16 / 31
第五章
人となり
しおりを挟む
「…え?どういうこと?」
「だから、支配人に言って担当替えてもらったの」
晃平が家に帰るなり、雪乃は昼間の話題を出した。
「なんで、そんなこと…」
「なんでって…、相澤さんとこれ以上会ってほしくないから…」
「…何、言ってんの…?」
雪乃は、食事をテーブルに並べながら言う。
「昨日、見たんだから。相澤さんと会ってるとこ」
晃平は、動作を止めて雪乃を見た。
「それで、瑞希を担当から降ろしたのか?」
「…」
「支配人にまで言って?」
「…だったら…何?」
「瑞希は、俺からの呼び出しに応えてくれただけだよ」
「晃平…から、呼び出したの?」
「仕事で大きなミスをして、話を聞いてもらっただけだ」
「どうして…?その相手は、私じゃダメだってこと?」
「…ダメとか、そんなんじゃないんだ」
「……そんなんじゃないって…、……もう、いい」
そう言って、雪乃は部屋を出ていく。
晃平はその場に座り込み、頭を抱えた。
自分の気持ちは三年前のあの頃から何も変わっていない。
ただ、雪乃への罪悪感でどうにも出来ない現状に、ストレスは溜まるばかりなのだった。
晃平は、先ほど脱いだばかりのコートをもう一度手にして走る。
本当は今日じゃなくてもいいことだろう、電話で伝えてもいいだろう…
それでも、晃平の身体は自然に動いていたのだ。
仕事が終わり、いつものように莉奈や隼人とサロンを出る。
「おぉっ!寒っ!」
「瑞希、ご飯食べて帰ろうよ」
「えぇ?莉奈、飲みたいだけでしょう?」
そう言って笑うと、莉奈が何かを見つけて「あ…」と呟いた。
その様子に、私と隼人も莉奈の視線を追う。
そこに居たのは…
「…晃平…」
走って来たのが分かるくらい、晃平の前髪は風に吹かれたままで、鼻や頬はほんのり赤く、息を切らしていた。
「昼間…っ、雪乃が、ここに来たって…聞いて」
息も整わないうちに、言葉を投げ掛ける晃平。
「迷惑…かけて、本当にごめんっ!」
それを伝えるために、わざわざ来てくれたって言うの?
「…そんなの、だって…私も言われて当然だと思うし…。晃平が謝ることじゃないよ…」
「…それでも、お前を呼び出したのは俺だし、プランナーとしての立場も…あったはずなのに…」
そうだ、昔っからそうだったな…
晃平はいつも自分のことより、相手の立場で物事を考えられる人。
プランナーとして、担当を外されるということは、多少なりとも評価は下がるだろうし、雪乃さんの言葉が大袈裟なものでも、噂はたちまちにスタッフへと回る。
そういうことを、晃平は気にしてくれているのだろう。
「晃平、大丈夫だよ。気にしなくても、また頑張ればいいだけだから!」
「…瑞希」
「ありがとね」
そう言って笑うと、晃平もやっと笑った。
「晃平さん、あんたの彼女マジ迷惑っす」
隼人が歩き出しながらそう言い捨てる。
「これはもう、今日は晃平くんの奢りかなぁ?」
莉奈もその後を追いながら言い捨てる。
「…え?」
訳の分からない晃平は目をパチクリさせていた。
「ほら、二人とも早く!」
莉奈と隼人が、私たちを呼ぶ。
晃平も入れて、皆で飲みに行くぞということなのだろう。
「いいのかな…?」と聞く晃平に、「いいんじゃない?私ももう担当じゃないし」と冗談っぽく笑った。
莉奈と隼人のおかげで、変な空気にもならずに済んだし、本当に二人には敵わない。
波乱が、こうして最後は笑顔に変わった…そんな一日だった。
晃平を想う気持ちが波乱を巻き起こし、同じように晃平を想う気持ちが笑顔を生む。
どちらもそれは、晃平の人となりあってのものだろうと思えた。
「だから、支配人に言って担当替えてもらったの」
晃平が家に帰るなり、雪乃は昼間の話題を出した。
「なんで、そんなこと…」
「なんでって…、相澤さんとこれ以上会ってほしくないから…」
「…何、言ってんの…?」
雪乃は、食事をテーブルに並べながら言う。
「昨日、見たんだから。相澤さんと会ってるとこ」
晃平は、動作を止めて雪乃を見た。
「それで、瑞希を担当から降ろしたのか?」
「…」
「支配人にまで言って?」
「…だったら…何?」
「瑞希は、俺からの呼び出しに応えてくれただけだよ」
「晃平…から、呼び出したの?」
「仕事で大きなミスをして、話を聞いてもらっただけだ」
「どうして…?その相手は、私じゃダメだってこと?」
「…ダメとか、そんなんじゃないんだ」
「……そんなんじゃないって…、……もう、いい」
そう言って、雪乃は部屋を出ていく。
晃平はその場に座り込み、頭を抱えた。
自分の気持ちは三年前のあの頃から何も変わっていない。
ただ、雪乃への罪悪感でどうにも出来ない現状に、ストレスは溜まるばかりなのだった。
晃平は、先ほど脱いだばかりのコートをもう一度手にして走る。
本当は今日じゃなくてもいいことだろう、電話で伝えてもいいだろう…
それでも、晃平の身体は自然に動いていたのだ。
仕事が終わり、いつものように莉奈や隼人とサロンを出る。
「おぉっ!寒っ!」
「瑞希、ご飯食べて帰ろうよ」
「えぇ?莉奈、飲みたいだけでしょう?」
そう言って笑うと、莉奈が何かを見つけて「あ…」と呟いた。
その様子に、私と隼人も莉奈の視線を追う。
そこに居たのは…
「…晃平…」
走って来たのが分かるくらい、晃平の前髪は風に吹かれたままで、鼻や頬はほんのり赤く、息を切らしていた。
「昼間…っ、雪乃が、ここに来たって…聞いて」
息も整わないうちに、言葉を投げ掛ける晃平。
「迷惑…かけて、本当にごめんっ!」
それを伝えるために、わざわざ来てくれたって言うの?
「…そんなの、だって…私も言われて当然だと思うし…。晃平が謝ることじゃないよ…」
「…それでも、お前を呼び出したのは俺だし、プランナーとしての立場も…あったはずなのに…」
そうだ、昔っからそうだったな…
晃平はいつも自分のことより、相手の立場で物事を考えられる人。
プランナーとして、担当を外されるということは、多少なりとも評価は下がるだろうし、雪乃さんの言葉が大袈裟なものでも、噂はたちまちにスタッフへと回る。
そういうことを、晃平は気にしてくれているのだろう。
「晃平、大丈夫だよ。気にしなくても、また頑張ればいいだけだから!」
「…瑞希」
「ありがとね」
そう言って笑うと、晃平もやっと笑った。
「晃平さん、あんたの彼女マジ迷惑っす」
隼人が歩き出しながらそう言い捨てる。
「これはもう、今日は晃平くんの奢りかなぁ?」
莉奈もその後を追いながら言い捨てる。
「…え?」
訳の分からない晃平は目をパチクリさせていた。
「ほら、二人とも早く!」
莉奈と隼人が、私たちを呼ぶ。
晃平も入れて、皆で飲みに行くぞということなのだろう。
「いいのかな…?」と聞く晃平に、「いいんじゃない?私ももう担当じゃないし」と冗談っぽく笑った。
莉奈と隼人のおかげで、変な空気にもならずに済んだし、本当に二人には敵わない。
波乱が、こうして最後は笑顔に変わった…そんな一日だった。
晃平を想う気持ちが波乱を巻き起こし、同じように晃平を想う気持ちが笑顔を生む。
どちらもそれは、晃平の人となりあってのものだろうと思えた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる