記憶が視える僕は、ツンデレな君に恋をした。

飯田 いち太郎

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プロローグ①

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 皆、一度は夢を見たことがあるはずだ。

 空想の中でヒーローになったり、未知の世界を旅したり。空を飛んで、魔法を使ったり。はたまた、ある日突然転生して、異世界に行くことを想像したり。

 そんな非現実的なことが、現実にあったらいいな。なんて、甘い願いを抱いたことがあるだろう。

 でも、そんな“力”を持ってしまった僕は知っている。それは、時にただの厄介な重荷でしかないことを。

 僕には、生まれながらに与えられた“視る力”があった。それは、触れたものから過去の断片的な記憶が流れ込んでくる、そんな力だった。

 ぬいぐるみを作る職人の姿。建物を建築している大工たち。中古のDVDからは、泣いている男女が寄り添っていたりと、様々なものが視えてしまう。

 中でも一番嫌なのは、落し物を触てしまったとき。

 本人に届けようと拾ったそれは、持ち主が“もういない”ものだったりする。

 水に飛び込む少女。風に舞い、道路に落ちるハンカチ。泣き叫ぶ母親。濁流に飲まれて───

 その時の鮮明な記憶が流れてくると、どうしようもなく泣きたくなってしまう。

 だから、こんな能力・・・ないほうがいいんだ。

◇◆◇

 それでも時は流れ、今では僕も、高校二年生になろうとしていた。

 一応、両親は幼い頃から僕のこの力のことを知っている。しかし───

「それは優しい力だ!優しくて可愛い我が子にピッタリだ!」

「占い師とかで食べていけるわよ!将来安泰ね!」

 なんて、こちらの気も知らないで能天気なことを言ってくるので、相談なんてできっこなかった。

 小さい頃はランダムに視せられていたこの力は、大きくなるにつれ、段々と制御できるようになってきた。現在は、指先に力を集中させれば、視たい記憶だけを選ぶことができる。けれどもたまに、意図しない記憶を視てしまうから、本当に厄介な力のだ。

 そんなことを考えながら、僕は自室で、父から譲り受けた古い本の束を広げていた。昔流行った漫画や、小説の初版本、サイン入りの雑誌など、意外と珍しいものもあって、見ているだけで何だか楽しくなってくる。

「・・・なんだろう、これ?」

 ふと、古本のページの間に、くしゃりと折りたたまれた紙が挟まっているのに気が付いた。恐らく、栞の代わりにでもしていたのだろう。

 何だかむしゃくしゃしていて、すぐにでも捨ててしまおうと思った。けれども、紙に雑な音符マークが書かれていたことがどうも気になってしまって。つい、2つ折りにされた紙を、開いて見てしまった。

 書いてあったのは、楽譜と歌。音楽に詳しくない僕は、戸惑いながらもその文字を目で追う。

「誰にも気付かれないこの涙を、君が見つけてくれた。」

 まるで、僕の力のことを書いているみたいで───胸がざわめいて仕方なかった。どうしようもなく、もう一度この歌を聴いてみたくなってしまう。

 指先に力を込めて、紙をそっと撫でる。

「─────なら、全てを。」

 聞こえてくる・・・男性の歌声が。

「笑顔の裏で叫んでた。僕に、誰にも、気付かれないこの涙を、君が見つけてくれた。」

 綺麗な透き通った音が、声が、届く。

 その歌は、これまで僕が耳にしてきたどんな音楽よりも鮮烈で、心の奥まで響いてくるものだった。

 気づけば、ずっと張りつめていた心の糸が切れたように、僕は涙をこぼしていた。

「・・・っ、好きだな!この曲!誰の曲なんだろう!!」

 急いでネットを探したけれど、答えはどこにもなかった。まるでこの歌は、僕だけのために現れて、そして世界から姿を消した幻みたいに思えた。

 それからというもの、あの二つ折りの紙は、生徒手帳の中の一番奥に大切にしまうことにした。通学の途中も、授業中にふと開いたときも、そこには変わらず“あの歌”が静かに眠っている。

 そう思うだけで、心がじんわりと温まってきて、ほんの少しだけ、勇気が湧いてくる気がした。
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