8 / 31
第二章
苦いコーヒーの理由
しおりを挟む
数日後、瑞希の妹・柚希はカフェで結婚式の招待客を最終確認していた。
一息入れたところで、ふと顔を上げると、窓際の席に見覚えのある顔…
「晃平さん?」
「…柚希ちゃん?」
「やっぱり!お久しぶりです」
「うわっ、久しぶり。元気?」
「はい!」
偶然再会した晃平。
柚希が話し掛けた理由は、ただ一つだった。
「晃平さん、…結婚するんですね」
「…瑞希から聞いたか」
柚希がコクリと頷くと、晃平は伏し目がちに「そっか」と小さく答える。
「お姉ちゃんより、大事な人が出来たんだね…」
「……」
晃平は黙ったままだ。
柚希はいたたまれなくなり、
「幸せになって」
と告げた。
晃平は苦笑いを浮かべる。
その表情は、今から結婚する人の顔じゃない…どこか、違和感を感じた柚希は、
「晃平さんって、前はもっとニカッて笑ってたのにね。今はまるで抜け殻みたい」
と、晃平の心のうちを探るように言葉を投げた。
「…言ってくれるね」
鼻で笑いつつも、晃平は眉を下げる。
「抜け殻か…」
「言っとくけど、うちのお姉ちゃんもだから。本っ当、似た者同士」
柚希の言葉にだんだんと晃平の顔が穏やかに緩んでいく。
ピロリン…
「あ…、旦那からメールだ。帰らなきゃ…」
「柚希ちゃん結婚したの?」
「入籍だけ先に!結婚式は来月なんですよー」
「おぉ!そうなんだ?おめでとう」
「ありがとうございます!」
柚希は、荷物を持つと「じゃあ」と言って席を立った。
歩き出そうとして、ふと立ち止まると、晃平に振り返る。
「晃平さん、お姉ちゃんの煎れるコーヒー…、今ねものすごく苦いんだよ」
「え…?」
「晃平さんと付き合ってる時は、あんなに甘いコーヒー煎れてたのにね…」
晃平はふと、自分が飲んでいる甘めのコーヒーに目を落とす。
「晃平さんを待ってる三年間も、お姉ちゃんのコーヒーはずっと甘いままだった…。今は…無理して忘れようとしてるみたいに、苦い」
それだけ言うと、柚希はカフェを出ていった。
「…瑞希…」
晃平が呟いた声は、誰にも気付かれないほど小さく、消え入りそうで…
微かに震えていた。
カフェの外に出た柚希は、目にいっぱいの涙を溜めてもう一度立ち止まる。
先程、晃平に言った言葉を思い出して、余計なことを言ってしまったかもしれない…
自分が口を挟むことではなかったのかもしれないと、下を向く。
それでも、瑞希の気持ちを考えれば、言わずにはいられなかった。
涙が零れないように、空を見上げて深呼吸すると、
「いいよね、これくらい…」
そう呟いて歩き出した。
一息入れたところで、ふと顔を上げると、窓際の席に見覚えのある顔…
「晃平さん?」
「…柚希ちゃん?」
「やっぱり!お久しぶりです」
「うわっ、久しぶり。元気?」
「はい!」
偶然再会した晃平。
柚希が話し掛けた理由は、ただ一つだった。
「晃平さん、…結婚するんですね」
「…瑞希から聞いたか」
柚希がコクリと頷くと、晃平は伏し目がちに「そっか」と小さく答える。
「お姉ちゃんより、大事な人が出来たんだね…」
「……」
晃平は黙ったままだ。
柚希はいたたまれなくなり、
「幸せになって」
と告げた。
晃平は苦笑いを浮かべる。
その表情は、今から結婚する人の顔じゃない…どこか、違和感を感じた柚希は、
「晃平さんって、前はもっとニカッて笑ってたのにね。今はまるで抜け殻みたい」
と、晃平の心のうちを探るように言葉を投げた。
「…言ってくれるね」
鼻で笑いつつも、晃平は眉を下げる。
「抜け殻か…」
「言っとくけど、うちのお姉ちゃんもだから。本っ当、似た者同士」
柚希の言葉にだんだんと晃平の顔が穏やかに緩んでいく。
ピロリン…
「あ…、旦那からメールだ。帰らなきゃ…」
「柚希ちゃん結婚したの?」
「入籍だけ先に!結婚式は来月なんですよー」
「おぉ!そうなんだ?おめでとう」
「ありがとうございます!」
柚希は、荷物を持つと「じゃあ」と言って席を立った。
歩き出そうとして、ふと立ち止まると、晃平に振り返る。
「晃平さん、お姉ちゃんの煎れるコーヒー…、今ねものすごく苦いんだよ」
「え…?」
「晃平さんと付き合ってる時は、あんなに甘いコーヒー煎れてたのにね…」
晃平はふと、自分が飲んでいる甘めのコーヒーに目を落とす。
「晃平さんを待ってる三年間も、お姉ちゃんのコーヒーはずっと甘いままだった…。今は…無理して忘れようとしてるみたいに、苦い」
それだけ言うと、柚希はカフェを出ていった。
「…瑞希…」
晃平が呟いた声は、誰にも気付かれないほど小さく、消え入りそうで…
微かに震えていた。
カフェの外に出た柚希は、目にいっぱいの涙を溜めてもう一度立ち止まる。
先程、晃平に言った言葉を思い出して、余計なことを言ってしまったかもしれない…
自分が口を挟むことではなかったのかもしれないと、下を向く。
それでも、瑞希の気持ちを考えれば、言わずにはいられなかった。
涙が零れないように、空を見上げて深呼吸すると、
「いいよね、これくらい…」
そう呟いて歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる