50 / 96
人間編【捕食欲求】
第5話 重
しおりを挟む
芝江様の意思の推察ができたところで、他にも詰めていきたい。
調べるにしても事前情報があるかないかでは、調査の仕方も変わってくる。
「もう二人については何かありませんか?」
「もう一人の亡くなった殿方ならとっておきのがありますわよ」
それは早く言ってくれ。
大きな目をこれでもかと見開き、さっきまでの憂いの表情はどこ行ったのか聞きたくなるほどに楽しそうな顔を向ける。
四つん這いで胸元が開くのもお構いなしに、私の肩口に手を乗せ、耳に口を寄せる。
「あの方、自殺したんですの」
……それは確かにとっておきだ。
「束」
「もう、けちっ」
諫められた娘はすぐに離れ、足を崩して座った。
「自殺については何か伺っていますか?」
「伺うも何も、良く知っていますわよ。彼、影島はわらわの上で亡くなったんですもの」
「束様の、上?」
「そう。わらわと重なって。コトが済んだ瞬間に事切れてしまいましたわ」
……うん、まあ。
腹上死って本当にあるんだなあと。
事実は小説より奇なり。
まさにこのことか。
……いやいやいや。
「影島と致したのはその日が最初で最後ですの。それまではただお出かけするだけでしたわ」
「なにか気になることとか言っていませんでしたか?」
「わらわはあの方の見た目が好きでしたの。話さないし、話してもつまらないし。その日もソレが終われば切ろうと思ってましたのよ」
「では、芝江様のように結婚を迫ったりなどは」
「ありませんでしたわ。これっぽっちも」
付け加えて「わらわもお断りですけどねー」と負け惜しみのようなことを言う。
「ご遺体は数日後に処理されましたわ」
不誠実な付き合い方の末路がこれか。
いや、影島様としては誠実に付き合っていたかもしれない。
けれど相手が悪い。
相手が不誠実とは真反対に存在している。
それを知っていたのかすらわからないが、変なのに掴まってしまったことは気の毒に思う。
現状、私も人のことは言えない。
笑えない。
それはそれとして。
二人のどちらかと言えば、芝江様の方が可能性は高い。
けれど影島様の可能性がないとも言えない。
どちらにしろ、亡くなっているので本人からの情報はない。
「お二方のご親族はどちらに?」
そう聞くのは不思議ではないだろう。
けれど。
なぜか。
束様は今までで一番、口を三日月の様にして笑う。
「いらっしゃいませんわぁ」
「いない……?」
「ええ」
「いないとは、どういう……」
「ふふふ」
意味深な笑いで場を濁される。
微かに腹の虫が鳴き声を上げかけた。
低く、重圧のかかる声が、鳴くのを制した。
「我が娘に手を出しておいて、当人だけでなく一族諸共無事であるはずが無かろう」
部屋が一際狭く。
天井が一段低く。
また、重力が一層強まった錯覚を覚えた。
母親、そして権力者の一言。
調べるにしても事前情報があるかないかでは、調査の仕方も変わってくる。
「もう二人については何かありませんか?」
「もう一人の亡くなった殿方ならとっておきのがありますわよ」
それは早く言ってくれ。
大きな目をこれでもかと見開き、さっきまでの憂いの表情はどこ行ったのか聞きたくなるほどに楽しそうな顔を向ける。
四つん這いで胸元が開くのもお構いなしに、私の肩口に手を乗せ、耳に口を寄せる。
「あの方、自殺したんですの」
……それは確かにとっておきだ。
「束」
「もう、けちっ」
諫められた娘はすぐに離れ、足を崩して座った。
「自殺については何か伺っていますか?」
「伺うも何も、良く知っていますわよ。彼、影島はわらわの上で亡くなったんですもの」
「束様の、上?」
「そう。わらわと重なって。コトが済んだ瞬間に事切れてしまいましたわ」
……うん、まあ。
腹上死って本当にあるんだなあと。
事実は小説より奇なり。
まさにこのことか。
……いやいやいや。
「影島と致したのはその日が最初で最後ですの。それまではただお出かけするだけでしたわ」
「なにか気になることとか言っていませんでしたか?」
「わらわはあの方の見た目が好きでしたの。話さないし、話してもつまらないし。その日もソレが終われば切ろうと思ってましたのよ」
「では、芝江様のように結婚を迫ったりなどは」
「ありませんでしたわ。これっぽっちも」
付け加えて「わらわもお断りですけどねー」と負け惜しみのようなことを言う。
「ご遺体は数日後に処理されましたわ」
不誠実な付き合い方の末路がこれか。
いや、影島様としては誠実に付き合っていたかもしれない。
けれど相手が悪い。
相手が不誠実とは真反対に存在している。
それを知っていたのかすらわからないが、変なのに掴まってしまったことは気の毒に思う。
現状、私も人のことは言えない。
笑えない。
それはそれとして。
二人のどちらかと言えば、芝江様の方が可能性は高い。
けれど影島様の可能性がないとも言えない。
どちらにしろ、亡くなっているので本人からの情報はない。
「お二方のご親族はどちらに?」
そう聞くのは不思議ではないだろう。
けれど。
なぜか。
束様は今までで一番、口を三日月の様にして笑う。
「いらっしゃいませんわぁ」
「いない……?」
「ええ」
「いないとは、どういう……」
「ふふふ」
意味深な笑いで場を濁される。
微かに腹の虫が鳴き声を上げかけた。
低く、重圧のかかる声が、鳴くのを制した。
「我が娘に手を出しておいて、当人だけでなく一族諸共無事であるはずが無かろう」
部屋が一際狭く。
天井が一段低く。
また、重力が一層強まった錯覚を覚えた。
母親、そして権力者の一言。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
32
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる