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  暗い。暗いというか、漆黒のただなかに、一人で立ち尽くしている。何も音がしない。その静寂が、嫌に、神経を過敏にさせる。
  「ペタ」
  その静寂を破って、何か音が聞こえてくる。
  「ペタ、ペタ」
  前方の方から、ペタ、ペタ……ペタ、ペタ、という足音がゆっくり聞こえてくるのがわかった。暗いので、それが誰なのかわからなく、距離感も全く掴めない。首筋を汗が滴るのを感じた。
  「ペタ、ペタ」 
  足音はどんどん近づいてくる
  いつしか、足音は不意に止んだ。また静寂が訪れた。シーンとしている、そこは闇の中で、そこに突っ立っている自分が居る、これが全てだ。 
  「こっち」
  不意に、後ろで女性の声がした。振り向いてみると、そこには、右目の眼球がえぐり取られた女性が、私の方を向いて立っていた。右目があったであろう場所は、暗く、吸い込まれそうな程、暗い、その右目と対照的に女性の左目は、私のことを、恨めしそうに、穴が開く程、凝視していた。それは、決して鋭い眼光ではなく、淀んでいる様だった。口元からは、なんだか嫌な微笑が確認できる。急な、恐怖からか、身体が石の様に硬直して動かない。周りは暗いが、この女性だけは確認できる。右目からは、血がとめどなく流れている。それから、服は、泥だらけで、裸足であった。私は何故か、この女性から、目を離す事が出来ずにいた。しばらく沈黙が続いたのち、女性は、尚も私を凝視したまま、訴えかける様な調子で話し始めた。
  「これは夢です。いいですか?あなたの夢です。私は、三日前に、あなたに殺された者です。覚えていますか、まあ、三日前の事を忘れるはずもありませんよね。あなたは、山の奥地で登山をしていた私を殺しましたね。私は、復讐しに来たんです。復讐です、フクシュウ。あなたは、殺されて、死んだ人間が、復讐できないとでも思っていたんですか?まあ、私がどうやってあなたに殺されたかは、省くとして、あなたは、私が死んだと思っていたんですか?首を絞められ、腹を何度もナイフで刺された後に、首をナイフで二回、掻っ切られ、それで、それで、私が死んだとでも思っていたんですか?私は、首を二回掻っ切っられても、生きていたんですよ。その、私が、どれだけ辛かったこと、痛かったこと、あなたに味合わせたい・・・。私は、最後の力を振り絞って、あなたを呪ったんです。ノロイです。私は、右目の眼球を自らえぐり取って、その眼球に私は、全身全霊のエネルギーを込めたんです。私は、全身血だらけで、手の中に、眼球を一つ握りしめて、祈る様にしました。それから、私は、この眼球がきっとあなたに届く様にと、祈って、思い切り投げてやったんです。そしたら、あなたは、どうもそれを拾って下さった様ですね。言っておくと、まあ、お気づきかもしれませんが、あの赤い外側の部分は、私の血が黒く固まったものです。それを、あなたは、馬鹿みたいに、舐め回しましたね。私の血液を飲んでくれてありがとう。あなたに感謝などは、本来する必要もありませんが、これから、こうして、あなたの夢の中に毎日、毎日、侵入できることが出来て、そして、あなたに復讐できることが嬉しくて、たまらかったので、つい、余計な失言を・・・。そう、あなたは、私の血液を飲んだ。あなたの身体の中には、私の遺伝子がある状態なのです。すると、私は、あなたの夢の中を自由に移動できるんです。難しいですか、でも、霊の世界はそういうものなのです。手始めに、目をえぐりますね」
  女は、素早くこちらまで、移動してくる。
  身体が動かない!
  女は、事務的な迄に、無感情にナイフを光らせる。
  「ぐぁェェェェェェェ、がぁァァァェェェ!」
  「痛いでしょう。痛みは感じないとでも思ってた?」
  「ぐぁェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
  「夢の方は、現実世界より、遥かにたちが悪いんですよ。なんせ、夢じゃ、死ねないから。どんなに、痛くても、死んだ方がマシだと思っても、死ねない。ずっと痛み続ける・・・」
  
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