本当の貴方

松石 愛弓

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「アリシア嬢。君との婚約を破棄しようと思う」

 王宮での舞踏会の最中。
 煌びやかなシャンデリアの下、咲き誇る花のように華やかに踊る貴族たちに聞こえるように、婚約者のエリオット様は私に別れを切り出しました。

 伯爵家嫡男エリオット様の隣には、ターニャ伯爵令嬢が意地悪な表情で私を見下し冷笑しています。 
 銀色の髪に蒼い瞳の美しい2人は、私から見てもお似合いに見えましたわ。

「他の者に気付かれないように、こっそりとターニャ嬢を虐めていたそうだな。 君がそんな陰湿な女性だったとは、がっかりだ。 もう、君を愛せない」

 一方的な言われように、私は納得がいきません。

「ターニャ嬢を虐めたことは一度もありませんわ。 彼女とは同級生といっても接点が無く、あまり話をしたこともございませんのに」

「ええい黙れ、見苦しいぞ! ターニャ嬢がそう言っているのだから、そうなのだろう。 とにかく、君への気持ちは冷めてしまったのだ。 もう、元には戻れない」

 なぜ突然、こんな一方的な……。あっ、もしかして。

「エリオット様は私という10年来の婚約者がいる身だというのに、ターニャ嬢に惹かれたのですね? 私のせいにして婚約破棄をすれば、慰謝料を支払わなくて済むとでもお思い? 男らしくないわ。 浮気したのなら、謝罪してください。 私のせいにされては困ります」

 図星だったのか、エリオット様の顔色は青くなったり、赤くなったり、震えたり。やはりそうでしたか。

「ぼっ、僕はっ、君のそういうものの言い方が嫌いだっ。とっ、とにかくっ、婚約破棄するからにゃっ!」

 焦って噛むし。逆切れするし。想定内でしたが。

「承知しました」

 思わず飛ばしてしまった殺気で、彼のヅラが吹き飛びそうになりましたが、必死で押さえて事なきを得ましたわね。

「エリオット様、どうされたんですの? そんなに頭を抱えて、頭痛ですか?」
 ターニャ嬢が不思議そうに彼を見つめています。

「いやっ、これは、何でもないんだ! 気にしないでくれ!」
 必死で取り繕う彼。 ターニャ嬢には内緒なのですね。  

 優雅なワルツが流れる舞踏会場で、いつの間にか注目の的となっていた私たち。

 私は一度も彼を振り返らず、会場を後にしました。

 突然、態度を変えた彼に、未練はありませんでしたが、10年間も彼の婚約者として彼をお慕いしなければと思って過ごした日々が、走馬灯のように脳裏を駆け抜けてゆきました。

 ほんの1週間前。私の邸でお会いし、一緒に庭を散策し、私の髪に花を挿して微笑んでくださったエリオット様。

 私が彼のために焼いたクッキーを美味しいと褒め、愛していると囁いてくれました。

 あの言葉は、微笑みは、何だったのでしょう。

 燃え上がるような恋ではなくても、私たちの間には穏やかな空気が流れ、

 私は貴方に愛されていると思っていました。

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