというのが、シオンのダンジョン図鑑に記載されていた。
 嘘か本当かは分からないが、気になった冒険者が螺旋階段の一部を破壊してみると、しばらくして自己修復されたという話もある。

 ダンジョンに人の手は加えられないというのは、一般的に知られていることだ。逆に外から持ち込んだ物をダンジョンに置いていくと、それはいつの間にか消えてしまう。なぜそうなるのかは原因は分かっていない。
 我なりにそうなる原因を暇つぶしがてら考えつつ、10分ほど歩いていくといつの間にか我らは1階層に足を踏み入れていた。

 薄暗く、肌に張り付くような湿気の多い空気だ。温度は肌寒いといったところだろうか、蒸し暑いよりはマシだと思うが結構気持ち悪い。
 よどんだ雰囲気であるものの、光源であるヒカリゴケは周囲の石壁に群生しまくっているお陰で明るさは問題ない。
 ヒカリゴケの光を頼りに周囲の様子を確認すると、床は石畳、そして四角く形を整えた石材を積み上げた壁で構成されている堅牢な作りが目立つ。どことなく地下牢のイメージを感じさせた。
 もっとも、シオンの本で見ただけで実際に見たことはないのだが・・・たぶんこんな感じだろう。

「・・・これがダンジョンなのか?」

 辺りをキョロキョロ見渡しながら呟く。今のところ入口から奥の方まで一本道だが、見た感じ変わった様子はない。これが「魔物の口」全体の作りなのだろうか?
 ふぅ~む、最初はてっきり洞窟風な構造かと思っていたが、全然違うな。そう思っているのは我だけではないようで、二人もダンジョンの風景に驚いたようである。
 シオンが水滴の浮かぶ壁をペタペタと触ってその感触を確かめている。その後もコンコンと叩いたり蹴飛ばしたりするが・・・何をしているのだ?

「シオン、何をしてる?」

「本物かなーっと思って・・・ハリボテじゃないみたいですね」

 そりゃそうだろ。

「私が閉じ込められた牢屋みたい」

 サエラがぼそっと呟く。やはりそうゆう感じの内装で間違いないようだ。目立った細工もない、ただ囚人を閉じ込めておくだけという雰囲気だ。まぁリメットに合ってると言われると合ってる感じはするのだがな。
 しかしこの壁では進んでいくうちに迷子になったりしないか?延々と特徴のない迷路を歩き続けていると道に迷う気がしてならない。我はふむ、と少し声に出し爪でガリガリと壁を引っ掻いてみた。

 壁にはあまり目立たない程度にバツ印が刻まれた。

「ウーロさん何してるの?」

 武器を取り出しているサエラに聞かれる。

「深い意味はない。道に迷わぬように目印にでもなればと思ってな」

「ダンジョンの壁って傷つけていいんですかね・・・?」

 シオンが不安そうに尋ねてくるが、別に時間が経てば修復されるのだし問題ないだろうと答えておく。というか、これをしてるのは我だけではない気もするし。誰だって迷路で目印くらいつけるだろう。
 するとサエラが我のバッテンマークをジッと見て、我の背中をちょんちょんとつついてきた。

「ん?どうかしたのかサエラ」

 言いづらそうに口をもごもごさせるが、意を決したように切りっとした顔をしてこんなことを言ってきた。

「私、スキルでマッピングできる」

「・・・」

「えっと」

「・・・急に、爪とぎをしたくなってのぅ・・・」

「ご、ごめん」

 サエラが冷や汗をかきながら申し訳なさそうに行ってくるが、いや謝る事ではない。というか昨日お互いのスキルを確認したというのに我が忘れていたのが悪いのだ。うむ、気にするな。我も恥ずかしいだけだから・・・。
 というか、また忘れる前にサエラのスキルとシオンのスキルを再確認しておくとしよう。昨日ギルドカードを見せてもらったので、思い出そうとすれば思い出せる。


 サエラのスキルは・・・
「追跡」文字通り対象として選んだ生物をどこまでも追跡できる便利なスキル。

「索敵」周囲に魔力パルスを発し、暗闇でも状況確認が可能となる。

「刺激検知」音、匂い、味覚が強化され、感覚が鋭い状態が続く。

「影操作」影を操り、その影を出している物を引っ張ったり捻じ曲げたりすることができるらしい。

「肉体強化」魔力を身体全体に巡回させ、身体能力を一時的に向上させるスキル。

「マッピング」自分たちの通った道のりを記録する能力。

そして魔法。
「エンチャント・ウィンド」矢に風の力を付与し速度上昇の効果を与えるが、発射音が大きいのがデメリット。

「継承魔法」他者に自分、あるいは他人のスキルを移すことができる。しかし他人から他人へ継承させるにはお互いの合意がなければならない。

「透明化魔法」使用者の姿を透明にする魔法。まだ数秒しかもたぬらしいが、身軽で素早いチェイサーなら十分すぎる時間だ。


 そして一応非戦闘員のシオンは・・・
「竜探知」近場にいる竜系統のモンスターを探知するスキル。おそらくこれを使って竜の巫女姫は我の復活を予言していたのだろうな。普段使うことはあまりないだろう。

 シオンのスキルはこれだけだ。基本的に回復士ヒーラーは魔法職であるからスキルは少なめなのだろうな。
「ヒール」体を治癒させるのに代表的な魔法だ。シオンは骨折は直せないが肉が裂けるくらいの傷は回復できるらしいので期待したい。

「シールド」魔法の力で魔力の盾を作り出す防御系の魔法。

 以上。
 いや、先にサエラのステータスを思い出したせいでシオンのステータスが低いように思ってしまうが、普通はスキルと魔法は一、二個持っていれば優秀な方なのだ。サエラのスキル量がおかしいだけ。
 ぶっちゃけスキルの「追跡」があればジョブとしてチェイサーが認められる。
 しかし二人共有能なスキルや魔法がほとんどであるな。結果論であるが、もしかしたら二人は冒険者になって正解だったのでは・・・と思ってしまうのだ。

 だって便利すぎるんであるもん、この姉妹。我もサポート系のスキルが欲しくなってきたわい。
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