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人間編【捕食欲求】

第7話 結

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 調査をしたはいいが、正直なところ「これがなんになる」と言った内容だ。
 すでに死んでいる者の情報をまとめ。
 行方不明者の特徴をまとめ。
 推察なんてする余地もない。
 何より、雲ノ宮様は「父親が誰か」を知りたいわけではないのだ。
『束様の夫にふさわしい者を見つけ出せ』という依頼だ。
 この調査は無駄に等しい。
 死んだ後では夫になれないし。
 行方不明では夫の資格はあるのか疑問だし。

 本日は『どの人物も父親には適さない可能性が高い』という報告だけだ。
 あくまで、可能性。
 決めるのはお二方だ。
 ご本人方が納得したうえでこの三人のうち誰かとするならそれでよし。
 そうでないなら、私が適当な相手を見繕うだけのこと。
 少なくとも、希望を聞いたところで、その希望を叶えられはしない。
 敢えて自分から振るのは危険行為だ。
 話しの主導権を握らなければならない。


「ご無沙汰しております」
「うむ。やけに多い荷物だな」
「申し訳ございません」
「構わん」


 同じ部屋に通された。
 お二方とも変わった様子はなく、以前とそう変わらない装いだった。

 調査報告書を手渡し、さっそく本題とする。


「お三方についての調査を行いましたが、束様のご意向を考えましても、伴侶とされるのは適さないと考えます。でしたらいかがでしょう。私がお相手を見繕いますが」
「ふん」


 報告書が置かれる。
 いや。
 畳の上に放り投げられる。
 一応、それなりの努力をして仕上げた報告書だ。
 そのような扱いをされるのは心外というもの。
 目隠し越しの眼が吊り上がる。
 けれど表情には出さずに黙り込む。


「束」
「わらわはもう、添い遂げたい殿方を決めているのです」


 四つん這いで距離を詰めてくる。
 親の眼前だというのに……という文句はこの人には通じないだろう。
 膝に手が乗る。
 膝に乗せていた手に手が重なる。
 肩に頭が添えられ。
 反対の肩に、後ろから手が回される。


「わらわの旦那様になってくださいまし」


 そう来ると思っていた。


「申し訳ございません」
「なぜ?」
「私は束様を異性として好いてはおりません」
「これからわらわのことを知ってくだされば、きっと好きになってくださいます」
「確証はありません。また、私には子育てというものも出来ません」
「みんな子育てはハジメテです。一緒に頑張りましょう?」
「いえ、やろうと思えないのです。やる気がない者が命を育てるなど、命に失礼でしょう」
「可愛い赤子を見たら変わるのではないですか?」
「それもまた、確証がないでしょう。子を作った責任があるわけでも、子育てが好きでも、やりたいわけでもなにのに。無責任に夫になることなどできません」
「もう、そんなこと言って……







 ――逃がしませんわよ」
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