僕の世界に君はいない

琥珀

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第一章 友情

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  今から話すのは、全部過去の話。
まだ百合という存在が生きていた時。
もう十年前になるかな?

  僕の昔からの親友、花澤 百合
百合はとにかく頭が良かった。
成績優秀、特に科学においては人間の才能と呼んでいいものではなかった。
  高校の入学から1ヶ月もしない内に人気者。
いつのまにか、学校の女王的存在になっていた。
決して他の奴らが馬鹿な訳ではない。
頭が良いので有名な名門校だ。
ただ、百合が頭が良過ぎて…高校においてはいけない奴の一人だ。

  僕にはもう一人親友がいる、春馬 孝
孝は百合とは逆に運動神経がずば抜けで凄かった。
体育祭などでは、孝がいるクラスが必ず勝った。
孝が廊下を通ると雰囲気は一変する。
特に運動をした後はヤバイ。

「はーあ、疲れたー。」

その一言を孝が言った瞬間だ。
きゃーきゃー!という奇声が耳の中にギンギン響いてくる。
百合の時もかなりだが、それ以上だ。

  そして僕、二葉 希
女みたいな名前だが、断じて違う。
  僕は百合の次に成績が良い。
同点になる場合も多数だが、知識的には百合の方が上だ。
  僕はこれ以外に、もう一つ面白い特技の様な物を持っている。
運動でもなく、知識でもない…、そう!顔だ☆
自慢ではないが、異常にモテる顔らしい。
  いつもニコニコ笑っていたら、バレンタインで全クラスの女子から貰う始末だ。
中学では1クラスに女子15人×8だったが…。
高校になると、30人×10になり…バレンタインをどうすればいいか悩んでいたな。
  それなりに孝も貰うから、孝にあげる事も不可能。
百合も何故か貰うから、百合にあげる事も不可能。
結局捨てる手段になったんだよな…。

  僕達3人は昔からずっと一緒。
小さい頃、児童養護施設で会った時から、ここまで小学、中学、高校と一緒だ。
高校でも昼食は同じだし、夕食もたまに食べに行く事がある。
何故か気が合う僕達。
多分この先もずっと一緒なんだろう。
そう、考えていた。

  僕達は休み時間になると、必ず屋上向かう。
雨だったら誰かの教室。
けれど、教室は他の生徒がいるから、なかなか話せない。

  7月5日
僕達はいつも通り屋上に集まった。

「ねーねー、思ったんだけどさ…、俺達の中に、怖いキャラっていないよねー。」

「え?確かにいないけど…それがどうかしたの?」

「だーってさー、何かイベントとか起こりそうじゃない?ヤンチャだったら!」

  この日は何故かテンションが高かった孝。
百合と二人で疑問に思いながら孝の話を聞いていた。
真剣に話している孝の目が、あまりにもキラキラ輝いているもんだから、笑いかけてしまった。
  孝が話した話…ヤンキーがいないとかなんとか。
成績優秀と運動神経抜群が話すのは、他の生徒と変わらない…いや、それ以上にくだらない話。

「今日さ、3人で帰ろうよ。」

「僕は良いけど、百合は?生徒会…」

「それなら問題ないよ。久しぶりに、ね?」

この何年間か、一緒にご飯は食べていたが、一緒に帰るのは久しぶりだった。
  中1の冬だった。
皆の事情で登下校は別にしようという事になった。
あれから一緒に帰るなんて無かった。
久しぶりで凄く嬉しかった…のに。

「やっぱ、皆で帰る帰り道は違うね。」

ニコニコ笑いながらピョンピョン跳ねてる孝。

「そうだね…ほんと、久しぶり。」

奥に見える夕日を眺める百合。

「何か子供に戻ったみたいだ。」

ププッと笑ったその時、百合と僕の真ん中にいた孝が、二人の手を握ってきた。

「まだ俺らは子供だよ、希!…おーちにかえろー おーちにかえろー だーいすきなおーちにみんなでかえろー。」

その歌は昔の児童養護施設の歌だった。

「ブハッ、いつの歌だよ。」

急に歌い出した孝は笑っていて、その歌もその笑顔も昔と変わっていなかった。
確かに、孝の言う通りまだ僕らは子供だった。

「おーちにかえろー おーちにかえろー…。」

「だーいすきなおーちにみんなでかえろー。」

それぞれの家に着くまで、ずっとこの歌を歌っていた。

  そして最後に皆でこんな事を言った

「また一緒に帰ろうな。」

けど、そんなのもただの夢。
これが最後に皆で帰った日。
同時に孝は誰かに誘拐された。
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