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Prologue 戦闘(ニチジョウ)
Act00 何故戦う!?何故戦える!?謎vs謎の病バトル!!
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凄まじい気迫が発せられている、格闘技ないし真剣勝負を経験したことがない、見たことがない一般人、素人すらも感じてしまうほどに。
都会の歩道、二人の存在に大勢の人々がそこに注目している。しかし、誰もが疑りを持っていた。とても"それ"らから発せられているとは思えなかったからだ。
その二人はもう気迫どころの問題じゃあない、生きているのかも怪しかった。双方とも顔は血の気が引いており青ざめ、まるで海藻のように常に揺れている。誰の目にも意識のもうろうとした"病人"であることは明らかであった。
更に妙だったのは、二人の表情、目線にあった。2メートル程の距離から互いににらみ合っている、間の空間が圧縮されて歪むくらいに、ヤンキーのガン飛ばしなど涙目に思えるほどの凄まじさだ。これから殺し合いが始まる!そんな映画や漫画のような非現実のことを周りの誰もが本気で考え疑わなかった。
何故戦おうとする?ましてや彼等は病人の筈だ、戦えるはずがない。それに一方は子供だ、小学生くらいの女じゃあないか、小さい女の子のことを世間では幼女と呼ぶが、さしずめ彼女は
”病女"
といったところだろう。それが病人ではあるが身長190はあろうかという筋骨隆々とした男と一戦交えようとしている、無謀だ、頭おかしいのか?逃げるべきだろ?病気が脳にまで達してしまっているのか?勝てる訳がない!やられるのが目に見えている!約束された敗北だ!!皆、そう考え心配と憐れみを抱いた。
病人男が一気に病女に間合いを詰めてきた!戦いは観客の心の準備をよそにいきなり開始されたのだ。速い!!男の動きは病人どころかアスリートをも凌駕、子供の首を片手で締め上げるのに瞬きする時間すらかからなかった。
ビールジョッキを持つかの如く病女の首をわしづかみ!そして手に思いっきし力を入れた!砲丸ですら潰してしまうほど!そう野次馬等は感じていた。
もう駄目だ!引きちぎられる!首チョンパや!!野次馬の大半が目を、顔を覆い隠した。しかし、しかと見物している人等は更に目を疑った。
顔色一つ変えない、その病女は。それどころか余裕、余裕の笑みすら浮かべている、更にそのガキは、男を蔑んだ目で見つめていたのだ!当然男は子供だとて怒りも湧いてくるというもの。
が、病女は更に挑発!締め付けている男の手を軽く叩いた、どうした?というサインのようだと察知した男は当然の如く更に憤った、まさに頂点。
周りの誰もがこりゃあムキになってもしょうがない、子供にしても大人バカにし過ぎちゃう?と納得状態である。殴るのか?投げ飛ばすのか?それともこのまま絞め殺すのか??そう思われていた矢先、男は意外な行動をとった。
咳き込んだのだ!まあ病人故に仕方ないとして、異常なのはその音量のデカさ、そして弾丸の如き風圧である。男は事前に手を放したのだろう、直撃した病女はコント番組の鬘のように勢い良くすっ飛び、後方の電柱に激突した!彼女の躰はゴミと犬の糞尿がまき散らされた床に倒れ込んでしまった!!これはもう死んだ!こと切れた、と、誰もが思い落胆した。ところが…
何と!あれほどの事故に遭いながらも、病女は起き上がったのだ!しかし、やはりその体は見るも悲惨な状態だ、頭から、全身から血がにじみ出ている。しかしどうだ、その後堂々と男に向かって歩いていく、まるでモデルのように姿勢よく、だ。あの怪我にもかかわらず全くフラついていない、まさか、ダメージを受けていないとでも…
男は怯える!病女は微かな笑みを浮かべさらに挑発!怒りと恐怖と焦りからか、男は乱射した!映画のような拳銃でもなく、先程放ったあの咳を!女は喰らう!ドカドカ喰らいまくる!が…信じられない!あれほどの量を直撃したはずなのに、後ろの電柱ですら撃ち外した咳が当たり倒れたというのに…女はのけぞることすらなく、気にも留めずに歩いてきている、おまけに全身を濡らしていた血液でさえ全く吹き飛んでいない。公衆トイレの手を洗ったときに風で乾かす機械があるが、それで乾いたためしがないのと同じ意味なしの風だというのか…
野次馬の一人が気付く、病女から流れ出てる血が、普通でないことに、かた焼きそばにかけるアンのように"とろみ"が見受けられたのだ。"普通じゃあない!"目撃者は旋律を覚えた。
しかし、更に旋律を覚えたのは他でもない、攻撃を仕掛けた男の方であった。近づいてくる病女に対し、震えながらゆっくりと後退りしていく、しかし目を見開き、"ダメ元"で今までで一番轟音であろう咳を放った!野次馬等は耳をふさぎ目をも瞑った。が!凄まじい一撃を喰らった筈の病女だが、少し仰け反る位だった。
皆、今までの光景がほんのデモンストレーションである事を思い知らされたのは、次の破壊劇を閲覧してしまってからであった…
病女の血液に泡がプツプツと現れ始め、それは次第に激しく出てくる、まるで中華丼のアンを作っているかのようだ。そして何故か、白いまだらができ始め、更には血が白くなっていくではないか。最早血ではない、劇薬だ。しかし地球上に、このような変化をする化学薬品が存在するのだろうか?そして、この子は人間なのだろうか?と大多数の観客が思った。
大男は一人大震災の如く震え怯え、逃げる事すら忘れてしまっている。
病女の目つきが鋭くなった!そして血が、更に有り得ない状態に!なんと"浮いた"のである。ぽたぽたと、いやこの場合"たぽたぽ"というべきか、かたまりから一滴一滴雫になって浮き上がっていく、空中で静止し、宙を描いたのは呪われた万華鏡のよう。いきなり病女は人差し指を高々と上げた!謎のポーズとしか言い様がない、指先を角度変えずに目もとにまで持っていき、そのまま指を曲げ男に指した。
浮いた血が猛スピードで男に向かって突っ込んでいく!男に避けられる術もなく、全弾命中!ぶつかると同時に爆発!ほとんどミサイルである。このけたたましいまでの爆音は中国のはた迷惑な祭り、爆竹祭りさながらである。多くの人は腕や掌で顔や体を守ろうと無駄な努力をした、が、やはり案の定、大多数がボーリングのピンの如く、儚くふっとばされてしまった。そしてその影響で群衆が九割以上減ってしまっっていた。
土煙、血煙が引き、舞台が見渡せるようになると、皆は妙な置物が建っていることに気づく。理科室にでしかお目にかかれないような物が…それはかつて"男性"だったもの…変化、いや加工されたのだ、先程の"血のミサイル"によって…皮も肉も剥ぎ取られ、骨だけに、更には焼かれ白骨に…こうして躯の彫刻が完成したのである。死体を見た素人たちは嘔吐、もしくは気絶するしかなかった。多少肝が据わっている少数の人たちも、思わず手を合わせ冥福を祈った。
自身の血のミサイルによってボロボロになり、すっかり血に染まり、赤色と化した元白のタンクトップ、元水色のパジャマズボン、三つ編みの髪形に前髪をのぞかせながらも灰色のワッチ帽を被った女の子は、戦いに勝利したにもかかわらず、非常に気分が悪そうだ。当然と言えば当然、もともと具合が悪そうなうえに大量の血を流し、放ったのだから。しかし呆気に取られ、かつ恐れた野次馬等は、救急車も警察も呼べなかった。よろけながらいずこへ移動する病女に、一人のアフロヘヤー、グレーのTシャツ、ジーパン姿の暑苦しそうな小太りの男、さしずめ
"パパイヤ"
と呼ばれていそうな男が持てる勇気を振り絞り話しかけた。
「す…すごかったですね…い…今の技は…」
取材かなんかだろうか、パパイヤはマイクを持っていた。
「……血…」
病女は微かな声で答えた。
「シ…シンプルアンドベスト…お…お名前は…」
多少のお世辞を送った後、一番シンプルな質問をした。パパイヤは相当の取材歴はあるのだが、それでも恐怖している、マイクを握った手から、果汁を絞ったかのように汗が流れており、それでマイクが壊れそうだ、最も防水加工位はしているのだろうが…
「すぐに…わかる…今ここで…言わなくても…すぐに…世界に…名が轟く…筈…」
周りがどよめく、このガキ、有名人になるつもりなのか?と。確かにその力なら世界を回れるかもしれない、正に"血の巡り"である。
パパイヤは質問を繰り返す、震えながら。
「な…何で戦っていたんですか?」
病女は答え、またパパイヤは質問、なぜか敬語で、それだけこの子供には威厳があるという事か。
「悪魔を…消すために…」
「せ、正義のために戦っていたんですか?」
病女は少し嫌味な笑みを浮かべ、
「いや…悪魔は己の中に…いる…」
そう答えられ、パパイヤや周りは首をかしげることしか出来なかった。
「あ…あくまって…??」
「やま…ゲホッ!ゴホッ!!」
パパイヤの質問に病女は咳で答えてしまった。彼は心配し、
「だ、大丈夫っすか?」
「もう…質問は…いい…もう…一言もしゃべれへん…」
病女はもう限界そうだ、パパイヤは申し訳ないと思った、こう見えても彼は常識をわきまえている過労死させるブラック企業のようにはなりたくない、と思ってる男だ。
「す…すいません」
パパイヤは謝罪し、病女は、
「限界だもうあかんぶっ倒れそうじゃやばいやばい家までたどり着けへん血ィ使いすぎたあかんなァこりゃあヤベーんじゃあねーかヤベーヤベー…」
早口で愚痴を語り始めた。これにはパパイヤも呆気にとられ、多少フランクになった。
「いやいや、何言もしゃべってるじゃん…」
微かな笑い声が聞こえる、パパイヤの突っ込みに反応し、周りが笑い始めたのだ。
次の病女の発言は、人々を更に呆気に取らせた。
「何も喋ってはいない…これは…言葉じゃあない…ただの息や…言葉とはもっと…重いもの…凄まじい体力を使う…子供産むときみたいにな…」
子供にしては、哲学的な言葉だ。
「名言ってあるやろ…あれを発するのには、メチャメチャ命がかかる…名言は、出産より苦しんで生み出すものなんや…」
このガキはなにを言っているのか、周りは失笑している、ただ、名言が生まれた!と思った人も何人かいた。
「あんた…絶対子供産んだことないだろ」
パパイヤが突っ込んだ、周りはまた笑う。病女は更に、
「見たことは…ある…あたしみたいな小さな体じゃあ産むとき裂けて絶命するで…」
と、ボケを返す。
「いや、子供じゃあ孕まないって…」
パパイヤが突っ込んだ!もはやちょっとした漫才になってきた。一応子供でも妊娠、出産の事例がある、しかし最年少でも14歳である。この子供はどう見ても8~9歳に見える。
「あんた…生理したことないだろう」
パパイヤは女子に対し、とんでもない質問をした。"産むとき"と聞いたので、ひょっとしたら出来上がってるんじゃあないかと思って思わず聞いてしまったのだ、周りも流石に引いた。
「生理…?なんだねそれは?」
知らないのか?中二病のくせして、と男と人々は思った。
「え!?知らないんですか?股間から血を出して子供ができることをお知らせすることっすよ」
パパイヤは恥ずかしげもなく事実を教えた。
「じゃあ今、あたしできるな、血ィダラダラだもん…」
病女は勘違った。
「いや、だから股間から…」
どうせならマ〇コと直接単語を言った方が伝わるのかと男は考えたが、恥ずかしくて言えなかった。
「下の方からも出とるで、股間のみならずケツからも…」
出来ていたのかと一瞬思ったが、パパイヤは違う、身体の流血と同種だと察した。
「それ、生理っていいます?」
病女はクールな顔つきになり吐息程の笑い声を発し答える。
「さあ…ゴホッ!ただの生理じゃあないんだろうな…全身生理…超生理ってやつかな…?」
訳の分からない名言が飛び出した。何でも「超」をつけたがるのは中二病の悪い癖
「どんな生理だよ…」
突っ込むパパイヤ、観客大笑い、もう漫才だ。
「ありとあらゆるところから子を産む…」
それじゃあ殆ど細胞分裂じゃん、と一部の観客が思い笑った。
「ス、スッゲー…」
もうパパイヤは突っ込む言葉が浮かばない。そこで話題を切り替えることにした。
「何の為に戦ってたんスか?」
皆が聞きたがっていた本題に話を進める、"おお!やっとか!"と周りが思った。
「命を…ゴホッ!繋ぐため…や…」
弱々しくなっていく病女、しかし懸命に答える。
「えっ!?い…命を…?」
漫才の雰囲気はどこへやら、一気に話がシリアスになってきた。
「戦っていけば…つながる命…がある」
ひょっとしたらこいつ、マジなのか?只の中二病じゃあないとパパイヤと人々は病女の目、そして雰囲気で悟り始めた。
「でも…すごいスね、あんな大男相手に、圧勝とは…勝因は何だと思います?」
"能力の差"じゃあないかと誰もが思うが、一応聞いてみた。
「さあ…」
目をつむりしらを切る。彼女も"能力の差"だと答えるのも馬鹿馬鹿しかったのだろう。
「では、彼の敗因は?」
何故そんなことを聞くのか?誰もがそう思った。病女もハッキリ答えりゃ良かったと後悔、仕方なしに冗談をかます事にした。
「坊やだからさ」
下らない冗句ながら、パパイヤと周りが大爆笑である。ガキが言うなと、ガン〇ム世代じゃああるまいし、ただ格好が赤いからシ〇アと被るし…
「もうええか?早う病院帰って休まんと死んでまう…」
そういえば病人だったのだ!その上これほどまでに血を流している、聴きたいことはまだまだあるが、人として彼女を安静にさせなければならない、英国王女すらも殺したパパラッチみたいな外道にはなりたくない、とパパイヤは思った。
パパイヤと群衆は、病院へと向かう病女の背中を見送るしかなかった。その背中は、浮気もせず一家を支え、これから戦場へと向かうお父さんのそれのように大きく感じられた。
ふと、右横から何かが転がるけたたましい音が聞こえてくる、見ると、台車?いやベッドだ!こちらに向かってくる!しかも人が寝ている!そしてそれは、病女の目の前で停止!
ベッドに寝てる、というか眠ってるということではなく、苦しんでいる、息切れしている、重病患者なのか?その老人は苦しみつつも子供を睨みつけている、まさか!さっきの大男の病人のように、戦うというのか?
病女は…彼女も老人を睨みつけている、戦う気のようだ。ただ、少し震えている、老人を恐れているのか?大男をも簡単に倒す力を持ったこの子が??
病人が…子供が…老人が…いったい何がどうなっているのか…?この世に何が起こっているのか…多くの人間はまだ、知る由もなかった。
そしてここにもまた、大事な部分に病を宿した男が…
都会の歩道、二人の存在に大勢の人々がそこに注目している。しかし、誰もが疑りを持っていた。とても"それ"らから発せられているとは思えなかったからだ。
その二人はもう気迫どころの問題じゃあない、生きているのかも怪しかった。双方とも顔は血の気が引いており青ざめ、まるで海藻のように常に揺れている。誰の目にも意識のもうろうとした"病人"であることは明らかであった。
更に妙だったのは、二人の表情、目線にあった。2メートル程の距離から互いににらみ合っている、間の空間が圧縮されて歪むくらいに、ヤンキーのガン飛ばしなど涙目に思えるほどの凄まじさだ。これから殺し合いが始まる!そんな映画や漫画のような非現実のことを周りの誰もが本気で考え疑わなかった。
何故戦おうとする?ましてや彼等は病人の筈だ、戦えるはずがない。それに一方は子供だ、小学生くらいの女じゃあないか、小さい女の子のことを世間では幼女と呼ぶが、さしずめ彼女は
”病女"
といったところだろう。それが病人ではあるが身長190はあろうかという筋骨隆々とした男と一戦交えようとしている、無謀だ、頭おかしいのか?逃げるべきだろ?病気が脳にまで達してしまっているのか?勝てる訳がない!やられるのが目に見えている!約束された敗北だ!!皆、そう考え心配と憐れみを抱いた。
病人男が一気に病女に間合いを詰めてきた!戦いは観客の心の準備をよそにいきなり開始されたのだ。速い!!男の動きは病人どころかアスリートをも凌駕、子供の首を片手で締め上げるのに瞬きする時間すらかからなかった。
ビールジョッキを持つかの如く病女の首をわしづかみ!そして手に思いっきし力を入れた!砲丸ですら潰してしまうほど!そう野次馬等は感じていた。
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顔色一つ変えない、その病女は。それどころか余裕、余裕の笑みすら浮かべている、更にそのガキは、男を蔑んだ目で見つめていたのだ!当然男は子供だとて怒りも湧いてくるというもの。
が、病女は更に挑発!締め付けている男の手を軽く叩いた、どうした?というサインのようだと察知した男は当然の如く更に憤った、まさに頂点。
周りの誰もがこりゃあムキになってもしょうがない、子供にしても大人バカにし過ぎちゃう?と納得状態である。殴るのか?投げ飛ばすのか?それともこのまま絞め殺すのか??そう思われていた矢先、男は意外な行動をとった。
咳き込んだのだ!まあ病人故に仕方ないとして、異常なのはその音量のデカさ、そして弾丸の如き風圧である。男は事前に手を放したのだろう、直撃した病女はコント番組の鬘のように勢い良くすっ飛び、後方の電柱に激突した!彼女の躰はゴミと犬の糞尿がまき散らされた床に倒れ込んでしまった!!これはもう死んだ!こと切れた、と、誰もが思い落胆した。ところが…
何と!あれほどの事故に遭いながらも、病女は起き上がったのだ!しかし、やはりその体は見るも悲惨な状態だ、頭から、全身から血がにじみ出ている。しかしどうだ、その後堂々と男に向かって歩いていく、まるでモデルのように姿勢よく、だ。あの怪我にもかかわらず全くフラついていない、まさか、ダメージを受けていないとでも…
男は怯える!病女は微かな笑みを浮かべさらに挑発!怒りと恐怖と焦りからか、男は乱射した!映画のような拳銃でもなく、先程放ったあの咳を!女は喰らう!ドカドカ喰らいまくる!が…信じられない!あれほどの量を直撃したはずなのに、後ろの電柱ですら撃ち外した咳が当たり倒れたというのに…女はのけぞることすらなく、気にも留めずに歩いてきている、おまけに全身を濡らしていた血液でさえ全く吹き飛んでいない。公衆トイレの手を洗ったときに風で乾かす機械があるが、それで乾いたためしがないのと同じ意味なしの風だというのか…
野次馬の一人が気付く、病女から流れ出てる血が、普通でないことに、かた焼きそばにかけるアンのように"とろみ"が見受けられたのだ。"普通じゃあない!"目撃者は旋律を覚えた。
しかし、更に旋律を覚えたのは他でもない、攻撃を仕掛けた男の方であった。近づいてくる病女に対し、震えながらゆっくりと後退りしていく、しかし目を見開き、"ダメ元"で今までで一番轟音であろう咳を放った!野次馬等は耳をふさぎ目をも瞑った。が!凄まじい一撃を喰らった筈の病女だが、少し仰け反る位だった。
皆、今までの光景がほんのデモンストレーションである事を思い知らされたのは、次の破壊劇を閲覧してしまってからであった…
病女の血液に泡がプツプツと現れ始め、それは次第に激しく出てくる、まるで中華丼のアンを作っているかのようだ。そして何故か、白いまだらができ始め、更には血が白くなっていくではないか。最早血ではない、劇薬だ。しかし地球上に、このような変化をする化学薬品が存在するのだろうか?そして、この子は人間なのだろうか?と大多数の観客が思った。
大男は一人大震災の如く震え怯え、逃げる事すら忘れてしまっている。
病女の目つきが鋭くなった!そして血が、更に有り得ない状態に!なんと"浮いた"のである。ぽたぽたと、いやこの場合"たぽたぽ"というべきか、かたまりから一滴一滴雫になって浮き上がっていく、空中で静止し、宙を描いたのは呪われた万華鏡のよう。いきなり病女は人差し指を高々と上げた!謎のポーズとしか言い様がない、指先を角度変えずに目もとにまで持っていき、そのまま指を曲げ男に指した。
浮いた血が猛スピードで男に向かって突っ込んでいく!男に避けられる術もなく、全弾命中!ぶつかると同時に爆発!ほとんどミサイルである。このけたたましいまでの爆音は中国のはた迷惑な祭り、爆竹祭りさながらである。多くの人は腕や掌で顔や体を守ろうと無駄な努力をした、が、やはり案の定、大多数がボーリングのピンの如く、儚くふっとばされてしまった。そしてその影響で群衆が九割以上減ってしまっっていた。
土煙、血煙が引き、舞台が見渡せるようになると、皆は妙な置物が建っていることに気づく。理科室にでしかお目にかかれないような物が…それはかつて"男性"だったもの…変化、いや加工されたのだ、先程の"血のミサイル"によって…皮も肉も剥ぎ取られ、骨だけに、更には焼かれ白骨に…こうして躯の彫刻が完成したのである。死体を見た素人たちは嘔吐、もしくは気絶するしかなかった。多少肝が据わっている少数の人たちも、思わず手を合わせ冥福を祈った。
自身の血のミサイルによってボロボロになり、すっかり血に染まり、赤色と化した元白のタンクトップ、元水色のパジャマズボン、三つ編みの髪形に前髪をのぞかせながらも灰色のワッチ帽を被った女の子は、戦いに勝利したにもかかわらず、非常に気分が悪そうだ。当然と言えば当然、もともと具合が悪そうなうえに大量の血を流し、放ったのだから。しかし呆気に取られ、かつ恐れた野次馬等は、救急車も警察も呼べなかった。よろけながらいずこへ移動する病女に、一人のアフロヘヤー、グレーのTシャツ、ジーパン姿の暑苦しそうな小太りの男、さしずめ
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「す…すごかったですね…い…今の技は…」
取材かなんかだろうか、パパイヤはマイクを持っていた。
「……血…」
病女は微かな声で答えた。
「シ…シンプルアンドベスト…お…お名前は…」
多少のお世辞を送った後、一番シンプルな質問をした。パパイヤは相当の取材歴はあるのだが、それでも恐怖している、マイクを握った手から、果汁を絞ったかのように汗が流れており、それでマイクが壊れそうだ、最も防水加工位はしているのだろうが…
「すぐに…わかる…今ここで…言わなくても…すぐに…世界に…名が轟く…筈…」
周りがどよめく、このガキ、有名人になるつもりなのか?と。確かにその力なら世界を回れるかもしれない、正に"血の巡り"である。
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病女は答え、またパパイヤは質問、なぜか敬語で、それだけこの子供には威厳があるという事か。
「悪魔を…消すために…」
「せ、正義のために戦っていたんですか?」
病女は少し嫌味な笑みを浮かべ、
「いや…悪魔は己の中に…いる…」
そう答えられ、パパイヤや周りは首をかしげることしか出来なかった。
「あ…あくまって…??」
「やま…ゲホッ!ゴホッ!!」
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「だ、大丈夫っすか?」
「もう…質問は…いい…もう…一言もしゃべれへん…」
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パパイヤは謝罪し、病女は、
「限界だもうあかんぶっ倒れそうじゃやばいやばい家までたどり着けへん血ィ使いすぎたあかんなァこりゃあヤベーんじゃあねーかヤベーヤベー…」
早口で愚痴を語り始めた。これにはパパイヤも呆気にとられ、多少フランクになった。
「いやいや、何言もしゃべってるじゃん…」
微かな笑い声が聞こえる、パパイヤの突っ込みに反応し、周りが笑い始めたのだ。
次の病女の発言は、人々を更に呆気に取らせた。
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子供にしては、哲学的な言葉だ。
「名言ってあるやろ…あれを発するのには、メチャメチャ命がかかる…名言は、出産より苦しんで生み出すものなんや…」
このガキはなにを言っているのか、周りは失笑している、ただ、名言が生まれた!と思った人も何人かいた。
「あんた…絶対子供産んだことないだろ」
パパイヤが突っ込んだ、周りはまた笑う。病女は更に、
「見たことは…ある…あたしみたいな小さな体じゃあ産むとき裂けて絶命するで…」
と、ボケを返す。
「いや、子供じゃあ孕まないって…」
パパイヤが突っ込んだ!もはやちょっとした漫才になってきた。一応子供でも妊娠、出産の事例がある、しかし最年少でも14歳である。この子供はどう見ても8~9歳に見える。
「あんた…生理したことないだろう」
パパイヤは女子に対し、とんでもない質問をした。"産むとき"と聞いたので、ひょっとしたら出来上がってるんじゃあないかと思って思わず聞いてしまったのだ、周りも流石に引いた。
「生理…?なんだねそれは?」
知らないのか?中二病のくせして、と男と人々は思った。
「え!?知らないんですか?股間から血を出して子供ができることをお知らせすることっすよ」
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病女は勘違った。
「いや、だから股間から…」
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病女はクールな顔つきになり吐息程の笑い声を発し答える。
「さあ…ゴホッ!ただの生理じゃあないんだろうな…全身生理…超生理ってやつかな…?」
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「ありとあらゆるところから子を産む…」
それじゃあ殆ど細胞分裂じゃん、と一部の観客が思い笑った。
「ス、スッゲー…」
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「戦っていけば…つながる命…がある」
ひょっとしたらこいつ、マジなのか?只の中二病じゃあないとパパイヤと人々は病女の目、そして雰囲気で悟り始めた。
「でも…すごいスね、あんな大男相手に、圧勝とは…勝因は何だと思います?」
"能力の差"じゃあないかと誰もが思うが、一応聞いてみた。
「さあ…」
目をつむりしらを切る。彼女も"能力の差"だと答えるのも馬鹿馬鹿しかったのだろう。
「では、彼の敗因は?」
何故そんなことを聞くのか?誰もがそう思った。病女もハッキリ答えりゃ良かったと後悔、仕方なしに冗談をかます事にした。
「坊やだからさ」
下らない冗句ながら、パパイヤと周りが大爆笑である。ガキが言うなと、ガン〇ム世代じゃああるまいし、ただ格好が赤いからシ〇アと被るし…
「もうええか?早う病院帰って休まんと死んでまう…」
そういえば病人だったのだ!その上これほどまでに血を流している、聴きたいことはまだまだあるが、人として彼女を安静にさせなければならない、英国王女すらも殺したパパラッチみたいな外道にはなりたくない、とパパイヤは思った。
パパイヤと群衆は、病院へと向かう病女の背中を見送るしかなかった。その背中は、浮気もせず一家を支え、これから戦場へと向かうお父さんのそれのように大きく感じられた。
ふと、右横から何かが転がるけたたましい音が聞こえてくる、見ると、台車?いやベッドだ!こちらに向かってくる!しかも人が寝ている!そしてそれは、病女の目の前で停止!
ベッドに寝てる、というか眠ってるということではなく、苦しんでいる、息切れしている、重病患者なのか?その老人は苦しみつつも子供を睨みつけている、まさか!さっきの大男の病人のように、戦うというのか?
病女は…彼女も老人を睨みつけている、戦う気のようだ。ただ、少し震えている、老人を恐れているのか?大男をも簡単に倒す力を持ったこの子が??
病人が…子供が…老人が…いったい何がどうなっているのか…?この世に何が起こっているのか…多くの人間はまだ、知る由もなかった。
そしてここにもまた、大事な部分に病を宿した男が…
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侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
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