ポケットに隠した約束

Mari

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第五章

人となり

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「…え?どういうこと?」
「だから、支配人に言って担当替えてもらったの」

晃平が家に帰るなり、雪乃は昼間の話題を出した。

「なんで、そんなこと…」
「なんでって…、相澤さんとこれ以上会ってほしくないから…」
「…何、言ってんの…?」

雪乃は、食事をテーブルに並べながら言う。
「昨日、見たんだから。相澤さんと会ってるとこ」

晃平は、動作を止めて雪乃を見た。
「それで、瑞希を担当から降ろしたのか?」
「…」
「支配人にまで言って?」
「…だったら…何?」
「瑞希は、俺からの呼び出しに応えてくれただけだよ」
「晃平…から、呼び出したの?」
「仕事で大きなミスをして、話を聞いてもらっただけだ」
「どうして…?その相手は、私じゃダメだってこと?」
「…ダメとか、そんなんじゃないんだ」
「……そんなんじゃないって…、……もう、いい」


そう言って、雪乃は部屋を出ていく。
晃平はその場に座り込み、頭を抱えた。
自分の気持ちは三年前のあの頃から何も変わっていない。
ただ、雪乃への罪悪感でどうにも出来ない現状に、ストレスは溜まるばかりなのだった。


晃平は、先ほど脱いだばかりのコートをもう一度手にして走る。
本当は今日じゃなくてもいいことだろう、電話で伝えてもいいだろう…
それでも、晃平の身体は自然に動いていたのだ。




仕事が終わり、いつものように莉奈や隼人とサロンを出る。
「おぉっ!寒っ!」
「瑞希、ご飯食べて帰ろうよ」
「えぇ?莉奈、飲みたいだけでしょう?」
そう言って笑うと、莉奈が何かを見つけて「あ…」と呟いた。
その様子に、私と隼人も莉奈の視線を追う。
そこに居たのは…


「…晃平…」

走って来たのが分かるくらい、晃平の前髪は風に吹かれたままで、鼻や頬はほんのり赤く、息を切らしていた。
「昼間…っ、雪乃が、ここに来たって…聞いて」
息も整わないうちに、言葉を投げ掛ける晃平。
「迷惑…かけて、本当にごめんっ!」

それを伝えるために、わざわざ来てくれたって言うの?
「…そんなの、だって…私も言われて当然だと思うし…。晃平が謝ることじゃないよ…」
「…それでも、お前を呼び出したのは俺だし、プランナーとしての立場も…あったはずなのに…」

そうだ、昔っからそうだったな…
晃平はいつも自分のことより、相手の立場で物事を考えられる人。
プランナーとして、担当を外されるということは、多少なりとも評価は下がるだろうし、雪乃さんの言葉が大袈裟なものでも、噂はたちまちにスタッフへと回る。
そういうことを、晃平は気にしてくれているのだろう。

「晃平、大丈夫だよ。気にしなくても、また頑張ればいいだけだから!」
「…瑞希」
「ありがとね」
そう言って笑うと、晃平もやっと笑った。


「晃平さん、あんたの彼女マジ迷惑っす」
隼人が歩き出しながらそう言い捨てる。

「これはもう、今日は晃平くんの奢りかなぁ?」
莉奈もその後を追いながら言い捨てる。

「…え?」
訳の分からない晃平は目をパチクリさせていた。


「ほら、二人とも早く!」
莉奈と隼人が、私たちを呼ぶ。
晃平も入れて、皆で飲みに行くぞということなのだろう。
「いいのかな…?」と聞く晃平に、「いいんじゃない?私ももう担当じゃないし」と冗談っぽく笑った。

莉奈と隼人のおかげで、変な空気にもならずに済んだし、本当に二人には敵わない。


波乱が、こうして最後は笑顔に変わった…そんな一日だった。
晃平を想う気持ちが波乱を巻き起こし、同じように晃平を想う気持ちが笑顔を生む。
どちらもそれは、晃平の人となりあってのものだろうと思えた。





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